地獄先生と陰陽師少女 作:花札
狙いは麗華の魂であり、それを阻止しようと焔達は、彼女の命令に従い、獣化した。
獣化した焔達……
氷鸞は、水色の羽に七色に光る尾を持つ美しい巨鳥へ、雷光は角を生やした馬へと姿を変えた。
「クク……ハハハハハ!!
無駄なことをするなぁ。大人しく、桜巫女の魂を渡して貰えば、君達が死ぬことは無かったのに」
「誰が死ぬだ?!」
「某達は、麗様が生きている限り、死なぬ!」
「我が主を守るのは、拙者達の役目!」
角に雷を溜めた雷光は、溜めた雷を敵目掛けて打ち放った。打ち放たれた雷を合図に、氷鸞は口から水と氷が混ざったものを吐き、焔も口から炎を吐いた。焔達の攻撃を援護するかのように、丙は扇子を取り出し風を起こした。
「言っているであろう。
その攻撃は無意味だ」
攻撃が来る寸前、敵は持っていた槍を振り回し攻撃を防いだ。
「何?!」
「某達の攻撃が訊かぬだと!?」
「さぁて……
君達には死んでもらうよ?」
そう言うと、敵は電光石火の如く敵は、焔達の体に槍を貫き、さらに光の波動を放った。放たれたと同時に、焔達は森の中へと飛ばされ、生えていた木の幹に打ち付けられた。
「焔!!氷鸞!!雷光!!」
「君達も邪魔だ。大人しくしていろ」
敵は、焔たちの近くにいた丙達にも光の波動を放った。丙達は境内の中心へ飛ばされた。
「丙!!青!!白!!」
「さぁ、これでもう、邪魔者はいない。」
「!!」
「一緒に来てもらうよ?桜巫女」
目から怪しげな光を放ち、何かの呪文を口にしながら敵は唱えた。すると麗華の体から力が抜け、操り人形のようになった。それを見た敵は、麗華の胸に手を入れ青白く光る魂を抜き取った。
抜き取られた麗華は、力なくその場に倒れてしまった。
「クク……
これで、ようやく桜雅を殺すことができる。」
麗華の魂を握った敵は、神社から姿を消した。
居なくなった後、麗華の体は微かに動き、ゆっくりと起き上った。
「はぁ……はぁ……(ギリギリ、魂を抜き取られる前に、一部を幽体離脱させといて、正解だった)」
起き上がったはいいが、麗華は立ち上がろうにも足に力が入らず、体勢を崩し地面へ倒れてしまった。
気を失いかけた寸前、麗華の目に兄の龍二とぬ~べ~達の姿が映った。
(兄貴……皆)
力尽き、麗華は気を失ってしまった。
夜……
「……か!」
どこからか、何かを呼ぶ声……
「……いか!」
その声は、徐々に大きくなっていった。
「……れいか!」
自分を呼んでいる声だと気付いた麗華は、重い目蓋をゆっくりと開けた。
「麗華!!」
映る人影は、ぼやけており麗華は瞬きをしながら、声がした方へ顔を向けた。
「……
い、稲葉?」
そこにいたのは、心配そうに眼に涙を浮かべて、自分の手を握る郷子だった。視界を取り戻した麗華は、辺りを見回すとそこには焔達の治療す龍二とそれを手伝う広とぬ~べ~の姿があった。
「何で……アンタ等が」
「麗華今日、教室に忘れ物したでしょ?それを届けに行ったら、境内で傷だらけになった焔達と気を失って倒れている麗華が居たから……」
「そうか……
泣くな。もう私は平気だ」
泣く郷子に、麗華は力ない笑顔を向けた。郷子は涙を拭いて麗華に微笑み返した。
「麗華!大丈夫か?!」
郷子の声に気付いた広達は、麗華の傍へ駆け寄った。麗華は郷子に助けられながら何とか体を起こした。すると隣の部屋で丙の治療を終えた龍二が、郷子と席を替わり、麗華の体を支えながら話しかけた。
「焔達から、全部聞いた。
お前、体の方は大丈夫なのか?」
「全然……ダメ。
体に、真面に力が入らない」
「そうか……」
「麗華」
「?」
広の隣にいたぬ~べ~は、真剣な顔で霊水晶で麗華を見ながら呼んだ。麗華は、息を切らしながら彼に目を向けた。
「お前の体に、魂が一部しかないのは、なぜだ?」
「魂が一部?!」
「麗華、どういうこと?!」
「焔達が気を失っている間に、何かあったのか?!」
「……
敵に……魂を持っていかれた」
「?!」
「魂を持っていかれただと?!」
「けど、奪われる前に魂の一部を幽体化して、何とかこの状態を保っている」
「……」
「だが、あの焔達はともかく、猿猴達まであんなにボロボロにやられるとは……相当強い奴だ」
「私も油断した。まさか、あそこまで強力な奴だったとは……
さっさと逃げていれば、魂を抜かれること何てなかったのに……」
「いや、桜巫女のせいではない」
その声と共に、縁側沿いにある襖が開いた。開いたのは、桜守の桜雅だった。
「桜雅……」
「麗華のせいじゃないって、どういうこと?」
「桜巫女、お前の魂を奪ったものは、顔の半面が解けてはなかったか?」
「あぁ……溶けてた」
「……やはり
そいつは、皐月丸(サツキマル)だ」
「皐月丸?」
「俺の古い知り合いだ。
俺と違って、桜を嫌い人の魂を餌として生きる妖怪だ」
「古い知り合いって…」
「生前アイツは人であった。だが人の手により、顔を半面解かされて死んでいった、哀れな妖怪だ。
俺も妖怪になる前は、人であったからアイツの気持ちが分からないわけでもない」
「!!
ゲホ…ゲホゲホゲホゲホゲホ!!」
突然麗華は、激しく咳をし出した。それを見たぬ~べ~は手に持っていた霊水晶で麗華を透視した。
「やばいぞ!
さっきより、麗華の生気が無くなっている!」
「え?!」
「何?!」
「ゲホゲホゲホゲホ!!
!!!
お久しぶりですね。桜雅。」
何かに憑りつかれたかのように、麗華の目は怪しげな光を放ち、その目で桜雅を見つめてそう言った。桜雅は束を掴み刀を抜き取ろうとした。
「無謀なことは辞めなさい。
辞めなければ、この桜巫女の命はありません」
「?!」
「そんなぁ!!」
「麗華を……麗華を返して!!」
「返して欲しければ、あなた方の手で桜雅を殺しなさい」
「殺すだと?!」
「皐月丸、桜雅を殺したらどうなるか分かってんのか?!」
「拙僧は、桜が嫌いです。
桜が枯れて朽ちようが、拙僧には関係ありません」
「……」
「桜雅……
どんなに探しても、もうあの桜も姫も還ってはきません。過去の事はもう忘れなさい」
「お前に、言われる筋合いはない!!」
「そうですか。
では、また日を改めて」
麗華の目が正気に戻り、彼女は力無く倒れた。龍二はそんな麗華を支えながらゆっくりと寝かせた。
「……
すまん、神主。
俺の問題に、桜巫女を巻き込んでしまって」
「自分を責めるな、桜雅」
「だが…」
「ねぇ…
さっき、皐月丸が言ってた「あの桜も姫も還ってこない」って……どういう意味なの?」
「姫って誰なんだ?
その姫と何か関係があるんじゃ……」
「……
大ありだ」
「……」
「桜雅。
辛いかもしれないが、話してくれねぇか?お前の過去を。
そして、皐月丸とはどういう関係なのかと、どうしてここまで麗華を気にするかを……」
「……」
「桜雅」
「……
あれは、俺がまだ人間だった頃だ」