地獄先生と陰陽師少女 作:花札
数日後……
病院内のデイルームで、麗華は見舞に来た広達と楽しげに話していた。そんな彼女達を遠くから輝三と龍二は眺めていた。二人に向かって、茂はカルテを見ながら話していた。
「熱も引いたし、発作も起さなくなったから、明後日あたりには退院できるよ」
「そうか……
これなら、今日中にでも帰るか」
「え?もう帰るのか?」
「まぁな。今日まで休みを取ってたが丁度良かったな」
「麗華の奴、怒るぞ」
「……?」
二人の前を見覚えのある格好をした男子二人が通り過ぎた。男の内チャライ格好をした男は、後ろへ回り麗華に抱き着いた。
「よぉ、麗華!元気にしてたか?」
「キャァァアア!!変な男が麗華に抱き着いたわぁ!!」
「細川、うるさい!」
「この人、誰?」
「知り合い。最近童守町に帰って来て、私が入院してるの何処からか聞きつけたのか、時々見舞いに来るんだ」
「へぇ……」
「コラ安土、麗華に抱き着くな」
スーツ風の格好をした牛鬼は、安土の服の首根っこを掴みながら引き離した。
「わぉー!チョーイケメン!」
「どうしたの?今日は二人揃って、見舞なんて」
「いや…それは」
「兄貴の奴、恥かしくって今まで来なかったんだけどさ、今日誘ったら行くって言って。
それに、今コイツの心の中、嬉しくてメッチャ飛び上がってる」
「安土!!」
頬を赤くして、牛鬼は怒鳴った。その瞬間、二人の背後に立っていた茂は持っていたカルテとノートで、二人の頭を思いっきり叩いた。
「病院で騒がない。大声を上げない」
「茂さん、相変わらず容赦ねぇな……」
「当然だ」
「わ~ん、麗華ぁ」
「安土……テメェは!!」
怒鳴り声を上げ掛けた牛鬼の頭を、茂はカルテではなく拳で思いっきり殴った。そんな牛鬼を安土は笑っていたが、後ろにいつの間にか立っていた龍二が彼の頭を思いっきり殴った。二人は頭を押さえて、その場に座り込んだ。そんな彼等が面白かったのか、麗華達は大笑いした。
そんな二人の笑った顔を見ていた輝三は、ふと昔の事を思い出した。
二人の両親……輝二と優華が結婚したての頃、引っ越しの手伝いに来ていた時だった。
『本当にいいのか?この家で』
『いいの。これくらい広ければ、子供が何人生まれようと十分に育てられる』
『それに、裏は森。猿猴達が住んでるけど、何もしなければ害は無いし。生まれてくる子供には伸び伸びと育って欲しいしね』
『せめて、建て直しでもすればいいだろ?この家、明治時代に建て直しされてるけど、所々ボロ来てるぜ』
『いいの。母さんや父さんとの思い出が詰まった家だもん。このままにしておきたいさ』
『……おい優華、いいのか?こんなお化け屋敷に住むことになって』
『お化け屋敷って……』
『仮にも、アンタの実家でしょ?そういう言い方しないの!』
『自分家をどう言おうと、俺の勝手だ』
『全く』
『気にしなくていいよ、美子姉さん
私、こういう古風あるお家好きだし。それにこのままの方が毎日来る妖怪達にもいいでしょ?』
『まぁ、アンタが言うならいいけどね』
『母ちゃーん!姉ちゃんが俺の事殴るぅ!』
そう言いながら、客間にいた幼い泰明は泣きながら美子に抱き着いてきた。その後を里奈が追い駆けて来るなり、声を上げて怒った。
『アンタが遊んでばっかりいるからでしょ!』
『遊んでないやい!』
『嘘!!持ってきたビービ―弾銃で遊んでたじゃない!』
『警察ごっこしてただけだもん!』
『それを遊んでるっていうの!!』
『やめろお前等!
手伝いに来てまで、喧嘩すんな』
『だって泰明が!!』
『ほら里奈ちゃん、叔母さんとお母さんと一緒にあっちで叔母さんの荷物一緒に片付けよ。ね』
『泰明君は、俺と兄さんの手伝いをしてくれ』
『うん!』
『叔母さんのお手伝いする!』
『じゃあ、あっちの部屋行こう!姉さんもほら』
『ハイハイ』
里奈を連れて、優華は美子と共に別室へ行った。優華は二人に向かってウインクし、先に行った二人の後をついて行った。
『お前等二人の方が、子供の扱い慣れてるな』
『母さんがやってたことを、優華に教えたんだよ。
兄さん達、いっつも喧嘩してたじゃん。そのたんびに父さんが機嫌直しにって兄さんと喧嘩の現場見た俺を連れて、よく散歩に連れてってくれたじゃん』
『そういや、そんなこともあったなぁ』
『……』
『なぁ、一つ聞いていいか?』
『?』
『もし、子供が生まれるなら、何を望む?』
『え?望むって』
『五体健康とか、頭脳明晰とか……そう云ったものだ』
『う~ん、難しい質問だねぇ。
兄さんは何望んだの?』
『俺か?
元気がありゃ、いいかなって……それだけを願った』
『元気かぁ……それはちょっと、保証できないなぁ。俺、喘息持ちだから。もしかしたら、俺の子供も喘息持ちになるかもしれないしなぁ』
『お前が持ってるからって、ガキに遺伝するかよ』
『分からないよ?そんなの』
『あのなぁ』
『でも、一つだけならあるよ。望んでること。優華と同じもの』
『へぇ……どんなのだ?』
『笑顔』
『?』
『笑顔を絶やさない子になって欲しい。
どんな状況に陥っても、どんな悲しい事があっても、次の日……ううん、いつでもいい。とにかく、いつでも笑顔を向けている子に育って欲しいかな』
輝二の言葉を思い出す輝三の目には、満面な笑顔をした龍二と麗華がいた。
(お前等の望み、ちゃんと叶ってるぜ。
輝二……優華)
輝三の思いに応えるかのようにして、麗華の首に掛けていたペンダントと龍二の手首に着けていたブレスレットの勾玉が一瞬光り、その中に笑顔を向けた二人の姿が一瞬映った。