地獄先生と陰陽師少女 作:花札
突然、廊下から女性の悲鳴が聞こえたかと思うと、聞こえた先から赤い花魁の格好をし、茶色い髪を赤い椿の飾りを付けた簪で纏めた女性が、走って来るなり即座に麗華と龍二の後ろへ隠れた。
その女性を追いかけてか、手に数珠と白衣観音経を手に持って息を切らしたぬ~べ~が姿を現した。
「何やってんだ?ぬ~べ~」
「麗華達の後ろに隠れた女を除霊するんだ!」
「なぜ私が、除霊されなければならぬのだ!!
麗!龍!この者は何者だ?!私は、この間抜け面の男に、危うく除霊されかけたのだぞ!!」
「間抜け面とはなんだ!!間抜け面とは!!」
「こいつは、麗華の先公だ」
「何?麗の?」
「そうだ。
そんで、先公。
こいつは、雛菊(ヒナギク)。俺のもう一体の式神だ」
「式神?
何だ、そうだったのか!
いやぁ、すまんすまん!てっきり、浮遊霊かと…」
「謝って済む問題ではない!!
雷術、痺れの舞!」
手に溜めた電気の塊を、雛菊はぬ~べ~に当てた。ぬ~べ~の身体はたちまち電流し、焦げ付き口から煙を出して倒れてしまった
「ぬ~べ~!!」
「雛菊!やり過ぎだ!」
「そ奴がいけないのだ!!」
「龍、雛菊の言う通りじゃ!その男が悪い!」
「お前等なぁ!」
「雛菊、丙。
アンタ達はここの仕事もういいから、今晩やる祭りの準備をしてくれ」
「承知!」
「分かった!」
麗華の命に、喜びに満ちた声を出しながら、二人は煙のように消えどこかへ行ってしまった。
「ったく、示しがつかねぇよ。
あの二人の主は、俺だぞ?」
「ああするしかないでしょ?
それに、主な原因は鵺野にあるみたいだし」
「まぁそうだけど……」
「なぁ麗華。
こんな夜遅くに、祭りやんのか?」
「うん。毎月の行事だし」
「毎月?!」
「そう。毎月」
「しかも、相手は人間じゃねぇしな」
「人間じゃない?どういうこと?」
「続きは飯を食ってからだ。冷めちまうぞ?」
龍二の言葉に、郷子達は慌てて中へ入り、並べられたご馳走に喰らい付いた。そんな郷子達の姿に驚きながら、二人は顔を見合わせ、その食卓に入り共にご馳走を食べた。
一時間後―――――
「はぁぁ……食った食った」
「はぁぁ……食った食った」
膨れたお腹をさすりながら、広とぬ~べ~は畳の上に横になりながらそう言った。
「全く、だらしないわねぇ」
「良いじゃない郷子。
それにしても、本当に今日食べた料理、美味しかったわぁ……」
「何だ?そんなに美味かったか?」
食器を片づけに来た龍二が、美樹の言葉に反応してお盆に乗せながら質問した。
「はい!とっても」
「そりゃあ、よかった!作った甲斐があったよ」
「いつも、こんな料理を作ってるんですか?」
「いや、いつもじゃねぇ。
麗華と交代交代で、飯を作ってんだ。」
「へぇ……」
「て言っても、兄貴いつも帰って来るの遅いから、先に食べちゃうことが多いけどね?」
龍二たちが話している内容を聞いていたのか、残りの食器を片付けに来た麗華が、不機嫌そうな声でそう答えた。
「仕方ねぇだろ?バイトあんだから」
「だったら、連絡よこせ」
「これからはなるべく連絡するようにするから、そう怒るなって。なぁ?」
「はいはい。
そうだ。お前達、風呂入ってくれば?」
「麗華は?入らないの?」
「私はこの片付けもあるし、ちょっとやることもあるから。お前達から入れ。
焔、こいつ等を風呂場まで」
「承知」
焔に言うと、麗華は龍二と共に部屋を出て、台所へ行った。残った四人は麗華のお言葉に甘え、先に入るということで、郷子と美樹は先に行く焔の後をついて行った。
「ここだ」
引き戸の前に立ち、焔は引き戸を開き二人に仲を見せた。中は脱衣所が広く、棚がありそこには四つ籠が置かれていた。棚と向い合せに、壁に貼られた鏡がありその下に四つの背蛇口が着いた洗面台が並んでいた。
「わぁあ!」
「広ーい!」
「大浴場みたい!」
「そりゃあそうだろ。この家、江戸時代に建てられたんだから、でかくて当然だろ?」
「あ、それもそうか」
「その籠に入ってるタオルを使えばいい。あとは自由に使っていいとの事さ。そんじゃ」
簡単に説明すると、焔は引き戸を占め、風呂場を後にした。
一時間後―――――
「お風呂空いたわよぉ」
濡れた髪を拭きながら、郷子と美樹は客間の襖を開けながら、中にいる二人に声をかけた。
「?そうか。
広、俺達も……!!」
立ち上がったと共に、突然目つきが変わり、周りを警戒し始めたぬ~べ~……
そんな様子に疑問を感じた郷子は、控えめに声をかけた。
「ど、どうしたの?ぬ~べ~」
「強力な妖気が、ここへ向かっている」
「妖気?!」
「一体…二体……いや、もっとだ。
凄い数の妖気が、この神社に向かっている!」
「そのこと、早く麗華達に教えよう!」
「けど麗華達、どこにいんだ?
どこの部屋にいるかも分かんねぇし……」
「どうしたんだ?そんな騒いで」
その声と共に、襖が開いた。襖を開けたのは青い狩衣に身を包んだ龍二だった。
「龍二。お前の家に強力な妖気が、多数こっちに」
「もう承知の上だ」
「じゃあ、早く退治しないと!」
「別にいいんだ。退治しなくても。
その向ってる妖怪たちは、俺達の神社の祭りを目的に来てるんだからな」
「祭り?」
「兄貴、そろそろ来るよ」
龍二の横から、浅葱色の大きな羽織を着て、片足首に鈴をつけ、髪を桜の簪で纏め、手には扇子を持ち、白い生地に朝顔のデザインをした踊り巫女の格好をした、麗華が現れた。
「れ、麗華!!」
「ど、どうしたんだ?!その恰好は?!」
「この格好、他の誰かにばらしたら、ただじゃ済まないからね?」
鋭い目付きで、麗華は美樹に顔を近付けさせ、声のトーンを下げて美樹にキツク言った。
「は、はいぃ(怖~い……)」
「あと五分で始まる。
丙、雛菊。酒の準備だ!」
「承知」
「分かった」
「始まるって、祭りが?」
「見る?この神社取って置きの祭り」
「お祭り、私達も見ていいの?」
「焔と渚が、狼の姿になって参加するから、そいつ等の中にいれば安全だ」
「本当か?どうも、怪しい」
「だったら、勝手にすれば?
ま、アイツ等に勝ち目はないけどね?」
「何を!!」
「麗様!龍様!
もうお集まりです。早く、ご支度を!」
空から、庭に飛び降りてきた者が、膝をつき麗華達に頭を下げてそう言った。
「ご苦労、氷鸞」
「じゃあ、麗華。俺は先に祭壇に行ってる。
先公達案内したら、お前も祭壇に上がれよ?今回の目星は、棒だからな」
「分かった」
麗華に伝えると、龍二は庭へ出て、いつの間にか巨鳥になっている氷鸞の背中に乗り、祭壇へ向かった。
「あれも、氷鸞って言う妖怪なの?」
「氷鸞は名前。
アイツは、私が学校に来る前に手に入れた山の主の妖怪だよ」
「山の主?」
「うん。
けど、その山が壊されて、住む場所を失って、人里を襲っている氷鸞を、私が見つけて引き取ったんだ」
「引き取った?どういう意味だ?」
「詳しい事は、また後日教える。
ほら、早く外出るよ。私も祭壇上がらなきゃいけないんだから」
先に行く麗華の後に、郷子達は続き玄関を出た。
外へ出ると、境内には提灯が着けられ、社前から騒ぐ声が聞こえてきた。
「いや~、今月も疲れましたなぁ」
「本当だ。
こないだ、オラは入るなっていう場所に、人が入ってきたから、脅かして追っ払ってやったわい!」
「そんなこと言うなら、ワイもや。
ワイの領域に、ごみを捨てるなって言うのに、捨てる人間がいてなぁ、頭来たんで脅かしてやったわ!」
そんな声が聞こえてきて、気になった郷子達は社の裏から覗くように見ると、そこには無数の妖怪達が敷かれた敷物の上に座り、酒を飲みながら互いに愚痴を言いまくっていた。
「な、何よ?!これ?!」
「妖怪だらけじゃねぇか!!」
「どの妖怪も、とてつもない妖気だ!」
「各地の守り神たちだ。
強い奴もいれば弱い奴もいる。
そんじゃ鵺野、後は任せるよ?私はもう祭壇へ上がる」