地獄先生と陰陽師少女 作:花札
月神家と神田家……
二つペアの家族は、義理兄姉(弟妹)だった。
兄姉(弟妹)として、家族として一家はとても仲が良かった。だが本家はそれをよく思っていなかった。
神田家の当主が仕事で遠出して帰って来た時、自分の家は黒く焼かれていた。神田家の家へ行くと、床には変わり果てた妻子の亡骸が寝かされていた。
当主は一晩中泣き、そして翌日誰にも言わず皆の前から姿を消した。
巨大蜘蛛に怯み、その場に座り込む麗華と彼女を守るようにして、氷鸞は錫杖を構え立っていた。
「あ、そうだ……お前の白狼、やっちまったんだけどどうする?」
彼の声に合わせてか、陽炎が血塗れになった焔を手に降りてきた。
「焔ぁ!!」
「大した奴だ……この俺に深傷を負わせるとは……痛」
腕から血を流しながら、陽炎は焔を麗華に向かって投げ付けた。投げられてきた焔を、麗華は受け止め呼び掛けた。
「焔!!目を覚ませ!!焔!!」
「……」
「殺しちゃいねぇ……気を失ってるだけだ(クソ……腕の感覚がまだ鈍ってる……)」
「貴様、よくも!!」
錫杖を振り氷鸞は陽炎目掛けて水を放った。すると陽炎の前に影牙が立ち氷鸞の攻撃を防ぎ、そして両手に水を溜め、水の砲を放った。
“ドーン”
「?!」
「な、何?今の音」
騒音に気付いた広達は、怯えた様子で顔を見合わせた。
音を聞いてからしばらくすると、何かを察知したのか雷光は立ち上がり廊下へ出て行った。彼に続いてぬ~べ~も出て行った。
「ぬ~べ~!!」
「どうしたのかしら?雷光まで」
「気になるわ。行ってみましょう」
二人が気になり、広達は廊下へ出て追い駆けた。
廊下を駆け玄関口へ行くと、ドアにずぶ濡れになり傷だらけになった焔と氷鸞が倒れ、彼等を前に倒れ込む麗華がいた。
「麗殿!!」
「麗華!!」
手に持っていた刀を鞘にしまいながら、雷光は麗華の元へと駆け寄り彼女を抱き起こした。ぬ~べ~は辺りを見回しながら三人の状態を見た。
「一体、何が……」
「これはこれは……鬼の手の持主まで、お出でか」
暗い廊下の窓から差し込む夕陽が、鎌を肩に担ぎ陽炎立ちを後ろにして立つ秀二がいた。
「麗華達に何をやった!」
「先に攻撃したのはそいつ等だ」
「先に攻撃を仕掛けてたのは、そっちだろうが!!」
「黙れ馬鹿教師が」
「馬鹿……」
ぬ~べ~達の様子を、広達は曲がり角から覗くように眺め、秀二が言った言葉がウケ笑いを堪えていた。
「ガハ!ゲホッゲホッ!!」
意識が戻ったのか、麗華は咳をしながら目を開けた。
「麗殿!」
「雷…光?
焔は?氷鸞は?」
「二人共、まだ意識が……」
それを聞くと、麗華は薙刀を出しふらつきながら立ち上がった。
「まだ立てるか」
「よくも……氷鸞と焔を!!
雷光!攻撃!」
「承知」
鞘から刀を抜き、雷光は刀に雷を纏わせ秀二に向かって攻撃を仕掛けた。だが彼の前に、月影が立ち雷光の刀を素手で受け止めた。
「?!」
「……遅い」
次の瞬間、月影は手から雷を放ち雷光の腹に当てた。雷光は避けられず、当たった勢いで飛ばされ下駄箱に当たり倒れた。
「雷光!!」
彼の元へ行こうとした時、自分の腕に何かが巻き付き引っ張られそうになり、慌てて食い止め振り向いた。腕に巻き付いていたのは、巨大蜘蛛が吐いた糸だった。
「蜘蛛は苦手なくせに、糸は平気なんだな」
「今すぐ麗華を離せ!!」
「あぁいいぜ……テメェのその鬼の手を奪ってからな」
「何?!」
「月影、影牙…やれ」
秀二の言葉に従い、二人は一斉にぬ~べ~に攻撃した。ぬ~べ~はすぐに鬼の手を出し攻撃を弾いた。
「鵺野!!」
「テメェの相手は、俺だ」
糸を切りぬ~べ~の元へ駆け寄ろうとした時、秀二は麗華の前に立ち鎌を振り下ろした。麗華はすぐに秀二の鎌を薙刀で振り払った。
「小学生にしちゃ、動きにキレがあるな」
「叔父の家で、少しばかし鍛えたんでね…ゲホゲホ(こんな時に、喘息かよ……まぁ、諸に水浴びたせいもあるか)」
鎌を持ち直し、秀二は後ろへ回り鎌を振り下ろした。麗華はすぐに振り返り薙刀で振り払い、そのまま振り下ろした。鎌の束で振り下ろしてきた薙刀を振り払い、秀二は隠し持っていたナイフで麗華の腕を切った。腕から血を流した麗華は、後ろへ引いた。
「動きが素早い事」
「ナイフ何て、卑怯だ!!」
「戦いに卑怯もヘッタくれもない。テメェの師匠はそんなことも教えてなかったのか?」
「っ…(教わってはいたけど……)」
「おい麗華!いつもみたいに何で本気出さねぇんだよ!!」
「立野…お前」
「ちょっと広!」
「だってそうだろ?
いつもみたいに格闘して、札使って何か攻撃魔法みたいなものだして闘えよ!」
「アンタね……」
「何だ……札仕えたのか。なら、解禁だな」
秀二は札を出すと、そこから水を出しは広達目掛けて放った。麗華はすぐに広達の前に立ち、札を出し氷の盾を作り防いだ。
「立野達はすぐに、宿直室に戻れ!!邪魔だ!!」
「邪魔って……そんなキツイいい方しなくていい」
「火術棒線火の術」
突然現れた陽炎は、口から火の棒を放った。麗華は広達を床に倒し背中に攻撃を受けた。
「麗華!!」
その光景を見ていたぬ~べ~は、月影と影牙の攻撃を払い広達の元へと駆け寄った。
「大丈夫か?!」
「大した怪我じゃない……痛」
「酷い火傷だ!すぐに病院に」
「行かせねぇよ」
目の前に秀二が立ち、札を投げた。咄嗟にぬ~べ~は鬼の手でその札を弾いた。だが札は鬼の手首にピッタリと張り付いた。剥がそうとするぬ~べ~だったが、秀二は鎌を札目掛けて振り下ろした。その瞬間、鬼の手はぬ~べ~の手から斬り落とされ、鬼の手は秀二の鎌に吸収された。
「ぐわぁぁぁあああ!!」
「ぬ~べ~!!」
「お兄ちゃん!!」
「鵺野!!」
「鬼の手は頂いたと……」
「テメェ!!」
転がっていた薙刀を掴み、麗華は素早く起き上がり秀二の腹部目掛けて束を突いた。だがその攻撃を陽炎が手で受け止め、そして彼女の両腕を掴み背後で拘束した。
「ズルはいけないよズルは」
「何がズルだ……早く鬼の手を返せ!!」
「そう怒るな……なら、テメェのも奪ってやるよ」
「え?」
「この俺が味わった苦しみ……家族を奪われた苦しみだ」
秀二はそう言いながら、麗華の頭に手を置いた。麗華は離れようと陽炎の拘束を解こうともがくがビクともしなかった。
「テメェにも、味あわせてやるよ」
その言葉を放つと、秀二の手から電気が流れ出てきた。電気は麗華の身体を包み、そして秀二の手の中へと収まった。彼が麗華の頭から手を離すと、彼女はぐったりと首を下にし動かなくなってしまった。
「麗華!!」
「先生、鬼の手とこいつの大事なものは貰った。
返して欲しければ、俺を見つけ出すんだな」
拘束していた麗華の腕を陽炎は離した。麗華は力無くその場に倒れ込んでしまった。そして月影が雷を放ち、その眩しさに広達は目を塞いだ。
“カツカツカツ”
「わぁ!龍二、ビーズビーズ!」
「え?……わ!」
沖縄のホテル内を歩いていた龍二……手首に着けていたビーズの紐が切れ、ビーズがバラバラと落ち中心に着けていた鈴も一緒に落ちた。
「嘘だろ……紐が切れてる」
「昼間歩いてた時、壁に手ぇぶつけたのが原因かな?」
「ぶつけただけで、切れちまうのか?紐」
「それか呪い?」
「誰のだ!」
「ほら、拾うの手伝うから。これ麗華ちゃんが作ってくれたんでしょ?お守りって」
「いいよなぁ、龍二は。
俺なんて、姉貴に『鮫の餌食になれ』って言われたんだぜ。酷ぇよなぁ」
ため息を吐きながら真二は寂しそうに話した。緋音はその話を聞き流しながら、落ちたビーズを拾った。龍二もビーズを拾いそして鈴に手を伸ばした。
“チリーン”
「?」
風も吹いていないのに、突然鈴が鳴った。地面も揺れた跡がなかった。
(まだ……触れてないのに、何で?)
“チリーン”……『兄貴』
「?!」
鈴の音と共に微かだが、麗華の弱々しい声が聞こえた。龍二は声がした方に顔を向けた。そこには家族なのか、幼い女の子を抱っこした母親と元気に走る男の子の後を追い駆ける父親の姿しか無かった。
「龍二?」
「……」
「どうかしたか?龍二」
「いや……何でも無い(気のせいだよな……)」
「ビーズはこれで全部よ。直しとこうか?」
「じゃあ頼む」
「いいよなぁ……俺にも作って貰えば良かった。お守り」
「あのね!麗華ちゃんにとって、龍二は大好きなお兄ちゃん!そんな大事なお兄ちゃんに、もしもの事があったら!」
「だから、お前に習ってビーズのお守り作ったんだろ?」
「そうそう!って、何で知ってるの?!」
「さぁ、何ででしょう」
「アンタまさか、また覗き見してたでしょ!」
緋音をからかった真二は、舌を出し彼女を馬鹿にしながら逃げていった。その後を緋音は怒りながら追い駆け、二人を注意しながら龍二は後に続いた。
「とりあえず、鬼の手が戻るまでの間は、なるべく妖怪との接触を控えるようにして下さい。鵺野先生」
童守病院……左手に包帯を巻いた玉藻は、カルテに何かを書きながらぬ~べ~にそう言った。書きながら玉藻はため息を吐き、ボールペンを置きぬ~べ~の方を向いた。
「一体、何があったんです?
広君から電話を貰い駆け付けてみたら、あなたは鬼の手を奪われているし、麗華君は気を失っているし、焔達は傷だらけで倒れているし……」
「……話は全部、麗華が目を覚ましてからにしてくれ。
それより、麗華達は?」
「霊力を送って、焔達は何とか。麗華君は先程お呼びした木戸先生に、傷の手当てをして貰って今は病室のベッドに。時期に目は覚めると思いますよ」
「そうか……」
「あの男に奪われた鬼の手は、覇鬼兄ちゃんよ!取り返さなきゃ、承知しないわよ!!」
「お前に言われなくても、必ず取り返す!
ところで、治療費まけてくれない?たまちゃーん」
「……」
「今月、俺ピンチなんだ!頼む!」」
その頃広達は、病室のベッドで眠る麗華の傍にいた。同じ病室には、氷鸞と雷光、焔が体に包帯を巻き眠っており、眠る彼等を心配そうにシガンは室内を歩き回っていた。また茂から連絡を受けた渚が、焔の傍に座り診ていた。
「背中の火傷と腕の切り傷は、時期に治るし……
龍二君が、帰ってきたら丙に治して貰えば問題ないよ。
けど三人は、多分時間が掛かると思うよ。気が付くのは」
「……先生、一つ聞いていいですか?」
「なんだい?」
「毎回思うけど、何で怪我とか病気の手当って、いっつも先生何です?麗華と龍二さんは」
「何聞いてんのよ……アンタ」
「この非常時に」
「いやぁ、前から気になってさぁ」
「ハァ……全く」
「二人の体のことを一番知ってるのは、僕だからね。それに二人の母親から任されてるし。龍二君も麗華ちゃんも、他の病院の先生より僕の病院で受けた方が早いって言うし」
「へぇ」
「そういえば、先生っていつから麗華達のこと知ってるの?」
「龍二君は、僕がまだ今の病院の研修生だった頃に。
麗華ちゃんは、三歳の頃入院しててその時に。
それからだよ」
「じゃあ、麗華達にとって先生は年の離れたお兄さんですね」
「まぁそうだね。
僕も二人の事は、本当の弟妹みたいに思えるし」
「先生には家族いないんですか?」
「そうだねぇ……?」
ふとベッドの方に目を向けると、眠っていた麗華の目が開いていた。
「麗華!気が付いたのね!」
「……」
「どっか痛いところない?」
「……」
「麗華?」
「おい麗華、お前何黙ってんだよ」
「……」
「何か答えなさいよ!広と郷子が質問してるのよ!」
「……」
何も答えない麗華……その様子を見た茂は、広達を後ろへ引かせ彼女の肩に手を置きながら目線を合わせるようにして座った。様子が気になった渚は、急いで麗華の元へ駆け寄った。
「自分の名前、言ってご覧」
「……」
「名前……分かる?自分の」
茂の質問に、麗華は首を横に振った。
「そんな……麗!私だ!渚だ!分からない?!」
渚の必死の呼び掛けも虚しく、麗華は首を左右に振った。
「……茂、麗は」
「すぐに玉藻先生と鵺野先生を……急いで!」
茂の指示に広達は急いで病室を出て行き、玉藻達の元へと急いだ。玉藻がいる診察室に着き、訳を話すと二人は急いで、病室へ向かった。
病室に着き、広達を外で待たせ中にいた茂の元へ寄った。
「木戸先生、いったい何が」
「彼女……自分の名前を知らないって言うんです……
それに、渚を知らないって」
「っ……」
「すぐに担当の先生を呼んできます!」
「お願いします」
そう言うと玉藻は急いで、病室を出て行った。ぬ~べ~は麗華の肩を掴み、揺らしながら必死に名前を呼んだが彼女は何も反応を示さなかった。