地獄先生と陰陽師少女 作:花札
語源の由来は様々である。
春に里にやってくる稲(サ)の神が憑依する座(クラ)と言われている。
また、富士の頂から花の種を撒き花を咲かせたとされる「木花之開耶姫(コノハナノサクヤビメ)」のサクヤから採った名前ともされている。
“ミーンミーンミーン……”
真夏の太陽の下でセミが鳴く六月の上旬……
「暑ーい!!」
真昼間の太陽の下で、体育の授業をする五年三組……
サッカーボールを足で留めながら、広は流れ出てくる汗を拭き、空を見ながら文句を言った。
「本当暑いわよねぇ……」
「全く……
よりによって学校のプールが、使えないなんて……」
「仕方ないわよ。点検中なんだもん。明後日からは使えるって言ってたじゃない!」
「その間に、この暑さで干からびちまう!」
「そんな大げさな……」
「麗華はいいわよねぇ……」
そう言いながら、美樹は学校の木の下でスケッチブックに絵を描く麗華を恨めしそうに見た。
「こんな暑い日でも、体育を見学して涼しい日陰で、自分の好きなことをして……羨ましい」
「仕方ないでしょ?
麗華、先週まで夏風邪ひいて休んでたんだから」
「風邪ねぇ。私も引いて、体育休みたいわ」
「美樹!!アンタねぇ!」
「コラァ!!そこ!喋ってないで、体を動かせ!!」
ぬ~べ~に注意された郷子達は、急いでサッカーボールを転がし体育の授業を行った。
その光景を見ていた麗華は、動かしていた手を止め体育をやる広達を眺めた。
「……」
眺めている最中に、ふと以前いた学校の体育の時間を思い出した。
真夏の太陽の下……
自分は体が弱く喘息持ちだということで、医者から運動はするなと言われていた為、いつも見学をしていた。
だが、それを妬む女子や男子が現れ、いつしかクラスの皆から虐めを受ける羽目になってしまった。
そのことを思い出した麗華は、持っていたスケッチブックに描かれている絵を一枚一枚見返した。そこには運動するクラスの友や、以前の学校の風景、自分の目に映って見えた妖怪達の絵が描かれていた。
「……」
「懐かしいなぁ、その絵」
後ろから、焔が麗華のスケッチブックを覗き込むように見た。
「何よ?覗き見?」
「良いじゃねぇか、見たって。
けど、まだそのスケッチブック持ってたとはな……」
「……別にいいでしょ。
体育の見学、暇潰しにはちょうどいいし」
「前の学校では、よく学校の風景を描いてたっけ。
それから、俺の絵やあそこにいた妖怪達の絵、さらには帰りたいって泣きながら俺達の家も描いてたよな。桜の木や、そこへ来る妖怪達の絵」
「そんな昔のこと、思い出さなくたっていいじゃない」
「ヒヒ。いいじゃねぇか」
「麗華!授業終わったから、教室戻ろう!!」
いつの間にかチャイムが鳴り響き、手を上げながら麗華を呼ぶ郷子の姿があった。麗華は、スケッチブックを抱え郷子達のもとへと駆け寄った。
帰り道……
「じゃあ!麗華」
「じゃあね!また明日!」
「あぁ」
下校中、一緒に帰っていた郷子達と別れる麗華……
別れた麗華は、着なれた道を歩きながら家に向かった。
家の階段を登りながら、鼻歌を歌い境内に入った。
「?」
ふと顔を上げると、神社の前に笠を被った人がいた。
(何だ?こんな時間に?)
「ほぉ……桜巫女とは、随分小さいお方だったのですか」
まるで、麗華の存在に気付いているかのように、笠を被った人はそう言い放った。
「小さくて悪かったね。
で?一体、何の御用でこの山桜神社へお越しになったのですか?」
「なぁに……
桜守のお気に入りと、噂で聞いたので一体どんなお方かと思いましてねぇ」
「?!」
笠を取りながら、麗華の方へ振り返った者の顔は、半面大火傷を負っているかのように溶けていた。それを見た麗華は身を引き、傍にいた焔は彼女を後ろへ隠しように前へ出た。
「麗!こいつ危険だ!」
「そんなの、見れば分かる!」
「おやおや、客人に牙を向けるとは……
とんだ、桜巫女だ。礼儀が成ってませんね?」
「アンタは、ここで私が始末する!
焔、下がってろ」
焔に言いながら、麗華は前へ出て、ポーチから数枚の札を取り出し投げ放った。
「結界発動!」
その言葉を放つと、境内全体が光り、意妙な文字が笠を被っていた者の周りに浮き出てきた。
(なるほど、逃げられぬように結界を張るとは……小さいわりには結構やりますね)
「臨、兵、闘、者」
「その攻撃、拙僧には訊かぬ。」
「え?」
手に持っていた槍で、やけどを負ったものは結界を破った。破った衝撃で、突然どこからか強風が吹き、麗華は風と共に階段から落ちてしまった。
「麗!!」
傍にいた焔は麗華を石段に落ちる寸前でキャッチし、境内の中へと入り下ろした。
「ありがとう、焔」
「やりますね?桜巫女」
「?!」
その声が聞こえ、すぐに後ろを振り返るとそこから黒い光線が放たれ、焔はそれを喰らい森の中へと飛ばされてしまった。
「焔!!」
「さぁ。これで、邪魔者はいなくなりました」
「いなくなった?それはどうかな」
「?」
「氷鸞!雷光!」
ポーチから出した二枚の紙を投げた。投げた紙は煙を上げ中から、氷鸞と雷光が姿を現した。
「この妖気?!」
「まさか、お前が妖怪達の噂になっている、人の魂を喰らう妖怪か?!」
「魂を喰らう妖怪?」
「フフ……
人の魂は、とても美味だ。特に霊力の強い者は」
そう言いながら、笠を被っていた者は麗華を不気味な目で見つめた。その眼を見た麗華は、恐怖で身を引いた。
「まさか、麗様の魂を喰らうというのか?!」
「それもあるんだが、拙僧にはどうしても許せぬ者がいてな」
「許せない者?」
「桜守の桜雅という者です。
拙僧は奴が嫌いだ。だからこの手で、奴を殺す。
だが、そのためには人質が必要。そうしたら、妖怪達の噂で、桜雅はあなたをとても気に入っていらっしゃるという事を耳にして、この神社へ来たのです」
「桜雅を殺せば、この地に生えている桜の木は全て枯れるぞ!それでもいいの?!」
「桜など、枯れてしまえばよい。
拙僧は桜が、一番嫌いだ」
「?!」
「さぁ、お喋りはここまでにして、そろそろ桜巫女の魂を、渡して貰いましょうか?」
「そうはさせぬ!!」
「命に代えても、我が主を守るのが某たちの務め!!」
「雷光!!氷鸞!!」
飛び出て、目の前にいる敵目掛けて、武器を振り下ろす二人……
そんな二人に呆れるかのような表情を浮かべた敵は、持っていた槍で一瞬で二人の身体を貫いた。
「ガハ!!」
「ガハ!!」
「雷光!!氷鸞!!」
「さぁ、桜巫女。
これで、邪魔をする者は消えた」
二人を刺した敵は、麗華の目の前に立った。麗華は恐怖のあまり、体を動かせず、只々そこに立ち尽くしていた。
(やばい……やられる!)
「風術!疾風の舞!」
「火術!火炎砲!」
その声と共に、森の方から風を纏った炎が、敵を攻撃した。その攻撃に気付いた敵はすぐに麗華から離れ、離れたと同時にどこからか現れた者に、麗華は抱えられその場から離れた。
「そう簡単には、渡さねぇ!」
「焔!!」
「麗!無事か?!」
「ひ、丙!」
「母を襲う奴、オラたちが許さない!」
「青!白!」
森の中から傷を負った焔と、焔を支える丙、さらに自分を助けに来てくれた猿猴の青と白がそこにいた。
麗華から離れた敵は、舌打ちをし悔しそうな表情を浮かべながら、焔達を睨んだ。
「次から次と……」
「そう簡単に、麗を渡すわけにはいかないよ!
雷光!氷鸞!アンタ達の力は、そんなものか?違うだろ?!」」
倒れている二人に、丙は手をかざしながら言った。すると二人の身体に不思議な光が包み、傷を癒していき二人はすぐに目を覚まし起き上った。
「雷光!氷鸞!」
「麗!どうする!」
「麗様!ご命令を!」
「麗殿!指示を!」
「雷光!氷鸞!焔!共に獣化し、奴に攻撃!!
青!白!丙!アンタ達は、三人の援護!」
「承知!」
「承知!」
「了解!」
「分かった!」
「諾!」
「諾!」