地獄先生と陰陽師少女 作:花札
本堂に集まる陰陽師一族は、元の原因は麗華にあると決めつけ、彼女を蔵へと閉じ込めた。
「何で麗華が閉じ込められなきゃいけねぇんだ!!」
本家に抵抗するかのように、龍二は今にも殴り掛かろうという勢いで、当主を睨んだ。そんな彼を輝一は慌てて止め、龍二を抑えた。
「あの妖怪も言っていたではないですか……自分は麗華の分身だと」
「分身じゃねぇ!!」
「龍二君!抑えて!」
「とにかく、あの子を閉じ込めておけば、あの妖怪もこちらには手を出さないでしょう。
妖怪達の狙いは、あの麗華という娘一人……もしもの時は、あの子の生き血を授けましょう」
「生き血って……テメェ等!!」
殴り掛かろうとした龍二を、輝一は全力で抑えそして別室へと連れて行った。その後残った輝三は、話をし自分達一族がいる部屋へと行った。
部屋へ入ると、龍二は怒りからか、輝一の顔を思いっきり殴り飛ばした。龍二に殴られた輝一は、泰明に受け止められ、彼は頬を抑えながら龍二を見た。
「その言葉、もう一度言ってみろ……例え伯父でも、俺は許さねぇぞ」
「何があった」
「輝一が、いっその事麗華ちゃんをあの妖怪に渡そうって……」
「……輝一。
お前、実の弟の娘を、妖怪の贄に出すって言うのか?」
戸を閉めながら、輝三は輝一の方に目を向けた。怒りに満ちた彼の目を見た輝一は逸らすようにして、顔を下に向いた。
「何か答えたらどうだ?」
「……」
「お前、何も感じないのか?双子の弟の娘だぞ」
「……
今起きてる状況を、解決するなら一人の犠牲を出しても……問題は無いだろ」
その言葉に、龍二はまた殴り掛かろうとした。そんな彼を文也が慌てて抑えた。すると輝三は龍二の代わりにとでも言うかのようにして、輝一の顔を思いっきり殴った。
「一人の犠牲だ?ふざけんじゃねぇ!!
この二人は、神崎家と三神家の血を……輝二と優華の血を引いてんだぞ!!俺等の家族なんだぞ!!」
「それぐらい、俺にだって分かってる!!けど、この一大事を解決するにはやっぱり」
「解決するごときで、何で麗華が犠牲に何だよ!!
そんなんじゃ、本家の奴等と変わらねぇじゃねぇか!!」
「龍二君、抑えて!」
そんな争いの声が響く部屋を、陽一は蔵の近くから眺め見ていた。蔵の前では果歩がスケッチブックに絵を描きながら、ドアを見上げていた。
その頃中では、置かれている荷物の隅に入り麗華は蹲っていた。そんな彼女をは心配そうに、鳴き声を上げながらシガンは頬擦りした。
『これは一大事やぞ!!』
『まさか……大昔に封印されてた妖怪が、復活するなんて……』
倉に入れられる数時間前に、一族は慌しく話していた。麗華は怯えた様子で陽一の後ろに隠れずっと彼の裾を握っていた。
『先程、四方に管理する者達から連絡を受けましたが……社に封印していたはずの鏡が全て、割られていたみたいです』
『やはりか……』
『そして、最後の鏡である、ここの鏡を割り封印から目覚めた』
『そういえば、あの妖怪はん……麗華はんのこと知ってるようでしたな?』
『!』
『龍二はん、何か知ってるんですかい?』
『……以前、闘っているんです』
『闘ってる?』
『ハイ……
俺の母である優華を殺した妖怪達が、麗華をさらい彼女をもとに作り出した妖怪……殺人鬼なんです』
『殺人鬼?』
『アイツは……梓は、この世にいるすべての生き物を殺すまで、大人しくはなりません。
止めを刺そうとした時、彼女は逃げそれ以降はずっと』
『行方知れず…ですか?』
『……』
『何なら、話は早いですな。
恐らく、その梓という妖の狙いは力のパワーアップ……そのためには、分身である麗華はんを殺すのが条件』
『つまり?』
『……麗華はんを、隠せばいいんです。蔵にでも、彼女が逃げないよう閉じ込めておけば』
『!!待て、何で!!』
本家の男に抑えられた龍二……陽一も何とか抵抗しようとしたが、男達にすんなり抑えられ、腕を掴まれた麗華は激しく抵抗したが、そのまま蔵へと放り込まれた。
その事を思い出した麗華は、顔を上げ虚ろな目で頬擦りしてきたシガンの頭を撫でた。すると、蔵の鍵が開く音が聞こえ、麗華は鋭い目付きでその蔵の扉を睨んだ。彼女と同様にシガンも、毛を逆立たせ威嚇の声を上げた。
「……?輝三」
扉を開けたのは、輝三だった。彼は黙って中に入り、麗華の手を掴みとそのまますぐに、本堂の裏へと回った。裏へ行くと、そこには龍二達がおり、そして狼姿になっていた焔達もいた。
「何で、皆……」
「結界を開ける。スピードのある氷鸞に乗って、お前は今すぐ童守町に行け」
「何で?」
「鵺野達に助けを求めるんだ……」
「鵺野に?」
「いつまでも、こんな所に長居はできない……
あれから、三日は経つ。そろそろ、本家の奴等は限界だ」
「けど、何で私が……」
「奴等はお前を蔵に閉じ込めたことになっている……そのお前が消えたところで、何の騒ぎにはならない」
「……でも、結界が開いたら、本家の奴等に」
「大丈夫だ。ここの結界は俺が張ったやつ。ちょっと空いたところで、誰にも気づかれはしない」
「……」
「さっさと氷鸞出せ」
「う、うん」
懐から紙を出し、それを投げた。紙は煙を上げ中から氷鸞が鳥の姿となって現れた。
「焔は、シガンと同じ様に鼬姿になって、麗華の肩に乗っとけ。鼬姿になっとけば、多少霊気は弱くなってあの梓に気付かれにくい」
「分かった」
鼬姿になった焔を肩に乗せた麗華は、鳥の姿になっていた氷鸞の背に乗ろうと手を掛けた時だった。
「麗!」
乗ろうとした麗華を、陽一は呼び止め何も言わずに彼女にある物を渡した。受け取った物を見ると、それは陽一がいつも耳に着けているリングだった。
「これ……」
「お守りや。あの阿呆面先公、呼んで来い!」
「……うん」
笑みを浮かべて、麗華はリングを指に嵌め、氷鸞の背に飛び乗った。氷鸞は稲妻のスピードで、空いた結界をすり抜け外へと飛び出した。
京都で起きた現象は、童守町でも起こっていた。黒い霧のせいか、童守町に住む妖怪達が活発化し、人間達を襲う様になっていた。学校は休校になり、ぬ~べ~達は悪事をする妖怪達を倒していった。
「くそ!多すぎる!」
「京都で何があったのかしら……確か、龍二と麗華ちゃん、そこに行ってるのよね」
「そのはずだ」
真二と緋音は、心配そうにして灰色に覆われた空を見上げた。
その時、路地裏に置かれていたゴミ箱が転がり倒れる音がした。真二は筒を向け、緋音は持っていた木製の薙刀を構えた。すると路地から出てきたのは、顔に布を巻き手に何かを抱え出てきた子供だった。
すると、背後から妖怪の群れが子供に向かって襲い掛かり、二人はすぐにそれを退治しようとした時だった。
「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!いでよ!!火之迦具土神!!」
その声と共に、その子供の手から炎を作り出し群れを一気に倒した。その見覚えのある攻撃と声に、二人は互いの顔を見合わせ、そしてその子供を見た。
「……麗華ちゃん?」
緋音の呼び掛けに反応するかのようにして、子供は顔に巻いていた布をとった。それは髪が乱れ、よく見ると手に血塗れになっている鼬姿になっている焔を抱えた麗華だった。麗華は二人を見て安心したのか、力なくその場に倒れ、倒れかけた彼女を慌てて真二が支えた。
すると路地裏から、鎌を引き摺った傷だらけの鎌鬼が姿を現し、そして傷を抑えながらその場に座り込んでしまった。
「どうしたんです?!その傷?!」
「ハァ…ハァ……れ、麗華は?」
「麗華は、今緋音が抱えてる」
「よ……良かった……」
鎌鬼は安心したかのようにして、その真二に寄り掛かる様にして気を失った。
「何?!麗華が?!」
それから数時間後、ぬ~べ~の元へ真二が電話をした。麗華が茂の病院にいると……ぬ~べ~はすぐに玉藻と共に、茂の病院へ向かった。彼の病院内では、妖怪に襲われた被害者が多数いた。
「先生!こっちです」
手を振る茂の姿を見つけたぬ~べ~達は彼に案内され、病室へと案内された。部屋には包帯を巻き、目を覚ました鎌鬼とベットで眠っている麗華の姿だった。
「麗華……」
麗華は所々に包帯を巻き、不安げな顔で眠っていた。ベットの傍に置いてあったキャビネットの上には、包帯を巻いた焔が眠っていた。二人を心配するかのように緋音と真二が椅子に座っていた。
「体の至る所に、切り傷と打撲傷があった。焔も麗華ちゃん同様に、体中に切り傷ががあるけど、眠ってる様子を見ると後数時間も眠れば、治るよ。妖怪だからね。
取り合えず、二人に命の別状はない。これだけは断言できるよ」
「そうですか……」
「麗華ちゃん……京都で何があったのかな」
「……それは、僕が説明するよ」
目頭を手で抑えながら、鎌鬼はそう言った。
「鎌鬼……大丈夫なのか?」
「何とかね……麗華と比べれば、僕なんてまだ軽いほうだよ」
「一体、何があったんだ?」
「……四日前、突然京都を中心に黒い霧が多い被ったのを知っていますね?」
「あぁ。ニュースで知った」
「その黒い霧の発端は、梓が原因です」
「?!」
「梓だと?!」
「ハイ……彼女は、大昔に麗華の先祖が封印したとされている、凶暴な妖を復活させてしまったんです。
あの黒い霧は、妖怪達を狂暴化させる霧……凶暴化した妖怪達は、人前に姿を現し、人々を次々に襲って行きました。大半の人々は、避難することが出来ましたが、黒い霧が多い逃げることが出来なくなった人々を、陰陽師……麗華の本家が住んでいる屋敷を中心に結界を張り何とか難を逃れています。
ところが、本家の者達はこの事件の原因は全て、麗華にあると勝手に決めつけ、彼女を蔵へ閉じ込めました。理由は、梓の狙いが麗華だと勝手に決めつけ、彼女が見つからなければ、屋敷は被害を受けずに済むと考えそして、もしもの時麗華を殺すためでした」
「そんな……麗華ちゃんは何も悪くないわ!!」
「龍二もそう言って、反攻した。けどそれは何の意味もなさなかった。
それから数時間後、輝三が突然麗華を蔵から出して、彼女にあなた方二人を連れてくるように言って、氷鸞と共にここへ来たんです」
「俺達を?」
「なぜ、私達を」
「力だと思います……あなたは鬼の力。あなたは妖狐の力。
この二つの力で、何とかなると思って輝三はあなた方二人に助けを求めたんだと思います」
「……」
「けど、俺達が会った時、麗華の奴氷鸞には乗ってなかったが……」
「氷鸞は敵の攻撃が激しく、童守町に来る前に麗華が戻して、そこからは一人で顔を隠してここまで来たんだ」
「……麗華」
不安げに眠る麗華……寝返りを打った彼女は、ベットの上にあった緋音の手を強く握った。それに気付いた緋音は、麗華の方を向き、彼女の頭を撫でながら、優しく抱きしめた。
「大丈夫だよ……もう、大丈夫だからね」
「……茂さん、麗華はいつ頃目を覚まします?」
「彼女の意識次第だよ。
起きたいって思いがあれば、すぐに目は覚ます……けど、覚ましたくないって思えば、永遠に覚まさない」
「じゃあ……目覚めるのは、彼女次第……」
「そうなります。
今は、見守っていましょう」
京都で起きた事件は、ずっとニュースで報道されていた。そのニュースは、安土と牛鬼、ショウと瞬火、そして都会から離れた小さな町で桜雅、そして楓が見ていた。彼等だけでなく、空の不穏な様子に猿猴の青と白は空を見上げ、森の奥深くで、小さい桜の木の根元に座っていた皐月丸も空を見上げ、輝三のいる里に住む妖達も空を見上げていた。
そして遠くにいる、龍実や島に住む者達も、京都の異変に気づいていた。
「麗華……」
「お兄ちゃん……麗華お姉ちゃん、大丈夫かな?」
「……」
「助けに行きてぇけど……荒れてる海が治まるまでは」
「……」
縁側では、鮫牙が不安げな顔でずっと空を見上げていた。彼と同じようにして、大助は小島の崖沿いに腰を下ろし、荒れた海と空を眺めていた。
テレビを見ていた牛鬼達は互いの顔を見合い、姿を変えてどこかへと向かった。その行為は桜雅と楓、青と白、そして皐月丸と輝三の里の妖達もどこかへ向かった。
麗華が茂の病院へ運ばれてから数時間後……麗華は、魘されながらゆっくりと目を開けた。
「麗華ちゃん!」
目を覚ました麗華に、緋音は彼女の顔に自身の顔を近づかせた。麗華は瞬きをしながら、ゆっくりと視界がはっきりしていき、緋音の顔を見た瞬間飛び起きた。
「緋音姉さん…真二兄さん」
「気が付いてよかった……」
「鵺野……それに、玉藻」
気が緩んだ途端、麗華の目から自然と涙があふれ、彼女は見せぬように顔を下に向けた。そんな彼女を、緋音は抱き寄せた。麗華は緋音にしがみ付き、泣き出した。
「麗華ちゃん……」
「無理もないですよ……本家にいる間、罪もないのにずっと蔵に閉じ込められていたんだから。童守町へ向かっている最中、途中途中で妖怪達が自分達を襲って、氷鸞を傷付けられ、焔も傷付けられて……やっと着いた場所でも、襲われたんだ……よっぽど、怖かったに決まっているよ」
しばらくして、落ち着きを戻した麗華は、目覚めた焔の頭を撫でながら鵺野達を見た。
「話は、鎌鬼から聞いた」
「……」
「我々は、あなたの手助けをしようと思っています」
「……なら、すぐに着て」
「それはしたいが……今は新幹線も電車も、今日とは通れないんだ」
「そんなもんで行かない。氷鸞を使う」
「待て。氷鸞は傷だらけなんじゃ」
「傷はおってる。けど、そんなに深くない……早く行かないと、兄貴達が」
「……」
「傷なら、私に任せなさい」
その声に、窓に目を向けると、妖怪の姿をした楓が立っていた。
「楓……」
「傷は私が治す。その代り、私も京の都へ連れて行きなさい」
「いいけど……大丈夫なの?」
「大丈夫。言ったでしょ?アンタ達二人がピンチの時は、何があっても駆けつけるって」
「……」
楓は麗華の頭を撫でながら、優しく言った。麗華は楓の顔を見ながら、氷鸞を出した。氷鸞は人の姿で腕から血を流しでてきた。
「酷い傷……けど、大丈夫。すぐに治すから、大人しくしてて頂戴」
「わ、分かりました」
「傷が治り次第、すぐに行く」
「分かった」
「分かりました」
「童守町は、俺達に任せろ」
「町にはイタコが二人、雪女さんがいますから、大丈夫ですよ!」
「心強いよ。
麗華、僕は一度シガンに戻るよ。この妖気じゃ、移動している最中にでも妖怪に感じられたら、必ず襲い掛かってくる」
「分かった。焔もお願い」
「了解」
二人は鼬とフェレットの姿へとなり、麗華の傍へと寄った。麗華は二匹の頭を撫でると、ベットから降り壁に掛けられていた狩衣に腕を通した。
数分後、傷の癒えた氷鸞は病院の外で、鳥の姿になり麗華達を待っていた。玉藻は先に氷鸞の背に乗り、ぬ~べ~は緋音と真二に後の事を頼み、麗華と共に氷鸞の背に乗った。氷鸞は最後に乗った楓を確認すると、氷鸞は羽を羽ばたかせ、稲妻の様なスピードで空へ飛び立った。