地獄先生と陰陽師少女 作:花札
麗華にとって、輝三の家に来て二度目の夏だった。輝三の家に来てから、一年が経った。
一年前より、麗華は背が伸び体つきも変わった。それだけではなく、性格も変わりつつあった。極度の人見知りが人付き合いが苦手な性格になり、そして感情を家族以外にはあまり表へ出さなくなった。口調も変わり輝三と泰明の影響からか、喋り方も変わった。
しかし中身は変わっても、外見は変わらなかった。ずっと伸ばし続けていた髪は腰下まで伸びた。輝三の目には今まで幼い輝二に見えていた麗華だったが、だんだんと優華に見えるようになった。
二度目の夏休みに入り、受験が終わり晴れて高校生になった龍二は、お盆休みに入ると再び修行を受けに、輝三の家に向かった。
冬休みは行けず、春休みは高校の準備があったため、一週間しか行けなかった。その間に見せてくれた、麗華の新しい式神の氷鸞や、技の上達を見て龍二は喜びに満ちていた。
駅へ着き、長い坂道を登り、龍二は輝三の家へと着いた。境内には、泰明と組み手をする麗華の姿があった。
(アイツ……また背、伸びた?)
「よぉ、龍二」
声の方に振り向くと、煙草を銜えた輝三が歩み寄ってきた。
「輝三」
「久し振りだな。どうだ高校は」
「満喫してるよ。緋音や真二も一緒だからさ」
「そうか」
「麗華の奴、また背ぇ伸びたよな?」
「そういや伸びたな。
丁度、お前の胸下くらいだ」
「胸下……って、メッチャ伸びてんじゃん!!」
「そうか?」
「そうだよ!!
俺が春休みに来た時はまだ、全然そこまで伸びてなかったよ!!」
「背が伸びても、胸の方は優華よりはない」
「このエロ爺!!何、人の妹の体を厭らしい目で見てんだ!!」
「勘違いすんな。今のは泰明の言葉だ」
「……後でぶっとばしてもいいか?」
「好きにしろ」
組み手が終わった麗華は、里奈が持ってきてくれたタオルで汗を拭いた。ふと鳥居の方を見ると、そこから輝三と共に歩いてくる龍二に気付いた。
「あ!兄貴!」
「……」
麗華の言葉に、龍二は一瞬凍りづいたかのように固まった。傍にいた渚は、固まった彼の軽く頭を打ち意識を取り戻させた。龍二は火が点いたかのように、目から涙を出しそして近くにいた泰明を殴り飛ばした。
「何で?!」
「泰明さん、人の大事な妹を…よくも」
「へ?俺、何かした?」
「自分の胸に手を当てて、考えなさい。
麗華ちゃん、お風呂で汗流してきちゃいな」
「はーい」
家の中に入る里奈にるられて、麗華は中へ入り彼女に続いて焔と阿修羅も入り、輝三とかまども中へと入った。
「おい!見捨てるな!」
「泰明さん!」
「!!」
「覚悟は……いいですね?」
数分後……ボロボロになった泰明は、縁側に倒れていた。龍二は居間で、美子に出されたお茶と団子を麗華と一緒に食べていた。
「ねぇ、何で泰明さんを殴ったの?」
「お前には関係ない」
「……」
「それより麗華、かなり腕上げたじゃねぇか?組み手」
「泰明がずっと相手してくれてるから、麗華ちゃんとっても強くなったのよ」
「へぇ……」
悪戯笑みを浮かべながら、龍二は団子を片手に麗華を見た。麗華は恥ずかしそうに団子を持ったまま、龍二の背中に回り凭り掛かって座った。
「やっぱり、いくつになってもお兄ちゃん子ね」
凭り掛かり座る麗華の元へ、よちよち歩きの果歩がやって来た。果歩は麗華に、リボンの着いたゴムを渡し彼女の手を握った。
「……髪結ぶの?」
「アー!」
「果歩、本当に麗華ちゃんにベッタリだね。
歩き出すようになってから、いつもいつも麗華ちゃんにくっついて歩いてるもの」
「へぇ……」
果歩の髪を結び終えると、輝三は倒れている泰明の尻に蹴りを入れ起した。それを合図に、麗華は下ろしていた髪を結び、龍二はお茶を飲み干すと表へ出た。
龍二と組み手をする泰明。輝三と組み手をする麗華。
そんな彼等の元へ、駐在さんが自転車をこいでやって来た。麗華は即座に龍二の後ろへ隠れ、三人は組手を止め、やって来た駐在さんを眺めた。
「こちらに、神崎輝三警部補っていますか?」
「俺だが」
「(顔怖い……)
じ、実は、あなたにお願いがあってきました」
「願い?」
一時修行を止めた龍二と麗華は、里奈の部屋へ行き泰明は除くようにして、隣の部屋から二人の話を聞いて見ていた。
「山に妖怪だぁ?」
「先程……登山客が言ってきたんです……
妖怪に襲われたって……それで、本部の方に連絡したら……刑事課の方に、そういう系統を担当してる人が居ると聞いて……それで」
「俺に頼んできたって訳か……」
「……ひ、引き受けてくれます?」
「いいぜ。
今日にでも、行ってやる。場所はどこだ」
しばらくして、話は終わり駐在さんは帰って行った。
輝三は、龍二達を居間に呼び先程の話をした。
「山に住む妖怪……」
「この近くにある山だ。
俺と泰明、それからお前等二人も来て貰う」
「それ、いつ行くんだ?」
「今からだ」
「今から?!」
「さっさと支度しろ」
山へとやって来た輝三達。
二手に分かれて、原因の種となっている妖怪を捜すことにした。
森の中を歩く龍二と麗華。
「ちっとも見つからねぇな……」
「もっと奥にいるんじゃないの?」
「けど、登山客用のルートはこの道で合ってるし……」
「……?」
何かの気配を感じ取った麗華は、前方に目を向けた。
「どうした?」
「……何か来る」
麗華の言葉通り、二人の前にそれは現れた。背中に触手を出し体はヘラジカの様にデカく、角を二本生やしていた。
「……これ、妖怪?」
「……妖怪……だな」
「凄い妖気……
何か、勝ち目がない」
妖怪は雄叫びを上げ、二人に突進してきた。焔と渚はすぐに狼の姿へと変わり、二人を背に乗せ攻撃を避けた。
妖怪は口から紫色の液を出し、二匹に攻撃した。二匹は攻撃にギリギリに避け、即座にそこから立ち去ろうとした。
だが、その攻撃は毒だったのか、渚と焔の身体が紫色に変わり、真っ逆さまに森の中へと落ちていった。
二人は木の枝に当たりながら、地面へ落ちた。焔と渚は麗華が出した氷鸞と雷光のおかげで、地面への衝撃は免れゆっくりと地へ降りてきた。
「渚!!」
「焔!!」
「ひでぇ……雛菊、二人を頼む!」
「氷鸞、雷光!攻撃!」
「承知」
「承知」
獣の姿へと変わり、二匹は氷と雷の攻撃をした。だが妖怪は、その攻撃を背中に生やしていた触手で、全てを防いだ。
「嘘……技が」
「麗様!
この者、火の攻撃以外は通用しない模様です!」
「え?!」
「待てよ……
炎を使える、焔も雛菊も使えねぇぞ」
「……」
「……麗華!
技を使うぞ!」
「了解!
氷鸞と雷光は、アイツの気を引いて!」
「承知!」
「承知!」
二匹が妖怪の気を引いている最中に、麗華と龍二はポーチから札を取り出した。
「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」
「大地の神告ぐ!汝の力、我に受け渡せ!その力を使い、目の前にいる敵を倒す!」
「いでよ!!火之迦具土神!!」
「いでよ!!火之迦具土神!!」
二人が持つ紙が赤く光り出した。そして紙は炎を作り出し、目の前にいる妖怪を攻撃した。妖怪は見事に二人の攻撃に当たり、声を荒げて暴れ出した。暴れ出した衝撃で、雷光と氷鸞は飛ばされてしまった。
麗華と龍二は暴れ出した妖怪の攻撃を避けながら、武器を出し攻撃した。
二人の攻撃を阻む様にして、背中の触手が攻撃してきた。そして、その触手は麗華を攻撃しよう振ってきた。その攻撃を龍二は彼女をかばい受け、木に体を打つけそのまま座り込んだ。
「兄貴!!」
麗華はすぐに、龍二の元へと駆け寄ろうとしたが、それを触手は邪魔をした。そして彼女も木に体を打つけ座り込んだ。息を切らしながら、目の前にいる妖怪を見た。妖怪は暴れるのを止めると、別の木に凭り掛かり座る龍二にゆっくりと近付いた。
それを止めようと、麗華は立ち上がろうとしたが髪が切れた木の枝に引っ掛かり、身動きが取れなかった。何とか取ろうと髪を触るが、取れずハッと顔を上げ龍二の方を見ると、彼の前には既に妖怪が迫っていた。
(……嫌だ。
辞めて……誰も……誰も失いたくない。
もう、誰も傷付けない……大事なものは、全部……全部。
私がこの手で、全てを守る!!)
ポーチから小太刀を取り出し、自分の髪を握りそして髪に小太刀の刃を当て、勢いを付けて振った。