地獄先生と陰陽師少女 作:花札
目を覚まし、目覚まし時計を見る広……
枕に顎を着け、悲しそうな目で覚めた郷子……
起き上がり、朝日が差し込む窓を眺める美樹……
飼い猫のタマを抱き締めるまこと……
ベッドの上で膝を抱え込む克也……
箒で境内を掃きながら空を眺める麗華と龍二……
同じ頃、ぬ~べ~は童守小で鉄棒で回っていた。
「何やってんのよ、出発の朝だっていうのに」
「きっと、皆に涙を見せるのが嫌だから、汗を流して水分を出しているのよ」
「馬鹿言うな!ただの朝の運動だ」
そう言いながら、ぬ~べ~は鉄棒から降りたった。そんな彼に、眠鬼は持っていた缶ジュースを、口に入れた。すると気が緩んだのか、ぬ~べ~の目から滝の様に涙が流れ出てきた。
「涙腺、緩みまくりね!キャハハハ!」
「大丈夫よ先生。泣きそうになったら、私がすぐ、止めてあげます!
でも、生徒達、あれで納得したのかしら?ちゃんと、見送ってくれるかしら……」
昨日の事を思い出すぬ~べ~。思い出すうちに不安が過ったが、それを追い払うかのように首を左右に振った。
「ば、馬鹿言うな!あいつ等は、分かってくれたさ……
もう時間だ、行こう!(さらば童守小……色々あったな)」
童守小を見ると、ぬ~べ~は振り返り駅へと急いだ。
童守駅へ着いたぬ~べ~達……その時、爆竹の音が聞こえた。音の方に向くと、体から煙を上げ煤を纏ったいずなと玉藻達が立っていた。
「いいかい、新婚生活にかまけて、霊能力者の本文を忘れんなよ!」
「龍二と麗華の事は俺と緋音に任せとけ!」
「先生は安心して、九州に行って下さいね!」
「俺等兄妹を何だと思ってんだ……
頑張れよ。鵺野先生。そしてありがとう」
「お元気で。今度会う時はあなたの力を超えてみせますよ」
「転任先の学校でも頑張ってくださいね」
「一年前、貸した百円餞別にあげるよ」
「ありがとう皆!向こうに着いたら、すぐ手紙書くよ……って、あれ?」
辺りを見回し、ぬ~べ~は広達を捜したが、彼等の姿はどこにもなかった。
「生徒達、一人も来てませんね……やっぱり、昨日ことが」
心配そうにするぬ~べ~達の背を見ながら、龍二と真二、緋音は顔を見合わせて笑みを浮かべた。
《三番線。七時半八、博多行格安鈍行列車、間もなく発車します》
ホーム内の放送を聞いたぬ~べ~は、少々残念そうな表情でホームの階段を上った。その時、麗華の声が聞こえそれと共に歌が聞こえてきた。その歌は『仰げば尊し』。
ぬ~べ~が顔を上げると、そこにはクラス全員が歌い、その背後には『五年三組卒業式』と書かれたプラカードがあがっていた。
「お前等……なんだよ、まるで卒業式だ」
「そうさ……これは俺達の卒業式なんだ」
「昨日、ぬ~べ~の気持ちは、よく分かってたの。でも、悲しさが込み上げちゃって」
「もう大丈夫だからね!へへん!」
目に涙を溜めながら、広達は言った。そして広は、手を上げクラス代表として口を開いた。
「宣誓!俺達、五年三組は、ぬ~べ~を卒業し、自分達で何でもやってくことを誓います!」
その言葉を聞いたぬ~べ~は、笑みを浮かべ鬼の手を隠し嵌めていた黒い手袋を取った。
「卒業証書、五年三組一同。
俺からの卒業証書だ。受け取れ……」
広はしっかりと、その卒業証書を受け取った。受け取るのを見ると、広達は一斉にぬ~べ~に抱き着いた。
「ぬ~べ~!」
「ゴメンね、わがまま言って!」
「私達、ぬ~べ~を笑顔で送り出すことにしたの」
「アタシ等、ぬ~べ~の生徒だかんね!そんなに弱くないよ!」
「ありがとう、皆……本当にありがとう。
俺も安心して、旅立てるよ……本当に」
「泣くなよぬ~べ~」
「大げさだなぁ」
発射するベルが鳴り、ぬ~べ~は慌てて列車に乗り席へ座った。窓越しに見える生徒達を見て、ぬ~べ~は窓を開けてを差し出し、生徒達と一人一人別れの握手をした。
そしてドアが閉まり、列車は発射した。
我慢し涙を堪えるぬ~べ~と広達……ぬ~べ~の席が離れて行くにつれ、涙を堪えることが出来なくなりそして……
「ぬ~べ~!!」
「ぬ~べ~!!」
「ぬ~べ~!!」
彼の名を呼び叫びながら、広達は列車を追いかけて行った。涙を流した広達を見たぬ~べ~は、同じようにして涙を流しながら叫んだ。
「こ、コラ!!止せ、危ないぞ!!
泣かないって言っただろ!!
広!!サッカーが好きなら、とことんやれ!!しかし、小四までの漢字ぐらい書けるようにしておけ!
郷子!!広の尻を叩いてやれよ……ただし本気で殴るなよ!!
美樹!!首を伸ばすのは嫁入りまでにしておけ!!
克也!!妹を大切にしろ!!
まこと!!戦隊ものは卒業しろよ!!
晶!!頑張って発明家になれ!!
麗華!!人に頼ることを忘れるな!!
(五年三組……
俺の大切な生徒達……本当に色々な事があった)」
「ぬ~べ~!!」
(思い出がいっぱいあり過ぎて……
大人の俺でさえ……別れは辛すぎる……)
走っていたまことが転び、彼に躓くかのように後方を走っていた法子達は転んだ。前を走っていた広と郷子、麗華、美樹、克也は走り続けた。
(だけどいつかは別れなくてはならないんだ)
美樹が転び、それに続いて克也も転んだ。美樹は起き上がり声を上げた。
「ぬ~べ~!!」
(皆!!強く生きろよ)
「ぬ~べ~!!」
「お前達の事は決して忘れない!!忘れないぞ!!」
ホームギリギリまで走り、作の所で広達は立ち止った。そして走り去って行く列車を見送った。
(さようなら……五年三組の日々
さようなら、ぬ~べ~……そして、一番輝いた思い出達)
その後のぬ~べ~達……
沼地でムツゴロウを取るぬ~べ~……そこへ自転車をこいだ雪女がやって来た。
「何やってるんですか!鵺野先生!
いい年して、泥んこ遊び何て……」
「おお!雪女君!いや何、晩のおかずのムツゴロウ取っていたんだ」
「……またお給料使っちゃったんですか。
もう!!事件解決の度に、生徒にチャンポ奢るの辞めてください!!」
「ハッハッハッハ!!時に雪女君、そんなに急いで、何の用?」
「あ!そうそう、これ渡さなきゃと思って……実は童守小の皆から手紙が」
「それを早く言ってくれい!!!」
嬉しそうにして、ぬ~べ~は封筒を開けた。中に入っていた紙を取り広げた。それは『また胸が大きくなりました』と書かれた水着を着た美樹が写った写真だった。
(美樹、お前の将来はどうなるんだ……)
もう一枚入っていた紙を広げた。そこには郷子の字がびっしりと書かれていた。
「拝啓、ぬ~べ~先生。お元気ですか?郷子です。ちゃんとご飯食べてる?
今日は、元ぬ~べ~クラスを代表して六年生になった皆の、近況報告をします(ちなみに私、最近グンと大人っぽくなったって言われてるのよ)
広はサッカー部のキャプテンになりました。下級生にも信頼され、風間君や北村君と一緒に童守小サッカー部をリードしています。
『郷子……実は俺、トイレで花子さんを見てからというもの、未だに夜トイレに行けないんだ……こういうの、馬鹿(ウマシカ)になるっていうんだよな?確か』
『トラウマでしょ』
馬鹿は相変わらずだけど……
克也は、謎の天才釣り少年と出会ってバス釣りに夢中。
まことは恋人(?)の篠崎愛さんと同じ、私立中学へ行くって猛勉強始めたの。成績もぐんぐん上がって、将来弁護士になるなんて言ってるわ。
中学受験するのは、他に晶と秀一、のろちゃんあゆみちゃん、山田君……皆夜遅くまで塾で頑張ってるみたい。
美樹はいずなさんに弟子入りして、本格的な詐欺師……じゃない、霊能力者の修行を始めたわ。
律子先生は、新しい恋人と熱恋愛中との噂が……
麗華は、相変わらずだけど、クラスでは頼りがいのある姉さん的な存在になったわ。
あと、彼女から聞いたんだけど、龍二さん達今年が大学受験で勉強頑張ってるんだって。応援よろしくって龍二さん達が。
そうそう、こんな事もあったのよ。この間、童守小にまた悪霊が出た時、玉藻先生と麗華がその悪霊をすぐに退治してくれたわ。その時の玉藻先生、ちょっとぬ~べ~と被ってたよ。
そんな訳で、皆小学生最後の一年間を悔いのない様に頑張って行きます。
それでは先生、体に気を付けてまた会おうね。
ぬ~べ~クラス一同より」
「……」
「先生……童守小に戻りたくなっちゃいましたか?」
「いや……あの子達は、皆自分達の未来に向かって一生懸命、頑張ってる。
その事が分かれば、俺は十分嬉しいんだ!それに……
ここにはもう……俺の新しい生徒達がいる」
「先生!!」
「ぬ~どん先生!!」
変なあだ名で呼ばれたぬ~べ~は、思わずズッコケた。
「だからその、ぬ~どんはやめろ!!麺類みたいだろ!」
「だって、眠鬼ちゃんがそう呼べって……」
「う~~~ん、九州風ってどんな名前かな」
「やめんかい、眠鬼!!」
「そんな事より、学校に幽霊が出たんだ!!今度は三本足のリカちゃんが!!」
「何?!
それは全国的に有名な七不思議だ。また、この学校の霊磁場が引き寄せたか」
「何かいるの?先生」
「ああ」
「怖いよ」
「安心しろ。お前達は俺の生徒だ。命に代えても守ってみせる(必ず守ってやる)」
(完)