地獄先生と陰陽師少女 作:花札
転校生
“キ―ンコーンカーンコーン……キ―ンコーンカーンコーン”
学校中に鳴り響く朝のチャイム……
五年三組の教室内では、チャイムが鳴ったと同時に担任の鵺野鳴介(通称、ぬ~べ~)がドアを開けると、男子の誰かが仕掛けた黒板が頭に落ち、ぬ~べ~の頭が真っ白になった。それを見た生徒達はぬ~べ~を見て、大爆笑をした。
ぬ~べ~は大きく咳払いをし、落ちた黒板消しを手に取り教室の中へ入った。するとぬ~べ~の後ろから、紺色で肩に着く程度の髪を結び、首に翡翠の勾玉のネックレスをした見覚えのない少女が入ってきた。少女は誰とも目線を合わせようとせず、ずっと下を向いたままだった。ぬ~べ~は黒板に少女の名を書きながら、教室内を見渡し説明をした。
「今日からこの学校に転校してきた、神崎麗華さんだ。
麗華さんは、家の事情でここへ転校してきた。皆仲良くしてやれよ!」
「はーい!」
返事をした生徒達を見たぬ~べ~は、麗華の席を指差した。窓際の一番前の席で、麗華はそこへ座り荷物を置くと頬杖をし、窓の外を眺めた。その様子に困った顔をしながらも、ぬ~べ~は授業を始めた。
休み時間……
授業が終わると、真っ先に教室を飛び出し校庭へ遊びに行く生徒達の中に紛れて、麗華は教室を出て屋上へ行きそこから校庭で遊ぶ生徒達を眺めた。
「……」
「馴染めてないみたいだな?」
そんな麗華の傍に、黒い山伏衣装にいた服を着、白い髪に赤いバンダナを巻いた青年がどこからか姿を現し、麗華と一緒に屋上から校庭を見下ろしながら声をかけた。
そんな青年に、麗華は金網に寄りかかり青年の質問を無視した。
「ま、転校初日で馴染めってのも、無理か……
……?
誰か、来るぜ」
青年は麗華に教えると、霧のように姿を消した。青年の言う通り、屋上のドアが勢いよく開き、中から息を切らした郷子が現れた。
「いたいた!ここに居たんだ!」
「えっと……」
「稲葉郷子。
ほら、教室着て!皆があなたの事、知りたがってるのよ!」
「知ったところで、何が…」
「いいから!行くよ」
郷子に強引に手を引っ張られながら、麗華は郷子と一緒に教師へ戻った。
教室へ戻ると、数名の生徒がそこで待ってましたかのように、麗華に駆け寄り質問攻めをし始めた。
「前はどこに住んでたの?」
「今はどこに住んでるの?」
「兄弟(姉妹)はいるの?」
「お父さん、どんな仕事してるの?」
「そんな質問攻めしたら、麗華答えられないよ!
ねぇ、麗…華?」
皆に注意しながら、質問攻めにされている麗華に顔を向けると、麗華は青白い顔をしたまま、教室を飛び出していった。そんな麗華を郷子は教室の外からただ眺めているしかなかった。
教室を飛び出した麗華は、階段の踊り場で座り息を整えるために深呼吸をした。そんな麗華を心配そうな顔を浮かべた青年が、どこからか姿を現し踊り場で座り込む麗華の肩に手を置きながら声をかけた。
「麗、大丈夫か?」
「ハァア……ハァア……
大丈夫……いつもの事でしょ?」
「そうだが……」
「麗華?」
その声が聞こえた青年は、また煙のように姿を消した。消えたと同時に麗華の名を呼んだぬ~べ~は、辺りの気配を気にしながら座り込む麗華の前にしゃがみ、顔を伺った。
「どうした?こんなところで……
腹でも痛いのか?」
「……なんでもない。
いつもの発作が起きただけ」
「発作?
何のだ?」
「アンタには関係ない。
気分悪くなったから、早退する」
「お、おい。大丈夫か?
何なら、俺が送ってやろうか?」
「結構よ!」
ぬ~べ~に断りながら、階段を上り麗華は教室へ行った。そんな麗華を見送ったぬ~べ~は黒い手袋をはめた左手を麗華が座り込んでいた付近にかざした。
(……なんだ、この妖気は…
まさか、アイツ)
教室に戻った麗華は、呼び止める郷子達を無視し机に掛けていたバックを持ち、そのまま逃げるように教室を飛び出し学校を出て行った。