地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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その間にぬ~べ~は、眠鬼と自身の霊力で鬼化した秀二に傷を与え、彼は傷を負いながら倒れた。


「お見事」

「そいつは全妖怪の敵です!早く留めを……!」


傷が癒えた雪女は、ぬ~べ~にそう訴えた。その時彼女の前に、陽炎達が降り立ち今にも攻撃しようとしていた。だがいくら待っても、彼等は攻撃をしようとせず焔の傍にいた麗華を振り返り見た。


「雪女(ユキオンナ)、アイツを殺せと言う事は、麗を殺せと言ってるようなもんだ」

「!?そ、そんなつもりは」

「陰陽師は妖怪退治を専門とする一族……

妖怪達に憎まれて、当然よ……」

「っ……」


「麗様」


寄ってきた氷鸞は、麗華の前で頷き後ろを見た。後ろには傷の癒えた牛鬼達が立っていた。


「アンタ達も手伝って……」

「……」


牛鬼達は、倒れた秀二の元へ行き手を添え霊力を吸い取った。それを見た月影と影牙は人の姿へとなり、顔に麻布を巻いた男と共に彼の元へ行き、手を添え鬼の霊力を吸い取っていった。


ふらつきながら立つ麗華……彼女を支えるようにして、渚と焔は両隣に立った。


戻った鬼の手と誓い

ゆっくりと目を覚ます秀二……目に映ったのは、狼の姿をした陽炎だった。

 

 

「……陽炎」

 

「秀二……」

 

「秀」

「秀」

「主」

 

 

起き上がる秀二……周りには自身を囲うようにして立つ、牛鬼達のその前に麗華達が立っていた。

 

 

「……麗……華」

 

「秀二……アンタが望むなら、神田家を復活させる」

 

「……分家の存在で、何偉そうなことを」

 

「……

 

 

ついこないだ、神崎家と三神家、月神家は本家に移動した」

 

「……あぁ……あの、八岐大蛇の事件でか」

 

「その時の事件の活躍で、初代当主安倍晴明が私達分家を本家にした」

 

「……クッ。

 

そんなことが起きたのか……だが、恨みは消えねぇ」

 

 

秀二は立ち上がると、麗華の額に指を当てた。その瞬間、彼女の記憶から龍二達を殺した記憶が消された。

 

 

「手ぇ出しな……鬼の手の主」

 

 

秀二に言われ、ぬ~べ~は眠鬼を解放し彼から鬼の手を受け取った。鎌は元の赤黒い色になり、秀二の手に収まった。

 

 

「これで返した……じゃあな」

 

「アンタの恨みは、絶対私がどうにかする……必ず」

 

「……やれるもんならやってみろ」

 

 

月影達を戻し、秀二は狼になった陽炎の背に乗り飛び去った。

 

 

見送った後、麗華は腹を抑え倒れてしまい、ぬ~べ~も負った傷が痛み膝を付いた。また焔達は完全に治りきっていなかったせいかそのまま倒れてしまった。五人はすぐに玉藻と渚達の手により、茂の病院へ運んだ。

 

 

 

数日後……

 

カーテンの中で、ベッドに座っていた麗華の腹に出来た傷口を茂は見た。焔達の傷は着ていた玉藻が見て治療した。

 

 

「だいぶ塞がってるね……この調子なら後二、三日で退院できるよ」

 

「何とか兄貴の迎えには、間に合いそう……よかったぁ」

 

「間に合うって……今回のこと、龍二に黙ってる気か?!」

 

 

そう言いながら、体の至る所に包帯と絆創膏を貼ったり巻いたりしたぬ~べ~が、見舞いに持ってきたフルーツがもったバスケットを手にカーテンを開けた。

 

だが、麗華はまだ服を着ておらず裸姿になっており、茂は彼女の裸姿を見ないように点滴を変えている最中だった。

 

 

「何麗の裸を堂々と見てんのよ!!」

「何麗の裸を堂々と見てんだ!!」

 

 

背後から渚と玉藻の治療を受けていた焔が、ぬ~べ~の頭を思いっ切り殴り焔がフルーツバスケットだけ受け取ると、渚は彼を蹴り飛ばしカーテンを勢い良く閉めた。カーテン越しから、悲痛な悲鳴が聞こえた。

 

 

「麗華ちゃん、龍二君にも言えることだけど……

 

焔と渚、少し躾直した方がいいんじゃないかな?」

 

「いや……もう、無理だ……直そうにも」

 

「それより、早く服着て。風邪引くよ」

 

 

入院服を着た麗華は、カーテンを開けた。病室の床にはボロボロになったぬ~べ~が倒れていた。

 

 

「完全に伸びてるな……」

 

 

玉藻に殴られたのか、焔は頭にコブを付けてベッドに戻っていた。

 

 

「よぉ!麗華!見舞いに来てやったぜ!」

 

 

病室のドアが勢い良く開き、外から安土が元気よく入り床で倒れていたぬ~べ~を踏み付けた。

 

 

「ゲフ!」

 

「あれ?何だ、鬼教師も来てたのか」

 

「ひ、人の上に乗るな……」

 

 

安土が脚を退かすと、ぬ~べ~はフラフラになりながら立ち上がった。

 

 

「鵺野先生!退院したんですから、病院内で怪我しないで下さい!!病院は怪我や病気を治すところで、作るところではありません!」

 

「何で皆俺には冷たいんだよ!!」

 

「ところで麗華ちゃん、本当に言わない気かい?龍二君に今回のこと」

 

「言わない。

 

兄貴はもちろん、緋音姉さんと真二兄さんにも……

 

アイツの相手は、私だ。私が片を付ける。だから手を出して欲しくない。それに兄貴には余計な心配を掛けたくない……だから」

「だから、今回のことは黙ってて欲しいと……

 

 

ま、いいでしょう」

 

「玉藻!」

 

「いいじゃないですか、別に。

 

こうやって、生きてたことですし」

 

「私も別にいい。

 

麗のこの怪我を見たら、私が龍にこっぴどく怒られる」

 

「俺もだ……」

 

「ハァ……全く。

 

今回だけだけだよ」

 

 

カルテを書いていたペンで、茂は麗華の額を軽く突きながら呆れたように言った。

 

 

「しかし、その傷だらけの体見たら、龍二だって」

「それなら大丈夫」

 

「?」

 

「俺様が、嬢さんの体の傷残らず治してやるよ」

 

 

牛鬼と一緒に見舞いに来た時雨が、ニヤけながらそう言った。

 

 

「傷治す能力、あったのかよ」

 

「あるぜ」

 

「あるなら、俺等を治せ!」

 

「嫌なこった」

 

「この野郎……」

 

「ところで鵺野先生……包帯巻いてることですし、傷の手当てしましょうか」

 

「え?い、いやぁ……」

 

「それじゃあ、鵺野先生。僕が診ますので、僕の診察室行きましょう。玉藻先生、手伝って下さい」

 

「……わ、分かりました」

 

(ヤバい……マジで怒ってる)

 

 

満面な笑みで優しく声を掛けながら、茂はぬ~べ~の服の襟を掴み、引き摺りながら玉藻と一緒に病室を出て行った。

 

 

「さぁて、治すから傷痕見せな」

 

 

時雨に言われ、麗華は服の裾を上げ腹に出来ていた傷痕を見せた。時雨はしばらく診ると、手を当て治療を始めた。

 

 

「しっかし、腹刺されても動くとは……どんな仕組みになってんだ?嬢さんの体は」

 

「知らん」

 

 

『俺以外の神田家は全員、事故で死んだんだ』

 

『しかもその事故は、本家の奴等が仕組んだもの……

 

俺等を消せば、分家は三神家と神崎家月神家だけ……その方が、都合が良いと思ってたんだろうな』

 

 

「……そういえば牛鬼、あいつに会ったことあるのか?」

 

「?」

 

「記憶の中に、『二度と感じたくない霊気が』って言った記憶があるんだけど」

 

「っ……」

 

「そういや、俺もアイツの霊気、微かだけどどっかで感じたことあるなぁ」

 

「……

 

 

殺した奴だ……俺と安土の両親を」

 

「!?」

 

「……どういう事」

 

「五十年前だったかな……

 

アイツは突然やって来て、親父達を殺した。二人の死体を見つけたのは、アイツが去ってから数時間後だった……今でも覚えてる……親父とお袋の死体に残ってた微かな霊気が」

 

「……?

 

ちょっと待って……それじゃあ秀二の奴、相当の年じゃ」

 

「けど、アイツ……輝三と変わらない霊気を感じた……

 

それに、見た目適には……」

 

「俺があいつに会ったのは、多分……アイツが二十代前半か十代後半ぐらいだ」

 

「……」

 

「嬢さん、アイツの恨みを消すって言ったよな?あん時」

 

「う、うん……」

 

「多分救えねぇと思うぜ」

 

「?」

 

「あの野郎、相当の恨みを持っていた……

 

恐らく、元に戻ることは出来ない。アイツの運命は『死』」

 

「そんな……何か救う方法が」

 

「無理だ。俺様は何人もああいう人を見てきた……結果、自害した奴がほとんどだ」

 

「……」

 

「ところで、謝礼のことだけど」

 

「……何?

 

私が出来る範囲にしてよ」

 

「嬢さんの舞見ながら、酒飲みたいんで舞ってくれ」

 

「いいよ。そう言う願いなら……

 

その代わり、私の傷治したら今度は焔達の傷もお願い」

 

「仕方ねぇなぁ……やってやるよ」

 

「何で嫌そうな返事すんだよ……」

 

「んなもん、嫌に決まってるからだ」

 

「何で麗の傷は治すのに、俺等は治してくれねぇんだよ!!」

 

「俺様は嬢さんの舞が見られるから、ここに住み着いたんだ。舞の出来ねぇお前等なんざ、元から用はねぇんだよ」

 

「んだとこの!」

「焔!動いたら傷口が」

 

「離せ雷光!」

 

「大人しく出来ないんですか?馬鹿犬は」

 

「誰が馬鹿犬だ!」

 

 

口喧嘩を始めそうになった二人を見た麗華は、ため息を吐き治療していた時雨に指示を出した。時雨はため息を吐き、治療していた手を止め、立ち上がった氷鸞をベッドに寝かせ、彼が動けぬように拘束すると素早く傷を治した。

氷鸞を治すと、隣に座っていた雷光を治した。終えたのを見ると麗華は、二人を式に戻しキャスケットの上に置かれていたポーチの中へしまった。

 

 

「闘いの時は息ピッタリなのに……

 

何で普段は、ああ喧嘩ばっかりすんのよ」

 

「……」

 

 

その問いに、焔は引き攣った顔をしながらそっぽを向いた。

 

 

 

夜……

 

眠れない麗華は、何度か寝返りを打つと起き上がり窓の外を見た。

 

 

「眠れねぇのか?」

 

 

背後から声が聞こえ振り返ると、天井から糸で吊っていた蜘蛛が降り人の姿に変わった牛鬼が現れた。

 

 

「人の苦手な蜘蛛に化けないでよ(気絶しかけた)」

 

「あの姿じゃなきゃ、ここに残れねぇだろ?」

 

「まぁそうだけど……」

 

「……一つ聞いていいか?」

 

「?」

 

「何で、俺の事は覚えてたんだ?

 

あの野郎から、記憶を奪われた時」

 

「……

 

 

光ったから」

 

「?」

 

「記憶を奪われた時、暗い世界に一人残されてた気分だったの……

 

寄ってくる者、皆が黒くて……触れると冷たいし。

 

でも、牛鬼だけ光ってた……触ったら暖かかった」

 

「……」

 

「その光なら、傍にいても安心だと思った……だからかな」

 

 

月明かりに照らされた麗華の顔が、一瞬梓の顔と重なって見えた。その姿が見えた牛鬼は、笑みを浮かべ麗華の頭に手を乗せ、彼女の額に自身の額を当てた。

 

 

「……牛鬼?」

 

「まじないだ……麗華」

 

「?」

 

「ずっと傍にいてやっからな……

 

俺も……安土も」

 

「……うん。

 

 

ありがとう……牛鬼」




後日……

空港へ着た麗華……肩に鼬姿になっている渚と焔、頭にシガンを乗せて、緋音と真二の家族達と立っていた。


「もうそろそろだよね?真二が帰ってくるの」

「そのはずよ」


革のジャケットを着ていた女は、腕時計を見ながら隣に座っていた女性に話し掛けた。


「さぁて、あの馬鹿はどこまでマシになったかしら」

「いい加減、真二をいじめるの辞めなさい!二十一にもなって」

「っ……」

「ハハハ……いいじゃないですか、滝沢さん」

「兄姉(弟妹)がいると、お家が賑やかじゃありませんか」

「とんでもない。いっつも顔を合わせれば、喧嘩の嵐よ!

見習って欲しいもんよ……龍二君と麗華ちゃん」

「う……」


軽く息を吐きながら、入り口に目を向けた。するとそこから、鈴海の制服を着た生徒達がぞろぞろと出て来た。
生徒達は、自分達の親を見つけると一目散に駆け寄り、楽しそうに話し出した。


「麗華!」


真二の母親の隣に立っていた麗華に、真二は飛び付き頬擦りした。


「元気だっかぁ」

「兄さん、痛い……」

「何だ……鮫の餌食にならなかったか」

「簡単に死ぬか!馬鹿姉貴」

「何ですって!」

「辞めなさい!!外での喧嘩は!」

「真二!!人の妹を、何抱いてんだよ!!」

「アナタの家族は麗華ちゃんじゃなく、こっちのお姉さんでしょ!」

「女らしくもない姉貴と、久し振りの再会の抱き合い何ざできるか」

「誰がらしくないですって!」


喧嘩を始めた真二と姉……そんな二人に母親は怒鳴り声を上げ、父親は呆れたようにため息を吐いた。

真二から離れた麗華は龍二に寄り、寄ってきた彼女の頭に手を置き笑みを浮かべた。


「何も無かったみてぇだな……」

「うん……?」


ポケットに入れていた龍二の手を、麗華は出し見た。手首に付けていたビーズのブレスレットを見ながら、麗華は質問した。


「紐切れた?」

「あ、あぁ……

少し心配だったんだよ……お前に何かあったんじゃないかって……」

「……」

「渚、麗華のことありがとな。焔もな」


そう言いながら、麗華の肩にいた鼬姿の渚と焔の頭を撫でた。渚は麗華の肩から、龍二の肩へと移動し彼の頬に擦り寄った。そんな渚を見た麗華は、龍二に抱き着いた。抱き着いてきた麗華を、龍二は少しホッとしたかのような表情で撫で抱き上げた。


「龍二!」

「?」

「お袋が、家まで送ってくれるってさ!」

「いいのか?」

「いいっていいって!

長い付き合いなんだから!


あれ?麗華の奴、どうしたんだ?」

「ちょっとな」

「なぁ、どうする?」

「そんじゃ、おばさんのお言葉に甘えて」

「そうこねぇと!」


先に行った真二を見送った龍二は、麗華を下ろし彼女の手を引き彼等の元へと行った。

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