地獄先生と陰陽師少女 作:花札
だが、結婚する前夜岩天狗の妨害を受け、ぬ~べ~は一人悩むに悩んだ。
結婚式当日、ぬ~べ~は式場で姿を現さなかった。
彼は一人、和解した鬼・覇鬼の力を借りて岩天狗を倒した。
式場では、ウェディングドレスを身に纏い、準備を終えた雪女が心配そうにして時計を見ていた。
会場に集まった先生や生徒達は、新郎新婦が来ないのにざわつき始めた。
「もう、これ以上待てません!
次の予約も入ってますし、式は中止という事で……」
「そんな!!」
「ぬ~べ~は必ず来るよ!!」
「しかし……」
「そこを何とか!」
「普通のカップルじゃないのよ!」
騒ぐ生徒達……その中、麗華はぬ~べ~の捜索から帰ってきた鼬姿の焔に、目を向けながら囁いた。
「鵺野は?」
「思い当たるところを探したけど、何処にも」
「……」
「何とかしないと……」
“バタン”
ドアが開く音が聞こえ、一同は振り向いた。そこにいたのは、血だらけになったぬ~べ~の姿だった。
「待たせたな……」
それだけ言うと、ぬ~べ~はその場に倒れてしまった。
「ぬ~べ~!!」
「どうしたの?!その怪我!」
「ゆ、雪女に……雪女に……伝えてくれ……
鵺野鳴介は……死ぬまで君を、愛していた……と」
「ぬ~べ~!!」
「嫌あああ!!結婚直前で死ぬなんて!!」
気を失うぬ~べ~……そこへ、丙と雛菊が傷を治し始めた。二人に続いて、楓はぬ~べ~の耳を持ち上げそして……
「何弱り切ったこと言ってんだ!!花嫁残して死ぬんじゃない!!」
「あひ~!!」
傷が癒えたぬ~べ~は、広達に釣られ新郎の服へと着替え、雪女が待つ部屋へ行った。
(随分遅れてしまった……雪女、怒ってるだろうな)
「じゃあね!雪女さん、心配してるから!」
「早く会って、安心させてあげて!」
そう言うと、美樹と郷子は式場へ戻った。ドアの前で、ぬ~べ~は緊張した。
(このドアの向こうに、花嫁衣装の雪女がいる……)
ドアに手を掛けようとするが、ぬ~べ~はどこからか押し寄せてくる不安で、ドアノブに手を掛けられなかった。
「(どうした、鵺野鳴介。
雪女との結婚は嬉しいはずじゃなかったのか?
そりゃ、多少は岩天狗に付け込まれたように、不安はある……だがもう納得したはず。
いや、やっぱり結婚っていろいろ大変だろうし……本当にこれでよかったのか……)やっぱり不安だ」
不安いっぱいで、ぬ~べ~は勇気を出しドアノブを回しドアを開けた。
部屋には、花嫁衣装に身を包み綺麗になった雪女が椅子に腰掛けていた。
「先生……無事だったんですね。よかった……
私、とっても幸せです!」
彼女の姿に見とれたぬ~べ~は、思わず……
「き、綺麗だ……
俺は、何を不安がっていたんだ。何か、全て吹き飛んでしまった」
「不安って、何ですか?」
「え、あ!い、いや。
とにかく……
待たせて悪かった、さあ行こう!」
二人が抱き合っていた時、突然広と郷子が、ドアを開け中へ入ってきた。
「ぬ、ぬ~べ~!!」
「大変よ!!」
式場では校長先生が、係員の人に文句を言っていた。
「何でだね!!やっと新郎が来たというのに!!」
「ですからもう、ダメなんですよ。
もう次の式に取り掛からないと……また日を改めて」
「そんな!」
「せっかく、皆集まったのに!」
「そうよ!キャンセルしたら、ぬ~べ~もう式やるお金ないのよ!!」
「ク……俺が遅れたせいで……すまん」
騒ぎを見ていたぬ~べ~は、申し訳なさそうに言った。
「鵺野先生。
私、わがまま言って式場、ここにしてもらいましたけど……私達の式を挙げるなら、もっといい場所があるって、今気が付きました」
「え?」
場所は変わり、ここは童守小の校庭……
校内に合った机を並べ、その上に式場から持ってきた料理を置き席に着く一同。
「ま、まさか校庭で式を?」
「料理は運んできたけどさ」
「何か、味気ないとね」
「皆さん、日本一珍妙な新郎新婦が、日本一珍妙で盛大な式をあげます。
それでは、二人の入場です」
司会の玉藻が言うと、雪女は手から冷気を放ち校庭に氷の教会を作った。
「さあ!皆、中に入ってくれ!」
「す、スゲェ!」
「氷の教会だ」
「こんな所で結婚式何て、ロマンチック!」
教会に置かれていた椅子に、一同は座り神父役を任された龍二は二人の顔を見ながら言った。
「汝、鵺野鳴介、この女、雪女を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、誓いますか?」
「誓います」
「汝、雪女は、この男、鵺野鳴介を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、誓いますか?」
「誓います」
「それでは、指輪の交換を」
向き合い、指輪を交換する二人。
それは、小さな少女がほんの小さな恋から始まった……少女は長い長い間、その人の事を思い続けて、命を懸けた大冒険を重ねてついに……
指輪を交換し終えると、二人は唇と唇を合わせキスをした。その様子に、一同は歓声を上げた。
「フッ、それが愛の最終形態ですか、鵺野先生」
「お幸せに、二人共」
「畜生!やるじゃねぇか!」
「綺麗な花嫁さん、憧れますわ!」
「本当に結婚しちゃったのだ」
「新婚旅行は熱海だってよ!」
“ドン”
外から突然、太鼓の音が聞こえた。それと共にマイクにスイッチが入り、台に足を乗せた真二が声を張った。
「二人の結婚式のフィナーレには、妖達のアイドルとスター!桜巫女と桜巫覡の神楽舞で終いだぁ!」
校庭に目を向けると、いつの間にか舞台が設置されていた。両脇には太鼓の撥を持つ焔と雷光。笛を構える渚と丙。琴の前に座る楓と雛菊。琵琶を持つ氷鸞と三味線を持つ時雨。
舞台の幕が上がり、中から浅葱色と緋色の羽織を頭から被り、顔に狐の面を着けた二人の男女(龍二と麗華)。
雷光と焔は目を合わせると、同時に太鼓を鳴らした、二人の太鼓を引き金に次々に楽器が音色を響かせた。音に合わせて二人は、下駄を鳴らし扇子を広げ鈴を鳴らし舞を始めた。
羽織を投げ捨て、麗華は華麗にジャンプをし空中で一回転した。彼女の回転をフォローするかのように、龍二は舞台の上でバク転した。
「スゲェ!!」
「いいぞ!!麗華!!」
「龍二!最高よ!!」
「とてもいい舞ですね!!ねぇ!鵺野先生!」
「あぁ!(お前等、最高だ!)」
龍二が構えた手に目掛けて、麗華はジャンプし着地した。それと共に龍二は乗ったと同時に、彼女を投げる様にして腕を上げた。高く飛んだ麗華は、扇子を広げそこから氷の技を出した。氷は花弁のように宙を舞い、ぬ~べ~達に落ちて行った。
「綺麗……」
「ざっとこんなもんかな」
舞台から降りた麗華と龍二は、面を取りぬ~べ~と雪女の元へ行った。
「改めて言わせて貰うよ。
おめでとう、鵺野、雪女」
「幸せにな」
「あぁ」
「ぬ~べ~!!頑張れよ!!」
「雪女さん!お幸せに!」
一同は二人に続いて声を上げ、二人の結婚を祝した、ぬ~べ~と雪女は顔を真っ赤にして嬉しそうな顔を浮かべた。