地獄先生と陰陽師少女 作:花札
童守町にいた緋音達は互いの顔を見合わせて、笑顔を見せ空を見上げた。
龍実達の島では、荒れていた海に静けさが戻り、大輔達は海を眺めて一安心したかのように息を吐いた。
黒い霧は白い光に包まれ消え、京都に夜明け前の空が広がった。
「……う」
目を覚ますぬ~べ~……彼に続いて、次々に目を覚まし体を起こす一同。
「終わったのか……」
「彼女の妖気が全く感じられません……」
「……」
「麗!!」
「龍!!」
焔と渚の叫び声に、ぬ~べ~は立ち上がり二人の元へと駆け寄った。二人は眠っているのか目を閉じ仰向けで倒れていた。二人の元へ優華と輝二が駆け寄り、胸に耳を当てた……次の瞬間、二人は青ざめた顔になり息を呑んだ。そしてすぐに心臓マッサージを施した。
二人が施す中、妖達は麗華と龍二傍に行き二人に呼び掛けた。丙と雛菊、楓は二人の傷の手当てをしながら、霊力を送り込んだ。
「龍二!!目を覚ましなさい!!龍二!!」
「麗華!!起きろ!!起きて、また『父さん』って呼んでくれ!!麗華!!」
「龍!!起きてくれ!!」
「麗!!ふざけるなよ!起きろ!!」
「麗様!!」
「麗殿!!」
「龍!!目を覚ませ!!もう……もう、失いたくないんだ!!」
「龍!!嫌じゃ……別れは嫌じゃぁあ!!」
「桜巫女!!神主!!
死ぬな!!」
「麗華!!龍二!!起きろ!!」
妖怪達の叫び声が、境内に響き渡った。だが二人は、目を覚ますことは無かった。
次第に二人の手が遅くなり、それを見た輝三と美子は二人の肩を掴み後ろへ引かせ、交代させた。二人は息を切らしながら、輝三と美子に合図を送りながら人工呼吸した。
妖怪達の叫び声が、次第に泣き声と変わっていった。泣き声に釣られ、果穂は泣き喚き里奈に抱き着いた。里奈は涙を流しながら座り込み抱き着いてきた果穂を抱き締めた。
泰明は里奈と同じようにして涙を流しながら、手で顔を覆い泣く真理菜を抱き寄せた。
彩華は泣く美幸を抱き締めながら泣き、陽一は腕で流れ出てくる涙を拭きそんな彼の頭を輝一は宥めるようにして撫でた。
暗い闇の中……麗華と龍二はゆっくりと目を開いた。
「ここは……」
「……俺達、死んだのか?」
『戻って』
誰かの声が聞こえた……それと共に何かに押されるかのようにして、いた場所から飛ばされた。飛ばされた先には一筋の光が見えた。押された方に目を向けると、そこには白い光りに包まれた梓が立っていた。
「梓!」
「梓!」
梓は二人に笑顔を向けると、手を振りながら消えていった。麗華と龍二は飛ばされていくがままに光の方へと向かった。そしてその光に、二人は手を伸ばした。
疲れ切った輝三と美子は、息を切らしその場に座り込んだ。輝二と優華も息を切らし、二人の手を握っていた。
その時、優華が握っていた龍二の手が微かに動いた。ハッと顔を上げ優華は、龍二の顔を覗くようにして見た。
瞼が動き、そしてゆっくりとその瞼は開いた。
「龍二?」
「……お袋」
「龍二!!」
目覚めた龍二を、優華は泣きながら起きた彼を抱き締めた。同じようにして、輝二が握っていた麗華の手が微かに動き、輝二はすぐに彼女の方に顔を向けた。瞼が動き、ゆっくりとその瞼が開いた。
「……父さん」
「麗華!!」
目覚めた麗華は体を起こしすと、輝二の方に顔を向けた。輝二は目に涙を溜めながら、彼女を力強く抱き締めた。
二人が抱き締め終えると、今度は式神と妖怪達が二人に飛び付いてきた。
龍二に飛び付いた雛菊は彼に抱き着くなり大泣きし、ショウは彼の傍で腕で流れ出てくる涙を拭きながら泣き喜び、渚は雛菊と同じようにして抱き着き泣き叫んだ。
麗華の方では、飛び付いた瞬火が泣きながら彼女の頬に頬擦りし、氷鸞と雷光は獣の姿で麗華に擦り寄り、焔は渚と同じようにして抱き着いた。
二人の様子に、輝三達は互いに抱き合い喜び、鎌鬼や牛鬼、安土、桜雅、皐月丸、丙、青と白、そして時雨は、泣きながらその光景を見た。
しばらく喜び合っていると、空が明るくなってきた。すると麗華と龍二の傍にいた優華と輝二、迦楼羅と弥都波、鎌鬼、その他大勢の者達の体が光の粒へとなっていた。
「母さん」
「親父」
消える二人を見た龍二と麗華は、渚と焔の手を借りながら立ち上がり二人を見た。
「そろそろ、お別れね……」
「お袋」
「龍二、またお願いしてもいいかしら?麗華のこと」
「……あぁ」
「それから、何でもか抱え込まないこと!
周りを頼りなさい。茂や美子姉さん達に頼っていいのよ。アンタ達はまだ、子供なんだから」
「……あぁ」
「麗華、もう我慢しなくていいから、思いっ切り龍二に甘えなさい」
「……うん」
「楓、丙、二人を頼んだぞ」
「うん」
「えぇ」
「もちろん、雛菊と氷鸞と雷光、それにショウ達もだ」
「あぁ」
「はい」
「牛鬼、安土、二人を頼むわよ。
二人共、我慢しちゃうから」
「分かってる」
「もちろんだ」
「先生、二人共態度や口の利き方が悪いかもしれません。けど、根はとても優しい子達です。私達がいない分、二人をよろしくお願いします」
「もちろんです。二人の教育はこの鵺野にお任せ下さい!」
「何母さんを、厭らしい目で見てんだ。このエロ教師は」
「な!お、俺はそんな目で」
ぬ~べ~が麗華達と言い合っている間、優華と輝二は輝三達の方に振り向いた。
「兄さん、二人の事お願いするよ」
「任せとけ」
「輝一」
「?」
「龍二も麗華も、俺と同じで和菓子が好きなんだ。特に輝一の店の」
「……」
「だから……作ったらあげてくれないかな。
二人に。多分凄く喜ぶと思うよ」
「……」
下を向いたまま黙り込む輝一……彼は腕で涙を拭きながら、微笑して輝二を見た。
「もちろんだ。二人にあげるよ」
「……ありがとう。
美幸ちゃんと陽一君、龍二と麗華を頼んだよ」
「はい!」
「おう!」
「美子姉さん、彩華姉さん、元気でね」
「アンタもね……って、もうあの世に逝くから意味ないか」
「二人の成長は、私達がしっかり見届けてあげるから、安心しな」
「うん……」
笑顔を見せる優華……だがその目から、涙が溢れ落ちた。そんな彼女を美子は抱きしめようと手を伸ばした……だが触れようとした瞬間、美子の手がスッとすり抜けてしまった。
「龍二、麗華」
輝二と優華は同時に麗華と龍二の方に振り向き、光の粒へと変わっていく手を上げ二人を抱き締めた。
「ごめんなさい……傍にいてあげられなくて」
「……いいよ」
「……」
「親父もお袋も、姿見えなくても俺等の傍にいてくれるんだろ……だったら、傍にいてくれるんじゃねぇか」
「龍二……」
「私……嬉しかったよ。
……父さんと母さんの子供で生まれて。一度も不幸だなんて思ったこと……ないよ」
泣きながら、麗華は心の奥底にしまっていた二人の思いを打ち明けた。二人は麗華と龍二の顔を交互に見た。二人は目から涙を流していたが、満面な笑顔を見せていた。
消えゆく中、二人の子供に釣られ、輝二と優華も笑った。そして粒は空へと登っていき、二人は消えた。そこに残っていたのは、人の形をした紙だけだった。
その紙を麗華と龍二は、拾い上げ見詰めた。心地良い風が吹き麗華と龍二、その場にいた全員の髪を靡かせた。
風が止むと、シガンは麗華の肩へと登り頬擦りした。頬擦りしてきたシガンを、麗華は笑みを溢して頭を撫でた。
そして空に朝日が昇り、暗かった京都の町を照らした。