地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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雨の日の出来事

雨が降るある日……

 

 

帰る準備をする生徒は、窓の外を眺めながらため息を吐いた。

 

 

「あ~あ……降ってきちゃったなぁ」

 

「私、傘持ってきてないよ」

 

「朝、カンカンに晴れてたもんなぁ」

 

 

文句を言う中、麗華はボーッと窓の外を眺め昔の事を思い出していた。

 

島に住んでいた頃、今日のように雨が降り学校の玄関口で雨宿りをしていた。他の生徒は皆、親が迎えに来て共に帰って行った。親が迎えに来る中、自分一人だけ誰も迎えには来なかった。

 

迎えに来る彼等の姿を見て、ふと思い出す優華と龍二と過ごした日々……

 

 

「帰りの会やるぞ。早く席に着け」

 

 

ぬ~べ~の声に、麗華は窓から目を離し前を向いた。

 

 

数分後、帰りの会が終わった生徒達は、玄関口で雨宿りをしていた。

 

 

「あーあ、早く止まないかなぁ」

 

 

広達も玄関口で固まり、雨が止むのを待っていた。降る雨を見上げながら、麗華はふと昔の事を思い出した。

 

雨が降る中、傘を差し自分を家まで送ってくれた人……

 

 

「……来るわけないか」

 

「?」

 

「何が来ないの?麗華」

 

 

小声で言ったつもりだった麗華だったが、それは広達にも聞こえていた。麗華は少々驚きながらも話し出した。

 

 

「今日みたいに雨が降る日に、私を迎えに来た人が居たんだ」

 

「迎えに来た?」

 

「あぁ。

 

島に来て丁度一年経って……その日、おばさんは用事で出掛けてて夜まで帰ってこなくて、龍実兄さんも中学に上がって、帰ってくる時間遅くて……

 

 

親が迎えに来て、一緒に帰る皆が羨ましかった……喜んで親と手を繋いで帰る皆が……」

 

 

思い出す記憶……他の子は皆、迎えに来た親の手を繋ぎ嬉しそうに帰っていった。

 

 

「皆が帰ってしばらくした後だった……蛇の目傘を差した奴が迎えに来たのは。

 

 

顔は覚えてないんだけど、そいつ私に手を差し伸べてきてさ。そいつの手を恐る恐る握ったら、凄い暖かかったっけ……その後そいつと一緒に家まで帰ったんだ。何も喋らないで……

 

家に入った後、台所にあった蜜柑をあげてそいつに礼を言った……

 

そしたら、今まで無表情だったそいつの顔が、笑顔になった……」

 

「へ~」

 

「その日を境に、雨が降る日にそいつは必ず私を迎えに来てくれた……皆が帰った後」

 

「そうなんだぁ」

 

「誰だったか、分からないの?」

 

「それが全然。

 

妖怪だったのか人間だったのかも、さっぱり」

 

「じゃあ、ここで待ってればその人来るんじゃないの?」

 

「来るわけないよ。

 

あいつは島にいたんだ……妖怪なら分かるけど、人間だったら来られる訳ないよ。こっちは名前教えてないんだから」

 

「……あ!お母さん!」

 

 

雨が降る中、自分の子供の傘を持った母親達がやって来た。皆それぞれの親の元へと駆け寄り、下級生は迎えに来た母親に飛び付き喜んでいた。郷子達も母親が持ってきてくれた傘を差し、その中へ広達を入れた。

 

 

「麗華も入りなよ!送ってくよ!」

 

「いいよ。もう少ししたら、兄貴が迎えに来るかもしれないから」

 

「そう……

 

じゃあ、また明日!」

 

「あぁ」

 

 

郷子達に別れを告げた麗華……振っていた手を下ろし、降り止みそうにない雨を眺めた。

 

 

(何て……

 

兄貴は部活のうえ、今日はバイト……帰り遅いんだよねぇ)

 

 

すると、フードの中にいたシガンが顔を出し、麗華の肩へ移動すると彼女を慰めるようにして頬擦りした。頬擦りしてきたシガンの頭を麗華は撫でた。

 

 

「大丈夫だよシガン。

 

昔はいつも、こんな感じだったから……」

 

 

降り続ける雨を、麗華はしばらくの間ボーッと眺めた。

 

 

しばらくして、下駄の音が聞こえてきた。麗華は校門の方に顔を向けた。そこにはあの時と同じように、蛇の目傘を差しこちらへ歩み寄ってくる者がいた。

 

 

(……まさか)

 

 

歩み寄り麗華の前に立つと、傘を持ったまま手を差し伸ばしてきた。その蛇の目傘を持った者は、水色の着流しの上から白い羽織を腕に通し、黒い下駄を履いていた。

麗華はゆっくりと顔を上げ、その者の顔を見た。

 

白い髪を耳下で結い、口元は黒い布で覆った青年……

差し伸ばしてきた手を、麗華はソッと握った。その手はあの時と同じように、優しい暖かさだった。麗華は彼の手を握ったまま彼と共に家へと帰った。

 

 

三十分後、家へ着き青年に待つように言い、急いで家の中へ入り台所にあった蜜柑を手に持ち、玄関へと行き青年に渡した。青年は目を輝かせ懐に蜜柑をしまうと、麗華の額を指で軽く突いた。その瞬間、麗華は意識を無くし青年に凭り掛かる様にして倒れた。気を失った麗華を、青年は抱き上げ居間に寝かせ、そのまま雨の中へと姿を消した。

 

 

それから数時間後……

 

 

「……あれ?」

 

 

麗華は目を覚ました。起き上がり後ろを向くと、そこには自分に寄り添う焔がいた。何気に麗華は、眠っている焔の頭を撫でた。

 

 

「……?」

 

 

焔から伝わる暖かさ……その暖かみは、あの青年と同じ暖かみだった。

 

 

(何で?

 

あれ?そういえば、あいつの姿)

 

 

青年の姿を思い出そうとするが、なぜか顔に靄が掛かり思い出せなかった。

 

 

「……?

 

あれ、麗起きたのか?」

 

「え…あ、うん」

 

 

返事をした途端、麗華は眠気に襲われ眠い目を擦りながら、焔の胴に顔を埋め横になった。横になった彼女を見た焔は、尻尾を麗華の身体の上に乗せ頬を舐めた。

 

 

「……ホムラ」

 

「?」

 

「アリガトウ」

 

 

小さい声で、麗華はそう呟いた。その言葉を聞いた焔は、彼女に甘えるかのようにして、顔を擦り寄せ一緒に眠った。

 

 

(……蜜柑の匂いがする)

 

 

そう思いながら、麗華はそのまま眠ってしまった。




雨が降ったある日……


麗に気付かれないように、俺は家に帰り自分の傘を手に持ち、違う姿で彼女を迎えに行った。

迎えに行った訳は、周りが親の迎えがあるのに、麗にはなくそれが可哀相に思えたから。



傘差して、麗と手を繋いで歩いた。喋ったらバレると思って何も喋らなかった。家に着くと、麗は俺の大好物の蜜柑をくれた。それが嬉しくて思わず微笑んだ。

それからずっと、雨の降る日は麗を迎えに行った……けど、いつかばれると思い、麗の記憶から俺の顔と妖気を忘れさせた。


けど、何年かした後……島から帰りその後輝三達の家へ住み移り、そんなことはなくなった。

それから一年後、麗は再び学校へ行き出した。

そして今日、雨が降った。俺は麗に気付かれないように家に帰り、傘を持って迎えに行った。皆が帰った時間を見計らって……

麗はあの時のように、お礼に蜜柑をくれた。


麗を寝かせた後、元の姿に戻り彼女に寄り添い眠った。
しばらくして、麗は起き俺の頭を撫でてくれた。その後また眠くなったのか、俺の胴に顔を埋め眠りに入ろうとしていた時だった。


「アリガトウ」


今まで、バレないようにしてきたが、やっぱり主を騙せないか……彼女の頬を舐め、寄り添い一緒に寝た。


今度はちゃんとした姿で、迎えに行くからな。

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