地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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教室に着いた麗華と輝二は、ドアを開け中へ入った。

郷子達は麗華の格好を見た瞬間、驚きの余り思わず悲鳴を上げた。そんな彼等に、麗華は容赦なく蹴りを入れた。


「ったく……焔といいアンタ等といい」

「だって」

「麗華が」

「そんな格好」

「するなんて……」

「好きでこんな格好してんじゃない!

ねぇ、鋏ない?」

「鋏?そこの教卓の上に」

「何に使うの?」

「スカートの裾を短く切るの。あと袖も」

「え?!もったいないよ!」

「こんな格好で、妖怪とまともに闘えるか!!」


鋏を手に持つと、麗華は裾を持ち上げ刃を入れた。それを見た焔は、人の姿になり目隠しをするように前に立った。広と克也とぬ~べ~は残念そうな顔を浮かべ、そんな三人に郷子と美樹は拳骨を入れた。

焔の姿を見た輝二と勇二は、輝三の方に顔を向け口を開いた。


「兄さん……あれ」

「……あの女、何者なんだ」

「白狼を持ってるって事は……うちの」

「いや……家系にあんな女はいない」


着替え終えた麗華は、焔の後ろから出て来た。裾を膝上まで切り、長かった袖肘上まで切り襟元も切られていた。


「あら~、随分切ったねぇ」

「もったいないなぁ」

「クソ、もう少しで麗華の裸が見られたかと思ったのに」

「人の体を、何だと思ってんの……」


終えた麗華を見た焔は、鼬姿になり彼女の肩へ登った。そんな彼の様子に、輝三と輝二の後ろにいた竃と迦楼羅は互いを見合いながら、焔を見た。


蘇った絵師

「タイムスリップ?!」

 

 

ぬ~べ~から話を聞いた麗華は、驚き思わず声を上げた。

 

 

「こっちの世界で復活した妖怪が、お前等の誰かをここしへ連れてきたんだ」

 

「復活って……結界か何かが敗れたの?」

 

「うん……そうらしいんだ。

 

兄さんが封印したはずの祠が、こないだ工事で壊されてて……それで」

 

「さっきの服を見る限り、ダビンチはおそらくお前を狙ったんだろうな」

 

「え?!麗華が?!」

 

「何でこのナイスバディの美樹ちゃんじゃなくて、この麗華なのよ!!」

 

「美樹……」

 

「お前な……」

 

「ダビンチは狙った女に、その赤い服を着せる。そして手足を拘束し、台に乗せ首に縄をかけ絵を描き始める」

 

「起きた時、私台に乗ってないし、首に縄掛けられてなかったけど……」

 

「準備でもしてたんじゃねぇの?」

 

「その可能性あるな」

 

「あるある」

 

「それにしてもダビンチの奴、何で麗華なんかを狙ったのかしら?いろんな時代に行けば、美しい女なんていくらでもいるのに」

 

「その女に霊力があるからじゃねぇのか?」

 

「え?」

 

「暗鬼の奴から聞いたけど、お前普通に妖怪と戦ってたみたいじゃん。その薙刀で」

 

「……まぁ……ね」

 

「そりゃあそうだよ!だって麗華は」

「わー!!」

 

 

言い掛けた広の口を麗華は慌てて抑え、誤魔化すかのようにして話を続けた。

 

 

「わ、私のうち、霊媒師関係の仕事やってて……それで霊感が強いんだ」

 

「へ~、そうだったんだ」

 

「とか言って、本当は輝二達と同じ家系だったりして」

 

「アハハハ……」

 

 

郷子達を連れ、麗華は全員の耳元で囁いた。

 

 

「ここで、私が陰陽師の娘とか言わないで」

 

「え?何で?」

 

「輝三は私の伯父だって分かるでしょ」

 

「うん」

 

「輝二は私の父さん。勇二は今私が世話になってる刑事さん」

 

「嘘?!」

 

「どうりで、輝二君麗華に似てたわけだ」

 

「娘だって分かったら、いろいろおかしくなるから……」

 

 

「ねぇ!」

 

 

突然声を掛けられ、広達はすぐに後ろを振り返った。後ろには勇二と彼の後ろに隠れる様に立つ輝二がいた。

 

 

「な、何?(ビックリしたぁ)」

 

「お前等、未来から来たんだろ?」

 

「え、えぇ」

 

「じゃあさ、未来の俺等ってどうなってるか分かるか?」

 

「え?」

 

「ゆ、勇二……分かる訳無いよ。この子達の親御さんと俺等が知り合いかどうかなんて」

 

「けど、お前の子供がこの童守小の生徒だったら、会ってるかも知れぇじゃねぇか!」

 

「子供って……」

 

「なぁ!どうなんだ?!」

 

「いや……それは」

 

「二人共、刑事になってる」

 

「え?」

 

 

広達の後ろで、麗華はボソッとそう言った。それを聞いた勇二は、広達を退かし麗華に寄った。

 

 

「それ、本当か?!」

 

「本当」

 

「スッゲェ……輝二、これで未来は決まった!お前も俺も、刑事になるんだ!そしたら、一緒にどんどん事件解決していこうな!」

 

「う、うん(張り切り過ぎだな……それにしても……)」

 

 

返事をしながら、輝二は広達と話す麗華に目を向けた。

 

 

(何だろう……ほっとけない…感じだ。

 

ほっといたら、ずっと泣いてそう)

 

 

その時、何かを察したのか輝二と勇二は廊下の方を睨んだ。二人に続いて、麗華とぬ~べ~と輝三も廊下の方を睨んだ。

 

 

「何か来る……」

 

「お見事」

 

 

その声と共に、ドアが勢いよく開いた。開いたと同時に、傍にいた暗鬼と迦楼羅達が構え、麗華の肩に乗っていた焔も人の姿になり構えた。外から現れたのは、白い布を見に纏いベレー帽を被ったあの骨人間だった

 

 

「まさか、こんな所に結界が張っていたとはね……どうりで見つからないわけか」

 

「ダビンチ、未来の女をここに連れて着た訳は何だ?」

 

「この過去でやれば、相手をするのはお前達だけだ……未来だと、どうにも僕に歯向かう妖怪がいてやりにくいからね」

 

「言われてみれば……」

 

「そうだよね」

 

「襲われた瞬間、速攻で助けに来る奴がいるからね」

 

「過去へ連れて着たはいいが……どうやら、邪魔者も連れて着てしまったみたいだね」

 

「誰が邪魔ものだ!!」

 

「刺激するな!

 

全員口塞げ!竃!」

 

 

輝三の呼び掛けに、竃は口から煙を吐いた。その隙にぬ~べ~達は全員教室を出て行った。煙が晴れ、いなくなったことを知ったダビンチは笑みを浮かべ、そのまま煙のようにどこかへ消えた。

 

 

準備理科室に逃げ込み、息を乱しながら外を伺うぬ~べ~と輝三……その背後で、美樹と克也は息を乱し座り込んでいた。

 

 

「どうやら、追い駆けてきてないみたいだな……」

 

「た、助かったぁ」

 

「ねぇ、郷子と広は大丈夫かしら?」

 

「麗華と輝二達も心配だよな」

 

「輝二達は平気だろ。無論その麗華って奴も。問題は郷子と広って奴だ。どっちかと一緒に居ればいいんだが……」

 

 

同じ頃、家庭科室に逃げ込んだ勇二は外を伺っていた。二人の背後で、広と郷子は渡された水を飲み、息を整えていた。

 

 

「こっちには着てねぇみてぇだな」

 

「何とか逃げ切れたってことね」

 

「それより、麗華達大丈夫かな?」

 

「大丈夫だろ?あの麗華って奴、何か強そうだし」

 

「だといいけど……」

 

 

同じ頃、美術準備室に逃げ込んだ輝二と麗華は、その場に座り込み咳をしながら息を整えた。傍で焔と迦楼羅が彼等の背中を擦りながら、心配そうに顔を伺った。

 

 

「麗、大丈夫か?」

 

「な、何とか……」

 

「だ、大丈夫?麗華ちゃん」

 

「う、うん……」

 

 

立ち上がりながら、麗華は息を整えた。準備室を見回すと、キャンパスに立て掛けられ白い布で隠された絵が一つ置いてあった。気になった麗華は、白い布を取りその絵を見た。

 

 

「?!」

 

 

その絵は、自分で描いたあの狼と湖の絵と同じものだった。

 

 

「それ、俺が描いたんだ」

 

「え?」

 

「俺、体弱くてさ。医者から運動しちゃダメって言われて……絵ばかり描いててさ。そしたら、こないだコンクールにその絵を出したら、見事優勝して」

 

「これ……そこにいる、迦楼羅をモデルに?」

 

「え?う、うん。よく分かったね。

 

この絵、父さんや母さんにも褒められたんだ…それに、兄さんにも!」

 

「へぇ……」

 

 

眺める輝二……そんな横顔を、麗華はしばらく見つめ絵を見た。

 

 

「さ!皆を捜そう」

 

「うん」

 

「あ!これ、着てよ」

 

「え?」

 

 

輝二は着ていた長袖の上着を脱ぎ、麗華に渡した。

 

 

「いいの?」

 

「その恰好じゃ、風邪引いちゃうよ」

 

「……ありがとう」

 

 

上着を借りた麗華は、輝二と一緒に部屋を出た。その時、青白く光ったキャンパスが目に入り、二人は恐る恐るそれに近付き絵を見た。

その絵は、ワンピースを着た麗華が描かれておりまだ色が塗られていなかった。

 

 

「いつの間に……」

 

「君が眠っている最中に、下書きを終えたんだ。

 

そうすれば、色を塗っている最中暴れても、濡れるだろ?」

 

 

その声が聞こえ、後ろを振り返った途端、麗華の体に縄が巻き付き倒れた。

 

 

「麗華ちゃん!」

「麗!」

 

「モデルは捕まえた……じゃあな」

 

 

手から光の球を放ち、それを輝二に投げ付けた。その瞬間、強い光が放ち輝二は眩しさの余り腕で目を塞いだ。




その光を丁度廊下を歩いていた輝三達の目に止まり、ぬ~べ~と輝三は顔を見合わせると、すぐに美術室へ行きドアを開けた。開けたと同時に光は無くなり、傍に輝二達が倒れていた。


「輝二!」
「迦楼羅!」


二人は駆け寄り、倒れている二人を起こした。その横で倒れていた焔は、頭を抑えて起き上がった。

二人がしばらく呼び掛けると、輝二と迦楼羅は目を覚ました。


「兄さん?」

「大丈夫か?」

「……麗華ちゃんは?!」

「麗華がどうかしたのか?」

「ダビンチにさらわれた!」

「?!」

「早くしないと、麗華ちゃんの命が!!」

「どうしたの?」

「兄さん、早くしないと!」

「助けに行きてぇが……どこに行ったか。

まさか」

「どうしたの?兄さん」

「お前等、ついて来い!」


走り出した輝三の後を、ぬ~べ~達は慌てて追い駆けていった。

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