地獄先生と陰陽師少女 作:花札
「お!美味っそうな匂いや」
「帰ったか」
「龍二兄ちゃん!ただいま」
「お帰り。早く、手洗ってこい」
「おう!」
靴を脱ぎ、陽一は洗面所へと向かった。彼に続いて麗華も行こうとした時、龍二は麗華を呼び止めた。麗華は振り返り彼の方に目を向けた。
「何?」
「……
明日から、京都に行く」
「……え?」
「一族全員に、召集がかかったんだ。
理由は二つ……一つはここ童守町で感じる数々の妖気と、ここ最近妖怪達の動きの活発化……そいつ等の今後の対処について……それともう一つは……」
「……兄貴、もう一つは?」
「……
今後、山桜神社と俺達二人をどうするかの話だ」
「……え」
翌日……麗華と龍二は、それぞれの学校に休学届を出しに学校へと向かっていた。
学校に着いた麗華は、教室へ行かず職員室のドアを開け、ぬ~べ~を呼んだ。
「十日近くも休学するのか?」
空いていた教室で、ぬ~べ~は麗華から渡された紙を見ながら彼女に質問した。
「一応、十日だけど……それ以上かかるかもしれない」
「しかしだなぁ……何で、京都に行くだけで休学するんだ?しかも十日も」
「それは……」
口籠った麗華は、顔を下に向けてを強く握った。そんな彼女の様子に疑問を抱きながら、ぬ~べ~は静かに声を掛けた。
「麗華」
「?」
「その京都には、いつ行くんだ?」
「今日」
「……は?」
「だから、今日だって」
「……何?!」
「大声出さないでよ」
「出すわ!!今日休学届を出して、それで今日行くってどういう事だ!!」
「そんな事言われたって、伯父の家族が昨日迎えに来て、それで今日行くって言ったんだから仕方ないでしょ?」
「伯父の家族って……陽一君の家族か?」
「そうだよ……もう帰っていい?多分、校門前に兄貴が迎えに来てるからさ」
「あ、あぁ。分かった」
「じゃあ、あとはよろしく」
そう言いながら、麗華はドアを開き教室を出て行こうとした。だが彼女は足を止め、ふとぬ~べ~の方に目を向けた。
「……バイバイ」
小さい声でそう囁くと、麗華はドアを閉め誰にも目を合わせず、走って学校を出て行った。途中すれ違った広たちは、彼女の様子を気になり追い駆けたが、校門を抜けた先に龍二が待っており、彼の元へ行くと二人は家へと帰って行った。
「麗華の奴、どうしたんだ?」
「今日、学校休みなのかしら?」
「さぁ……」
“キ―ンコーンカーンコーン……キ―ンコーンカーンコーン”
「わ!やっべぇ!」
「遅刻しちゃう!」
チャイムの音に、郷子達は慌てて学校に入った。チャイムが鳴った頃、麗華は足を止めふと童守小を眺めた。
「……」
「麗華」
「……」
「行くぞ」
足取りの重い麗華の手を、龍二は握りその手を引き帰って行った。
新幹線に乗り、窓の外を麗華は眺めていた。元気のない彼女に、向かい席に座っていた陽一は持っていた和菓子を差し出した。
「ほれ、饅頭。
桜雨堂のや。これ食って元気出せ」
「……」
「アンタ、いつの間に」
「麗の家にあったもん、持ってきた」
「アンタね……」
「……」
「食っとけ。朝から食べてないだろ」
「……」
龍二に勧められ、麗華は陽一からお饅頭を受け取り、それを一口かじり食べながらまた外を眺めた。
数時間ほど新幹線に乗り、無事京都へ着いた。駅を出ると先に着いていた焔達は、鼬姿へとなりそれぞれの主の肩へと飛び乗った。焔に続いて、彼の傍にいたシガンも彼女の肩へと乗り頬擦りした。
「なぁ、麗」
「?」
「そのフェレット、どなんしたん?」
「訳有って、飼い出した」
「フ~ン」
陽一は興味なさそうに声を出しながら、シガンの頭を撫でようと手を伸ばした。シガンは彼の手の匂いを嗅ぐと、陽一が気に入ったのか彼の手に擦り寄った。
「へ~、可愛いやん」
「珍しい。私と兄貴以外、懐かないのに」
「おーい、行くぞ!」
「はーい」
「はーい」
同時に返事をしながら、二人は先行く皆の後を追いかけて行った。
そんな麗華達を京都駅の屋根から、眺める者がいた。その者は、笑みを浮かべてその場から姿を消した。
数時間後、開いている門前に麗華達は着いた。門を潜るとその中は平安時代に建てられた豪邸が広がっていた。
「……スゲェ」
「……」
「そうか……麗華は初めてだったな」
「兄貴は着たことあるの?」
「二歳か三歳の時に、一回。それっきり着てない」
「フ~ン……」
屋敷へと入った麗華達は、用意されていた部屋へと案内され正装の服へ着替えた。
「袖長い……」
「我慢しろ。楓が大きめに作ったんだ。
お前の歳じゃ、この先大きくなるから」
着替え終えた麗華と龍二は障子を開け外へと出た。すると聞き覚えのある声が聞こえ、声の方に顔を向けるとそこには同じ正装の服を着た輝三の家族がいた。
「輝三!」
「?
よう、お前等」
「輝三達も着てたのか」
「一応、俺はこの本家の相談役だぜ?」
「そういえば、そうだったな……」
「麗華ちゃん、久しぶり!」
「お久しぶりです」
「この子が麗華ちゃんかぁ。何か、大人びてるね」
「……」
泰明の傍にいた赤ん坊を抱えた女性と果穂と手をつなぐ男性は、麗華を見ながらそう言った。
「えっと……」
「あ!紹介がまだだったわ。この人は文也。私の旦那」
「麗華ちゃんは一度会ってるけど、龍二君はまだだったよな?こいつは、真理菜。俺の嫁で真理菜に抱かれてるのが、今年の夏に生まれた俺の子供の大雅だ。
ついでに言っとくけど、真理菜と文也さんは兄妹なんだ」
「初めまして、神崎麗華です」
「兄の神崎龍二です」
「初めまして、僕は月神文也(ツキガミフミヤ)。仕事の関係でずっと海外の方に行ってたんだけど、妻から君達二人の話を聞いて、是非会ってみたいと思っていたんだ。会えて嬉しいよ」
「私は月神真理菜。麗華ちゃんとは、冬に一回会ってて、お兄さんの龍二君は初めましてだね」
「初めまして」
自己紹介している時、障子が開き中から陽一達が出てきた。
「あ!輝三の伯父さん!」
「おう、陽一か。デカくなったな」
「お久しぶりです。伯父さん、伯母さん」
「美幸ちゃん、随分と彩華に似てきたわね」
「姉さん、またぁ」
「兄さん、ちゃんと二人のしつけしなきゃ、ダメじゃないか!」
「文句があるなら、自分で育てればよかっただろ。
俺は俺流で、育てただけだ」
「無責任な事を言うな!
兄さんがちゃんとしつけないから、麗華ちゃんも龍二君も態度といい口といい、悪いじゃないか!」
「弟の子供を捨てたテメェに、言う資格は無い」
「何だと!!」
輝三に言われた輝一は、火が点いたようにして言い返し始め、ついには激しい口喧嘩へと変わった。
「また始まったわ……兄弟喧嘩」
「全く……いくつになっても飽きないんだから」
「あの怒鳴り方、姉貴にそっくり」
「何ですって」
「怒鳴り方が、そっくりって言ったんです」
「ちょっと、どういう意味よ!」
輝三達に続いて、泰明と里奈も喧嘩を始めた。
「泰明さん達も始めちゃった……」
「私、頭が痛いわ」
「姉さん……」
「うへ~……父ちゃん、マジで怒ってるわ~。
ああいう、悪い口の言い方、姉ちゃんそっくり」
「私、ああいう下品な言い方、したことないで」
「どうだが」
「なんやてぇ!!」
泰明達に続いて、陽一と美幸も喧嘩を始めた。親子二代、しかもトリプル兄妹喧嘩を目の当たりにした麗華と龍二……ハッと後ろから殺気を感じ、恐る恐る振り向いた。後ろには二人の妻が、殺気のオーラをあげていた。その殺気に、怯えたのか真里菜に抱かれていた大雅が泣き出し、文也の手を握っていた果歩は麗華に泣きついてきた。
「いい加減にしなさい!!」
「いい加減にしなさい!!」
二人の怒鳴り声で、トリプル兄妹喧嘩はピタッと止まった。鼬姿になっていた竃達は、嫌な予感が察し主から離れ龍二達の元へと非難した。
「ったく、何です!!良い年した大人が喧嘩なんかして!!
輝三!!アンタ、もう五十過ぎてるに、何です!?孫もできてるのよ!!」
「う……」
「泰明、里奈!!アンタ達二人は、もう一児の親なのよ!!未だに喧嘩してちゃ、子供の教育上悪いじゃない!!」
「す、すいません」
「す、すいません」
「輝一!!アンタ、子供のしつけには厳しいけど、アンタがそんなんじゃ、話になりまへん!!」
「す、すまん……」
「美幸!!アンタはもう、高校生何やで!!少しは落ち着きなさい!
陽一!!いつまでも、お姉ちゃんをからかわない!いい加減大人になりなさい!!」
「は、は~い」
「は、は~い」
「少しは、麗華ちゃんと龍二君を見習いなさい!!アンタ等」
二人の女に怒られた、兄弟達は身を縮込ませていた。そんな二人の女の背中を、龍二と麗華は呆気に口を開けながら見ていた。
「スゲェ……」
「トリプル兄妹を、一発で黙らせた」
「母強って、まさにこの事だね」
「うん…」
“パリ―ン”
粉々に割れた鏡……ひび割れた箇所から、黒い霧が上がりそれはどこかへと飛んで行った。
(あと一つ……これで、復讐できるわ)
笑みを浮かべ、鏡を割った犯人はその場から姿を消した。