そのくせ視点がころころ変わるので落ち着きがないかと。
心臓が暴れる。呼吸が浅くなる。
私は体育館裏口のドアに背中を預け、呆然と座り込んだ。
『塔城さんは強いですよ。何せ、傷付きながらも孤独を受け容れる覚悟を固めつつあったんですから』
彼の言葉を思い出す。
部長があの人を責め始めた辺りから気が気ではなかったが、その分だけ、彼が反論の為に放った言葉は私の胸中へ深く響いた。
「分かってて、くれてた。....私のキモチ」
こんなにも心が温かくなったのは、何時以来だろう?
恐らく、あの日からだ。あの、陽だまりに寝転んで青空を眺めている彼と出会った日から....私は、きっと────────
『俺が彼女に施すのは過度の慰めではなく、只の友人としてできる範囲のことです』
(..!)
そうだ。彼が私に抱く感情は、今の自分に渦巻く感情とは違う。
そう思ってしまった瞬間、私は凄まじい孤独感に襲われてしまう。
今すぐ彼の下へ行き、その温もりを、明るい声を感じたい衝動に駆られた。...だが、今は駄目だ。こんな中途半端な関係では、きっといつものようにはぐらかされてしまう。
少しでも距離を縮められるように努力し、私を一人の女性として見てくれるようになってから、このキモチを伝えよう。そのときまで、この衝動はぐっと抑えておかないといけない。
「うん。私、頑張る」
握り拳を作ってから立ち上がり、体育館の裏出口を急いであとにする。
....走れば、まだ彼へ追いつけるかもしれないから。
***
「うーん」
「どうしたイッセー、悩み事とはらしくないぞ」
「そうだな。いつもエロに脳内容量が独占されているお前らしくない」
「松田、元浜....その物言いは俺に対する宣戦布告と受け取ってもいいのかね?」
『ハハハ、とんでもない』
今は下校途中なのだが、胡散臭い笑顔を張り付けながら老人のような声で笑う二人を思わずブン殴りたくなる。だが、ここは我慢だ。本当の紳士とは冷静沈着で、気品にあふれた態度でなければ!
─────とまぁ、冗談は此処までにしておいて...悩みの種はちゃんとあるのだ。
最近、俺は誰かに見られているような気がしてならない。
一応言っておくが、気のせいとか自意識過剰とかではないので、そこのところヨロシク。
好意的なのかどうかは全く見当もつかないし、俺は元浜の持つスリーサイズスカウターみたいな特技を持っている訳ではないので、こちらから探りを入れることも出来ない。
今までは気のせいで済ましてきたが、ここのところ気のせいで済ませられる頻度を越すほど異様な気配を度々感じている。もし俺のファンだったんなら早く出て来てほしいなぁ....
「ううーーん」
「おいおい、本当におかしいぞイッセー。昨日はちゃんと自家発電してきたか?」
「欲求不満か?おかず不足なのか?よかったらいいネタを貸してやるぞ?」
「お前ら変なところで優しいよな」
二人とも表情は結構真剣なのだが、言ってることが残念過ぎて結局プラマイゼロだ。やっぱこいつらに相談すんのやめよ。明日桐生あたりにでも話してみるかな...
ともかく、あまり悪い方へ考えないようにしよう。気が滅入る。...しかし、そうだとしたらどのような目的が挙げられるだろうか?
「追っ掛け....?」
「ん、なんだって?ふりかけ?」
「いや、コン○―ムかもしれんぞ?」
「どこをどう聞いてそうなったのかね?元浜クン」
俺たち三人の会話を見て大体分かるように、クラス内の女子が作った『彼氏にしたい男子ランキング』では最悪の評価を貰っている。しょうがないだろ!若い男は性欲が無けりゃ枯れて死んじまうんだよ!
とは言っても、やはり彼女たちから下されるお言葉は変わらず、俺ら三人の枠だけ生ごみの処分方法みたいな内容になってた。
そして、クラス外でされる評価も大方同じだ。覗きや盗撮の主犯(事実)という悪評ばかりが飛び交い、寧ろクラス内の方が穏便な対応がとられているかもしれない。
「松田、元浜....俺って女の子に追いかけられるような男に見えるか?」
『え?イッセーが?それはないな』
「ごふっ...!!」
一番理解のある同類から貰った言葉だからこそ来るものがあるな(しかも息ピッタリ)!ショックのあまり危うく卒倒するところだったぜ。
しかし、本当に悲しいが、二人が言ったことは....じ、事実.......ぐああああああああ!
「おお!イッセーが急に頭を押さえて唸り出したぞ!」
「オープンエロな変態属性だけでなく厨ニ属性までつけるつもりか!?すげぇぜ、俺には真似できねぇよ!」
くそ!好き放題言いやがって!絶対お前らより早く彼女作って感想文提出してやるからなぁああ!
***
神父どもを使って作成した祭壇が、ようやく完成した。
こうして見ているだけでも、これから私自身が歩むであろう未来に期待が高まってくる。もう少し、もう少しで...
「レイナーレ様、先日からドーナシークの姿が見えませんが....何かあったのですか?」
扉のある方から、同胞の堕天使であるミッテルトの声が聞こえた。
いい気分な時に水を差され、私は眉を顰めながら挙げた片手に黒い羽を出現させると、彼女の方へ掲げて見せてやる。それを視界に入れたミッテルトが息を呑む気配が此処まで伝わって来た。
「奴は数日前の夜、両腕と右耳を失った状態で、私へこう告げたわ。....『恐ろしい人間がいます。気を付けてください』とね」
「人間...?悪魔の間違いでは?」
ミッテルトの疑問を聞いた直後、私は手に乗った黒い羽を魔力の炎で焼き、怒りを隠さずに言う。でなければ腹の虫が収まらないからだ。
「此処には成り上がった魔王の妹と、その雑魚眷属しかいないわ!その中で只の人間に負けたですって?....アイツは堕天使の恥よッ!」
大方、油断してそこらの神器持ちにやられたのだろう。...いや、まさか『例の少年』とドーナシークは戦ったのか?だとしたら、彼の弁にも納得がいく。
灰となったドーナシークの羽を手を振って散らしてから、私は『ある姿』となって堕天使の翼も隠した。
多少の不祥事はあれど、本元の計画は万事順調。もう少しであの『魔女』もここへ着く。今現在気がかりなのは、自由すぎる教会のはぐれエクソシストと......
「ちょっと厄介な『
「レイナーレ様、やはりここは私が.....」
「いいえ、彼は私がやるわ」
ミッテルトの申し出を一蹴し、堕天使とは程遠い....少女の姿となった顔で笑う。
そう、これは余興。私が至高の堕天使となる前祝いなのだ。
ただ殺すだけではあの男も報われないだろう。これまで彼の生活と普段の言動を見てきたが、女に飢えているとほぼ断定できる。
ならば、最後に夢を与えてやるのもいい。身体を捧げるのは御免だが、恋人紛いのことは幾らでも出来るのだから。
「ふふふ...その夢は、すぐ醒めるけどね」
さて、急いで下ごしらえを始めなければ。
ドーナシークをあそこまで追い詰めたのだから、もしかしたら兵藤一誠に私たちの存在が知られているかもしれない。
原作になかなか入れない....(汗)
さて、ここで少し補足を。
レイナーレは、ドーナシークと戦ってぶっと飛ばしたのがイッセーだと勘違いしてます。
本編からでは分かり難かったかもしれないので、一応。