地獄先生と陰陽師少女 作:花札
牛鬼の傍には騒ぎで起きてきた麗華は、ずっと彼にしがみ付きそんな彼女の頭を、渚は優しく撫でた。
「痛……」
「酷い傷だ……(さすが鬼の力……これ程傷が深いとは)」
「そういや嬢さん、いつもの強気はどうした?」
時雨の質問に、麗華は首をかしげて彼を見た。
「?嬢さん、何か様子おかしいな?」
「記憶がねぇんだ……」
「記憶がない……そんじゃ、戻してやるよ」
治療を終えた時雨は、着ていた袖を脱ぎ麗華の頭に手を置いた。その瞬間、麗華の脳裏にフラッシュバックで秀二に襲われた時の記憶が蘇った。彼女はすぐに時雨の手を振り払い、店を出て行った。
「麗華!!」
「この爺!!麗華に何しやがったぁ!!」
「何もしちゃいねぇよ!」
「アンタ!麗に何した!!」
「だから、何もしちゃいねぇ!!俺は無実だ!」
店を出て裏路地から飛び出した麗華だったが、飛び出した直後何かにぶつかりその勢いのまま尻をついた。顔を上げると、ぶつかったのは酔っ払ったサラリーマンだった。
「お嬢ちゃん、こ~んな夜遅くに一人で歩いてちゃ危ないよ?」
「……」
「怖がんなくていいよ~、オジサンがお嬢ちゃんを安全な場所に」
そう言いながら、麗華の腕を掴もうとした時、彼女の背後から手が伸びサラリーマンの腕を掴んだ。サラリーマンは酔った目で見上げた。彼の腕を掴んでいたのは、怒りの形相をした牛鬼だった。
「テメェ……人の女をどこに連れて行こうとした?」
「そ、それはその……」
「怪我したくなきゃ、さっさとここから立ち去れ」
牛鬼の殺気にサラリーマンは、悲鳴を上げて逃げて行った。サラリーマンがいなくなると、麗華はすぐに牛鬼に抱き着いた。
「麗華」
「……」
「ほら、戻るぞ」
抱き着く麗華の肩に手を置き、牛鬼は店へと戻った。
戻った麗華は安心したのか、牛鬼に凭り掛かるようにして眠ってしまった。眠った麗華に、茂は着ていた白衣を掛けた。
「眠ったか……それにしても、困ったねぇ。
龍二君がいない時に、こんな事になっちゃうとは」
「龍が知ったら、泳いででも帰ってくるぞ」
「やりかねないね……
けどよかったよ。牛鬼に懐いて貰って……彼女も少しは安心してるみたいだし」
「なぜお前に懐いて……私達には懐かないんだ」
「知るか……」
「お前等二人にさらわれた時の記憶になっているのだろ?」
「嫌な事思いさせるな!猫女!」
「事実を言っただけよ!!」
「その事実を言うなって言ってんだよ!」
「何ですって!人さらい!」
「んだと!!」
「辞めろ!瞬火!」
爪を立て襲い掛かろうとした瞬火を、ショウは慌てて抑え殴り掛かろうとした安土を、渚は頭を思いっ切り殴り止めた。
「いい気味だ!」
「な、何」
「お前等二人は一旦黙っていろ!!
だいたい、麗がお前等を気に入られなければここにいられなかったんだぞ。
牛鬼と安土!お前等など、尚更!二人は私達の親…優と弥都波を殺しているんだからな」
「お前は人の傷に塩を振るなよ!!」
「喧嘩してる暇があんなら、嬢さんの記憶を取り戻すのが先じゃねぇのか?お前さん方」
酒瓶の酒を飲みながら、時雨は渚達を見た。
「そういうお前は、どういう理由でここに留まってるわけ?
お前の故郷は、輝三が住んでいる田舎だろ」
「生憎、俺様は自由気ままな妖怪なんでね……嬢さんの舞が気に入ったから、ここに居着く事にしたんだ」
「麗狙いか……
そういえばお前、記憶を戻せるのか?」
「戻せるぜ?
けど、嬢さんの場合記憶がある何かがあるはずだ。その記憶が収まってるものを額に当てる……そうすれば、それは光だし嬢さんの体を包み、記憶は元に戻る」
「じゃあ麗華は……
牛鬼!」
「明日、鬼の野郎の所に行ってさっきの方法を話す。
オッサン、ついて来い」
「え~……」
「行かぬと言うなら、即この地から出て行け」
「……分ーったよ。
その代わり、事が済んだら舞を見させて貰うからな」
翌日、牛鬼は時雨と渚を連れて学校へ行った。だが学校には一部の傷を負った妖怪が集まっていた。
「どうやら、時雨だけじゃねぇみてぇだな」
「被害は拡大してるな」
「……」
「ところで、嬢さんは連れて来なかったのか?」
「まだ寝てたからな。
安土が傍にいるし、店は夜からだ。どうってことは無い」
「そんじゃ、用が済んだら後で」
「変な事したら、速攻で殺すからな」
「変な事したら、速攻で殺すからね」
「おぉ怖い」
妖怪の列を見ていき、教室のドアを開けると中では玉藻が霊水晶で彼等の手当てをしていた。
「おや、あなた方」
「まさか、こいつ等全員」
「鬼の力にやられたみたいだ……」
「……!?」
「この妖気……」
牛鬼と時雨はすぐに外へと出た。玉藻は治療を終えると、後から着たぬ~べ~と共に二人の後に続いて外へと出た。
外へ出ると、校門前には傷だらけになった雪女を鎌で吊した秀二が立っていた。
「雪女(ユキメ)!!」
「よぉ、持主……全然捜さねぇから、会いに来てやったぜ」
「早く麗華の記憶を返せ!!」
「何だ?人に化けた妖怪がいたとは……」
「返す気がねぇなら、テメェを殺すまでだ」
牛鬼は手から毒の槍を出し構え、時雨は人の姿からいつもの着流しを着た妖怪の姿へとなり、蛇の目傘を手に掛けた。
「なぜそこまでして、妖怪を殺そうとするんだ!」
「殺して当然だ……
俺は陰陽師の家系で、しかも妖怪殺しのスペシャルリストだ」
「陰陽師!?」
「まさか、それで麗華を襲ったのか?!」
「麗華……
アイツ、麗華って名前なのか」
ニヤけながら、秀二は懐からビー玉サイズの丸い玉を出した。
「この玉には、麗華の記憶がある……
俺に勝てれば、返してやってもいい」
「なるほどぉ、それじゃあもし俺様達が負けたら、どうするんだ?」
「玉を割る……それだけだ。
割れば、麗華の記憶は永遠に戻らなくなる」
「?!」
「怯えてるだろ?自分がどこの誰かも分からない……そして知ってる奴は誰もいない……真っ暗な空間にたった一人で立ち、彷徨っている……」
そう言いながら、秀二は雪女を投げ捨て玉を腰に着けていた巾着の中へしまった。投げ捨てた雪女をぬ~べ~を受け止めた。
「月影、影牙、相手しろ」
「承知」
「諾」
二人は懐から小太刀とクナイを出すと、時雨と牛鬼に攻撃した。二人に気を取られていた隙に、玉藻の目の前に刀を振り下ろしてきた陽炎がいた。玉藻はすぐに攻撃を防ぎ、陽炎と闘いを始めた。
「鬼の元主の相手は、俺だ」
そう言うと秀二は、鎌を振り上げぬ~べ~に向かって振り下ろした。ぬ~べ~当たる寸前、雪女を渚に投げ渡し避けた。
「さぁて、どこまで相手してくれるかな?」
「!?」
飛び起きる麗華……傍にいたシガンは、心配そうに鳴き声を発しながら、彼女の顔を覗き見た。
「あれ?麗華、起きたのか?」
部屋のドアを開けた安土は、起きた麗華を見た。安土の姿を見ると、麗華は立ち上がりそのまま外へ飛び出した。その後を安土と外にいたショウと瞬火は急いで追った。
麗華が走り辿り着いた場所……そこは学校だった。校庭には傷だらけになった牛鬼達が膝を付いていた。
「……キ」
「おやおや……記憶を無くし独りぼっちになった女の登場か」
「麗華!!」
「安土!!麗華を連れて、速く逃げ」
「させねぇよ」
麗華の手を掴み逃げようとした安土だったが、彼の目の前に突如巨大蜘蛛が降り立ち道を塞いだ。
「陽炎、やれ」
「承知」
玉藻から離れ飛び上がった陽炎は、手から巨大な炎の玉を作り出し、麗華目掛けて投げた。秀二の頬を殴ったぬ~べ~は彼女の元へ急いだ。
(駄目だ!間に合わん!!)
炎の玉が当たる寸前、突如麗華はその場から姿を消し、玉は巨大蜘蛛に当たった。蜘蛛は炎に包まれひっくり返りそのまま死んでしまった。
「テメェ……人の主を殺そうとは、いい度胸してるな?」
その声がした方に、陽炎は振り向いた。そこにいたのは麗華を抱え、体にまだ包帯を巻いた焔達だった。
「何が主だ……貴様等のことなど何も覚えて無いぞ?」
「覚えなかろうが覚えてようが……俺等の主は麗だ」
氷鸞に怯え震えている麗華を渡し焔は狼の姿へとなった。しかしその狼となった焔の姿は、京都で渚と共になったあの黒い狼だった。
「黒狼になれるとは、大した奴だ」
陽炎は黒狼の姿へとなり、焔目掛けて炎を放った。焔は反撃するかのようにして炎を放った。
二人の闘いが始まると、氷鸞と雷光はぬ~べ~の元へと降り立ち麗華を渡した。
「麗様を早く、安全な場所へ」
「しかし」
「あの式神の相手は、某達にお任せを」
「負けっぱなしでは、麗様に叱られます」
「……」
二人はそれぞれの相手の元へと行き、牛鬼達と交代するかのようにして戦闘を始めた。交代した牛鬼は、秀二の前に立ち毒の矢を放った。彼は鎌から鬼の力を出し、毒の矢を消し去り牛鬼に攻撃した。
「牛鬼!!」
「牛鬼!!」
やられる牛鬼の姿を見た麗華は、ふらつきながら立ち上がり倒れている彼の元へ駆け寄り体を揺すった。
「麗!!(クソ!早く治れ!)」
「麗華!!(鬼の手さえあれば)
?
待てよ……眠鬼、お前は霊能力者の作ったパンツをはけば、鬼の力が出せると言ったな?
それは霊能力者と一体化すれば、鬼の力が戻ると言う事か?」
「え?あー、まあね」
「頼む!眠鬼、力を貸してくれ!
お前も覇鬼や絶鬼と同格の鬼なんだろ!」
「え?」
理解していない眠鬼の耳元で、ぬ~べ~は何かを囁いた。それを聞いた眠鬼は驚き思わず声を上げた。
倒れている牛鬼と彼の傍で座り込む麗華……二人の元へ行った秀二は、鬼の手を吸収した鎌を振り上げた。振り下ろそうとした瞬間、突如彼の前に鬼の手を出し鎌を抑えるぬ~べ~の姿があった。