地獄先生と陰陽師少女   作:花札

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戦略

焼け落ちた廃墟の前に降り立つ龍二達……

 

 

「ここって……

 

Kの家じゃねぇか?」

 

「どうりで……

 

嫌な妖気がそこら中に臭う」

 

「……しかし」

 

 

呆れたような表情で、龍二は後ろを振り返った。後ろには鎌鬼に支えられて立つぬ~べ~がいた。

 

 

「お前は一体、いつになったらあのスピードに慣れるんだ?」

 

「渚、この人は普通の人間で、空何て飛行機で飛んだことしかない人だよ。

 

麗華や龍二達と違うんだから」

 

「いい加減慣れなさい」

 

「……」

 

「ハァ……?」

 

 

焼け落ちた屋根の骨組みに立つ二つの影……その影に気付いた龍二達は、屋根に目を向けた。そこにいたのは梓と彼女と似たような恰好をし薙刀を持った麗華が立っていた。

 

 

「麗…」

 

「お集まりの様ね……牛鬼も一緒でよかった。

 

いなかったら、どうしようかと思ったわ」

 

「……」

 

「さてと……

 

牛鬼は私の所に来て。そうすれば、麗華は返してあげるわ」

 

「やはり、そう来たか……」

 

「龍、どうする」

 

「……牛鬼、耳貸せ」

 

「?」

 

 

牛鬼の隣へ行った龍二は、彼の耳元で何かを話した。牛鬼は顔色一つ変えず、一瞬梓達の方を見た。

 

 

(何を話しているのかしら……)

 

 

話しを終えると、牛鬼はゆっくりと梓の元へと寄った。梓は後ろにいる麗華に手で合図を送りながら、彼を見つめていた。ゆっくりと近づいてくる牛鬼……彼が梓の元へ来た時、麗華は飛び上がり、龍二目掛けて薙刀を振り下ろしてきた。振り下ろしてきた薙刀を、龍二は剣で防ぎ薙ぎ払った。

 

それを見た牛鬼は、手から毒の槍を出し梓に攻撃した。梓は糸でその攻撃を防ぎ、彼から離れた。

 

 

「牛鬼……抵抗するなら、あの女の命は」

「誰の命だって?」

 

「?!」

 

 

龍二の前に立つ麗華……彼女はゆっくりと梓の方に振り向いた。

 

 

「な、何で……催眠術を掛けたはずなのに」

 

「あ~……催眠術って、痛みに気を引かれてると掛かりにくいんでしょ?」

 

 

そう言いながら、麗華は人差し指を見せた。そこには血の塊が付いていた。

 

 

「まさか……」

 

「催眠術を掛けられる前に、寝かされていたベットにあった釘で刺した。痛みのおかげで術にかかることなく、アンタに操られているふりをしたってわけ」

 

「!!」

 

「それはそうと……

 

アンタ、よくも私の体弄りまくったな!!こんな意味の分からない服まで着せやがって!!」

 

「フン!私の趣味に合わせただけよ。文句でもあるのかしら?」

 

「大ありだ!!」

 

「お前……あいつに何されたんだ」

 

「色々された……

 

とてもじゃないけど、口で説明できないほど」

 

(相当、嫌な事されたな……)

 

「ちょ、ちょっと待て!

 

俺に分かるよう、説明してくれ!」

 

「何で阿呆が来てるの?

 

玉藻はともかく」

 

「麗華!!お前なぁ!!」

 

「怒るのは後だ!俺から説明させて貰う。

 

 

昼間、コイツの式から知らされたんだ。麗華は操られていない……梓に合わせて演技をしている。だから攻撃したら、剣で防ぎその合図で牛鬼に攻撃させろって」

 

「式?」

 

「自分の霊気を、この紙に入れて伝えたいことだけを想いながら投げる……そうすれば、霊気の弱い、もう一人の自分が出来るんだ」

 

「お前等、便利なもの持っているなぁ」

 

「あんな変な奴に、操られてたまるか」

 

 

擦り寄って来た、焔達の頭を撫でながら麗華はそう言った。ぬ~べ~は苦笑いしながら、そっぽうを向いた。

 

 

「調子に乗るんじゃないよ!!」

 

 

怒鳴り声と共に、梓の周りにはいつの間にか巨大蜘蛛の大群が構えていた。龍二達の後ろにいた安土は、前にいる牛鬼の隣に立ち梓を睨んだ。ぬ~べ~は鬼の手を出し、玉藻は妖狐に姿を変え麗華と龍二は持っていた武器を構え、渚達は獣の姿へと変わり、攻撃態勢に入った。

 

 

「あなた達全員殺して、私は牛鬼と一緒にいるのよ……永遠に!邪魔者は全員消してあげるわ!!」

 

「消すだ?何馬鹿なこと言ってんだ」

 

「あなたは黙っていなさい」

 

「黙るか!

 

兄貴と一緒にいたいだ?そのために、この世にいる生物を全員消すだ……フザケタ事言ってんじゃねぇよ!!

 

 

テメェの存在は、とっくの昔に俺等の手で消してんだよ!!」

 

「黙れ!!」

 

 

梓の手から発射された風圧が、安土に当たり彼は麗華達の元へと飛ばされた。

 

 

「安土!」

 

「消した?私は、そこにいる女の霊気で、この世に蘇ることができたのよ!

 

蘇らせたのは、消した本人であるアンタ達二人じゃない!」

 

「……」

 

「それを……今度は、邪魔になったからって消そうとして……」

 

 

何かブツブツと言いながら、梓の周りに黒いオーラが纏い、周りにいた蜘蛛たちは鳴き声を発した。

 

 

「何……この、妖気」

 

「感じたことねぇ妖気だ……」

 

「……!」

 

 

一瞬、麗華の頭に何かが過った。人型の蜘蛛の様な生き物が一匹……

 

 

「……ヤバい」

 

「え?」

 

「早く……早く、アイツを殺さないと。

 

大変な事になる!」

 

 

“ドーン”

 

 

黒いオーラが吹っ飛び、中から胴体に黒い足が生やし、頭に黒い二本の角が伸び、体は巨体化し不敵な笑みを浮かべ姿が変形した梓が現れた。

 

 

「これで……邪魔者は全員殺す!!」

 

 

口から無数の針を梓は飛ばしてきた。渚は口から水を吐き、その水を氷鸞は凍らせ全員の前に盾を作った。氷の盾で針は防がれ、終わったのを合図に雷光と焔が上へ上がり、焔は炎を吐き出しその炎に向かって雷光は風を起こした。風は炎を纏い炎の風へと変わり、梓に攻撃した。梓は糸を吐き炎を防ぎ、毒の槍を麗華と安土目掛けて投げ飛ばした。

 

 

「安土!麗華!」

 

 

安土は麗華を抱え、その場から飛び上がり攻撃を避けた。だが梓は飛び上がった安土目掛けて、毒槍を素早く作り投げた。毒槍を麗華は安土の体を借りて、薙刀を降り槍を粉々に砕いた。砕いた後落ちて行く麗華をキャッチした安土は、龍二達の元へと落ちた。

 

 

「麗華!!」

「安土!!」

 

「痛って~……

 

踏み台にすんなら、そう言えよなぁ」

 

「ゴメン、咄嗟的に思いついたことだったから」

 

「お前等二人共、何やってたんだ!!」

「お前等二人共、何やってたんだ!!」

 

 

口を揃えて言いながら、麗華と安土の頭を龍二と牛鬼は思いっきりに殴った。二人は殴られた箇所を押さえ、涙目で二人の方に目を向けた。

 

 

「何で殴るんだよ!牛鬼」

 

「当たり前だ!!危険な行為しやがって!!」

 

「殴らなくたっていいじゃん!無事だったんだから!」

 

「殴るわ!!毎度毎度危険なことしやがって!!少しは心配するこっちの身にもなってみろ!」

 

「私はいつもその身だ!!兄貴こそ、少しは分かれ!!」

 

「俺は兄貴だから、分かってんだ!だからいいの!」

 

「ズルいぃ!!」

 

「お前等!!兄妹(兄弟)喧嘩は後にしろ!!」

 

「君等、敵と戦っていることをお忘れなく!!」

 

 

その時、ぬ~べ~達の頭上を無数の巨大蜘蛛が飛び越え龍二達目掛けて突進してきた。突進してきた蜘蛛たちを、牛鬼と安土が毒の槍を出し切り裂いた。すると彼らの後方からも、巨大蜘蛛達が突進してきた。後方の蜘蛛たちを、背中を守る様にして麗華と龍二が立ち剣と薙刀で切り裂いた。

 

 

「……」

 

(……おやおや。

 

昨日の敵は今日の味方…ですか?)

 

「危なっかしくやってるのは、アンタ達兄弟じゃない」

 

「そういうお前等兄妹もだろうが」

 

「お互い様だろ。もう」

 

「さっさと、あの化け物を壊すぞ」

 

「へ―イ」

 

「鵺野!玉藻!

 

二人で、あの化けものを殺せ!!」

 

「何ぃ?!」

 

「俺等全員で、アイツが出してくる巨大蜘蛛を殺していく。雛菊、焔、二人は火攻撃。雷光は二人の援護するようにして風の攻撃。渚は水攻撃で、その水を氷鸞が凍らせて、礫を作りあの化け物に攻撃だ」

 

「承知」

「承知」

「承知」

「承知」

「承知した!」

 

「鎌鬼は俺等の援護で!」

 

「コラ!」

 

 

突進してきた無数の巨大蜘蛛の群れに向かって、四人は突っ込んでいった。前に攻撃してきた蜘蛛を、鎌鬼が慌てて攻撃し防いだ。

 

 

「二人共!!突っ込むなら、こっちの準備が出来てからにしてくれ!ついて行くのがやっとなんだから……」

 

「いいじゃん、別に」

 

「死なせないだろ?俺等二人は」

 

「……全く。

 

世話の掛かる子供だ!」

 

 

そう言いながら、鎌鬼は持っていた鎌に自身の妖気を吸い込ませ巨大な鎌を作り上げ、その鎌を巨大蜘蛛群れの一部を切り裂き消し去った。

 

 

「さっすが鎌鬼!」

 

「君達はあの鬼と狐の援護をしなさい」

 

「そんなもん」

 

「分かってるよ」

 

 

龍二はポーチから紙を取り、もう一枚の紙を麗華に渡した。そして二人は紙を構え群れを睨んだ。

 

 

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」

「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」

 

「いでよ!!火之迦具土神!!」

「いでよ!!火之迦具土神!!」

 

 

二人が持つ紙が赤く光り出し、そして炎を作り出した。作り上げたと共に二人は睨んでいた蜘蛛の群れに向かって炎を解き放った。蜘蛛たちは一斉に悲痛な悲鳴を上げながら、丸焦げになり全滅した。梓は驚いた表情を浮かべて、龍二達を睨んだ。

 

 

(何で……何で……)

 

 

睨んでいた眼は、やがて牛鬼一人に絞られていた。

 

 

(どうして……どうして、一緒にいてくれないの?

 

それだけが……それだけが望みなのに。どうして)

 

 

化け物の姿をしていた梓は、元の人の姿へと戻り、そして赤い目で牛鬼を睨んだ。目が合った瞬間、梓は笑顔を向けそして手から糸を出し、牛鬼の近くにいた麗華を取り、崖に宙吊りにした。

 

 

「麗華!!」

 

「選びなさい、牛鬼」

 

「?!」

 

「私と共に、この地ではない遠い所で一緒にいるか、この女をこの崖から落として殺されるか……」

 

「汚ねぇぞ!!梓」

 

「さぁ、選びなさい!この糸を斬れば、彼女は真っ逆さまに地面に落ちて、あの世逝き……」

 

 

足を縛られ、逆さづりになっていた麗華は何とか糸を斬り、遠くにいる焔を見ながら合図を送ろうとしていたが、糸に障った瞬間、毒蜘蛛が手を噛みその症状なのか、手足が麻痺し動けなくなってしまった。

 

 

(脱走しようにも……手足が麻痺しちゃ)

 

「どうする?大事な子が、粉々に砕けていなくなるのよ?」

 

「……お」

「落とせばいいじゃねぇか」

 

「?」

 

 

その声の主の方に、その場にいた全員が顔を向けた。そこにいた龍二は腕を組みながら、笑みを溢してそう言った。

 

 

「龍二、今何て」

 

「だから、落とせばいいじゃねぇか?

 

出来るならな」

 

「は?

 

あなた、頭おかしいんじゃないの?」

 

「おかしくねぇ。俺は至って、冷静だ。

 

落とせるもんなら、落としてみろよ」

 

「……いいわよ。

 

落としてあげるわ……あなたが望むなら!」

 

 

糸に当てていた毒槍で、梓は糸を斬った。その瞬間、麗華は真っ逆さまに落ちて行った。ぬ~べ~は崖縁まで駆け寄り、下を見た。下は木々で埋め尽くされていた。

 

 

「嘘だろ……龍二!!」

 

 

ぬ~べ~は、怒りの形相で龍二に駆け寄り胸倉を掴み怒鳴った。

 

 

「何考えてんだ!!」

 

「……」

 

「大事な妹を……たった一人の家族を殺してどうすんだ!!」

 

「……」

 

「何か答えろ!!龍二!!」

 

 

何も答えない龍二……すると梓は高笑いをしながら、立ち上がり不敵な笑みを浮かべてぬ~べ~を見た。

 

 

「何をそんなに嘆いているの?たかが女一人、死んだだけでしょ」

 

「人が一人死ぬってことは、誰かが悲しむことなんだ!人を無暗に殺すな!」

 

「……死んでも、気付かれない人だっているのよ」

 

「?」

 

「この世には、無数の魂が彷徨ってるわ。

 

自分が死んだ事すら知らない魂や、死んだ事に気付かれずそれに気付いてほしいが為に彷徨う魂……

 

 

死ねば誰かが悲しむ?そんなわけないじゃない!それに、邪魔者がいなくなれば……大事な人とずっと一緒にいられるのよ……そうでしょ?牛鬼」

 

 

顔を下に向けながら、牛鬼はゆっくりと梓に歩み寄った。そして彼女の前に立つと、牛鬼は梓を抱き締めた。梓は幸せそうな表情を浮かべ、牛鬼を抱き締めようとした。だが次の瞬間、梓の顔色が変わった。血の気が引いたように青ざめ、胸を押さえてその場に座り込んだ。ハッとしたぬ~べ~と玉藻は牛鬼の手元を見た。彼の手には血に染まった短剣が握られていた。

 

 

「な…何で……」

 

「梓……邪魔者がいなくなれば、大事な奴とずっと一緒にいられると思ったら、大間違いだ。

 

大事な奴にだって、大事な奴がいる……それを壊せば、大事な奴の人生は滅茶苦茶になるだけだ」

 

 

その時、空から翼を羽ばたかせた氷鸞が、何かを抱えて降りてきた。自身の手に布を巻き、青ざめた顔で氷鸞に支えられながら立つ麗華がいた。

 

 

「?!」

 

「悪いな……テメェが落とす前に、コイツに行ってもらってたんだ。気配を消して麗華が落ちてくるのを待ち構えててもらってたんだ」

 

「まさか、氷鸞がいたからやったのか?」

 

「当たり前だ!でなきゃ、あんな事するか!」

 

「怒鳴る前に、少しは考えてほしかったわ」

 

「全くだ」

 

「だから阿呆って呼ばれるんだよ」

 

「……」

 

 

「終わりはしないわ……」

 

「?」

 

 

胸を押さえながら、梓は立ち上がり全員を睨んだ。

 

 

「まだ動けるのか」

 

「終わりはしない……

 

もう何も関係ないわ。私は必ず、この世にいる全ての生き物を殺してやる!!」

 

 

そう叫び高笑いをしながら、梓は口から毒煙を出した。龍二達は瞬時に手で鼻と口を多い目を瞑った。しばらくして、丙と雷光が風を起こし毒煙を払った。牛鬼の前にいた梓の姿は、跡形なく消えていた。

 

 

「どこに行ったの……」

 

「分からねぇ……けど、もうアイツの妖気は感じない」

 

「……」

 

「何れにせよ、アイツはまたいつか姿を現す……」

 

「その時になったら、また僕も参戦するよ」

 

 

そう言いながら、鎌鬼は光の粒になりながら麗華に語りかけてきた。

 

 

「鎌鬼……」

 

「時間だ。

 

そんな悲しい顔しなくても、また助けに来るよ。以前もそう約束して、またこうやって助けに来ただろ?」

 

「……」

 

「じゃあまた……」

 

 

鎌鬼はヒカリの粒となり消え、彼がいた場所にはシガンがいた。目を開けるとシガンは麗華の方へと攀じ登り、頬を舐めた。

 

 

「一応、戦いは終わったってことか……」

 

「ハァ~……どっと疲れが出たぁ」

 

「何が疲れたよ。何の役にも立ってないくせに…馬鹿教師が」

 

「あ?!

 

 

だいたいな!お前みたいな不良生徒を指導する、教師の身になってみろ!毎度毎度冷や冷やしておちおち、夜も寝れないわい!!」

 

「テストの採点を鬼の手に任せて、眠ってる教師に言われてくないわ!!」

 

「な?!何でそれを?!」

 

「お見通しなのよ、馬鹿教師」

 

「何だとぉ!この不良生徒が!!」

 

 

口喧嘩をするぬ~べ~と麗華……そんな二人を見て、龍二達は笑った。そんな光景を牛鬼は眺めていた。

 

 

「何しけた顔してんだ!」

 

「安土……」

 

「一件落着したんだ。少しは喜べ!」

 

「……」

 

「ハハ~ン……さては麗華に、慰めて貰いたいのか?」

 

「?!」

 

 

安土の言葉に、牛鬼は顔を真っ赤にして彼の方を見た。

 

 

「その顔は正解だな。

 

 

麗華ぁ!牛鬼の奴がなぁ!」

 

「コラ、安土!!」

 

 

先を走って行く安土の後を、牛鬼は顔を赤くして呼び叫びながら追いかけて行った。


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