地獄先生と陰陽師少女 作:花札
麗華を撮る緋音……
「ちょ……緋音姉さん、撮るの辞めてよ」
「記念よ記念。
二人のお母さんがいないなら、二人の写真を撮るのはこの私の役目!」
「二人って…(ほとんど、私の写真しかないような気が)」
「それにしても、今日は誰を待ってるの?」
「稲葉達。ゲーセン行こうって約束して。そういう姉さんは?」
「私は真二とデート!」
「相変わらず、お熱い事」
「麗華ちゃんにだっているでしょ?そういう男の子」
「いない」
「またまたぁ」
「麗華ぁ!」
郷子達の姿が見えた麗華は、緋音に別れを言い彼等の元へと駆けて行った。それから数分後、緋音もやって来た真二と共に出掛けた。
そして数時間後、事件は起きた。
童守小に一本の電話がかかってきた。
「ハイ、童守小……って、広か。どうかしたか?」
「大変だ!!
郷子達がさらわれた!!」
「何?!
い、今どこに」
「童守公園。
遊び疲れて、ベンチで休んでたら変な男に郷子と美樹と麗華がさらわれて……今、焔が追い駆けてんだけど……」
「だけど、どうしたんだ?」
「そいつら、霊感あるみてぇで、焔がいること分かってたみたいなんだ!ど、どうしよう」
「とにかく落ち着け!
いいか、すぐに学校に来い。俺は龍二達に連絡するから」
「わ、分かった」
数分後、学校へ着き職員室へ入ると、そこには郷子の母親と美樹の母親、そして龍二と緋音達が一足先に駆け付けていた。
「ぬ~べ~、どうしよう!郷子達が!」
「分かってる。今さっき警察には通報した。
だが、見つけ出すには時間がかかる」
「どうして!」
「手掛かりが無いんだ」
「そ、そんな!」
「早く見付けねぇと、郷子達が!」
その時、職員室のドアが開き、中から血相を書いた焔が膝に手を付けて息を切らして立っていた。
「焔」
「悪い……見失った」
「……」
「……焔ちゃん、麗華ちゃんが落とした物何かある?」
「落とした物?」
「うん」
「緋音、まさか」
「出来るかどうかは分からないけど、ここで大人しく指銜えて待ってられないわ」
「何をする気だ?」
「緋音の能力です」
「能力?」
「緋音は他人が持ってる持ち物を写真に撮ると、その人が今何をやっているか、どこにいるか特定することが出来るんだ」
「スゲェ」
「で、焔、何かねぇか?」
「何かって言ったら……野郎たちの車に乗せられる前に落とした、このブレスレットくらいしか」
「それだけで十分。貸して」
緋音は焔からブレスレットを受け取り、ポケットから陣が書かれた紙を広げ、机に置き神の中心にブレスレットを置いた。そして鞄からインスタントカメラを出しシャッターを押した。
撮られた写真に写っていたのは、犯人の車と思われるトラックとどこかの廃工場の建物だった。
「ここって確か、山付近にある最近潰れた工場の廃屋だ」
「本当か?」
「あぁ。間違いねぇ」
「緋音、中の様子は分かるか?」
「やってみる」
意識を集中させ、レンズをブレスレットに向けシャッターを押した。出てきた写真にはロープで縛られた郷子と美樹が口をガムテープでふさがれ、何かを見て泣き叫んでいる様だった。さらに移った光景には、鉄パイプで身動きの取れない麗華を殴る、三人組の男がいた。
「コイツ等!!」
「今警察に場所を通報した。あとは」
「焔!!ついて来い!!」
ドアを勢いよく開き、焔と共に外へ出て行った。彼の後を渚と真二と緋音が慌てて追い駆けた。
「コラ!お前等!」
「ぬ~べ~、俺達も行こう!」
「こんな所で、待っていられるかよ!!」
「……分かった。だが、変な行為だけは起こすな」
「うん!」
“バン”
「!」
蹲る麗華……郷子と美樹は、縛られたロープを解こうと手を動かしながら、彼女の名を呼んでいるのか声を出していた。
「ったく、面白くねぇ。
目付き悪かったから、もっと強いかと思ったけど……全然だな!」
「んんん!!(麗華!!)」
「反攻しなければ、お友達には何の害もないんだぜ?」
息を切らしながら、麗華は髪の間から郷子達を見た。すると男は鉄パイプを地面に着きながら、しゃがみ込み麗華を見た。
「何か、殴るの飽きてきたなぁ……
なぁ、いっそのことコイツの服脱がせて、裸写真撮らね?」
「お!いいじゃねぇか!」
「ナイス提案!」
「それじゃ」
近付いてくる男の顔を、麗華は睨み続けそして自分に近付いてきたのを気に、自身の頭を思いっきり振り頭突きを喰らわせた。
「痛ってぇ!!」
「この尼!!」
「鼻!!鼻が折れたぁ!!」
(阿呆……)
「このぉ!!」
“パリ―ン”
その時、屋根に着けられていた天窓が割られ、外から狼姿をした焔に乗った龍二と、渚に乗った緋音と真二が降りてきた。
「な、何だ?」
「テメェ等!!
よくも俺の大事な妹を!!」
何の合図も無しに、龍二は容赦せず男の一人に回し蹴りを喰らわせた。彼に続いて真二も男二人の頭を踵落としで攻撃した。
その隙に緋音は、三人の元へ駆け寄り彼女達の口に貼られていたガムテープをはがした。
「緋音さん!」
「緋音さん!」
「三人共、怪我は無い?」
「私達は大丈夫。けど麗華が」
「どうして場所が」
「麗華ちゃん、私の能力忘れちゃったの?」
「……あ」
「そういうこと。
そろそろ警察の人が来る頃ね」
“バーン”
「警察だ!動くな!」
手錠を掛けられた男達は、顔と体中に痣を着けパトカーに乗った。郷子と美樹は迎えに来ていた母親に泣きながら抱き着いた。麗華は警察が呼んだ救急車の中で、治療を受けていた。
「打撲と切り傷多いけど、命に別状はありません。
体にある傷も痣も、日が経てば消えると思います」
「そうですか。ありがとうございます」
隊員は龍二に一礼すると、二人の元へと行った。彼とすれ違いに緋音と真二が駆け寄ってきた。
「さっき聞いたけど、三人の犯人、麗華ちゃんの目付きが気に食わなくて、さらったんだって。郷子ちゃんと美樹ちゃんは、反抗できないようの人質で一緒に」
「そんな理由で……」
ずっと下を向く麗華を龍二は見詰めた。
しばらくして、郷子達は親に釣られて自分の家へ帰り、ぬ~べ~も帰り緋音達も帰って行った。
残った龍二は、傍で座る麗華をふと見た。彼女の手に持っていた缶ジュースが震えていた。
「麗華……」
「分かんなかった……
何していいか」
「……」
「妖怪にさらわれた時は、普通に反抗できたり話せるのに……
あいつ等に捕まって……稲葉達が人質にされた時、何をすればいいのか分からなかった」
次第に涙声になり、麗華の目から涙がポタポタと流れ落ちた。
「……怖かった……
誰も来なかったら、どうしようって……
あいつ等、焔のこと見えてたらしくて追い掛けてきてた焔を追い払って……」
腕で流れてくる涙を拭きながら、麗華は話した。彼女の肩に乗っていたシガンは心配そうな声を出しながら頬を舐めた。同じようにして、焔も麗華の傍により顔を擦り寄せた。
泣く麗華を、龍二は抱き寄せ彼女を抱き締めた。麗華は龍二にしがみつき、ずっと泣き続けた。
夜……ベッドで眠る麗華の頭を、龍二はずっと撫でていた。
「あんな風に泣かれたの、初めてだ」
「人の怖さに触れたんだ…直に。
よっぽど、怖かったんだろ」
「……」
「もともと、人見知りの性格だし……それに島の奴等にいじめられたせいもあって、そういう目付きになってる」
「……」
「……兄…貴」
寝言で呼ばれた龍二は、麗華の布団に入り彼女をソッと抱き締めた。次第に龍二は彼女の布団の中で眠ってしまい、渚と焔は鼬姿になり、二人に寄り添うようにして傍により眠った。