地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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小さい頃、誰でも金魚や緑亀などの小動物を飼ったことがあるだろう。

そして、自分の不注意で死なせた経験もあるだろう……長い間、餌をやり忘れたり。また、水槽の水を取り替えようとして、下水に流れてしまったり……


下水道……

ここには、たくさんの動物の死骸があった。それは故意にせよ、過失にせよ人間によって殺され、捨てられた動物達だった……そして待っているのだ。


復讐の時を……


鬼・妖狐・陰陽師共同戦線

ある日の童守小学校……

 

 

保健室の前には、体育着を来た男子達が並んで待っていた。今日は健康診断があり、先に女子達がやり次に男子達という順番であったため、男子達は女子達が終わるのを待っていたのだ。

 

 

「あー皆静かに。

 

女子達が終わったら、順序良く中に入ること良いな?」

 

「ハーイ」

 

「決して中を覗いたりすんじゃないぞぉ。

 

ここでしっかり見張ってるからな?」

 

「そんなこと言って、こっそり自分だけ覗いたりすんじゃねぇの?」

 

「そうだそうだ!ぬ~べ~ならやりかねん」

 

「く~!

 

どうして俺はこうも、生徒達に信頼が無いんだぁ!」

 

 

その頃女子達がいる保健室では……

 

 

「わー!美樹ちゃん胸大きい!」

 

「あら、ノロちゃんも結構あるじゃない!」

 

「やだ」

 

「でもね、重いし肩こるし、ロクな事ないのよねぇ」

 

「そうそう。男子達はジロジロ見るし」

 

「胸の小さい人が羨ましいよねぇ」

 

 

嫌味タップリに言う美樹の言葉に、郷子は自分の胸を見ながら後ろを向き、デカデカと声を上げた。

 

 

「あ~!くだらないくだらない!」

 

「本当!羨ましいわぁ!アハハハハハ!」

 

「胸デカいと、何かいい事でもあるわけ?」

 

「胸の小さい麗華には……って、アンタ、意外にあるわね?郷子よりも大きい」

 

「さらしで胸押さえてるから、小さく見えるだけ。小さいほうが着物とか袴着る時便利なんだ」

 

「へ~」

 

 

「次のクラスどうぞ」

 

「はーい……!」

 

「玉藻先生!」

 

 

保健室の椅子に座っていたのは、玉藻京介だった。

 

 

「キャー!」

 

「玉藻先生!」

 

「お久しぶりですぅ!」

 

 

保健室から女子達のその声に気付いたぬ~べ~は、咄嗟にドアを開けてしまった。その瞬間、殺気に満ちた女子達の目が向き、部屋に置かれていた置き物が無造作に投げられ、ぬ~べ~の体中に当たり最後に麗華の蹴りが飛び、彼はその場に伸びた。

 

 

「えー何で、教育実習まで来といて、先生にならずに医者になったの?」

 

「うん、大学では教育課程をとると先生にならない人も実習に来るのさ。

 

僕は先生になりたかったのだが、医大出なのにと親が許さなくてね」

 

「とか何とか云って、本当は自身の趣味で調べてるある事に人間が関わってるから、そのために医者になったんじゃなくって?」

 

「神崎さん、口が達者だね。

 

それにしても、筋肉発達が皆より優れてるね」

 

(当たり前だ。体の構造が違うんだよ)

 

「あと、郷子ちゃん。

 

胸の発育が著しいですね」

 

 

「女子終ったわよ」

 

 

鼻歌を歌いながら、郷子は伸びているぬ~べ~に言った。男子の順番になったのを気に、ぬ~べ~は保健室へと入り、玉藻に突っ掛って言った。

 

 

「おい玉藻!

 

今日は一体、何の用だ!お前外科だろ!」

 

「別に……内科の先生が全員で払っていて、手の空いている私が来たのです」

 

「簡単に言うと、暇だったのがアンタ一人だけってことか」

 

「麗華君、君は女子だからもう診断は終わりました。教室に戻りなさい」

 

「アンタがここにいるって分かってて、離れる馬鹿はいない。

 

また厄介な妖怪の傷でも治されたら困るからね」

 

「……」

 

「何でそうまでして、健康診断しに来たんだ?

 

何を企んでいる!正直に答えろ!」

 

「別に……」

 

「……!!

 

まさか、お前ロリコンで小学生の女子の胸が見たくて」

「バカはほっといていいから、玉藻訳を話して」

 

「今、童守町で起こっている奇怪な事件を知っていますか?」

 

「へ?奇怪な事件?」

 

「えぇ。

 

路上で、マンホールや下水の傍で全身落雷にあったような、丸焦げの人々が病院に日に何人も運ばれるのです」

 

「それなら茂さんから聞いた。確か、強力な妖気を帯びて来るって言ってたよ」

 

「その通りです。

 

調べてみましたら、マンホールや下水には夥しい怨念が漂っていました」

 

「怨念?」

 

「下水ねぇ……

 

探検したら、鰐でも出てきそう」

 

「おい麗華」

 

「?」

 

「お前、いつになったら部屋から出るんだよ。もう女子は終わってるぜ?」

 

「もう出るよ。

 

鵺野、玉藻が逃げないように見張っててね」

 

 

そう頼みながら、麗華は戸を閉め教室へと帰って行った。

 

 

「では次、白鳥秀一君」

 

「はーい」

 

 

返事をしながら、秀一は玉藻の所へと来た。その瞬間、玉藻が持ってきていた者が、彼に反応するかのようにして動き出した。

 

 

診察が終わった玉藻はぬ~べ~と共に、屋上へ行き話を続けた。

 

「それじゃあお前は、奇怪な事件がこの学校の生徒であると思ったのか」

 

「そうです……

 

マンホールに残っていた妖気が、童守小学校の方に流れていた……それでこの学校の誰かに関係があるかと考えたのです。

 

それが鵺野先生のクラスにいたとは……秀一君…ですか」

 

「だからどうした。いつもの事だ。

 

俺が守ってやるさ」

 

「そう簡単に行くような、妖怪じゃないよ。今回は」

 

 

その声の方に振り向くと、狼姿をした焔の頭を撫でる麗華が、給水タンクの上に座っていた。

 

 

「麗華……って、コラ!!

 

そこから降りろ!危ないぞ!」

 

「硬いこと言うなって。ここが一番好きなんだからさ」

 

「あのな」

「麗華君、話の続きを」

 

「今回の敵……妖力が異常に高い。もしかしたら、神獣のかもしれないね」

 

「何だと?!」

 

「以前闘った麒麟のこと覚えてるでしょ?

 

そいつと同じ妖力を感じるんだ」

 

「……」

 

「何、恐れることはありませんよ」

 

「?」

 

「方法は一つです」

 

「方法って……?」

 

 

突然、雷が鳴りふと空を見上げると、空は黒い雲に覆われていた。その雷に反応するかのようにして、焔とシガンは毛を逆立てながら、唸り声を上げた。

 

 

「あ~、可愛い!」

 

 

その頃秀一は、猫の写真をクラスの女子に見せながら自慢話をしていた。

 

 

「だろだろ?うちには他に、スコティッシュフォールドやメインクーンなんかもいるんだよ」

 

「スッゴォイ!

 

皆、秀一君が世話してるの?」

 

「もっちろん!……?雷?」

 

 

雷が鳴り、女子達は不安げに空を見上げてた。その時、マンホールの蓋がガタガタと動く音が聞こえ、秀一は蓋に目を向けた。蓋は動くのを止め静けさが戻ったかと思いきや、四人を囲うようにしてあったマンホールから亀の様な首が四匹姿を現した。その首は雷を浴び、そのまま秀一に突進してきた。

 

襲われる瞬間、鬼の手を構えたぬ~べ~が一匹の首を斬り落とし助けた。それを見た首達は素早く、下水の中へと姿を消した。蓋が開けっ放しになった下水を、焔に乗って降りてきた麗華は中を覗くようにして見た。

 

 

「逃げられたよ」

 

「そうみたいだな……」

 

「ぬ、ぬ~べ~!」

 

「秀一……」

 

 

しばらくして、斬り落とした敵の首を理科室へと持っていき、ぬ~べ~は机の上に乗せた。立会人として、広と郷子も理科室へと入り様子を伺った。

 

 

「何なのあれ?蛇?」

 

「しっ!今調べている所よ」

 

「なぜ秀一君を恨んでいる……

 

貪狼巨門禄存文曲廉貞武曲破軍」

 

「フッ……何かの間違いさ。

 

この完璧な僕が恨まれるなんて…ぬ~べ~や麗華はともかく」

 

「相変わらず、小生意気な奴だ」

 

「完璧な人間程、他人の抱く恨みは強いよ」

 

「!」

 

「麗華!」

 

「これは、数日前秀一君に捨てられた亀だ」

 

「亀?!」

 

「アハハハハハ!!亀だって!」

 

「確かに僕はこないだまで、小さな亀を飼ってたけど」

 

「え?」

 

「でも、わざとじゃないんだ……ちょっと不注意だったんだ。

 

いつものように、水槽の水を取り替えようとしてただけなんだ……」

 

「水を流している最中に、亀が下水に流れちゃったの?」

 

「うん……

 

けど、だからといって」

 

「やはりな」

 

「?」

 

「罔象女(ミズハメ)を知っていますか?」

 

「確か、日本神話に出てくる古代の水神……」

 

「それがどうかしたの?」

 

「神話では、伊邪那美が死の直前に産んだとされ、蛇や竜の姿で表されている。

 

あの亀は、ヘドロの底に捨てられた古代の罔象女神の御神体に触れ霊力を得たのでしょう」

 

「なるほどねぇ。

 

巨大妖怪化した亀は、今や御神体そのものを飲み込んで、自分の体の一部にした」

 

「そう……

 

御神体は神が現世に力を送る云わば通信機……それが体内にあるということは、奴は無限に神の力を得られるという事」

 

「神の力……それはもはや、神獣」

 

「そのうえ、下水に流れている無数の動物達の怨念をかってる……威力半端ないね」

 

「そうです。

 

恐らく……私でも鵺野先生、麗華君でも勝ち目は無いでしょう。

 

 

しかし……私は人間の味方ではないが、今回は童守町の人々を救ってやりましょう。

私は鵺野先生を超える霊力を得るために、人間の愛について研究している……他人に対する愛という感情は、高い霊力を引き出すらしいからね」

 

(愛ときたもんだ……)

 

(くさい事言うなぁ……)

 

「町を救えば、私は何百人もの人々を愛してやったことになり、霊力を高めることができる」

 

「?」

 

「それは、たった一人の今を犠牲にすることによって!」

 

「ま、まさか」

 

 

突然玉藻の姿が、狐へと変わり秀一を抱えて外へと飛び出して行った。

 

 

「待て!玉藻!」

 

「焔!」

 

 

割れた窓に狼姿になった焔が現れ、麗華は窓から飛び彼の背中に乗り、すぐさま玉藻の後を追いかけて行った。

 

 

町の建物を飛び移りながら、玉藻は秀一を抱え移動していた。

 

 

「た、玉藻先生、妖怪だったのか?!」

 

「そうだ!私は妖狐・玉藻。

 

それより見ろ……奴は怒って暴走し始めた」

 

 

空は黒い雲に覆われ、雷が鳴り響いていた。所々のマンホールから下水の水が噴水し、さらには雷が落ち町を粉々に壊していき、人々は逃げ惑っていた。

 

 

「どうだ秀一君……これがみんな、君のせいなのだ。

 

君は自らの責任を取って、アイツに殺されるのだ。それで町は救われる……」

 

 

「そんなわけないでしょ」

 

 

秀一の元へ、焔に乗った麗華が到着し彼女はいつの間にか出した薙刀を構え秀一の前に立った。

 

 

「れ、麗華クン」

 

「一人の犠牲で、この怒りが沈むとは思わない」

 

「一人の犠牲で、何百人の命が救われる……そしてそれは何百人もの人々を愛してやったことになり、霊力を高めることができる」

 

「出来るわけないでしょ。そんなの偽物の愛だ」

 

 

“ドーン”

 

 

落雷と共に三人の前から、八つの頭を持ち甲羅の様な者を背負った巨大な妖怪が現れた。

 

 

「これ……亀というより、八岐大蛇じゃん」

 

 

麗華が秀一から目を離した隙に、玉藻は彼を持ち上げた。

 

 

「狭く暗い闇の中で、恨みを持った者達よ!

 

この生贄で、恨みを晴らすがいい!憎しみの心を癒すがいい!!」

 

 

恐怖のあまり、秀一は玉藻の手の中で暴れ泣き喚いた。怪物は秀一に近寄り、鳴き声を上げながら彼を食おうとした。次の瞬間、彼等の前に氷の飛礫が飛び、そしてその直後に遅れて駆け付けたぬ~べ~が玉藻に持ち上げられていた秀一を奪い地面に下ろした。二人の元に、鳥の姿をした氷鸞と麗華が駆け寄ってきた。

 

 

「ぬ~べ~!」

 

「何をするんです?!その子一人が死ねは、人々は助かるというのに」

 

「黙れ!何が一人死ねばだ!」

 

「?」

 

「例え一人が犠牲になって、人々が救われたからって、喜ぶ奴はいない。

 

生贄に出された人の家族の気持ちを考えなさい!」

 

 

その時、一つの首がぬ~べ~の背後から突進してきた。玉藻は秀一を抱えすぐに飛び避けたがぬ~べ~は諸に攻撃を喰らい、氷鸞は麗華を守る様にして彼女の翼で包み攻撃を受けた。

 

 

「ぬ~べ~!麗華!」

 

 

ぬ~べ~は突進された勢いで飛ばされ、壁に激突した。氷鸞は背中に傷を負い、地面に倒れ虚ろな目で麗華を見た。

 

 

「麗様……お怪我は?」

 

「私は大丈夫……けど、氷鸞…アンタ、背中」

 

「大丈夫です…これくらいの傷。

 

焔、麗様を守りなさい」

 

「命に代えて」

 

 

傷を押さえながら、氷鸞は後ろにいた焔に伝えると、紙に戻り麗華と手に戻った。

 

 

「氷鸞……(帰ったら、丙に治して貰うからね)」

 

 

そんな麗華達を見た秀一は目に涙を溜め、目の前にいる妖怪の所へ一歩一歩近づいた。

 

 

「も、もう止めてぇ……

 

ぼ、僕が悪かったよ……ゴメンね。でも、関係ない人達を殺しちゃいけないよ!」

 

「秀一!」

「白鳥!」

 

「憎いなら……僕を犠牲に……僕だけを!!」

 

 

妖怪はしばらく秀一を見ると、後ろを向いた。麗華は立ち上がり、薙刀を手にし唸る焔の頭に手を置き身構えた。

 

 

「わ、分かってくれたのか?」

 

「……いいえ」

 

 

後ろを向いた妖怪は、その瞬間尻尾を伸ばし秀一を縛り上げ自分の体の中へと入れた。

 

 

「秀一!!」

 

 

傷を負いながら、ふら付いた足でぬ~べ~は立ち上がり彼の名を呼び叫んだ。

 

 

「フフフ……これで、妖獣の怨念も消える。これで、童守町の人々も救われた……私の愛によって」

 

 

その時、横に立っていたぬ~べ~は玉藻の頬を思いっきり殴った。

 

 

「そんなもの……そんなもの、愛でも何でもない!」

 

「……」

 

「人はね、何人死ねば何人助かるなんて数で考えたりはしない……目の前に、命が危ない者がいれば、何も考えず無意識に助けようとするもの……自分の命も顧みずにね!」

 

「そこには計算なんてないんだ……お前は人間の心がちっとも分かっちゃいない!!」

 

 

鬼の手を出し、ぬ~べ~は妖怪の甲羅の上へと飛び乗った。そしてなかにいる秀一を助けようと、甲羅を叩きだした。そんな彼に向かって首たちは襲おうとしたが、首たちの前に焔と雷光、麗華が立ち防いだ。

 

 

(無駄だ……鬼の手の力では、甲羅に傷一つつけられはしない。ましてや陰陽師の力を借りても……

 

 

しかし、どういうことだ。贄を出したのに私の力は……

どう見ても明らかに、鵺野先生の霊力は上がっている。それに麗華君の霊力まで……まさか。

 

 

まさか、私の計算が間違っていたとでも言うのか?!)

 

 

甲羅を叩くぬ~べ~……だが、その手は止みぬ~べ~は悔し涙を流した。

 

 

「く……ダメか。

 

 

どうしても……どうしても、今の力で勝てないというなら」

 

 

鬼の手を上げるぬ~べ~……その行為に気付いた麗華は、薙刀を下ろし彼を見た。

 

 

「アイツ……!?まさか」

 

「美奈子先生……生徒を守りたいんだ。先生が抑えている鬼の力の封印を解き放ってください!」

 

『そんなことをしたら、あなたの体は鬼に乗っ取られてしまいます』

 

「構いません……やってください!」

 

『……

 

 

分かりました……生徒を守るためなら』

 

 

美奈子先生のその声と共に、鬼の手の妖力は一気に放たれぬ~べ~の体を覆った。

 

 

「(あのバカ……鬼の力を解放させやがった)鵺野!!」

 

 

苦しみ声を上げるぬ~べ~に、麗華は襲ってきた首を斬り駆け出した。

 

 

「鬼が完全に、目覚めれば……こんな甲羅など……!?」

 

 

鬼の手に、玉藻は自分の手を乗っけてきた。それ同時に麗華も駆け寄り、彼等の手の上に手を乗せた。

 

 

「お前等、何を?!」

 

「私と麗華君の体にも鬼の力を逆流させて、あなたの負担を軽くするのです」

 

「ば、馬鹿な!そんな事したら、お前等まで」

 

「私がここに戻ってきて、誓ったことがある!

 

 

自分の命に代えてでも、大事なものを守る!!だから、この体がどうなろうと構わない!」

 

「私も構いません!!

 

いきますよ!先生」

「いくよ!鵺野!」

 

「南無大慈大悲救苦救難広大霊感白衣観世音」

「貪狼巨門禄存文曲廉貞武曲破軍」

「四縦五黄禹為除道蚩尤避兵令吾周遍天下」

 

 

三人はお経を唱え、そして自分達に着いた鬼の手を振り上げ甲羅を叩き割った。粉々に割れた瞬間、中で囚われていた秀一は地面に落ちかけたが、彼を助けようと一つの首がクッションとなり彼を助けそして消えた。

 

 

「ぐあ!」

 

「み、美奈子先生!鬼を……鬼を抑えてください!」

 

 

ぬ~べ~の願い通りに、美奈子先生は鬼の力を押さえた。鬼の手は元の大きさへとなり、三人は息を切らした。

 

巨大妖怪は、黒い霧を纏って姿を消した。その霧の中から小さい緑亀が一匹現れた。亀を見た秀一は、亀に駆け寄った。

 

 

「さっき僕を助けてくれたのは、お前だったんだね……ごめんごめんね」

 

 

涙を流して、謝る秀一……すると亀は光り出し辺りを覆っていた霧が光りやがて天へと登って行った。

 

 

「小動物の怨念が?!」

 

「……そうか。

 

分かってくれたんだ。秀一の優しさに触れて」

 

「じゃあ……これで、成仏できるのか」

 

「そうだ……」

 

 

光りは天へと登り、空はもとの青空へと変わった。

 

 

「すまん、おかげで助かった」

 

「フン。勝機が見えたのでね……秀一君を犠牲にするより、あなたに協力する方が良いと判断したのです」

 

(勝機に見えた?

 

フン…一か八かの賭けだったよ)

 

「全く、無茶しやがって。

 

おかげでボロボロじゃない」

 

「いつも無茶しているお前に言われたくはない!」

 

「ハァ?!」

 

 

その時、瓦礫の隙間から黒猫と灰猫が駆け寄り麗華の肩へと飛び乗ってきた。それと同時に、狼姿をした焔と馬の姿をした雷光も駆け寄り彼女に擦り寄った。

 

 

「どうしたぁ?いきなり」

 

 

何も答えない彼等を、麗華は一息吐きながら順々に頭を撫でていった。

 

 

「ぬ~べ~!

 

ありがとう!命懸けで僕を助けてくれて。麗華もありがとう!」

 

 

ぬ~べ~の元へ駆け寄ってきた秀一は、泣きながら二人に礼を言った。そんな秀一を見た玉藻は、何も言わず立ち去ろうとした。

 

 

「待って!」

 

「?」

 

 

立ち去ろうとした玉藻を、秀一は呼び止め彼の前に行き泣きながら口を開いた。

 

 

「玉藻先生ありがとう!本当にありがとう!」

 

「……」

 

「どうだ?一人の感謝も何百人の感謝も、そう味は分からないと思うが」

 

「……くだらん。

 

私は合理的に行動しただけですよ」

 

 

そういうと、玉藻はその場を去って行った。去っていく彼の顔はどこか嬉しそうな表情を浮かべていた。


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