地獄先生と陰陽師少女 作:花札
眠鬼の人間としての生活が始まった。
「え~では、出席を取る!
阿部!」
「はい」
「稲葉!」
「はい」
「遠藤!」
「はい」
次々にクラスメイトの名を呼び上げていきそして……
「眠鬼!」
「ふん!」
「呼ばれたら、返事!」
眠鬼の角に付けられていた札に霊力を入れ攻撃した。攻撃された眠鬼は、慌てて言い換えし何度も返事をした。
その反応を、窓枠にいたシガンは馬鹿にしているかのように笑った。その声に気付いた眠鬼は、シガンを睨んだ。
「ちょっと!!このネズミ、何なのよ!!」
「あ~!そいつ、麗華が連れて歩いてるフェレットのシガンだよ」
「フェレット?」
偉そうに気取る様にして、尻尾を振ると眠鬼を馬鹿にしているかのような目で見た。
「このフェレット……私を馬鹿にしてる?」
「キュー」
ツンとした態度で枠を降り、前の席で居眠りをしている麗華の元へと戻っていった。
休み時間……
「ほれほれ、パンツ返して欲しけりゃちゃんと働け」
ぬ~べ~の言い付けで、眠鬼はトイレ掃除をしていた。その光景を広達は見ながら感心していた。
「おーおー」
「偉い偉い」
「今日で三日目。もっと反抗するかと思ったけど……」
「案外、根は真面目で良い子なのかも」
「私は鬼よ!!真面目で良い子な訳ないだろ!!」
「ちぇ!何よ、あの態度」
「いこいこ!」
立ち去ろうとした時、広はふと眠鬼の方を振り向いた。彼女は水溜まりで溺れている芋虫を見ると手を差し伸べ、窓の傍に生えている木に移した。
その光景を見た広は、彼女を呼び校庭へと出た。
「固まるな!散れ散れー!」
クラスメイト全員でドッチボールをする中、眠鬼はいた。
「何か……すっかり溶け込んじゃってるね……」
「ああ。ぬ~べ~の言う通りだ。あいつは……」
「よーし、ガンガンいくぞぉ!」
楽しそうに遊ぶ眠鬼を見て、ぬ~べ~はホッとしていた。校庭の隅で狼姿で、眠鬼を睨む焔を宥めながら麗華は彼女を見た。
どっちボールを楽しむ中、学校の外に出て行ったボールをまことは追いかけて行き表へと出た。その時、トラックが走って来ており引かれ掛けた。引かれる瞬間眠鬼が慌てて彼を押し倒し助けた。
「眠鬼がまことを助けた!」
「凄い運動神経だよな……さすが鬼」
「目にも止まらぬ速さだったぜ」
ヒソヒソと話すクラスメイトの背後で、麗華は眠鬼を眺めていた。
「悪い奴じゃなさそうだね」
「……」
「いい加減、その目つきやめな。その顔になるよ」
からかいながら、麗華は焔の頭を撫でた。
眠鬼の腕を見ると、掠り傷を負っていた。真琴はそれを見て、涙を浮かべて言った。
「あ、ありがとうなのだ」
「フ、フン!
罰に助けた訳じゃないよ!ゲームが中断するのが、嫌だっただけだ。私は血も涙も無い鬼なんだ!」
「いいや」
「?」
「鵺野」
「お前は……明らかに……他の鬼とは違う。
話し合おう……
眠鬼、お前なら分かり合えるはずだ」
見つめ合う二人……その隙を狙い、眠鬼はぬ~べ~の胸ポケットに入っていたパンツを奪った。
「ま、待て!!」
「ぶぁ~か!!人間なんかと、分かり合うなんてないよーだ!!」
ブルマを脱ぎパンツをはくと、眠鬼は鬼の姿へと変わった。
「覚悟しろ!鵺野鳴介!
お前をパンツにしてやるよ!!」
「いかん!鬼の力が戻った……」
「阿呆!!」
眠鬼を見上げるぬ~べ~に、麗華は踵落としを食らわした。
「パンツ奪われてどうすんだ!!」
「お前が言うな!!何もしてないくせに!!」
「出来るか!!こっちは見張られてんだから!!」
背後に目を向けると、殺気だった焔がぬ~べ~を睨み、眠鬼を睨んでいた。
「近付こうにも、アイツの殺気を宥めるのが先だったんだ。だからアンタに任せてたのに」
「す、すまん」
「眠鬼!フルパワー!」
妖力を全開にし、眠鬼はぬ~べ~を攻撃した。
「な、何という気だ!
お、俺は成す術もなく、パンツにされるのか?!」
「大変よ!ぬ~べ~がパンツに!」
「ぬ~べ~パンツになっちまうのか?!」
「地獄パンツぬ~べ~に、タイトル変更!?」
「最悪……」
「ううう……凄いピンチなのに、緊張感が無い」
「フフフ……いくわよ、鵺野鳴介!
ミンキーフラーッシュ!!」
手に妖力を溜め、雨の様に降らし攻撃した。その攻撃を喰らったぬ~べ~は、口から血を吐き気を失った。
「気を失ったか……大丈夫。本気は出していないから。
殺したら、パンツに出来ないからね」
その様子を広達は、茂みから見ていた。
「強い……まるで、絶鬼の様だ……(あれで本気じゃないなんて……)」
「助けなきゃ!」
「アンタ達は大人しくしてて」
「え?」
いつの間にか出した薙刀を構え、焔の頭を撫でる麗華の方に広達は目を向けた。
「麗華?」
「焔、いいね?」
「いつでも」
「どうするの?」
「戦う」
「え?!」
「む、無理よ!!」
「そうよ!!相手はあの絶鬼と同じくらい強いのよ!!」
「じゃあ指銜えて見てろって言うの?」
「っ……」
「そ、それは」
「んじゃ、闘える私がやるしかない。
あの馬鹿教師、パンツにされるのは困るからね」
「さぁ、パンツになってもらうわよ~……」
技を掛けようとした時、焔が放った炎にビックリした眠鬼は、慌てて手を引いた。
「パンツにさせないよ」
「この女!よくも邪魔してくれたね」
「簡単に手に入ると思ったら、大間違いだよ」
「何ですって!!パンツの前にアンタが先だ!!」
溜めた妖気を麗華目掛けて放った。その瞬間、麗華はすぐに飛び上がり避けた。
「焔!」
麗華の掛け声に、焔は口から炎を放った。炎に怯んだ眠鬼を狙い、麗華は薙刀を振り下ろした。その攻撃を慌てて眠鬼は腕を剣に変え防いだ。
「これでどうだ!!」
「……!?」
妖力の球を放った。その瞬間、焔は麗華の前に立ちその光に当たり彼女と一緒に地面に倒れた。
「麗華!!」
「は、速く助けに!」
「女子はここを動くな」
「相手は俺達と同じ年頃の女の子だ。弱点は分かってる。俺に考えがある」
煙が晴れ目を覚まし麗華は焔を退かし起き上がった。
「焔…」
「ったく、余計な力を使わせないでよね」
「うるさい、未熟鬼」
「何ですって!!」
「やーい、眠鬼!」
「?」
「これでも喰らえ!!」
男子達は、女子が嫌がるものを見せながら突っ込んでいった。眠鬼と麗華は呆れ顔になり、眠鬼は手から妖気を放ち男子達に攻撃した。
その攻撃を喰らった男子達は皆、姿をパンツに変えられた。
「広!!」
「ったく!余計な力使わせて……この技、結構時間がかかるのよ」
「ちょっとアンタ!!なんてことすんのよ!!
元に戻して!!」
「嫌ーよ。それより、ぐずぐずしてると……
この子達、人間の心を失って、本当のパンツになっちゃうわよ。今は辛うじて、意識が残ってるけど、もうじき……」
「ええ?!」
「助けたければ、はく事ね!そうすれば、とりあえず今の状態を維持できるわ」
「は、はくって……」
美樹の言葉に、女子達は全員顔を見合わせて真っ赤にした。そして全員パンツになった男子をはいた。興奮して騒ぎ出した男子達を女子達は悲鳴を上げて騒いだ。その光景を、麗華は顔を真っ赤にして眺めていた。
(あんなのはいたら……絶対陽に嫌われる)
(あんなのに当たったら……絶対波に嫌われる)
「馬鹿な、破廉恥小学生共め」
気を失っているぬ~べ~の方に振り向くと、そこにいるはずの彼の姿は無く代わりに麗華がいた。ハッと下を向くとそこに傷の癒えたぬ~べ~がいた。
「フッフッフ……実はな眠鬼。
お前のパンツを預かっている間に、ちょっと細工しておいた」
パンツから出ていた糸を引っ張り、帯を破いた。するとパンツがズレ落ちた。
「よ、よくも私のパンツを!!」
「そらそら!抑えないと、パンツが落ちるぞ!!
パンツが無ければ、お前は妖力を失い、普通の女の子になる!!」
「うるさい!!人間相手なら、片手で十分よ!!」
「お互い片手どうし、これで互角だな!」
「互角なもんか!!見ろ、鬼の力!!」
眠鬼は巨大な妖力の球を出した。
「どうだ!!人間にこんな妖力球、作れないだろ!!これを喰らえば、お前は二度と立てなくなるぞ!!
私の勝ちだ!喰らえ!!」
両手を天に掲げた時、パンツが脱げ落ちた。
「ば、馬鹿!!両手を使ったら、パンツが」
「は!!し、しまった!!
パンツなしじゃ、私こんな重いもの」
その瞬間、宙に浮いていた妖力球は眠鬼の頭上に落ちた。
「キャァァアアアア!!あ、熱い!!溶けちゃうぅぅぅ!!
(く、悔しいよぉ……鬼の私が……こんな惨めな死に方……)」
死を覚悟した時、白衣観音経が炎を防いだ。眠鬼は目を開き、その光景を見るとそこにはぬ~べ~がいた。
「な、なぜ私を助ける?」
「言ったろ……お前は、絶鬼や覇鬼とは違う……きっと分かり合えると信じている。
それに……今のお前は俺の生徒だ。命を懸けても、俺はお前を守る」
「全く、未熟鬼が!氷鸞!」
氷鸞が放った水を、妖力球は煙を出して消えていった。煙の中に、ポカンと座り込む眠鬼と彼女の傍で倒れているぬ~べ~がいた。
「ぬ~べ~!!」
「ぬ~べ~!!」
「大丈夫?」
「ハハハ……大丈夫大丈夫」
「何が大丈夫だ。死にかけてるくせに」
「お前が言うな」
「いやー、パンツにされた時は、どうなるかと思ったよ」
「結構喜んでたくせに」
「ああー俺……一生パンツのままの方が」
「あっちいけ!!このドスケベ!!」
「ま、元に戻してくれてよかったわ」
「そーね」
教室で騒ぐ郷子達……眠鬼は席に座り、考え込んでいた。
(……分からない。
人間ってなんなの?私は小さい頃から、周りの鬼達に人間は屑だ、蛆虫だと教えられてきた。
でも……)
「ね!これあげるよ!」
話し掛けられ、振り向くと郷子の手には何かを包んだ物があった。包んだ物を受け取り、包み紙を破りながら文句を言った。
「分かってるわよ!!どうせ、仕返しの嫌がらせでしょ!何よ!ゲジゲジ?毛虫?」
包み紙を取ると、中にはたくさんのパンツがあった。
「皆でお金出して買ったんだ」
「鬼のパンツは燃えちゃったし、ぬ~べ~はパンツに出来なかったし……これで我慢して」
その言葉に、眠鬼は思わず涙を流した。
「ノーパンはいかんぞ」
からかうようにして、ぬ~べ~はニヤけながら教室へ入ってきた。
「ねぇ、私……パンツが無くなって、地獄へ帰れないの。しばらくここにいてもいい?」
「ああ、いいとも。
帰る方法は、そのうち何とか考えよう」
「じゃあよろしくね、お兄ちゃん」
「お、お兄ちゃん?!」
「だってその左手、本当のお兄ちゃんだもん。
(ここに残ろう……人間ってなんなのか。私なりに、見極めるまで……)」