地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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鬼の急襲、陰陽師との因縁

病院の外に立つ少年……病室に一緒に来ていた麗華と郷子達を置き、ぬ~べ~達は外へ出た。

病室の窓から少年を見た美樹は、顔を赤くして興奮していた。

 

 

「あれが鬼?ジャニーズ系よね?」

 

「バカ」

 

「凄い妖気……(ここにいるだけなのに、凄い寒気)」

 

 

「あの女の子を着けて来れば、君に会えると思ってたよ」

 

 

出てきたぬ~べ~を見ながら、少年は嬉しそうにそう言った。龍二の傍にいた渚は狼の姿になり威嚇声を上げながら攻撃態勢に入った。そんな彼女を宥めるかのようにして、龍二は渚の頭に手を置き身構えた。

 

 

「貴様が、鬼か……」

 

「そう……焦熱地獄からやって来た、名を絶鬼(ゼッキ)という」

 

「焦熱地獄……そんな深い地獄から…」

 

「目的はなんだ!?」

 

「目的?

 

君の手の中の鬼を開放することかな。

 

 

君の手に封じられた鬼の名を覇鬼(バキ)言ってね。力はけた外れに強いが、頭の方がいまいちでね……だから、人間なんかに封じられたりしたんだけど……実は、僕の兄さんなんだよ」

 

「兄?……そうだったのか」

 

「間抜けな兄だよ……鬼族の恥晒しさ。

 

いつまでもほっとくわけにもいかないからね……それで僕が着た」

 

「そうか……それが目的なら、話し合いで済みそうにない」

 

「でも、もう一つ目的が出来たよ。

 

何せ、鬼族因縁の人間がここにいるんだもん」

 

「因縁の人間?」

 

「そう……そこにいる、白狼を持った君だ!」

 

 

鬼の手を発動させ、絶鬼は波動を龍二に向かって放った。龍二はそれに当たり、勢いで飛ばされ病院に生えていた木に体を打ち付けた。

 

 

「龍!」

 

 

飛ばされた龍二の元へ、渚は急いで駆け寄った。病室からその光景を見ていた麗華は、すぐに表へ飛び出した。絶鬼は彼女に気付くと、笑みを浮かべて麗華を見つめた。

 

 

「まだいたとは……」

 

(何……この異様な妖気。

 

まるで……まるで、あの時の鎌鬼に……睨まれているみたい)

 

「驚いたな。まさか、あの時の人間の子孫がいたなんて」

 

「あの時?」

 

「そうか……そういう事か」

 

「兄貴!」

 

 

渚に支えられながら立った龍二の元へ、麗華は駆け寄った。龍二は駆け寄ってきた彼女を抱き寄せ、絶鬼を睨んだ。二人の元へぬ~べ~は駆け寄り話しかけた。

 

 

「龍二、どういう事だ?」

 

「絶鬼と覇鬼……

 

 

大昔、俺等の先祖が対決したっていう鬼だ」

 

「?!」

 

「始めは式にしようと思って、対決したが対処しきれず結界を張り、地獄へ戻したって聞いてる……」

 

「おめでとう!その通りだよ。

 

君達二人の御先祖様には、相当苦労させられたよ。

 

 

特に、君達二人を見ていると、あの二人を思い出すよ」

 

「二人?」

 

「さてと、無駄話もここまでにして……君等二人には、死んでもらうよ?仕返しも込めて」

 

 

絶鬼は両方の鬼の手を出し、二人目掛けて攻撃した。二人はすぐにそれぞれの武器を出しその攻撃を防いだ。

 

 

(何?!)

 

(お、重い!)

 

「アハハハ!凄いね!

 

君達二人は、僕を楽しませてくれるみたいだね」

 

「戦うなら、場所を変えて」

「何言ってるんだ?

 

ここだから、いいんだよ。ここだと僕のシンフォニーが聞けるだろ?」

 

 

龍二と麗華は同時に前へ出て、身構え絶鬼を見た。

 

 

絶鬼は鬼の手から、波動を出し攻撃した。龍二と麗華はすぐに避け龍二は絶鬼に向かって剣を振り下ろした。だが絶鬼はそれを難なく避けたが、彼の背後に麗華は回り構えていた薙刀を振り下ろし背中を切り裂いた。怯んだ彼を見て、龍二は絶鬼の腹部を剣で貫いた。

 

 

「やったか!?」

 

「……!?

 

麗!龍!そいつから離れろ!」

 

 

渚の言葉に一瞬二人は理解できなかったが、それはすぐに分かった。絶鬼は手から波動を放ち、二人を攻撃飛ばした。二人は病院の壁に激突し、力なくその場に倒れた。

 

 

「龍!」

「麗!」

 

 

渚と焔は、二人の名を呼び叫び、すぐに絶鬼を睨み口から火と水を放った。その攻撃を絶鬼は防ぎ手から波動を出し、焔と渚を麗華と龍二同様に攻撃飛ばした。

 

 

「ハハハハハ!いい気味だ。

 

さぁて、お次は」

 

 

絶鬼は笑みを浮かべながら、ぬ~べ~の方を見た。ぬ~べ~は外に出ている他の患者やナースを見ながら、口を開いた。

 

 

「ここは病院だ……巻き添えが出て行けない。場所を代えよう」

 

「アハハハハハ!

 

違うよお!ここでやり合うから、死人がたくさん出て面白いんだよ!」

 

「きますよ!鵺野先生!」

 

「皆早く逃げて!!」

 

「さぁ!コンサート(戦い)を始めよう!素敵なシンフォニーを聴かせておくれ!」

 

 

絶鬼は人から鬼の姿へと変わり、変わるごとに当たりに妖気を放った。その妖気は遠くにいる、ある二人が気付き空を見上げた。

 

 

「……兄貴」

 

「……行くぞ」

 

「そうこねぇと!」

 

 

鬼の姿をした絶鬼に、三人は身構えた。

 

 

「物凄い妖力ですよ、鵺野先生!」

 

「これが…鬼の力」

 

「ビビらないでね狐さん。もう逃げられないんだから」

 

 

玉藻は狐の姿へなり、雪女(ユキメ)は雪女の姿へとなり、ぬ~べ~は鬼の手を出し、絶鬼に攻撃した。

 

 

「鬼の手……それが僕の兄さんだね!?哀れな姿だ!!」

 

 

三人の攻撃を、絶鬼は難なく防いだ。

 

 

「うんうん……いいリズムだ。三人とも、なかなかのいいセンスだよ。

 

ただ…ちょっとパワーが足りないけどね。

 

 

いい機会だ。本当の鬼の手の使い方を教えてあげよう!いくよ、鬼の手!!」

 

 

鬼の手の力を放った直後、三人はモロに当たりその場に倒れた。その光景を郷子達は目撃し、三人は互いの顔を見ながら頷き病室を出て行った。

 

 

「どうしたの?随分手応えが無いじゃないか。

 

本気でやってよ」

 

(強過ぎる!これほどまで、力の差があろうとは……これではまるで、象と蟻の闘いだ)

 

「君には僕の兄さんを封じた時、使った秘密の力があるはず……その力を見せておくれよ」

 

「何!?何の事だ!?」

 

「とぼける気か……」

 

(……そうか!絶鬼の奴、鵺野先生には鬼を封じる特殊な力があると思っているな……しかもその力をかなり恐れている……だから一気に殺さず、力を加減して様子を見ながら戦っているんだ……)

 

「そうかい……どうしてもその秘密の力を見せる気が無いと言うなら」

 

「……」

 

「君の心に、聞くまでさ!!」

 

「南無!」

 

「遅い!」

 

 

鬼の手を巨大化し、絶鬼はぬ~べ~の顔を鷲掴みにした。

 

 

「素敵な音楽を、聴かせてあげるよ!」

 

「先生!」

 

「鬼の手は人の心を読むことができる!さあ、見せて貰おう!鬼を封じた時の記憶を!!」

 

 

記憶を探る絶鬼……ぬ~べ~の記憶には、兄・覇鬼と戦闘中担任の美奈子先生の魂により鬼を封じることができた過去。その記憶を見ると、絶鬼はぬ~べ~を投げ捨て高笑いをしながら話し出した。

 

 

「何だ……そういう事だったのか!

 

どうりで、君弱過ぎると思ったよ!あの女が、体内から兄さんの力を抑えていたから封印できたんだ……体内から心を封じられたら、いくら鬼でもどうしようもない。

 

しかし、これで恐れるものは何もなくなったわけだ。一気にかたを着けようか……皆のレクイエムを聞かせてあげるよ」

 

 

手に光球を溜め、絶鬼は病院壁に背凭れ倒れている龍二と麗華目掛けて、光球を投げ飛ばした。

 

 

「麗!!」

「龍!!」

 

 

飛んでくる光球……その時、二人の元へ影が降り二人を抱えて離れ、もう一つの影がその光球を防いだ。

 

 

「やれやれ……二人を殺そうなんざ、いい度胸してるじゃねぇか」

 

 

そこに立っていたのは安土と、麗華と龍二を抱えた牛鬼だった。

 

 

「君達…」

 

「お前等」

 

「嫌な妖気感じて来た。それだけだ」

 

「やいやいやい!!馬鹿男!何で麗華が、こんなに傷ついてんだ!!」

 

「ば、馬鹿?!」

 

「人の事言える立場か、お前は」

 

 

抱えていた龍二を安土に渡しながら、牛鬼は彼に言った。その時、彼等を心配してやってきた郷子と広は、ぬ~べ~の名を呼びながら駆けつけてきた。二人に気付いた絶鬼は、光球を二人目掛けて放った。するとぬ~べ~は起き上がり、素早く二人の元へ駆けつけ攻撃を鬼の手で防いだ。

 

 

「何?こいつ、霊力がどんどん上昇していく……あの少女と同じだ…いや、それを遥かに凌ぐ勢い……何故だ!?」

 

「二十倍……四十倍……鵺野先生の霊力がどんどん上がって行く!いったいどこまで、鬼の力を近付けるか……」

 

 

防いだ光球を、ぬ~べ~は弾き飛ばし絶鬼の横の地面へと当てた。

 

 

「あーびっくりした。凄いね。僕は全然本気じゃなかったけど、僕の妖力波を跳ね返すとは」

 

「俺の生徒に手を出すな!!俺の命が欲しいならくれてやる!

 

だが、生徒や関係のない人達を巻き込むことは許さん!!」

 

「フフ……そうかい。

 

やっぱりその力の上昇は、誰かを守ろうとするとき、起きるものなのだね。実を言うと、僕はちょっとがっかりしてたんだ。

 

だって、せっかく遥々地獄から這い上がって来たのに……君等があんまり弱いんだもの。特に、そこにいる二人は。

 

 

でも、面白くなりそうだ。やり方によっちゃ。象と蟻ではなく、象と鼠ぐらいの闘いはできそうだからね。

 

 

もっと大量の人間を傷付けよう……君をもっと奮闘させるようにね。兄さんはいつでも、救いだせそうだからね」

 

 

翼を広げ、絶鬼は笑いながらその場を飛び去った。




それからぬ~べ~達は学校へ行き、保健室で怪我の治療をした。麗華と龍二は目を覚まし、丙と雛菊から傷の治療を受け、怪我が治っていた渚と焔は、二人に寄り添い顔を摺り寄せた。寄ってきた二匹を二人は顔を撫でながら、顔を下に向けたまま一点を見つめていた。


「最悪な奴だ……すまん、俺のためにみんなを巻き込んでしまった」

「そんな……先生のせいじゃありません!

それに、もし鵺野先生が絶鬼にやられてしまったら、兄の覇鬼まで解放されて二人でどんな悪事をはたらくか……なんとしても戦わなきゃ」

「だろうな…しかし、あの力では勝ち目はない。戈を交えてそれがよく分かった」

「でもぬ~べ~、さっきはアイツの攻撃、跳ね返したじゃん」

「アイツはあれで実力の十分の一も出しちゃいないよ。それに跳ね返すだけじゃ、勝てない。攻撃でなきゃ」

「そっか……」

「だったら、麗華達が攻撃すれば」

「さっきの闘いを見た限りじゃ、麗華と龍二、それに式神達の力を借りても、絶鬼に与える攻撃は掠り傷程度だ」


黙り込む麗華と龍二……何かを考えているのか、指を唇に当てながら一点を見つめているばかりだった。


「麗華?」
「龍二さん?」

「……ねぇ、兄貴」

「?」

「二人って、誰?」

「……話していいの?渚」

「この状況だ。しょうがない」

「何?その話」

「お前が、中学に入ってから話すつもりだったけど、まさかアイツが現れるとは思わなかったから、今話す。鵺野達も聞いても別に、害は無い。何れ訪れることを想定して話されてきたし」

「だから何の話なの?」

「俺等の先祖の話は、お前もお袋からいろいろ聞いているだろ?話ぐらい」

「何となくなら覚えてるけど……」

「そう言えば、絶鬼が言っていたな……お前等二人は、以前闘った陰陽師と似ているって」

「安倍晴明……俺等の先祖は、昔地獄からやって来たという鬼二体を自身の式にしようと思っていた。

けど、余りにも妖力が強過ぎて、町に害が及んでしまった。先祖は何とか一体を地獄に還したが、もう一体は苦戦して、妻と共に残ったもう一体の鬼を地獄へ還した」

「そんな話を、何で麗華達の代まで話されてんだ?」

「その一体が、還り際に言ったんだ。『地獄から這い上がり、君の子孫を殺す』って……

その言葉に身を案じた先祖が、自身の子供に話しそれを自分達の子供、孫へと語り継げるようにって遺言を残したんだ」

「その鬼が、絶鬼なのか?」

「かもな。あいつ、俺等を見て二人って言ったからな」

「その二人が、先祖とその妻なんだ。

妻の絵は無いけど、話じゃ麗華そっくりだっていうし。先祖も俺に似てたって、本家の曾爺さんが言ってたみたいだし」」

「え?!」

「その話、母さんから何度も聞いた」

「さて、昔話はこれくらいにして……問題はどうやって、あの鬼を倒すかです」

「まさか、あれほど強いとは思わなかった」

「強過ぎたせいで、面倒くさい兄弟が来る始末だし」

「それ、どういう意味だ!!

助けてやったんだから、ありがたいと思え!」

「ありがたいとは思ってるけど、アンタ等来たところで鬼に勝てるかって……」

「う……」

「戦いで勝てないなら、地獄へ追い返したらどう?」

「それよ!

鬼は現世に出る時、凄まじい力で鬼門を開き出てくる。絶鬼が出てきた鬼門が、まだ残って」
「バカ言うな……どうやって奴を、そこに入れるというんだ」

「あ……」

「ま、勝ち目のない戦いをするなど、愚の骨頂……私は無駄な事はしない主義でね。申し訳ないが」

「ま、待てよ!少年ジャ〇プの漫画なんかだとこういう時、何倍にもパワーアップする修行とかあるものだけど!?」

「漫画と一緒にするな!」

「パワーアップか……ない事もない。

私の人化の術は、君(広)の髑髏によって完成する……その時私の力は何十倍…いや、それ以上にもなるはずだが」

「ダメ!」

「なら、諦めるんなら…アディオス」

「ちょっと逃げる気?!卑怯者!」

「いや、奴の言う通りだ。闘うのは自殺行為だ。

無理に引き留めることはできないよ」

「でも!


私は逃げませんから……最後まで、一緒にいますから」

「雪女(ユキメ)……」

(お熱いこと……)

「鬼門に入れる方法なら、今思い付いたけど聞く?」

「本当か?!」

「あぁ。

ただし、二人の協力が必要だけど」


そう言いながら、龍二は麗華に抱き着く安土と壁に寄り掛かって立つ牛鬼に目を向けた。その時、保健室の窓が勢いよく開き、外から氷鸞が現れた。


「麗様!頼まれたものを、持ってきました!」

「ありがとう」

「何?」

「特殊な札。昔鬼たちを地獄へ還した際に、使ったとされている札」

「一人で使うのは無理だが、俺等二人で使うなら何とか発動することは可能だ。

動けなくなった奴を、安土と牛鬼の糸で拘束し雪女の氷、鵺野の鬼の手で攻撃した後、そのまま鬼門へポイ」

「そう上手くできるのか?」

「さぁな。一か八かの賭けだ。

どうだ?乗るか?」

「……やってみよう」

「そうと決まれば、奴を捜して、鬼門が開いている場所へ行こう」

「あぁ」

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