地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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『主のために命を捨てるとは……』

『……』

『主が弱いから、式神や白狼がこういう目に遭うんだよなぁ』


言われた……確かに弱い……


自分のせいで、皆を……


守るって決めたのに……何があっても、命に代えて守るって……

絶対、失いたくない……居場所ができた……笑える場所がてきた……


何より……友達が出来た……私を認めてくれた……


だから……例え白狼がいなくても、式神がいなくても……私の力で、守り切る……


激突!殺妖陰陽師対救妖陰陽師

鎌を抑える麗華……秀二は鎌を引き後ろへ下がった。

 

 

「おやおや……記憶を戻したか」

 

 

肩に鎌を置きながら、秀二はニヤリと笑いながら話した。麗華は薙刀を使って跳び上がり、秀二に目掛けて薙刀を振り下ろした。秀二は素早く薙刀を鎌で受け止め、回し蹴りをした。彼の蹴りを麗華は腕で受け払い、顔面を殴った。唇から血を出した秀二は、蹌踉めきながら後ろへ下がった。

 

 

(何だ……こいつ。

 

前と全然違う)

 

「何だ、あの女……(いつの間に、移動したんだ?)」

 

 

陽炎は不思議そうに、秀二の前に立つ麗華を見つめた。彼が焔から目を離した隙に、焔は目を覚まし黒い狼の姿へとなり、体に炎を纏い陽炎に体当たりした。陽炎は蹌踉めき狼の姿へと代わり、焔を睨んだがその姿を見て驚いた。

 

 

「まさか、お前!」

 

「こっから勝負だ!陽炎」

 

 

その様子を意識朦朧と見ていた氷鸞と雷光……

 

 

(……焔のような力があれば)

 

 

二人は自身の首から下がっていた、桜のマスコットを手に取り見た。

 

 

『お守り。三人が私の右腕だっていう証』

 

『アンタ達……しっかり、私を守ってね。

 

そして、ずっと一緒にいてね』

 

 

(……麗様を守らなければ)

(……麗殿を守らねば)

 

 

『朝木……お前の力はそんなものか?』

 

(兄上?)

 

『鬼驎、テメェはそんな弱な奴じゃねぇだろ?』

 

(蟒蛇?)

 

『俺の力をやる……』

 

『この力で、貴様の主を守れ』

 

 

ゆっくりと体を起こす氷鸞と雷光……二人はふらつきながら立ち上がると、獣の姿へとなった。

その姿はいつもと違っていた……雷光は水色の角を生やし真っ白な馬の姿へとなり、氷鸞は白い翼に七色に光る尾を持ち体に冷気を纏った鳥の姿へとなった。

 

その姿に驚いた月影と影牙は、顔を見合わせそして自分達も獣へと姿を変えた。月影は黒い巨大な鹿の姿になり、影牙は大猿の姿になり、彼等は闘いを再開した。

 

 

「スゲェ……氷鸞も雷光も」

 

「何か妖怪というより、怪獣の闘いだな……」

 

 

後ろへ下がった秀二に、麗華は薙刀を回し振り下ろした。秀二は腕を斬られ血を流しながらも、持っていた鎌を振り下ろし麗華の肩に突き刺した。攻撃を辞めず秀二は持っていたナイフを彼女の腹に刺した。

刺された箇所から血を流していたが、麗華は顔色一つ変えず肩に刺さっていた鎌を抜き取り、後ろへ引き腹に刺さっているナイフを抜き刃を折った。

 

 

「凄い馬鹿力だ……

 

けど、肩と腹に痛みを感じてるみてぇだな?」

 

 

血で染まった上着の袖を破り捨て、麗華はポーチから札を出した。

 

 

「……大地の神に告ぐ……汝の力、我に受け渡せ……その力を使い、目の前の敵を倒す……

 

出でよ……火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)」

 

 

札から出た炎を、麗華は薙刀に付け秀二目掛けて振り下ろした。秀二は攻撃を受ける寸前で、札から水を出しその札を鎌に付け、麗華の攻撃を防いだ。

 

だが炎は水に当たっても、勢いを弱めることなく燃え麗華は薙刀を振り下ろし秀二の腕を斬り、薙刀を素早く脇に構え勢いを付け腹を斬ろうとした。斬られる瞬間、彼の前に人の姿になった陽炎が立ち刀で薙刀を抑えた。彼に続いて月影と影牙が攻撃を放ち、麗華はその攻撃に当たりつつも後ろへ下がり薙刀を手に秀二を睨んだ。彼女の傍へ焔達は寄り彼等を睨んだ。

 

 

「秀二、大丈夫か?」

 

「……大丈夫。

 

少し油断しただけだ」

 

 

焔達の前に立つ麗華の元へ、ぬ~べ~は駆け寄り彼女の隣に立った。

 

 

「麗華、俺も参戦する」

 

「……」

 

「麗華?……おい」

 

 

彼女の肩に手を置き、ぬ~べ~は呼び掛けた。麗華はまるで意識でも取り戻したかのように、ハッと体をビクらせぬ~べ~の方に目を向けた。

 

 

「鵺野?」

 

「麗華……お前、さっきまでの事話せるか?」

 

「は?何言ってんの?

 

あの野郎と闘ってたに決まってるじゃん」

 

「なら、いいんだ……」

 

「お兄ちゃん、どうかしたの?」

 

「何でも無い(何だ……この違和感)」

 

「ねぇ、今思ったんだけど……

 

鬼の手って、あんな簡単に盗めるの?」

 

「それがな……

 

アイツが持っている鎌には特別な力があって、その力で美奈子先生を催眠状態にしてるんだと思う」

 

「成る程ねぇ」

 

「って、何で本家のお前が知らんで俺が知ってるんだ!?」

 

「そんなこと言われたって、私アイツのこと知らないし」

 

「お前はもっと、自分家の事を知れ」

 

「父親と犬猿の仲の鵺野に、言われたくないなぁ」

 

「人の心の傷に触れるな!!

 

 

それよりお前、腹の傷は痛くないのか?」

 

「痛いに決まってるでしょ。無論肩も。

 

けど、この傷程度で悲鳴上げてたら、妖怪と対等に闘えないでしょ」

 

「まぁ、そうだが……(こいつの体は、どういう仕組みになってんだ?)」

 

 

ぬ~べ~と話す麗華を見る秀二……彼女の姿が一瞬、輝二と楽しげに話す優華と重なって見えた。

 

 

「嫌な光景だ……

 

陽炎、月影、影牙……あいつ等の相手しろ。俺はあの二人の相手をする」

 

「応よ」

「承知」

「諾」

 

 

陽炎達は人から再び獣の姿になると、地面を蹴り焔達に攻撃した。彼等の背後から続くようにして、秀二が姿を現しぬ~べ~に鎌を振り下ろした。振り下ろしてきた鎌を、ぬ~べ~は眠鬼の力を借りて、四方八方に鬼の刃を出し攻撃を防いだ。その刃を台に、麗華は飛び薙刀を振り下ろしたが、秀二は 鎌を持ち直し彼女の薙刀を振り払った。払われた勢いに、薙刀は麗華の手から離れ地面へ突き刺さった。

 

 

「?!」

 

「これで……終わり…!

 

ぐああぁぁあ!!」

 

 

突然秀二は、叫び声を上げて腕を押さえた。彼の様子にぬ~べ~は鎌を見て驚いた。鎌から鬼の指が伸び彼に侵食していた。

 

 

「暴走してる……」

 

「秀二!」

「秀!」

「秀!」

 

 

陽炎達は闘いを辞め人の姿へとなり、秀二の元へ駆け寄った。駆け寄ってきた彼等に、秀二は容赦なく攻撃を仕掛け、三人は傷を負いながら彼から離れた。

 

 

「いきなりどうしたんだ?!秀二!」

 

「そいつが持っている、憎しみに満ちた醜い心に鬼の妖気が同調し、侵食を始めたんだ。

 

自業自得だな」

 

「侵食って……

 

秀二!今すぐ、鎌を捨てろ!!」

 

「捨てる……訳ないだろ!

 

お前を殺すまで、捨てるか!!この身が鬼に侵食されたっていい」

 

「何を言ってる!!侵食が進めば、お前は鬼になるんだぞ!!」

 

「構わねぇ!!鬼になったところで、悲しむ奴なんざこの世にいやしない……」

 

 

鬼の姿になった秀二は、ゆっくりと立ち上がり傍にいた陽炎達を殴り飛ばした。飛ばされた陽炎達を、傷の癒えた牛鬼と時雨と顔に麻布を巻いた男が受け止めた。

 

 

「霊力が強いから、進行が早いんだ」

 

 

鬼化した秀二は、鬼の手で麗華を攻撃した。余りにも一瞬のことだったせいで、麗華は避けきれず腹に出来ていた傷に更に傷を負った。

 

 

「!!」

 

「麗華!!

 

お前の相手は俺だ!!眠鬼」

 

「分かってるわよ!!」

 

 

秀二に向かって、ぬ~べ~は鬼の手で攻撃した。攻撃してきたぬ~べ~に、秀二は目を向け攻撃を仕掛けた。

 

 

腹から大量の血を流した麗華は、その場に膝を付き息を乱した。その様子に、焔達はすぐに彼女の傍に駆け寄った。

 

 

「麗!!」

「麗様!!」

「麗殿!!」

 

「痛……大丈夫。

 

氷鸞、渚達に伝えて……援護欲しいって」

 

「分かりました」

 

「雷光は残ってる霊気で、秀二の式達を。無論時雨と牛鬼にも手伝って貰って」

 

「承知」

 

 

二人は獣の姿から、人の姿になるとそれぞれの場所へ行った。それを見届けると、麗華は上着を脱ぎそれを腹に強く巻き立ち上がった。

 

 

「麗……」

 

「フゥー……大丈夫。

 

焔は傍にいて」

 

 

炎に包まれた焔の頭に、自身の頭を当てながら麗華はそう言った。焔は当ててきた彼女の額に擦り寄り、甘えるように体を擦り寄せた。


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