地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「くそ!!どこにもねぇ」
じりじりと暑い日差しが、容赦なく龍二に当たり、龍二は汗だくになりながら、山の中を歩いていた。
「龍、少し休みな!汗、びっしょりだよ!!」
「こうしてる間にも、麗華の寿命はどんどん縮むんだ!!休んでなんかいられねぇ!!」
「アンタの気持ちは分かるけど、探してる最中にアンタが倒れたりでもしたら、どうすんだ!?」
「けど!!」
「龍!!
アンタは、一人で探してるつもりか?」
「え?」
「それは違うぞ!!
氷鸞や雷光、桜雅や雛菊が皐月丸が居そうな森や廃墟、社を捜してるんだよ?
そいつ等だけじゃない!!焔は、自分の責任だって感じて私たちと一緒に探そうとしてるんだ!!」
必死に訴える渚……
「……渚」
「龍!!」
自分の名を呼ぶと、龍二はそのまま渚の方へ倒れてしまった。渚は倒れた彼を支え、近くの木陰に寝かせた。
(俺が……俺が、守ってやらなきゃ)
眠る龍二……
ふと、目が覚めると辺りは暗く、何もない空間にいた。
起き上がり、見回すと向こうに泣く幼い少女の姿があった……
『……!?麗華!!』
泣く少女が、麗華であると気付いた龍二は立ち上がり、駆け寄り泣く麗華を抱こうとした時だった。
『!!』
抱こうと手を伸ばしたが、その手は幼い麗華の体をすり抜けた。
すると、幼い麗華は徐々にその姿を消していった。
『!!?
待て!!麗華!!俺が……俺が!!』
「麗華!!」
名を叫びながら龍二は飛び起きた。
辺りにを見回し頭を押さえながら立ち上がり、手首に着けていた腕時計を見た。
(十四時三十分……
二時間近くも寝てたのか……)
「目が覚めたか?」
その声の方に目を向けると、隣に心配そうな表情を浮かべる渚がいた。
「渚……俺」
「脱水症状だ」
「え?」
「アンタ、この森に入ってから一滴も水飲んでないでしょ!?」
「……あっ」
「『あっ』じゃないわよ!!
全く」
「いやぁ…悪い悪い」
「……ほら、朗報」
「?」
彼女の声を合図に、茂みの中から氷鸞と雷光が姿を現した。
「お前等?!」
「龍様!この森から少し離れた山に、つい最近壊された祠がありました!」
「本当か?!それ!!」
「はい!」
「そこに住む妖怪達に聞いたところ、最近雷が落ちて、その祠が破壊されたそうです!」
「よっし!氷鸞、雷光、今すぐそこへ案内しろ!!」
先に駆け出す龍二に、氷鸞と雷光は慌てて後を追った。そんな三人に、渚は大声で呼び叫んだが聞く耳を持たず、仕方なく後を追いかけて行った。
その頃、神社では……
布団の上で眠る麗華……
その麗華を覆う様にして寝そべる、狼姿となった焔……
「暑苦しいねぇ……全く」
そこへ、水の入った桶を持ってきた丙は、焔の姿を見ながら言った。
「そんなに寝そべってたら、麗が焼けちまうよ」
「……
良いんだよ。さっきコイツがこうしろって、言ったんだから」
「おや、そうかい」
返事をしながら、丙は麗華の額に置いておいてあるタオルを取り、桶に入っている水に浸け、絞りまた額へ置いた。
「まさか、こんなことになるなんて……」
「……
こうしてると、思い出す」
「?
何がだ?焔」
「お前と雛菊がいなかった時、今日みてぇにスゲェ暑かった日だったかな……
その日、麗の奴夏風邪ひいちまって、優華は仕事で龍は学校……
仕方ねぇから、俺が看病してたんだ。しばらくして、熱が治まってきて麗が目を覚ましたんだ。
麗の奴、俺に向いた時なんて言ったと思う?」
「何て言ったんだ?」
「『狼の姿になって、傍にいて』だとよ……」
「……」
「まだ、小学校にも上がってねぇガキがだぞ?」
「ガキで悪かったな」
「!?」
目が覚めたのか、薄らと目を開いた麗華……
「れ、麗」
「すいませんねぇ……あの時は、まだガキだったもので!」
「!!」
怖いものを見たかのような顔で、焔は耳を伏せそっぽを向いた。そんな二人を見た丙は、吹き出し二人を見た。
「全く、本当に麗の前じゃ、焔はただの飼い犬と一緒だな」
「うるせぇ!!噛み殺すぞ!」
「おぉ!怖い」
「この……
?」
焔はふと、麗華を見た。彼女はいつの間にか目を閉じ、眠りに入っているかのように見えた。
「寝たのか?」
「……
いや、熱が上がったから、多分意識が無くなったのだろう」
そう言いながら、丙は麗華の額に手を置きながら焔を見た。
「いつまで続くのか……」
「……」
「早く、皐月丸を見つけ出して、麗の魂を返して貰わないと、そろそろ限界が来るよ」
「っ……」
暗い森の中へとやってきた龍二……
氷鸞と雷光に釣られて目的の場所へ行くと、そこに確かに小さな社があったであろう痕跡があった。
「これは……」
「麗様の学校で、怪魚事件が会った時に、落ちたと言われております」
「……」
「龍、ここには何が封印されてたんだ?そういえば」
「皐月丸の体……いわゆる本体だ」
「別々に封印したのか?」
「そうだ。
皐月丸は、余りにも強力過ぎて、親父は封印する才体と魂を分けて封印したんだ。
だけど、これが壊されてるとしたら、おそらく魂の方も……」
「!?
じゃあ、早く皐月丸の住家を、見つけないと!!」
「麗様……」
「麗殿……」
「……
とにかく、一旦家に帰ろう。
鵺野達と会って、俺達もすぐに住家を捜しに行くぞ」
「承知」
「承知」
「承知」
氷鸞と雷光、渚は、獣へと変化した。龍二は渚の背に跨り、三人はその森を後にした。
その様子を見る、皐月丸……
「おやおや、気付かれましたか……
まぁ、この住処を見つけられるかが、問題ですがね」
「ぅ……」
目を覚ます麗華……
「覚めましたか?」
「……」
何も答えない麗華……
皐月丸は、麗華に近付き顎を手で上げ、自分の顔を近付けさせた。
「そろそろ、体力が限界のようですね?
早くこの巫女を失った、桜雅の顔を見たいですね」
不敵に笑う皐月丸……
だが、その眼にはどこか悲しげな光があったのを、麗華は見逃さなかった。