地獄先生と陰陽師少女 作:花札
ある社の前に立つ、一つの影……社の中へ入り、影は中に札が貼られた鏡を手に取り、それを叩き割った。
すると、割れた鏡から黒い影が姿を現した。それを見たものは笑みを浮かべその影と共に社を去って行った。
自販機でジュースを買った郷子達は、公園のベンチに座り早速麗華に質問した。
「麗華、この人誰?」
「従姉弟の三神陽一。
一応、私達と同い年だよ」
「あ、同い年だったんだ」
「てっきり、年上かと思ってた」
「改めて自己紹介させて貰うで。
俺は三神陽一。呼び方なら、何でもええで。麗からは『陽(ヨウ)』って呼ばれてるし」
「麗だって」
「焔達も麗って呼んでるよな?」
「ねぇ、陽一君、一つ聞いてもいい?」
「ええで」
「陽一君と麗華って……出来てるの?」
「出来てる?
麗、どういう意味や?」
「……細川、あとで面貸せ」
「え、遠慮しときます(怖……)」
「出来てるって、結婚相手がいるってことか?」
「そうそう!」
「陽!変な事」
「麗は、俺の女やで。
それに許嫁や。なぁ!」
(馬鹿……)
その言葉に、郷子達は持っていた缶ジュースを落とした。
「……い」
「……い」
「……な」
「……づけ」
「おう!」
「許嫁?!!」
大声を発しながら、郷子達は飛び上がり驚いた。その反応に陽一は首を傾げ、麗華は手で顔を覆い下を向いた。
「嘘ぉ!!
じゃあ将来、麗華が一番先に結婚しちゃうって事?!」
「なぁなぁ、許嫁ってなんだ?」
「阿呆!!
許嫁っていうのは、将来決めた結婚相手の事よ」
「簡単に言えば、広と郷子みたいな関係よ」
「美樹!!」
「そんなに驚くもんか?」
「驚くわよ!だって麗華に限って」
「何でや?
可愛いやん、麗」
「可愛いときたぜ、可愛いと」
「ちなみに、二人はどこまでいってるの?」
「いってる?何や?いってるって」
「細川、後で知り合いの妖に言って、テメェのその胸、稲葉と同じサイズにするよう頼んどいてやる」
「それだけは辞めてぇ!!」
美樹に泣きつかれた麗華は、知らん顔をして缶ジュースを飲んだ。そんな光景に、陽一は安心したような表情を浮かべて彼女を見ていた。
「よかったわ。麗に友達出来て」
「え?」
「いや、こっちの話や。
なぁ!お前さん達の学校行こうで!」
「学校?何で」
「麗が通ってる学校、俺見たいんや!なぁ、行こう!」
「そうだな」
「ぬ~べ~に紹介しないと」
「何でそうなるのよ」
「そうと決まれば、麗行こうや!」
座る麗華の手を引き、陽一は走って行った。二人の後を郷子達は慌てて追い駆けて行った。しばらくして、学校に着き校舎の中へと入ろうと校門をくぐった時だった。
「入るな!!今すぐ逃げろ!!」
校舎の中から聞こえたぬ~べ~の声に、麗華と陽一は何かを察して互いにアイコンタクトし、郷子達の手を引き学校から出ようとしたが、既に遅く目の前に巨大な蜘蛛の妖怪が立っていた。
「!?麗!目瞑れ!」
陽一の言う通りに、麗華は目を瞑った。陽一は肩に掛けていたバックから紙を出し、それを投げた。紙は煙を放ち、中から羽織を肩に掛け胸にさらしを巻き、口に枝を銜えた女性が姿を現した。
「風月!そいつに、火の攻撃!」
「あいよ!頭!
火術棒線華!」
手から火の棒が無数に飛び、棒は蜘蛛に攻撃し蜘蛛は悲鳴を上げ後ろへ下がった。その隙にぬ~べ~が校舎から飛び出し、郷子達を中へと入れ陽一は麗華の手を引き、一緒に入って行った。彼等に続いて焔と風月、そして一緒に来ていた女性も校舎の中へと入った。
校舎の保健室へ行き、外の様子を伺い何とか難を逃れたぬ~べ~は、安堵の息を吐いた
「とりあえず、今は一安心だ」
「何なの?あの蜘蛛」
「土蜘蛛と言って、人を喰らう妖怪だ」
「土蜘蛛?待って、そいつは確か」
「アイツ等とは関係ない。
恐らく、野良の様なもんだ。心配するな」
「……」
「それより、そこの男の子は誰?」
「あぁ、この子は」
「三神陽一。麗の従姉弟で許嫁や。よろしゅうな!阿呆面さん」
「……許嫁?!!
何?!お前等、もうできてたのか?!」
興奮して、大声を上げるぬ~べ~に麗華は裏拳を喰らわせ、陽一には拳骨を喰らわせた。
「酷いなぁ…殴ることないやろ?」
「余計な事言うからでしょ」
「……?」
その時、廊下から足音が聞こえ、ぬ~べ~達は警戒した。足音は保健室の前で止まり、そして勢いよくドアが開いた。
「お!いたいた」
ドアを開け中へ入ってきたのは、焔達だった。
「頭、捜しましたで」
「よう分かったな?俺等がここにいるって」
「そりゃあ、あっしは頭の子分ですから!」
「風月!陽を甘やかさんといて!
この子、すぐに調子に乗るんやから!」
「波の姉さんは、厳し過ぎやで?」
そう言いながら、風月は陽一の頭を撫でながら、焔の隣にいた女性に話した。
「全く、陽には甘いんだから……
まさか、焔は麗に甘くないわよね?」
「んなわけねぇだろ!」
「ないない…」
「ならええけど」
「麗華、この人達誰?」
「陽に抱き着いているのは、風月。火と風を使う妖怪で陽の式神。
そんで、そこの髪結ってる女は、陽の白狼で焔の許嫁」
「え?!焔にも許嫁がいるの?!」
「何だよ“にも”って」
「初めまして。波と言います」
「は、初めまして(可愛い人……)」
「そんじゃあっしも。
あっしは風月。こう見えても女だから、そこよろしくな」
「え?!女なの?!」
「何や、その驚き」
「ねぇねぇ、陽一君、一つ聞いていい?」
「?何や」
「さっきさ、あの巨大蜘蛛が出た時、何で麗華に『目瞑れ!』って言ったの?」
「そりゃあ……なぁ」
自分の方に目を向けた陽一の顔に、麗華は目を逸らし顔を赤めた。顔を赤くした彼女の頭に陽一は手を置いた。そんな二人に、美樹は郷子の耳元で小さい声でしゃべった。
「どこまでいってるのかしら?あの二人」
「さぁ……」
「広達よりは確実にいってるわよね、うん」
「俺等を基準に考えるな!!」
「世間話はこれくらいにして、本題入ろう。
鵺野、さっきの土蜘蛛……何で、この校舎に?」
「それは分からない。
お前等が帰って、他の先生方も帰った後、見回りしていたらアイツがこの校舎に入っていたんだ。すぐに退治しようと思った時、お前達がこの校舎に入ってきて……」
「なるほどなぁ……
麗、風操れる式おるか?」
「いるよ。そっちは氷操れる式いる?」
「おるで!」
「そんじゃ決まり」
「待て待て!
俺が全然、着いていけてない!」
「鵺野はいいよ。私達二人でやるから」
「せやせや。
阿呆面さんは、そのプンプン妖気を漂わせてる手でも撫でて、見ててください」
「麗華、コイツに一応俺の紹介してくれないか……今にも手が出しそうで」
「……
鵺野鳴介……私の担任だ」
「え?担任なん?この人」
「人を指差すな!」
夕日が差し込む廊下を歩く土蜘蛛……すると柱の陰から、氷鸞と右眼だけに包帯を巻き、黒い着流しに身を包んだ女性が、姿を現し土蜘蛛の背後から、氷の技を出し攻撃した。土蜘蛛はすぐに後ろを振り向き、口から毒針を吐き攻撃した。
氷鸞と女性は素早くその攻撃を避け、外へと飛び出した。土蜘蛛は彼等を追い、外へと飛び出た。飛び降りた土蜘蛛の前には、薙刀を構える麗華と刀を構える陽一がいた。
「麗、ホンマに大丈夫なん?」
「何が?」
「お前、昔っから蜘蛛だけは駄目やったやん」
「……大丈夫」
「……?」
ふと手元を見ると、薙刀を握っている麗華の手が震えていた。その手を陽一は強く握った。
「大丈夫や!俺が付いてる!
だから、心配すんな」
「……」
歯を見せて笑う陽一に、麗華は小さく頷いた。そして襲ってきた土蜘蛛に向かって、二人は同時に飛び上がり武器を振り下ろした。蜘蛛の口の牙を切り落とすと、二人はすぐにその場から離れ背後へと回った。
その様子を、ぬ~べ~は鬼の手を構え木の陰から眺め、郷子達は結界が張った保健室でその様子を見ていた。
「風月、火の攻撃!」
「雷光、風の攻撃!」
二人の命に、雷光と風月はそれぞれの技をだし攻撃した。二人の攻撃を喰らった土蜘蛛は、悲鳴を上げ後ろにいた麗華と陽一に気付いたのか尻を二人に向け、その瞬間、陽一は咄嗟に麗華を突き飛ばした。彼女を突き飛ばした直後、陽一の体に土蜘蛛の糸が覆い被さった。
「陽!」
呼び叫びながら、麗華は土蜘蛛に向かって薙刀を振り下ろした。彼女が振り下ろした直後、焔達はそれぞれの攻撃を出した。土蜘蛛は悲鳴を上げ、そして焔と風月の火の攻撃により、体が丸焦げになった。丸焦げになりながらも、土蜘蛛は麗華に向かって口から毒針を放った。
するとその時、糸に絡まれていた陽一が、糸から飛び出し彼女の前へ立ち毒針を弾き飛ばし、その毒針は土蜘蛛の頭に当たり、土蜘蛛は悲鳴を上げそのまま倒れ塵となり消えた。
「やったぁ!!」
保健室で、郷子達は歓声を上げて喜び、ぬ~べ~はホッと息を吐きながら鬼の手をしまった。
「麗!大丈……?」
刀をしまいながら、陽一は麗華の方に向いた。麗華は薙刀を落とし、顔を手で覆いながらその場に座り込んだ。
「麗?」
「……」
「……泣いてんの?」
「……無茶しないでよ」
「……」
泣き声でそう言った麗華を、陽一は何も言わず彼女の前でしゃがみ込み、そっと抱き締めた。二人の様子を、焔は傍にいた波を抱き寄せ、雷光と氷鸞は風月と氷月(ヒョウゲツ)は互いの顔を見ながら、しばらくの間眺めていた。
保健室で傷の手当てを二人は、受けていた。手当が終わった麗華は、トイレに行くと言い保健室を出て行った。彼女が出て行ったのを見計らった美樹は、陽一に話し掛けた。
「ねぇ、陽一君!ちょっと質問してもいいかしら?」
「答えられる範囲んなら、別に……」
「じゃあ聞くけど……ズバリ、麗華をどう思っていますか?」
「え?麗をどう思ってるかって?
う~ん、難しい質問やな~
大事にしたいって思ってる。これはホンマの気持ち」
「大事に?」
「麗の奴、つい最近までずっと遠縁の親戚に預けられてたやろ?そこで酷い事された見たいやし……それに、アイツの父ちゃんも母ちゃんも死んじまって、今家族で残ってるんは龍二兄ちゃんくらいしかいないし……
それに、あんな顔見たら……誰だって、麗の事大事にしなきゃって思うしな」
陽一の頭に蘇る記憶……夏休みの短い期間だけ、島から帰ってきた麗華の事を聞いた陽一は、姉の美幸と共に麗華達の家へと遊びに行った。家に着きドアを開け、大声で麗華の事を呼ぶと彼女は、怯えた表情で壁から玄関を覗くようにして顔を出した。その直後、自分の声に気付いたのか龍二が従弟である龍実と共に、驚いた顔で出てきた。
陽一は麗華の手を引き、外へと飛び出して行った。暑い中、自分の父が経営している店に行き、そこの店長に頼みお饅頭を二つ貰った。受け取った陽一は、一つを麗華に渡した。麗華は震える手で、お饅頭を受け取り陽一の顔を伺いながら、一口かじった。
『……?』
陽一は動かしていた口を止め、麗華の方を見た。麗華は目から大粒の涙を流し、その場にしゃがみ込んだ。そんな彼女を見た陽一は、一緒にしゃがみ込み背中を擦った。
『麗?どなんしたん?』
『帰りたい……』
『?』
『もう、あそこに帰るの嫌だ……帰りたい』
『麗……』
『何で、母さんも父さんも死んじゃったの?何で、麗華が大きくなるまで生きてくれなかったの?』
泣きながら、幼い麗華はそう訴えた。そんな彼女を陽一は、声を張って言った。
『俺がずっと傍にいてやる!』
『へ?』
『俺がずっと傍にいてやる!!そんで、お前が死ぬまでずっと生きてやる!!絶対、お前を独りにさせへん!!約束する!!だから、麗はもう泣くな!』
当時の事を思い出した陽一は、笑みを浮かべて郷子達に答えた。
「どう思ってるかは、まだ答えれへんけど……これだけは言える。
麗は絶対、何があっても俺が守る!これだけは言えるで!(もう、あんな顔はさせへんからな)」
「……ヤバ、イケメンだわ」
「アンタ達、こんなこと言える?」
「とてもじゃないけど……」
「言えねぇ」
「ぬ~べ~は、絶対言えないわよね?」
「お、俺だってあれくらい」
「へ~……
じゃあ、早く雪女(ユキメ)さんに、告白しちゃいなさいよ」
「い、いや、それはな……」
攻められるぬ~べ~……丁度そこへ、トイレから帰ってきた麗華は、彼等を見ながら陽一の傍へ行った。
「何やっての?」
「さぁ……」
「……」
「……麗」
「?……!」
立ち上がった陽一は、麗華の額にそっとキスをした。その光景を、焔と渚は郷子達に見られない様に、間に入り目隠しをした。
額から離した彼をしばらく放心状態で見ていた麗華は、咄嗟に彼の頬に麗華はお返しのようにして、そっとキスをした。
「お返しだから」
「おう!」
歯を見せ笑う陽一に釣られて、麗華も昔のように歯を見せて笑った。