地獄先生と陰陽師少女   作:花札

122 / 174
「文化祭?」


学校の帰り道、麗華は郷子達に龍二が通う鈴海高校の文化祭のパンフレットを私ながら話していた。


「今週の土日にあるんだ。兄貴が良かったら来てくれって」

「へ~……」

「そう言えば、龍二さんが通ってる学校って、確か有名校よね?

確かチョー頭がいい学校だって聞いたけど」

「さぁ。あんまり気にしないからなぁ、そういう事」

「にしても、制服可愛いわねぇ」

「ねぇ!女の子は赤いチェックのスカートに黄土色のブレザー。男の子は黒いチェックのズボンに女子と同じ黄土色のブレザー。そして一番いいのは女の子はリボンで男の子はネクタイ」

「そして学年ごとに色が違う」

「お前等、何でそんなに詳しいんだ?」

「だってぇ、制服可愛いし」

「受けてみようかなぁって」

「あっそ……」

「色が違うって言うけど、何が違うんだ?」

「話だとリボンが、一年生は赤。二年生は青。三年生は黄色なんだって」

「男の子のネクタイも一緒よ」

「へぇ」

「なぁなぁ、この文化祭麗華も行くのか?」

「行くよ。

というより、土日とも兄貴の学校で一日を過ごすよ」

「え?!何で?」

「一日だけならともかく、二日連続で私を独り家に置きたくないんだってさ。いい迷惑だよ」

「アハハ…龍二さんらしい」

「前まではほったらかしだったのに、今じゃ全然」

「それだけ麗華のこと心配するようになったんだよ。

学校行くようになって、龍二さんもいろいろ心配なのよ」

「そうそう。変な男に付き纏われたり」

「付き纏われたら、速攻で殺されるよ」

「面白そうだし、日曜皆で行こう!」

「そうだな」

「賛成!」

「意義無!」

「俺も―!」


一つ返事が多いのに気付いた郷子達は後ろを振り返った。そこには嬉しそうに手を上げるぬ~べ~がいた。


「ぬ~べ~?!」

「さては盗み聞きしてたな」

「もっちろん!

俺も日曜、お前等の保護者としていかせて貰う!」

「何が保護者だ」

「どうせ暇だから、ついて来るだけでしょ」

「あ!それ言えてる!」

「お前等ぁ!」

「変な行為見せたら、生徒会に縛狩れるから気を付けてね」

「は、はい……」


学校に怨みを持つ者

当日……

 

 

学校へ来た郷子達。門前には色々な衣装を着た生徒達が呼び掛けをしたり、チラシを配ったりしていた。

 

 

「スゲェ……」

 

「賑やかな学校だなぁ」

 

「さてと、麗華を捜す前に美味いもん食べて思う存分楽しんでからだ」

 

「賛成!」

 

「そんじゃ行こうぜ!」

 

 

駆け出した広を先頭に、郷子達は校内へ入って行った。彼等の後に、不良の格好をし、折り畳み式のナイフを持った男が、口に入れていたガムを噛み膨らませながらナイフを隠し中へと入った。

 

 

校舎の廊下を歩きながら、広達は各クラスの出し物で遊び楽しんでいた。だが校舎をいくら歩いても、麗華が見つからずにいた。

 

 

「そう言えば、麗華何処にいるのかしら?」

 

「言われてみればそうだな。一応校舎は一通り見たが、全然見かけないしすれ違わないな」

 

 

「おい、見ろよ!あの子!」

 

 

嬉しそうな声に、数人の男子生徒が広たちを通り過ぎた。走って行く方向に目を向けるとそこには薄いピンクに白いレースが飾られ後ろに大きなリボンが着き、足には白い網ブーツを履き頭にはつばの大きい白い帽子を被った、まるでフランス人形のような少女が歩いていた。

 

 

「わ~……可愛い」

 

「今年のアニメ部、スゲェな!」

 

「可愛い衣装!」

 

「衣装じゃないわ!着てるあの子が可愛い!」

 

「去年はファンタジーの女戦士の衣装だったけど、今年はお嬢様ときたか!」

 

 

少女は郷子達の横を通り過ぎると、そのまま上へと登って行った。

 

 

「か、可愛い……」

 

「あんな可愛い子、この学校にいるのかぁ」

 

「それにしても、高校生にしては些か背が低過ぎるな……」

 

「背何て、人それぞれでしょ?まことを見なさい!

 

五年だけど、周りから見たら一年と間違われてるんだよ!」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「なぁなぁ、今度は武道場行ってみねぇか?」

 

「武道場?」

 

「空手部と柔道部は練習試合とたこ焼きやってて、剣道部は焼きそば店、薙刀部は公演やってるって書いてるけど……他にも何かあるの?」

 

「弓道部だ!

 

この部活、射撃やってるってさ!」

 

「何々……実際の弓と矢を使い的に当てるか……へぇ、面白そうだな」

 

「行こうぜ!」

 

「うん!」

 

 

その頃麗華は……

 

 

「まさか……あんな所でアイツらに合うとは、思いもよらなかった……」

 

 

近くにいる焔に話しながら、麗華は着ていた服を脱ぎ私服に着替えていた。脱ぎ捨てた服をハンガーへ駆け、履いていたブーツを持って更衣室から出て、隣の部屋で椅子に座っていた女性に声を掛けた。

 

 

「あのぉ」

 

「?

 

あぁ!麗華ちゃん、さっきはお疲れ様とありがとう!」

 

「本当に助かったよ。さすが神崎君の妹だよ」

 

「いえ……じゃあ、私兄の所に行くんで、これで」

 

「えぇ。本当にありがとう」

 

 

部室を出た麗華は鼬姿になった焔を肩に乗せ、どこかへ向かった。

 

 

武道場に着いた郷子達は靴を脱ぎ中へ入ろうとした。

 

 

「あれ?鵺野達じゃねぇか!」

 

 

聞き覚えのある声の方に顔を向けるとそこにいたのは、袴姿の龍二と鼬姿で彼の肩に乗った渚だった。

 

 

「あ!龍二さん!」

 

「お前等も来たのか」

 

「ハイ!何か、楽しそうだったんで!」

 

「憧れの制服を間近で見たかったんです!」

 

「そうかそうか!

 

まぁ、射的でもやってってくれよ。弓道部の」

「弓道部の名物は、滅多に触れることのっできない弓と矢が触れられる射的なんだから」

 

 

後ろを振り返るとそこには、どこかで貰ったのか手作りクッキーが入った包みと、手に持っていたクッキーを食べる麗華がいた。

 

 

「麗華!」

 

「その説明、俺がする予定だったんだけど」

 

「いいでしょ。二日連続で手伝いされるこっちの身にもなってよ……ほら、緋音姉さんからの差し入れ」

 

「サンキュー。

 

お前もやってけよ」

 

「そのつもり。だから来たの」

 

「じゃあ麗華行こう!」

 

「ちゃんと並べよ!」

 

「はーい」

 

 

矢道を歩く麗華に、部員のほとんどが挨拶し、中には彼女に飛びつく者もいた。

 

 

「麗華の奴、相当馴染んでいるんだな。ここに」

 

「いつも来させてるから、俺のクラスの奴等や部活の皆、それに緋音の部活の部員も真二の部活の部員も、さらに校長や教頭、顧問も皆、アイツの事は知ってるぜ」

 

「す、凄いなぁ」

 

「この校舎で、アイツのこと知らない奴はあんまりいないんじゃねぇかな?」

 

「そうなの……」

 

 

四本の矢を全て的に当てた麗華に、やっていた郷子達は驚きの顔をして彼女を見ていた。その時、土足のまま同上に上がろうとする者に、部員が注意している声にぬ~べ~と龍二は気づき後ろを振り返った。

 

そんな部員に向かって、何かを見せたのか部員は怯えた表情で後ろを振り返り龍二に助けを求めた。龍二はその子の元へ行こうとした時だった。

 

 

「動くな……」

 

「?!」

 

 

ポケットから携帯用ナイフを取り出し、刃を出しながら龍二に言った。部員は怯えながらも、ゆっくりと下がり龍二の元へと駆けた。

 

 

「要件は」

 

「学校への復讐……」

 

 

騒ぎに気付いたのか、麗華は奥に広達を置いて龍二の元へと駆け寄った。

 

 

「そこのガキ、こっちに来い」

 

 

麗華は驚き、傍にいた龍二に目を向けた。龍二はしばらく何かを考えているようだったが、答えを出したかのように麗華に頷いた。

 

麗華は震える手を握り、怯えながらもナイフを持った者の所へゆっくりと近寄った。

 

 

「聞き分けのいいガキだ」

 

「……」

 

「一緒に来い」

 

 

麗華の腕を掴み、男は道場を出た。龍二は息を吐き、道場の方を向き机の上に置いてあった無線を取り出した。

 

 

「神崎、どうする気だ」

 

「先輩達はここにいる人達に、事情を話してここで待機してて下さい。子供達には怯えないように、射的をやらせたり自分達の練習風景を見せるなどして下さい」

 

「分かった」

 

「広君達もここにいて。

 

それから鵺野」

 

 

鵺野の傍へ行き耳元で囁いた。

 

 

「陽神の術を使って、麗華の所へ。

 

話は聞いてる」

 

「分かった」

 

 

無線機にスイッチを入れると、雑音と共に声が聞こえた。

 

 

《こちら、真二。どうかしたか?》

 

「緊急事態発生だ。

 

校内に不審者が侵入した。そんで麗華を人質に校内に歩いてる」

 

《嘘ぉ!!ちょっとそれ、どういう事よ!龍二!!》

 

「大声出すな!緋音!

 

とにかく、プランBで動け。緋音は動く前に校長の所に行って、事情を話せ」

 

《了解!》

 

《マイク持って、校庭行ってるぜ!》

 

「任せた」

 

 

無線機を道着のポケットに入れると、鵺野と共に龍二は外へ出た。

 

 

校内を歩く男は、すれ違う生徒達に持っていたナイフを振り回し退かした。生徒達は悲鳴を上げながら近くの教室へ逃げ込み、来客は生徒に釣られ教室へ入った。

 

 

「……振り回さなくても、皆避けるよ」

 

「黙って歩け」

 

「……」

 

 

その時、スピーカーから音が流れ、活気のいい音楽が流れた。

 

 

《さぁさぁ!!始まりました!

 

生徒会による、格闘大会!!対戦するは、顔付きが超怖い、ナイフを持った少女好き青年!

 

えー、校内に生徒会長神崎龍二君の妹、神崎麗華ちゃんを連れた青年がいたら、校庭へ行くように言ってね!

 

それから、青年は何と危ない凶器持ってるから、戦おうとか麗華ちゃんを助けようとか思わないように!それじゃあ、校庭で待ってるから!是非ご覧下さい!では》

 

 

(真二兄さん……名前公開しないでよ)

 

「(誰が少女好きだぁ……)

 

来い!校庭に行くぞ!」

 

 

腕を引っ張られ、麗華は男と共に外へ出た。校庭には沢山の人が集まり、リングを作っていた歓声を上げていた。前には放送委員が設置していた、マイクと機械が置かれた机に既に真二が座っており、彼は片手にマイクを持ち机に足を乗せた。

 

 

「さぁさぁ!!始まります、青年との対決!!

 

司会はこの俺、生徒会書記を務める滝沢真二!そして……ゴハァ!」

 

 

何かを言い掛けたとき、真二の背後から誰かが思いっ切り叩いた。背後にいたのは、呆れ顔をした龍二と緋音が立っていた。

 

 

「何が司会だ。

 

さっさと、リングに上がれ」

 

「俺なの?!」

 

「緋音は薙刀部、俺は弓道部。

 

 

実践的に戦えるの、空手部のお前だけだろ?」

 

「己……」

 

「いいじゃない。こないだの全国大会、二位だったんでしょ?」

 

「……」

 

「あー、あー……

 

司会変更します。司会は生徒会副会長、神崎龍二と会計の」

 

「日野崎緋音が送りまーす!」

 

「さぁて……

 

そこにいる、凶器持った青年。さっさとこっちに入ってこい。そんで麗華を返せ」

 

 

大勢の生徒が、後ろから道を空けその間を男は麗華の腕を引っ張り中央へ入った。真二はブレザーを脱ぎ、肩を回しながら首を鳴らした。

 

 

「どういう事だ?」

 

「生徒会限定格闘大会。

 

俺が相手をする。その前に早く麗華返せ」

 

「返す気はねぇ。俺はこの学校に復讐しに着たんだ。

 

こっちの要件を飲み込めば、このガキは返す」

 

「要件?」

 

「木本を出せ」

 

「木本?」

 

「国語の木本先生のことじゃ」

 

「あぁそうだ。俺は濡れ衣を着せられた。

 

他に犯人がいたうえ、俺にはアリバイがあった。なのに木本は散々俺を犯人扱いして、挙げ句の果てには退学させられた!

 

おかげで、俺の家は滅茶苦茶だ」

 

「事件?」

 

「そういえば、私達が入学する二年前、他校との暴力沙汰が起きて、うちの生徒が辞めさせられたって」

 

「証拠もねぇのに、普段の行いが悪いからって理由で……」

 

 

麗華の腕を握っていた手に力を入れ、強く握られた痛みから麗華は顔を歪めた。何とか手を離させようと手を掛けた時、男はその行為を読み取っていたかのようにして後ろを振り返り麗華の腕を持っていたナイフで斬った。

 

 

「キャァアアア!!」

 

「麗華!!」

「麗華ちゃん!!」

 

「変な真似すんじゃねぇ……

 

お次は首だ」

 

 

麗華の首目掛けて、男はナイフを振り下ろした。その瞬間、何者かが麗華の前に立ち自分の腕に相手のナイフを刺した。

 

 

「……?!」

 

 

そこにいたのは、陽神の術で陽神明の姿になったぬ~べ~だった。

 

 

「ぬ、鵺野……」

 

「大丈夫か?麗華」

 

「大丈夫……けど何で」

 

「龍二の提案だ。

 

 

真二!!早くそいつを」

 

 

動かない男目掛けて、真二は前蹴りを食らわせた。男は頬を抑えながらも持ち堪え、後ろを振り返り真二を見た。

 

 

「テメェ」

 

「ふぅ……」

 

 

男は拳を握り、真二に攻撃した。真二は攻撃してきた男の拳を払い、殴り掛かった。だが男はその拳を上へ払い空いた腹を殴った。真二は顔を歪め、蹌踉けながら後ろへ引いた。

 

 

「真二!!」

 

「くぅ……効いた。

 

アンタ、まさか」

 

「お前、空手部か」

 

「一応」

 

「そりゃあ楽しくなってきた。

 

俺も空手部だ。もと」

 

「こっちは嬉しいっす!

 

先輩と対戦できるなんて」

 

 

男は笑みを浮かべ、真二に回し蹴りをした。真二はすぐにその蹴りを腕で受け止め、男の頬に向かって裏拳を食らわせた。男は口を切ったのか口から血を流しながらも、真二に攻撃を続けた。

 

その隙に、ぬ~べ~(明)は麗華を龍二の元へ連れて行った。麗華の腕を見ると龍二は、緋音に保健室へ連れて行くよう頼んだ。彼女は承知し麗華を保健室へ連れて行った。

 

すると、闘いが盛り上がっているのか生徒達は歓声を上げ、闘う真二の名をコールした。

 

 

その歓声に応えるかのように、真二は男にみぞうちを食らわせ、屈んだ隙を狙い踵落としを食らわせた。男はその攻撃をモロに食らい、その場に倒れ伸びてしまった。

 

 

「……勝者、滝沢真二」

 

 

龍二の言葉に、観客は歓声を上げた。真二は息を吐き観客にVサインを見せながら、満面な笑顔で見回した。

 

 

数分後、学校が呼んだ警察に男は逮捕され連行された。パトカーに乗る前に男は振り返り、手錠をしながら警察官二人の腕を払い、真二の前に立った。

 

 

「……いい闘いだった」

 

「俺もです!」

 

「機会があったら、また手合わせ頼む」

 

「はい!」

 

 

そう言うと男は、笑みを浮かべてパトカーに乗った。




それからしばらくして、文化祭は終了した。ぬ~べ~達は終了と共に帰った。麗華は龍二の手伝いをしながら、残りの時間を過ごした。そして生徒全員を返した後、龍二達は生徒会室へと入った。


「あ~!疲れたぁ」

「お疲れ様」

「一事はどうなるかと思ったけど、何とかやり過ごせたし」

「だな。

校長もさっきの事件は、世間に公表するつもりは無いってさ。保護者も来校者もその意見に賛成してたし」

「木本の奴は退職だろ?」

「そうらしい」

「全く、お前等三人には毎回驚かされるな」

「そうですか?」

「そうだよ。

凄いチームワークだよな、お前等」

「そうそう!」

「僕、先輩達みたいな幼馴染み憧れちゃいます!」

「そんな憧れだなって……」

「さて、無駄話はこれくらいにして、そろそろ帰ろう。

神崎の妹もほら」


先輩が、指差す方に目を向けると、ソファーの上で麗華は静かに眠っていた。


「あらあら、寝ちゃってる……」

「あの後、結構気ぃ張ってたみたいだったぜ」

「そういや、あの阿呆教師達がいる間は全然だったけど、帰った後はずっとお前にくっついてたもんな」

「よっぽど怖かったんだろうねぇ」

「怖かったとは思うけど、あの男に腕を掴まれて泣きもしないでよく平然としてたな」

「その辺り、大人なんですよ麗華は」

「……って、真二」

「?」

「いつから麗華のことを、呼び捨てていいと俺が言った?」

「もちろん、この俺の判断!」

「真二ぃ!!」


しばらくして、麗華を背負った龍二は緋音と彼女に支えられて立っている真二と別れ、家へと帰った。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。