地獄先生と陰陽師少女 作:花札
しばらくして、客間に神主の格好をした少年と麗華が中へ入ってきて、扉側に敷かれていた座布団に腰を下ろした。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。
俺は神崎龍二(カンザキリュウジ)。麗華の兄貴で、この神社の神主を務めている、高校二年生だ」
「嘘ぉ!!麗華のお兄さんなの?!この人!」
「そうだ。」
「高二で神主って……
親はどうしたんだ?父親は?」
「両親なんて、とっくの昔に亡くなった。
今は俺がこの神社の、神主になってるんだ」
「亡くなったって……じゃあ麗華には、両親がいないのか?」
「ちょっと待て、昨日麗華、二人共単身赴任中だって言ってたじゃねぇか?!」
「もう居ないって言えば、アンタ達が変な気を使うと思って、嘘吐いたんだ。悪い?」
「それはそうだけど……」
「それじゃあ、朝起きれるはずもないよぉ」
「遅刻の原因が分かってよかったわね。ぬ~べ~」
「遅刻?
お前、遅刻してんのか?」
「朝起きれなくて……」
「ったく、しょうがねぇなぁ」
「お兄さん、麗華のことガツンと、叱ってくださいよ!」
「両親がいないなら、保護者替わりはお兄さんでしょ?」
「別に叱る気ねぇよ」
「へ?」
「へ?」
「へ?」
「へ?」
「俺も朝には弱いから、人のこと言えねぇしなぁ」
「それじゃあ、こいつ授業中居眠りしてるんで、そこを」
「授業中は居眠りすんな!
この俺でも、起きてるぞ!」
「アンタね……
しょうがないでしょ。つまんないんだもん」
「よぉし。なら、今度レベルの高い中学の入試問題のテキストを貸すから、それでも解いてろ」
「了解」
「そう意味じゃなくて!!」
「お兄さん、そういう躾はよくありません!」
「そんなこと言われても……小四の時、こいつを預けてたところの主が、限度を知らずに高校入試レベルの問題まで教えちまって、小学生レベルの勉強はもう完璧なんだ」
「嘘……」
「そうだったのか…」
「そういうこと。
ま、今度から居眠りは止めるから」
「さてと、世間話はこれくらいにして、本題に入ろうか?」
先程と目つきが変わった龍二に、郷子達は息がつまり気を張った。
「今日は、どのようなご用件でこの『山桜神社』へお越ししたのですか?」
「……
実は」
ぬ~べ~は、昨日有った出来事を全て話した。
その話を聞いた龍二は、腕を組みながら深いため息を吐いた。
「俺がいない間に、そんなことが起きてたとはなぁ……」
「ご、ごめんなさい。勝手に森の中に入って花を摘んでしまって……」
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「俺に謝れてもなぁ。
麗華、その後の猿猴達の様子はどうなんだ?」
「怒りに狂ってるよ。
こっちがどんなに宥めても、全然聞く耳を持たず」
「だそうです」
「そ、そんなぁ!」
「何とかして、怒りを鎮めることはできないのか?」
「無理だ無理。この麗華が宥めても、無理だったんだ」
「何だ?あの猿猴と麗華って、なんか関係でもあんのか?」
「あの猿猴達は、こいつ(麗華)が育てたんだ」
「えぇ!!」
「あの猿猴、麗華が育だてたの?!」
「だから、あん時麗華が俺達の前に立った時、攻撃を止めたのか」
「じゃあ、麗華があの時猿猴に向かって、“青”って呼んでたのって」
「名前だよ。
あの猿猴の名前は青。他にも白って言う青の兄弟がいる」
「へぇ……
あれ?猿猴って、その二匹だけなの?」
「昔はいっぱいいたよ。だけど、江戸の末期時代に妖怪の間に流行った不治の病にかかって、ほとんど死んじゃって、生き残ったのが青と白の母親だけで、その母親も二匹が生まれたとともに、亡くなったけどな」
「じゃあ、今いる猿猴が最後の二匹ってわけか?」
「そうだ」
「フゥ~ン……」
“ボーン…ボーン”
廊下の壁に掛けていた振子時計が家中に鳴り響いた。その音を聞いたぬ~べ~は手首に着けていた腕時計を見た。
「もう七時か……」
「私お母さんに遅くなるって連絡しなきゃ。」
「あ、私も」
「連絡するぐらいなら、今日家に泊まってけよ」
「え?!」
「良いんですか?!」
「ちょっと兄貴!!」
「良いじゃねぇか。それに猿猴の怒り買ってんだ。外に出すより、うちに置いといた方が良いって」
「けど、今日は…」
「時間になったら、普通に始めればいいさ。
なっ!」
「……分かったよ」
「やったぁ!!麗華の家でお泊り会だぁ!」
「変に騒ぐんなら、追い出すよ!」
「はい……」
「まぁいいや、とりあえず麗華飯の準備するぞ」
「兄貴はいいよ。疲れてるだろ?」
「いいっていいって。久しぶりに料理したいんだからさ。
丙、お前も手伝え」
「承知した」
客間を出て行った麗華と龍二……
客間にいたぬ~べ~は、三人の親に電話すると客間を出て行き、残された三人は離しをし始めた。
「麗華とお兄さん、凄い仲が良かったわね~」
「ねぇ。これはいい噂話になるわ!」
「美樹、この事は皆に秘密にしときましょう」
「へ?何で?こんな面白い話なのに」
「アイツ、今まで兄弟がいることも両親がいないことを、俺達にもぬ~べ~にも話してないんだぜ?」
「だったら、そっとして置くべきだよ」
「う~ん……
それもそうね。止めるわ。今回は」
「美樹……」
「ん?
美味そうな匂いがしてきたなぁ」
広の言う通り、美味しそうな匂いが家中に漂ってきた。その匂いに連れられた郷子が襖を開けると、そこに鍋と炊飯器を持った麗華と丙が、別の部屋へ入っていく姿が見えた。
「食べる場所、別の部屋みたいね」
「どうせなら、この部屋に持ってきてくれよな」
「麗華の家の事情もあるのよ」
「あれ?お前……」
その声に気付き、後ろを振り返るとそこに焔とくノ一の格好をし、白い髪を腰まで伸ばした女性が建っていた。
「焔」
「何で、お前等がここにいんだ?」
「ちょっと色々あって、今日はここに泊まることになったのよ」
「フ~ン」
「ちょっと焔、この子達何者なの?」
「そうか、姉者はこいつ等に会うのは初めてか。こいつ等は麗の学校のクラスメイトだ。
お前等に紹介する。こいつは俺の姉の渚(ナギサ)。兄貴の龍に仕えている俺と同じ白狼一族の者だ」
「へぇ、渚って言うのか。
俺、立野広」
「私、稲葉郷子」
「細川美紀でーす!」
「麗にも、やっと人間の友が出来たのか」
「え?」
「人間の友?」
「姉者!」
「おーい、飯出来たぜー」
龍二の声が、廊下に響き郷子達はそちらの方に顔を向けた。
「飯だ飯!」
「そう言えば、どこの部屋で食べるの?」
「あっ……
どこだ?」
「渚!そこにいんなら、そいつ等を食卓まで案内しろ!」
「了解!
ほら、着いてきな」
渚が先頭を歩き、それに続いて郷子達も廊下を歩いた。
客間から一つ離れた場所にある引き戸を渚は開いた。
「連れてきたよ、龍」
「ありがとな。」
「わぁあああ!!
美味しそうなご馳走ばっかりぃ!」
目の前に置いてあるテーブルに広がるご馳走に、郷子達は目を奪われた。そこへ料理を両手に持った麗華が台所から来て、手に持っていた料理をテーブルの上に置いた。
「ねぇ、麗華!」
「?」
「これ全部、麗華とお兄さんで作ったの?!」
「まぁそうだけど…」
「スゴォイ!!」
「別に凄くなんか……」
「凄いわよ!
小学五年で、ここまでの料理作れちゃうんだもん」
「そうそう。それに比べて、郷子が作る料理ときたら……」
「何が言いたいのよ?」
「郷子が作る料理は、全部食べたら死ぬもんなぁ。アハハハハ!」
「余計なこと言わないでよ!!」
「どうでもいいから、さっさと座れ」
「はい……」
「あれ?お前の先公は?」
「電話かけるって言ったきり、帰ってこないぜ?」
「キャァァアア!!」