地獄先生と陰陽師少女 作:花札
目の前に広がる、地獄のような光景……
血塗れの姿で倒れる麗華と龍二……腹部を貫かれ、血を流し木に寄り掛かりぐったりとなっている焔、渚、氷鸞、そして雷光。
絶鬼の傍には、彼に鷲掴みにされ血塗れになった玉藻と、揚力を使い果たし今にも死にそうになっている雪女が倒れていた。
すると絶鬼は、目を覚ましたぬ~べ~に気付き顔を向けた。
「ようやく気が付いたようだね」
「……」
「どうした?覇気が無いね。無理もないか、生きているのが不思議なくらいだからね」
「ぬ~べ~!」
「もう駄目よ!皆やられちゃったし、もうぬ~べ~には立ち上がる力もない」
「クックック……」
「お前は……奪った。
お前は……俺から大事なものを、たくさん……奪った。奪ったんだ!!」
怒りからぬ~べ~は自身の霊気を高めた。
「な、何?!
こ、この霊力は……百倍…二百倍……子、これまでとは桁違いの上昇だ!!この人間は一体」
『人は何か大事なものを守る時、真の力を見せるもの……人間を甘く見ていますとあなたは負けます』
かつて、絶鬼にそう言った人間がいた……だが、それが誰だったかは思い出せない。しかし、その言葉の通りの事が今目の前で起きていた。
「はあああ!!」
気合を溜めたぬ~べ~の左手の鬼の手は、彼の体を乗っ取るのようにして鬼化した。
「一体、何をする気だ?鬼の手を!?封じられた鬼の力を解放している!?」
「鬼である貴様の力を超えるには……鬼になるしかない!!」
『やめなさい鵺野君!!そんな事は無理です!
私とあなたが全力で押さえても、封印がとかれた鬼の力は制御できません!!鬼に心を支配されるだけです!』
耳に聞こえる美奈子先生の言葉を無視して、ぬ~べ~はどんどん鬼の力を開放していった。
「ぬ~べ~が鬼になって行く!」
「いやああ!!」
「ぬ~べ~!!」
強風が吹き、砂煙が舞い上がった。ぬ~べ~がいた場所には、覇鬼化した彼の姿があった。だが覇鬼は、力が制御できないのか、無意識に地面に膝を付いた。
「ククク……馬鹿め!鬼に支配されたな。
君を殺して、兄さんを開放するつもりだが、手間が省けてしまったよ!!良かったね、覇鬼兄さん。
さぁ、一緒に人間を殺しまくろう!」
「ぬ~べ~!!」
郷子の声に反応するかのようにして、覇鬼は絶鬼の顔面を殴った。
「な、何するんだ!兄さん!
気でもふれたか……!な、何?まさか」
「あれは……鬼じゃない!あれは……ぬ~べ~よ!!」
立っていたのは、『覇鬼』ではなかった……ぬ~べ~だった。
「バカな!!こいつ、鬼を精神力で支配しているというのか!?何故人間如きに、そんなことが」
「……雪女(ユキメ)は、こんな優柔不断な俺を愛してくれた」
そう呟くとぬ~べ~は、絶鬼を殴り飛ばした。
「玉藻は、敵ではあったが何度も互いに助け合った、良き戦友だった」
玉藻の事を言うと、ぬ~べ~はそれが仕返しのようにして、絶鬼の顎をを殴った。
「麗華と龍二は、口と態度は悪いが、俺が苦戦している時はすぐに駆け付け、そして力を貸してくれた!
そして……そして、俺の命より大事な生徒達……」
「調子に乗るなよ!人間がぁ!!」
腕に反動を起しながら、ぬ~べ~は絶鬼の腹を殴った。
「凄い!絶鬼の力を超えてるわ!!」
「頑張れぬ~べ~!!」
「一気に鬼門に落としちゃえ!」
(な……なんだこの力……鬼の力とは違う……それ以上の力だ!一体)
殴っていたぬ~べ~は手を止め、握った拳を見た。拳の背後に雪女や玉藻、いずな、そして自身の生徒達が映った。
(俺は……皆が好きだ。この町で暮らす皆が。
それを傷付けるものを、俺は許さない。たとえ、俺の体が朽ち果てようと…心が砕けようと俺は!)
自分を睨むぬ~べ~の目に、絶鬼はいつしか恐怖を感じていた。
(こ、これは……何人もの人間への驚くほど強い思いだ……絆だ……
それを傷付けられた怒り……お、恐ろしい。これほどの力を生むとは……僕は触れていけないものに触れたのか?!)
『人は何か大事なものを守る時、真の力を見せるもの……人間を甘く見ていますとあなたは負けます』
同じ声が、絶鬼の耳に響いた。絶鬼は目を見開いて、目の前にいるぬ~べ~を見た。
「地獄へ還れ!!」
鬼門へ絶鬼を、ぬ~べ~は突き落とした。彼は目から涙を流しながら、怯えた声で叫んだ。
「これが、人間の力……怖い…怖いよぉぉ!!」
悲鳴を上げながら、絶鬼は地獄へ還って行った。彼を返したおかげかぬ~べ~の体は、元の人間の姿へとなった。
「勝った……か。
余りに多くを……失った」
ぬ~べ~は力尽き、意識を失いそのまま倒れてしまった。
「……べ~!」
暗い闇の中……ぬ~べ~の耳に聞こえてきた微かな声。
「ぬ~べ~!」
その声は次第に大きくなり、意識を戻したぬ~べ~はゆっくりと目を覚ました。そこにいたのは、怪我が治った玉藻達だった。
「お、お前達!け、怪我はどうしたんだ?!」
「丙さんと雛菊さん、それに駆け付けてくれた楓さんが治してくれたのよ!」
郷子達が指さす方には、焔達を治す丙達がおり、その傍には怪我が治った焔達を抱き締める麗華と龍二がいた。
「よ、よかった!」
「鵺野、これで貸は返したからね!」
それだけを言うと、麗華と龍二は怪我が治った焔と渚に乗り、その場から立ち去った。牛鬼達も二人を見送ると、手を振りそのままどこかへと行き、楓達も麗華と龍二の後を追い帰って行った。
麗華達に釣られ、玉藻も帰って行った。
彼等を見送ったぬ~べ~は、安堵の息を吐いた。そんな彼に雪女は嬉しそうに抱き着いた。
「さぁ!皆で帰りましょう!」
「そうだな!帰るか!
(皆、ありがとう)」
ぬ~べ~は笑顔を向けながらそう思い、郷子達と帰って行った。