地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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白狼の力

八岐大蛇を封印した麗華達……

 

 

疲れからか、麗華と龍二は地面に座り込み息を切らした。そんな二人の元へ、優華と輝二は駆け寄り頭を思いっ切り撫でた。

 

 

「麗華!龍二!よく頑張ったわ!さすが、私達の子供!」

 

「母さん、痛い!」

「親父、痛い!」

 

「よう頑張ってくれました。おおきに」

 

 

晴明は二人の手を握り、立ち上がらせ礼を言った。

 

 

“パリーン”

 

 

「?!」

 

 

硝子の割れる音が聞こえ、麗華達は後ろを振り返った。そこには八岐大蛇が封印された鏡が割れていた。

 

鏡から黒い霧と共に、四つの首を持った大蛇が姿を現した。大蛇の元へ、梓が降り立ち不敵な笑みを浮かべた。

 

 

「例え封印しても、ここにいる大蛇は何度でも蘇らせるわ」

 

「……牛鬼達は」

 

「二人なら……あ・そ・こ」

 

 

梓が指差す方に目を向けると、そこには傷だらけになった牛鬼と安土が壁にもたれ掛かり倒れていた。

 

 

「牛鬼!安土!」

 

「丙!すぐに治療!」

 

 

駆け出した麗華に続き、丙は二人の元へ駆け付けすぐに治療を開始した。

 

 

「牛鬼!安土!

 

丙、助かるよね?!」

 

「大丈夫だ!まだ息はある(頼む……死なないでくれ。

 

これ以上、麗を悲しませないでくれ)」

 

 

必死に治療する丙……その時、意識が戻ったのか牛鬼の手が微かに動き、麗華はそれに気付くとすぐに彼の手を握った。牛鬼は彼女の手を握り返し、ゆっくりと閉じていた目を開けた。

 

 

「れ…い……か」

 

「牛鬼!」

 

「俺は」

 

「喋らなくていい。すぐ治すから」

 

 

牛鬼の治療をする丙の元へ、敵を倒した楓が駆け付け安土を治療した。しばらくして、安土も意識が戻ったかのようにして、咳払いをして顔を上げた。

 

 

「しぶといわね……さすが私が認めた男。

 

でもね……消えて欲しいのよね」

 

 

赤い目を光らせ梓は後ろにいる大蛇を睨んだ。大蛇は彼女の命を知ったかのようにして、龍二と麗華達に向かって炎の攻撃と氷の攻撃をした。

その行為は余りにも一瞬のことであった……だが、その攻撃を焔と渚は炎と水を纏った黒狼の姿になり、それぞれの主の元へ行き攻撃を防いだ。

 

 

「あれは……」

 

「まさか、焔と渚が……」

 

「輝三さん、あれは」

 

「極希に、白狼一族の中で自信の力を身体に纏った狼がいた。その狼の毛は白ではなく黒……」

 

「しかし、焔も渚も普通の白い毛並み……」

 

「その力を纏うには、ある条件がある」

 

「条件?」

 

「互いの信頼関係と聞いている……」

 

 

姿が変わった自分達の白狼を見る麗華と龍二……

 

二匹は同時に首を下ろし、二人に顔を近付けさせてきた。

龍二はしばらく渚を見詰めていたが、水を纏った渚の頭に手を置き撫でた。彼女の身体を纏っている水は、不思議と龍二の手は濡れずましてや冷たくはなかった……いつも感じる渚の暖かさだった。

麗華は少し怯えた様子で、牛鬼の手を握りながら焔を見詰めた。すると牛鬼はどこか嬉しそうに笑い、麗華の頭に手を置き振り向いた彼女の目を見て頷いた。麗華は牛鬼から離れ立ち上がり、炎を纏った焔の頭に恐る恐る手を置いた。不思議と彼の身体を纏っている炎は熱くなかった……渚同様、いつも感じる焔の暖かさだった。

 

 

「焔……」

「渚……」

 

 

その時、大蛇が雄叫びを上げ他の妖怪達と戦っていた者目掛けて、毒の液体を吐き出してきた。

 

 

「あの毒液に掛かったら、全滅です!」

 

「?!」

 

「そんなぁ……俺、母ちゃん達助けに行く!」

 

「待って!私も行く!」

 

「やめなさい!二人共!

 

今行けば、あなた達二人まで犠牲になるわ!」

 

「けど!このままじゃ」

 

「渚!」

 

 

龍二の叫び声が聞こえたかと思うと、彼は水に包まれた渚の背に飛び乗り毒液の元へ向かった。その光景に優華と輝二は驚いていた。そんな龍二の姿を見た麗華は、牛鬼の方に振り向いた。彼は頷き、微笑んだ。それは丙と楓も同じようにして……

 

 

「麗、俺はいつでも行ける」

 

「……焔!」

 

 

炎に包まれた焔の背に、麗華は飛び乗り龍二の後に続いた。毒液を前に、輝一達は皆それぞれの白狼の後ろで身構えていた。白狼たちは自分達の主を守るかのようにして、口から自身の技を出し毒液を防いでいた。だが毒液は流れる速度を弱めることなく、近付いてきていた。

 

 

「無理だ……これ以上は」

 

「ただでさえ、妖怪共と戦っている……止めてぇが霊力が」

 

 

諦め掛けていた時、彼等の前に焔と渚が降り立った。二匹は目を合わせると同時に水と炎の技を口から出し毒を食い止めた。二匹の攻撃を見ていると、背に乗っていた龍二と麗華は立ち上がり懐から札を取り出し構えた。

 

 

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!いでよ!火之迦具土神!」

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!いでよ!海神!」

 

 

二匹に力を貸すかのようにして、龍二と麗華は水と炎の攻撃を放った。毒液は水と炎の勢いに負け蒸発した。

その様子を、梓は歯を食いしばり拳を握りながら悔しそうに見ていた。

 

 

(何で……何であの子(麗華)に勝てないの……

 

殺そうとすると、次から次に助けが来て……)

 

 

蘇る数々の記憶……自分は彼女の心から生まれた。牛鬼は自分のものになると思っていた。だが彼は自分を捨て、麗華の元へ行った……

 

 

「……喜んでるのも今の内よ」

 

 

毒液を止めた時、空から黒い粉がパラパラと降ってきた。

 

 

「何?」

 

「雪?」

 

 

空を見上げる一同……その時、地面から輝三達が倒したはずの妖怪達が次々に甦り、姿を現した。

 

 

「そ、そんな?!」

 

「倒したはずの妖怪が、復活してるやと?!」

 

「当主!我々には、もう霊力が」

 

「……」

 

 

「氷鸞!雷光!

 

輝三達の援護に回れ!」

 

「承知」

「了解」

 

「丙!雛菊!

 

霊力が少ない輝三達の治療に回れ!」

 

「承知」

「承知」

 

「その他の妖達は、そのまま戦闘を続けて!」

 

「承知」

「了解」

「諾」

 

「麗華、俺等は大蛇を封印するぞ」

 

「分かった。

 

母さん!父さん!鏡の準備」

 

 

麗華の言葉に優華達は、蔵の中へと入り晴明と共に鏡を探した。

 

時間を掛けようやく見つかった鏡を抱え、晴明は鏡を置き鏡を囲うようにして優華と輝二は立った。

 

 

「準備OKだ!」

 

「分かった!

 

麗華、いくぞ」

 

「了解」

 

 

二人の合図に焔と渚は空へと上がり大蛇を見た。麗華と龍二は立ち上がり同時に札を投げると、大蛇の首を絞める様にして札から光線が出て来た。

 

 

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

「臨、兵、闘、者、皆、陣、列、在、前」

 

「闇に潜む邪悪な影よ!汝の犯した罪を思い知れ!」

「闇に潜む邪悪な影よ!汝の犯した罪を思い知れ!」

 

 

言葉に反応するかのようにして、陣は輝きを増し大蛇の身体に光線を貫かせた。大蛇はもがき苦しみながらも、最後の力を振り絞り口から三本の刃を放った。放たれた二本の刃は麗華と龍二の頬を擦り、もう一本は麗華の結っていた髪留めに当たった。

大蛇は雄叫びを上げ、鏡の中へと吸い込まれていきその衝撃なのか、境内全体に強風が吹き荒れた。

 

 

封印され、風が止むと顔を腕で覆っていた麗華と龍二は恐る恐る腕を下ろし鏡の所へと向かった。渚と焔が降り立つと二人はすぐに飛び降り、優華と輝二の元へ駆け寄った。

二人は麗華と龍二を待っていたかのようにして、駆け寄ってきた二人をそれぞれ受け止め抱き締めた。

 

 

その光景を梓は、怒りの目付きで見ていた。

 

 

「これ以上、邪魔をするなら……」

 

 

薙刀を弓へと変え、二本の矢を糸と毒で作り出した。弦に一本の矢筈を嵌め引いた。

 

 

「龍二……あなたがいななれば、麗華も他の奴等皆、お・わ・り」

 

 

独り言を言いながら、梓は矢を放った。矢は容赦なく龍二の背中に当たり、彼は輝二に凭り掛かるようにして倒れた。優華は麗華を自分の後ろへ隠し、晴明は札を手に印を結びながら梓に攻撃した。梓は難なくその攻撃を避け、庭の池に掛かっている橋の上に乗った。

 

 

「梓!!テメェ」

 

「大事なものを無くすのって、どういう気持ちかしら?」

 

 

その時、渚は目の色を変え力を活発化するかのようにして、彼女の身体を纏っている水が沸騰した。それは渚だけでなく焔も同じだった。彼の身体を纏っている炎は、噴火したかのように燃え上がっていた。

 

 

「な、何という霊力だ……

 

もしかしたら、鬼よりも遥に上だ」

 

「……妖狐」

 

「?」

 

 

玉藻の近くにいた牛鬼は、彼に話し掛けた。

 

 

「お前が持っている残りわずかの霊力を、全部そこの鬼に渡せ」

 

「なぜ?」

 

「鬼の力を発揮すれば、梓は倒せるはずだ。

 

もう……彼女をこれ以上苦しめさせたくないんだ」

 

「牛鬼……」

 

「俺の勝手な行動で、誤って作り出した妖怪だ……

 

もう、自由にさせたいんだ……だから頼む」

 

 

牛鬼の真剣な目付きを見たぬ~べ~……彼はしばらく考えると、彼に身体を向け手を差し出した。

 

 

「麗華のためだ。俺は喜んで協力する」

 

「恩に着る」




力が暴走したかのように、唸り声を上げる焔と渚……優華の後ろにいた麗華は飛び出し、二匹の元へ駆け寄り頭の上に手を乗せようとした。
だが二匹の身体は、炎の暑さと水の冷たさになっていた。それに驚き、麗華は咄嗟に手を離し見た。右手は水で濡れ余りの冷たさに震え凍傷し、左手は炎に触れたことにより火傷を負っていた。


「焔、渚……」


二匹の目を見た時、一瞬Kの事を思い出した。操られ苦しんでいた焔と渚……

その事を思い出した麗華は二匹の首に手を回し抱き締めた。半身に熱と冷気を感じながらも、麗華は二匹に優しく声を掛けた。


「辛いよね……渚、焔。

自分達が守ってきた主……大事な人が、目の前で倒されて……
だからって……自我を失わないで……


私を独りにしないで」

「!!」


言葉が通じたのか、二匹から熱と冷気は全く感じなくなった。


「渚、焔。


私に力を貸して……梓を倒そう」


麗華の言葉に唸るのを辞め、そして彼女と目を合わせた。二匹の目はいつもの目の色に戻っていた。元に戻った焔と渚は麗華の頬を舐め擦り寄った。

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