地獄先生と陰陽師少女 作:花札
三月になり、進級・クラス替えが決まって、皆泣いて別れを嫌がった。
そこで先生は、記念に皆を最後の遠足に連れて行った。
しかし彼等は……事故に遭い、そのまま永遠に進級しなかった。
「この校庭の一本だけ、花の咲かない桜はそのクラスが植えたという……
だから、この木に名前を彫ると、彼等のように進級せず、もう一度同じ学年を繰り返すという……
しかしそんなのは、まやかしだ。彼等の霊に魂が捕らわれるだけだ」
「ぬ~べ~!!郷子を」
「分かっている。
このクラスの集合霊は、凄い団結力だが……やるしかない。麗華」
「分かってる」
「南無大慈大悲救苦救難!!」
「四縦五黄禹為除道蚩尤避兵!!」
「郷子を返せ!!」
「稲葉を返せ!!」
嬉しそうに鼻歌を歌いながら、ぬ~べ~の授業を受ける郷子。
「よーし!新学期、第一問!
この問題を解け!」
「先生、何も黒板書いてませーん」
「今、念写する!見よ、霊能力教師の力を!」
「鵺野先生、テストのコピー持ってきました」
「うひー!!」
紙の束を持ってやって来た律子先生の、巨乳に見取れ動かしていた手は彼女の裸姿の絵を描いた。それにクラス全員大笑いした。
(うわー……一年前の頃の、こてこてのギャグだ!)
「ねぇ細川さん、ぬ~べ~先生の左手って、本当に鬼の手なのかな」
「さ~、単なる噂じゃない?」
放課後……
(凄い凄い!本当に一年前に戻ったわ!
何もかも、私がぬ~べ~のクラスに入った時のままだわ!嬉しい!)
「おい、ペチャパイ女!」
後ろにいた広に、突然そう言われ郷子は彼の胸倉を掴み上げ怒鳴った。
「あんだとオラァ!!
あんた、私の恐ろしさを忘れたの……って、あれ?
何で広がいるのよ?確か五月頃、転校してきたんじゃ」
「全てが同じじゃないのよ」
「桜さん」
「ここはあなたが、楽しいと思っている五年三組を再現した世界。
時間には新学期に戻ったけど、起きることは少し違うわ」
「俺、立野広!よろしくな」
「あなたはこれから、また広君と良い関係を作っていくのよ」
差し出された手を握り、郷子は広と握手した。変に感じながら教室を出て校舎の裏へとやって来た。そこでは煙草を吹かしている克也がいた。
「お、おい稲葉、先生にチクるなよな!!」
「克也……」
「木村克也……この頃の彼は、不良だった。それに卑怯だし」
「う、うん……」
「これからの一年で、彼は変わっていくのよ」
「あ~あ、僕ってついてないな。何か悪い運命に生まれついたんだ」
「山口晶……彼も一年で、段々自信を付けていくわ」
校庭をトボトボと歩いていると、帰ろうとしている麗華の後ろ姿が見えた。
「あ!麗華!」
「?」
肩に手を置き呼んだが、麗華は郷子の手を叩き払った。
「馴れ馴れしくしないで」
「っ……」
そう言うと、麗華はそのまま学校を後にした。
「神崎麗華……
転校した頃の彼女は、皆を信用せず全部一人でやっていたわ。一年後には皆を信用できるようになって、笑うようになったけど」
「あ、いたいた!ねぇ郷子!」
「旧校舎、探険しようぜ!」
広達と一緒に、旧校舎へ行った。
(そ、そうか……一年前はこんな所もあったっけ)
「ここの理科室には、毒薬を作って何人もの人を殺し、警察に追い詰められて硫酸を被って自殺した、変質者理科教師の霊がいるんですってよ」
「止しなよ!ここ、床が腐ってて危ないから入っちゃ駄目だって先生が」
「何よ~郷子、せっかく誘ったのに……
良い子ぶってんじゃないわよ!!」
「な!私はただ」
「生意気よ!!アンタ」
美樹は郷子を押し倒した。
「細川美樹……クラス一のトラブルメーカーよね。一年後にはだいぶ良い子になったけど……
チナミニ、コノコロハBカップダケド、イチネンゴニハFカップニナルワ」
「でも美樹は、もっと友情に篤かったわ!」
「そうなるのは、何ヶ月か後のことでしょ」
旧校舎へ入り、美樹達は理科室へ着きドアを開けた。
「なーんだ、何もないじゃない」
「ぷえ~、埃っぽい」
その時、天井から何かの液が落ち床から煙が上がった。上を見るとそこに顔の皮膚が溶けた白衣を着た男がいた。
「うわぁあああ!!」
「逃げろー!!」
走り出す美樹達だったが、足を踏み出したとき郷子の足に床が抜け倒れてしまった。自分の前にいたまことに、郷子は助けを求めた。
「た、助けて!!足が抜けない!!」
「うわぁ!!怖いのだ!!」
まことはしょん便を漏らしながら、逃げていった。
「まことは本当に怖がりで甘えん坊だった。一年前はね」
手に硫酸が入った瓶を手に、男が郷子に襲い掛かってきた。そこへ鬼の手を構えたぬ~べ~が間一髪、彼女を助けた。
「俺の生徒に、手を出すな!」
「ぬ~べ~!!」
「あ、あれは……鬼の手!?」
「噂は本当だったのね!!」
「何か怖いのだ」
「お前は俺の生徒だ。
傷付けさせはせん」
その時、男が投げてきた硫酸がぬ~べ~の足に掛かった。それを見た郷子は、その辺に落ちていた木の板で男の背中を叩いた。
「皆!見てないで!ぬ~べ~を助けて!!」
「そ、そんなの無理だよ……
妖怪と普通の人間が戦うなんて」
「大体、その先生のことまだよく知らないし……
命賭けてまで、助けられないよ」
「は、早く逃げるのだ!」
怖じ気ついて弱気なことを言う広達……その中、ぬ~べ~は鬼の手で男を倒した。彼は郷子に礼を言いながら、鬼の手をしまった。すると、広達が一斉にぬ~べ~に飛び付いた。
「凄いぜ先生!!」
「格好いいのだ!!」
「鬼の手って本当だったのね!!」
喜ぶ広達……そんな姿を見て、郷子は静かに口を開いた。
「……違うよ」
「え」
「こんなの……違うよ!間違ってる。
そりゃあ……一年前の皆は、まだ勇気も友情と師弟愛もあまりないさ。そうよ、違和感があるのは当然……
違うのよ!!そういうことじゃなくて!
この一年で、五年三組の皆が得たものは、零からやり直せないって事!
私、間違ってた……クラスの皆、一人一人が一年掛けて変わった部分は……どんな宝物より、大事なものだったのよ。
それを私の勝手な思いで、零にリセットしてしまって、また同じような経験重ねて作っていくなんて……
そんなの……偽物よ……紛い物よ!!
私、分かったの……楽しい時の経験は、もう一度繰り返すんじゃなくて、これからの未来への糧にするもんだって」
「言いたい事は、それだけ?」
「残念だな……君なら、喜んで我々の仲間」
「止まった時間(とき)の住人になれると思ってたのに」
「楽しかった同じ時間(とき)を、何度でも繰り返す」
「この空間の住人に……」
「だが、もう逃げられないよ」
「君も我々の仲間になるんだ」
広達の姿が、木の化け物の姿へと変わり、枝で郷子に絡みついた。
お経を唱えるぬ~べ~と麗華……その時、桜の木が光り幹が口を開けた。
その中には、木の根に拘束された郷子がいた。
「郷子!!」
「駄目だ……無理に取り出せない。
魂が、木の中に融合してる」
「ど、どうやって助けるんだ!?」