地獄先生と陰陽師少女 作:花札
まくら銀行へ来た広達……
「いや~、お年玉の貯金余ってて良かったよ!」
「それおろして、頑張れ森川君二号買うのよ!」
騒ぐ広達を、引き攣った顔を浮かべながら銀行員は見ながら仕事をした。するとそこへ、五人の男が入りそして……
「動くな!!全員手を上げろ!!」
男達は一斉に、銃を取り出しそう言い放った。
「え!」
「嘘!」
「騒ぐな!死にてぇのか!!」
「この鞄にありったけの金をつめろ!!」
男達が目を離した隙に、銀行員は緊急ボタンを押した。そしてしばらくすると、サイレンが鳴り響き外には無数のパトカーが停まった。
それに気付いた男の一人は、天井に向かって銃弾を放ち、リーダー格の男は全員を睨んだ。
「貴様等ぁ!!
通報しやがったな!!全員、壁に向かって両手付け!!」
その時、どこからか音が聞こえ男の一人は銃を構えて、音のした方へ向かった。
「おら、歩け!!」
別室から出てきたのは、男に腕を引っ張られてきた麗華だった。
「何だ…まだいたのか」
「よく堂々と女子便入れたね。変態男」
「んだと!!」
麗華の胸蔵を掴んだ途端、彼の手にフードの中にいたシガンと焔が噛み付いた。男は噛まれた痛みと突然出てきた鼬とフェレット、二匹に怯み後ろへ引いた。
「悪いねぇ……こいつ等、私に危害加える奴には、容赦なく噛み付くんでね」
「っ……」
“バーン”
「……!!
痛!!」
手首から血を流した麗華は、傷口を抑えながらその場に膝を付いた。焔とシガンは撃ったリーダー格の男を睨み付け、焔は殺気を放ちながら今にも人の姿になろうとしていた。
「焔!シガン!
早くフードの中に入って!」
彼女の命に渋々従うかのようにして、シガンと焔はフードの中へと入った。
「これに懲りて、大人しくお前も両手に壁付け」
「……」
三十分後……
銀行の外には、無数の野次馬とパトカーが停まり、空からヘリコプターが記者を乗せて飛び回っていた。
そこへ騒ぎを聞きつけて、ぬ~べ~がやって来た。野次馬の中には、泣き喚くまことの姿があった。
「あ!先生!」
「広達が中にいるって、本当かまこと!」
「そうなのだ!!広君が貯金下ろすからって……僕は、おもちゃ屋で待ってたのだ……そしたら……そしたら」
「分かったまこと……もう泣くな」
まことを慰めながら、ぬ~べ~は銀行を見た。
パトカー付近で、腕を組み銀行を睨み付ける勇二……
「先輩、顔怖いですよ」
「黙れ(くそ……すぐにでも、救出に)」
押収した防犯カメラの映像には、手首を抑える麗華と彼女に寄り添う広達と、近くに人質とされた人達が固まり座っていた。
中では、金が詰まったバックを横にリーダー格の男は、克也が持ってきていたゲームをやり暇を持て余していた。
「り、リーダー……そんな、のんびりしてて」
「慌てるな。今、警察と逃走車の交渉中だ。
後は金さえ出せば、海外へ逃がしてくれるコネがある。
途中まで、あのガキ共を人質にして逃げれりゃ、何とかなるさ。ガキは使い終ったら、殺っちまえ」
「あ、あの……おしっこ、行っていいですか?」
「ひ、広!よしなよ」
「あ?何だお前、自分の立場分かってんのか?
そこでしろ!」
広の頬を殴り、倒した彼を男は踏み躙った。
「やめな!」
手首に布を巻き止血した麗華は、立ち上がりリーダー格の男の前に立った。男は持っていた銃口を麗華の額に当てた。
「酷い事をするな!!今すぐ彼女から、銃を離せ!」
リーダー格の男の背後に、ぬ~べ~が姿を現しそう言った。
「な、何だ!貴様!?どこから入った!?」
「ぬ~べ~!」
(幽体離脱を使って、侵入か……さすが)
「お前達、すぐに人質を解放して自首しろ……さもないと、痛い目に合うぞ」
「るせ!!何様のつもりだ!ゲジマユ野郎!!」
怒りに任せた男は、銃弾を放った。銃弾はぬ~べ~の幽体の体を貫通し壁に当たり、そして彼の幽体はスッと消えた。
「どうやら……話の通じる相手じゃなさそうだな」
「き、消えた!?」
「お、お化け……」
「くだらん……ただの手品だ!
建物の中を調べろ!!どこかに隠れてるはずだ!」
リーダー格の男の命令を受けた男たちは一斉に建物の中を調べに行った。
「果たして、本当にそうかな?」
「は?」
「目の前に起きた事を信じないと、痛い目に合うと思うよ」
「テメェは黙って、そこに座ってろ……また撃たれたいか」
野次馬たちの目を盗み、ぬ~べ~は排水溝の中を進み中へと侵入しようとしていた。
中へ入り、天井の金網を静かに開け、中にいた仲間の守護霊を交代させた。交代させられた男は、足を滑らせコンロに頭をぶつけ、その拍子に火を点けてしまい大火傷してしまった。その悲鳴にもう一人の仲間が駆けつけ中へと入るが、その背後には既に天井から降りてきていたぬ~べ~が、鬼の手を出し彼の記憶を探った。
「お前の、すずめの涙ほどの良心に訴えよう……お前は悪い事をしている。取り返しのつかないことだ」
その言葉が響いたのか、突然男の手の甲から目が浮き出てきた。その目は体中を覆い尽くしていった。
「これは百々目鬼……良心の呵責が生む悪霊だ。
悪事を誰かに見られているという、うしろめたい心が目となって現れるのだ」
「ぎゃあああ!!」
「人に戻りたければ、本気で改心するんだな」
廊下を歩いていたぬ~べ~の前に、見回りに来た男が現れた。ぬ~べ~は彼に向かって、霊水晶で殴り気を失させた。
「遅いなぁ……何やってんだ、アイツ等」
「見てきましょう」
そう言い仲間の一人が見回りに行くと、廊下に三人の仲間が伸び倒れていた。それを見た仲間は急いで、リーダー格の男の元へと行った。
「三人とも、やられてるぜ!リーダー!」
「何!?」
「あ、アイツはただ者じゃない……きっとFBIかCIAの工作員だ……」
「馬鹿野郎!!ビビってんじゃねぇ!」
騒ぐ犯人達……その目を盗み、焔は姿を消し人の姿へとなり、麗華の傍に寄り小声で話した。
「麗」
「ポーチから、氷鸞と雷光を出して」
「分かった」
ポーチのファスナーを開け、焔は氷鸞、雷光と達筆で書かれた札を取り出した。札は煙を上げ中から二人が姿を現したが、すぐに状況を把握し姿を消し、二人は麗華の傍へ寄った。
「麗様、この状況は」
「説明は後。姿を消したまま、あの野郎共の動きに合わせて、攻撃を防いで」
「承知」
「承知」
「それから、奴等は銃を持ってる。
氷鸞もだけど、雷光と焔は輝三の所でやった修行を覚えてるよね?」
「あ、あぁ」
「一応」
「だったら、その対処をお願い」
「了解」
扉に寄り掛かっていた男の背後から、壁をすり抜け鬼の手が姿を現し、男の頭を鷲掴みにした。
「な、何だ……壁から手が」
「これは幽体摘出と言って、鬼の手で幽体を無理矢理ひっぺがえす技さ。恐ろしく痛いぞ」
どこからか聞こえるぬ~べ~の言葉通り、鬼の手に掴まれた男は悲鳴を上げ頭を抑えて地面に倒れた。
「な……」
(ナイス……鵺野)
「へん!どんなもんだ!
ぬ~べ~は自分の生徒を守るためなら、無限のパワーを発揮するんだ!!観念しやがれ!」
「ひ、広!!」
「ほう……そうか。
お前等の先生か、アイツは」
「!」
「馬鹿…」
(馬鹿…)
リーダー格の男は広を掴み立たせ、銃口を向け大声を上げた。
「やい!出て来い!
お前の大事な生徒の頭がぶっ飛ぶぞ!」
仕方なく、ぬ~べ~は別室のドアを開け姿を現した。姿を見た男は、広を投げ飛ばし銃口をぬ~べ~目掛けて銃弾を放った。弾は彼の足を貫き、ぬ~べ~は足を抑え倒れた。
「キャァアア!!ぬ~べ~!!」
「確かな正義感だな……え?ヒーローにでもなったつもりか?
そんなのは、映画の中だけなんだよ!!」
動けなくなったぬ~べ~を、男は銃で思いっきり殴った。
男がさらに攻撃をしようとした時、麗華は立ち上がり彼の背後から回し蹴りを喰らわせた。蹴りは男の頬をに当たり、男は勢いでそのまま飛ばされ机に当たった。
「敵が一人になれば、こっちのモノだ」
「このガキ!!」
男は銃を手に取り、弾を打ち放った。麗華は舞をするかのようにして、動き回り玉を避けた。避けきれない弾は全て、姿を消した焔達が受け止め防いでいた。
「な、何だ!お前!」
「悪いね。ちょっと田舎で、軽く体鍛えたもんでね。
稲葉!立野!細川!木村!
そこのマジックで、各壁の端に霊の道を駆け!」
「……わ、分かった!」
台の上に置かれていた箱から、ペンを手に取り広達は一斉に駆け出し壁の端に鳥居の絵を描いた。動こうとした男に、麗華は踵落としを喰らわせそして、腹に正拳突きを喰らわせた。その鳥居を見たぬ~べ~は、すぐに理解をし霊水晶を取り出した
「南無大慈大悲救苦救難……霊の通り道、開け!!」
扉が開いたのか、鳥居からぞろぞろと霊が姿を現した。その光景に驚いた男は、怖気着いたかのように怯えきった表情で周りを見た。
「ば、馬鹿な!!
一体、何なんだ!!」
「相手が悪かったね」
「?!」
「俺の生徒に手を出すとは、ぬ~べ~クラスのチームワークは抜群なんだぜ」
「……」
「地獄へ堕ちろ!!」
「地獄へ堕ちろ!!」
ぬ~べ~の拳と麗華の拳が同時に、男の顔面を殴り男は口と鼻から血を流して倒れた。
しばらくして、人質達は解放され、ぬ~べ~の周りには広達が歩き、美樹はカメラに向かってピースをした。
「一体どうやって犯人を?!」
「今のお気持ちを詳しく!」
「あなたは一体?」
「すいません、通して貰いませんか?」
リポーター達の質問に何も答えず、ぬ~べ~は広達と銀行を後にした。
「さー!ラーメンでも、食いに行くか!」
「ラーメンより病院でしょ!撃たれてんのよ!」
「ワハハ!こんなもん、唾つけとけゃ、治る……痛てて」
「無理しちゃってもう!」
「そういえば、麗華は?」
「さっき、警察の人に抱き着かれてたわ」
「何?!」
「知り合いなんじゃねぇの?ほら、アイツのあの怖い伯父さんの部下とかで」
「あー、納得」
ぬ~べ~達が銀行から出てきた時、麗華は氷鸞達を戻し彼等の後に出てきた。出てきた瞬間、心配していた池蔵は、涙目で麗華に飛び付き抱きついた。
「うわーん!麗華ぢゃんが無事だっだぁ!!」
「い、池蔵さん……苦しい」
「麗華ちゃん!手首に怪我してる!
先輩!すぐに病院へ連れて行きましょう!!」
「騒がしい」
騒ぐ池蔵の頭を、勇二は思いっきり叩いた。パトカーに乗った麗華は、後部座席に勇二と座り池蔵は鼻歌を歌いながら運転した。
緊張が解れたのか、麗華は深く息を吐いた。
「無事でよかったよ」
「輝三……伯父のおかげですよ、助かったのは(あと鵺野と稲葉達のおかげかな)」
「神崎警部の?」
「昔、伯父の家に一年半住んでまして……その時、銃弾の回避訓練をやったんです」
「回避訓練?」
「色々法律破ってるかもしれませんが……あの人、猟銃持っていきなり空砲を撃って……結構ハードでしたけど、まさかこんなところで役に立つとは」
「伯父さんに、感謝しなきゃな」
「そう……ですね」
重くなっていた目蓋を閉じ、麗華はそのまま眠ってしまった。眠ってしまった彼女の頭を勇二は撫で、安堵の顔を浮かべ、病院へと向かった。