地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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バレンタインの魔法

放課後の学校……

 

 

「明日はいよいよ、バレンタインデーね!」

 

 

お菓子の雑誌を手に、美樹は嬉しそうに言った。美樹を囲うように立っていたクラスの女子達は、互いを見合って頷いた。

 

 

「今年はどうしようかなぁ」

 

「やっぱり、手作りチョコでしょ!」

 

「クッキーも良いんじゃない?」

 

「ドーナッツ何かもいいじゃん」

 

「どれにしようかぁ」

 

「ねぇ郷子!

 

アンタは今年、広に何あげるの?」

 

 

自身の背後から雑誌を覗いていた郷子に、美樹は話し掛けた。

 

 

「私は……そうだなぁ。今年はクッキー……って、何で私があんな奴にバレンタインのチョコ、あげなきゃいけないのよ!」

 

「何言ってんのよ、ラブラブなくせに」

 

「そうそう!」

 

「おっと!もう一人を忘れてたわ!」

 

「もう一人?」

 

「ねぇ、麗華!」

 

 

輪に入っていなかった麗華に、美樹は声を掛けた。麗華は鞄を肩に掛けようとしていた手を止め、美樹達の方を見た。

 

 

「アンタもあげるんでしょ!」

 

「あげる?誰に」

 

「陽一君!」

 

「陽一君?誰?」

 

「うちの学校に、そんな子いたかな?」

 

「陽一君はね、麗華の従兄弟でい」

「それ以上言ったら、アンタの家に悪霊二十体ほど住まわせるから」

 

「それだけは勘弁してぇ!」

 

 

麗華に泣き付く美樹に、女子達は大笑いした。

 

 

「麗華、もう帰るの?」

 

「あぁ。少し用があるから。じゃあね」

 

 

どこか嬉しそうにしながら、麗華は教室を出て行った。そんな彼女の様子を、美樹は怪しそうな目で眺めた。

 

 

鼻歌を歌いながら、麗華はスーパーの袋を手に商店街を歩いていた。その様子を、美樹と郷子はこっそりとついて行った。

 

 

「あの袋の中……絶対、チョコよね?」

 

「有り得る」

 

「誰にあげるんだろ?」

 

「やっぱり、陽一君?」

 

「じゃあ麗華、バレンタインの日に京都に行くの?チョコを渡しに」

 

「それか、その日に陽一君がこっちに遊びに来るか」

 

「う~ン……気になる」

 

 

翌日……

 

 

可愛い紙袋を手に、女子達は学校へやって来た。童守小と同様、龍二の学校では女子が好きな男子に次々にチョコを渡していた。その中、龍二は真二と共に、下駄箱に入っていたチョコを持ち、数を数えていた。

 

 

「今年は……三十個だな」

 

「相変わらず、スゲェなぁ龍二」

 

「いらねぇって言ってんのに、毎年こうなんだよなぁ」

 

「そういや、お前の許嫁の美幸ちゃんだっけ?あの子からもチョコが来るんだろ?」

 

「まぁな。けど美幸は、いつも手作りの和菓子を送って来るから別に困りはしないんだ」

 

「フ~ン……」

 

 

童守小では……

 

 

廊下で、チョコを受け取る男子……その様子に、チョコを貰えない男子は、指をくわえ恨めしそうに見ていた。

 

 

「いいよなぁ……」

 

「羨ましい……」

 

 

そんな廊下の中、郷子と美樹は袋の中に入っている小包を見ながら、楽しそうに話していた。

 

 

「郷子、アンタいつあげるの?」

 

「え?あげるって?」

 

「恍けちゃって!広よ広」

 

「そうね……って、そういう美樹は誰にあげるの?」

 

「私?私は、チョコを貰えない世の男子共に、この義理チョコをあげるのよ!毎年見てて可哀想に思ってね」

 

「アンタね……」

 

 

教室へ着くと、美樹は教卓の上に立ちもっていた袋から、包まれたチョコを出し見せびらかせた。

 

 

「さぁ!男共!!

 

この美樹様が、冴えない男子のためにチョコを買ってきてあげたわよ!受け取りなさい!!」

 

 

雨の様に美樹はチョコを振り撒いた。そのチョコを貰えない男子は食い付き拾った。その様子に、郷子は呆れて深くため息を吐いた。

 

 

「あのバカ女王は何やってんだ?」

 

「あ、麗華。おはよう。

 

 

チョコを貰えない男子に、美樹がばら撒いてんのよ」

 

「細川が考えそうなことだな(ホワイトデーで、お返しを貰うって魂胆だな)」

 

「……あれ?麗華、チョコの入った紙袋は?」

 

「紙袋?何の事?」

 

「昨日、スーパーの袋持って帰ってたじゃん」

 

「また、つけてたの?」

 

「え?い、いやぁ……そ、それは」

 

「やっぱり」

 

「ハハハハ……

 

で、さっきの質問の答え……」

 

「……買ったよ、チョコ」

 

「じゃあ!」

 

「兄貴にね」

 

「う……

 

陽一君には買わないの?」

 

 

何か言い掛けた時、チャイムが鳴り郷子達は慌てて席へ座った。それと共に、氷漬けになったチョコを持ったぬ~べ~が教室へ入り授業となった。

 

 

放課後……

 

 

帰りに郷子は、こっそり広に手作りのチョコを渡した。二人は顔を真っ赤にして笑い、その様子をドアの隙間から、美樹達は覗く様にして見ていた。

 

 

「さっすが、お似合いのカップル!」

 

「ク~!広の奴、羨ましい!」

 

「さてと!お次は」

 

 

 

廊下を見ながら、美樹は悪戯笑みを溢した。彼女の目の先には、廊下を歩く麗華の後ろ姿だった。

 

 

商店街を歩く麗華……美樹達はその後を追っていたが、後ろにいた克也と後から来た広と郷子に話をしながら歩いていた時、何かにぶつかった。尻餅をついた美樹は、ふと顔を上げるとそこにいたのは、五人の怒りの形相をした不良だった。

 

 

「痛ってぇなぁ……こりゃ、骨折れたぞ!」

 

「慰謝料もらわねぇとな」

 

「い、慰謝料って……」

 

 

「骨折って言っても、そんだけ元気なら平気だよ」

 

 

前にいた麗華は、不良の姿を見ながらそう言った。不良は、その言葉にキレ彼女の胸倉をつかんだ。

 

 

「ガキが調子乗ってんじゃねぇぞ!!」

 

「あれれ?骨折したんじゃないの?腕」

 

「っ……」

 

「このガキ!!」

 

「ぶちのめしてやる!!」

 

 

殴り掛かろうとした時、美樹達の横を何かが通り過ぎ、手を出そうとしていた彼に向かって回し蹴りを喰らわせた。

 

 

「人の女に、手ぇ出すとはええ度胸しとるな?兄ちゃん」

 

「陽一君!!」

「陽一!!」

 

 

地面に座り込んだ麗華に、陽一は手を貸し立たせた。麗華は少し驚いた表情で彼を見ていた。

 

 

「何で……」

 

「試合、早く終わってね!これ見せたくて、素っ飛んで来たんや!」

 

 

持っていたバックから、何かを取り出しそれを麗華に見せた。それは金メダルと『優勝』と書かれた賞状だった。

 

 

「関西大会少年部、見事一位や!!」

 

 

満面な笑みを見せながら、陽一はそう言った。その言葉に麗華は喜びに満ちた笑みを浮かべた。

 

 

「何笑ってんだ!お前等、やれ!!」

 

「応!」

 

「よっしゃ!ここいらで、一位の実力を試させて貰うで!麗、援護頼む!」

 

「了解!」

 

 

迫ってきた不良の一人に、陽一は腹目掛けて正拳突きを喰らわせた。喰らった不良は腹を抱えてその場に倒れた。続いて迫ってきた不良に、麗華は陽一の手を借りて踵落としを喰らわせた。頭に喰らった不良はその場に伸び倒れた。二人やられたのを見たリーダー格の不良は、残った二人を連れに泣き喚きながら逃げて行った。

 

 

「ハッハッハッハ!!ざまぁみろや!」

 

「さっすが陽一君!」

 

「チョーカッコ良かった!!」

 

「ねぇ、さっき言ってた関西大会少年部、一位って何の事?」

 

「空手や空手!

 

今日、関西大会の決勝戦があってな。それに出場して、見事一位取ったんや!」

 

「スゴォイ!!」

 

「この金メダル、早く麗に見せたくて、試合終ったあと速攻でこっちに来たんや!波に乗ってな!」

 

「それじゃあ麗華、ご褒美あげないと!」

 

「今日、バレンタインだし!」

 

「バレンタイン?あぁ、そういや姉ちゃんがそんな事言ってたなぁ。

 

 

けど俺、チョコあんまり好きやないし」

 

「え?そうなの?」

 

「毎年、学校の女子からチョコ貰うんやけど、たいていほかの男子にあげるか、気持ちだけ受け取っとくって言って貰わない様にしたり、どうしてもらった時は店の人や母ちゃんたちに手伝って、処理してるしな」

 

「じゃあ、麗華からバレンタインのチョコもらわないの?」

 

「麗からはいつも、手作りの饅頭貰ってる。俺はそれでええし!」

 

「饅頭……」

 

「初めてチョコ作った時、陽の奴化け物見たかのような表情で、チョコ受け取ったから。それで」

 

「な~んだ」

 

「せっかく、麗華が陽一君に顔を真っ赤にしてチョコを渡す風景が見れるかと思ったのに」

 

「期待するな」

 

 

美樹達と別れた後、麗華は陽一を駅まで送った。改札を潜る前に、麗華は彼を呼び止め周りに誰もいないか確認すると、バックから綺麗に包まれた小さい箱を渡した。

 

 

「ハイ……まだ、あげてなかったから」

 

「応!ありがとうな!」

 

「じゃあね、また」

 

「今度のホワイトデーは、京都きいや!俺がこれのお返ししたいからな!」

 

「うん!

 

美幸姉さんに、よろしくね!」

 

 

彼を見送った後、麗華は嬉しそうに帰って行った。




夜……


居間に置かれたチョコを食べながら、縁側で済んだ空を見上げる麗華。


「悪いな。毎年処理に付き合わせちまって」

「いいよ。

兄貴が風呂に入ってる最中、電話かかって来たよ。姉さんから」

「美幸から?」

「来月は、京都に来てだとさ」

「行けたら行くよ……

お前も、言われたんだろ?陽一に」

「……まぁね」


チョコを食べながら、麗華は空に広がる星を眺めた。

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