前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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グレモリー家にいたオリ主と黒歌のことをリアス先輩にお話します。
サブタイがいかにもバトりそうな雰囲気醸し出してますが、今話ではバトりません。


File/46.魔払い人と殺戮の黒猫

「いやぁ、まさかコウタ君がリーアたんの部活に入るとはねぇ」

「いや、絶対に初めからそれ狙ってたでしょうに」

「ふふ、確かに『それ』はね。でも、そこから先の何もかもが、というわけではないよ。兵藤一誠君のことは完全な想定外だからね」

 

 

 授業参観は無事に終わり、俺は撮影した動画の鑑賞会が催されている兵藤家に来ていた。

 何故こんなことになったかと言うと、折角家が隣同士なのだからということで、サーゼクスに連れてこられたのだ。しかし、現在はアーシアさんだけでなくグレモリー先輩もイッセーと同居しているので、格式ばった要件以外でそこにサーゼクスを置くと、『家』の話題が出てしまいかねない。そう思い立ち、やんわりと断ろうと思ったのだが、どうやらグレモリーの現当主さまもおられるようで、しかもその当人からご指名を受けてしまったという。これでは俺とグレモリーの関係はほぼ露見したも同然だろう。とはいえ、長年お世話になった恩人の願いを断るわけにもいかず、恐々と顔を出したのだが....以外にもグレモリー先輩やイッセーはいつも通りで、当主から久しぶりの再会に熱い歓迎を受けていた時も表情を変える事は無かった。

 俺はグレモリー先輩に『家』にいたことを一切明言していないはずだ。なら、サーゼクスや当主の態度に疑問を抱くのが当然というもの。いや、それとも前述の人物か、グレモリーの関係者から既に細やかな事実を話されてしまっていたのだろうか?

 そんなことを考えていたからか、イッセーの家族や当主と談笑するグレモリー先輩の方へ無意識にチラチラと視線をやってしまっていたらしい。そして、重度のシスコンであるサーゼクスがそれに気づかぬはずはない。

 

 

「やっぱり、気になるかい?」

「そりゃ気になるって」

「流石のコウタ君でも、うちのリーアたんを簡単にあげるわけにはいかないよ」

「........」

「ハハハ!冗談だよ冗談。....二人が君と僕ら、いいや、君とグレモリー家の関係を問いただして来ないのが不思議なんだろう?」

 

 

 やはり、この件に関しては既に何らかの動きがあったようだ。それがどのようなものかは分からないが、現時点で確実に言えることは、少なくともグレモリー先輩とイッセーに俺が『家』にいたことは露見している、ということだろう。その上で誰かに静観するよう釘を刺されなければ、先ほどの状況を見過ごすわけがない。できれば、その件に関しての先輩の赦免はもう頂いている、というのが最も望ましい報告なのだが、それはまずない。当事者中の当事者である俺が居ない場で話し合いをして結論を出しても、先輩は納得しないはずだから。

 

 

「君もなんとなく勘付いているようだけれど、この件は何一つ解決していない。だから

、この機会に君()()とリアスの間のわだかまりを全て解消しようと思う。かなり、荒療治になるかもしれないけれど」

「?」

 

 

 サーゼクスの言葉に疑問を覚えた時だった。それまで、イッセーを含む家族とアーシアの四人で鑑賞会を続けていた当主が一言断りをいれてから立ち上がり、グレモリー先輩とサーゼクス、そして俺を読んだのだ。突然のことで何が何やらだったが、このメンバーで話し合いの場を設けたいので、それを俺の家にする、との発言を聞いた瞬間、思わず聞き返しそうになった。

 何故驚くか?それは黒歌や龍神さまのことがあるからだ。しかし、龍神の方はともかく、当主は黒歌が家にいることを知っているはずだ。それを承知で先輩を招く場として俺の家を指定したのだから、何らかの考えがあることは間違いない....はず。と、そう信じ、俺は意を決して御三方を我が家に招き入れることを承諾した。

 脳内ではあらゆる不穏な憶測が飛び交っているが、顔に出さないよう細心の注意を払いながら先頭に立って廊下を歩き、居間の戸を開ける。できればいないで欲しいと、特定に人物に対し僅かな願望を胸中に抱いたが、煎餅を齧りながら雑誌を拡げてうつ伏せになっている当人に、容赦なくそれは掻っ攫われた。

 

 

「にゃっ!?コウタとサーゼクスじゃない!貴方達さっきは一体――――て、あらら?サーゼクスのパパ上」

「おお、黒歌君。元気にしてたかな。学校へ行かせられないことは心苦しかったが、見たところ大きな不満は抱えてなさそうだね」

「ぬふふ、おかげさまで。コウタとの距離が(物理的に)縮まってハッピーにゃん!」

「こらこらのしかかるな腰に足を回すな」

 

 

 居間に入るなり体当たりの勢いで飛び掛かって来た黒歌を背中で受け止めておんぶすると、それを見た当主は愉快そうに笑いながら座蒲団に腰を下ろす。サーゼクスもやれやれと言いたげな表情で頭を掻きながら座る。が、この中で最も異質な、疑念と怒気の入り混じったオーラを放つ人物が居間の出入り口で直立していた。

 

 

「....お父様!お兄様!これはどういうことなの!?コウタの事は事前にグレイフィアから聞いていたけれど、黒歌って....そんなの!」

 

 

 これは、やはり不味い。それも非常に。冥界の事を少しでも知っていれば、黒歌がどういった人物なのかは瞭然だ。今この時、彼女にとって当主とサーゼクスは、大犯罪者を匿うという大罪を犯している人に見えているのだ。己の身内がそんなことをしたなど、到底信じられるものではないだろう。

 怒りを通り越して混乱状態に陥りつつあるグレモリー先輩に対し、あくまでも平時のままのサーゼクスが立ち上がって歩み寄り、彼女の頭に優しく手を置きながら、自嘲気味な笑顔を浮かべて言う。

 

 

「ごめんね、リアス。混乱するのも無理はないと思う。元々はこうなることを恐れて伝えなかったんだけど....むしろ悪化させちゃったな」

「混乱するに決まってるじゃない!全く知らない人間を家に置いていたかと思えば、次は犯罪者を匿って!」

「うん、そうだね。....でも、二人とも悪い人じゃないよ」

 

 

 サーゼクスはもう一度先輩の頭を一撫でした後、身体を横に移動させて、その背後にいた俺と、俺の背中に乗る黒歌をその目に入れさせる。俺はそれに合わせて、一応手を振ってみることにした。すると背後の黒歌も控えめに手を振った気配がした。

 そんな緊張感のない俺たちを見たグレモリー先輩は、バツの悪そうな顔をして視線を畳の接ぎ目に落とす。

 

 

「コウタが良い人だってことは分かるわ。あれほどの力を持っていても驕らず、私や下僕の皆を助けてくれた。もしグレモリーに恩を売るとか弱みを握るみたいに、腹に何かを抱えた輩だったとしたら、もっと分かりやすく己の利益につながる行動をするはずだけど、コウタにはそれが一切なかったわ」

「だろうね。彼のすることは僕達にだけ利益を与える無償の行為ではないけれど、支払った対価以上のことをしてくれる。僕も最初の頃は驚かされたものだよ。なにせ、住み込み初日に、半日とかからず屋敷中の清掃をしてしまうんだからね。それで、大変じゃなかった?と聞いたら、汗を滝のように流しながら『楽勝だよ』なんていうんだからさ、思わず大笑いしたものだよ」

 

 

 あの時はちょっといいトコ見せてやろう的な気合に溢れていたから、生来の気質もあってついやり過ぎてしまったのだ。お蔭で午後のメイドさんたちの仕事を奪ってしまったのだが、普段は出来ない場所の整理などに手を出せたというので、概ね好評だった。

 しかし、後々にグレイフィアさんからはメイドの仕事がなくなるので控えめにお願いしますと半笑いで注意されている。というか、その話は恥ずかしいんで止めて下さい....

 

 

「そうだな。私から見ると少し甘すぎるきらいもあるが、アレも大層コウタ君を気に入っていた。裏表がなく、信じるものを信じ通せる固い意思があると。私も徐々にそれを感じつつある」

「......俺はそんな大層なモンじゃありませんよ」

 

 

 終いには当主まで加わる始末。これでは褒め殺しだ。俺は言葉通り、そんな大した人間じゃないというのに。所詮はどれも誰かに認められたい、認めて欲しいという浅薄な考えが生んだ行動だ。誰かを救うのも、その救われた誰かが幸せになって、それを見た自分が満足し安堵するための自己中心的な行動理念によるものであり、決して他人の幸福を第一に考えている訳ではない。....だというのに、

 

 

「大したモンよ。コウタは」

「?黒歌」

「だって、どこからどう見たって『悪』だった私を疑い、自分の危険を顧みずに真実を引っ張り出してきたんだもの。普通の人間や悪魔だったら、考えなしに周囲の決めた『悪』にのっかって一緒に罵るでしょ。はんざいしゃーって」

「......べつに、別件の仕事で偶然アシを掴んだだけだ。真実を知らなかったら、俺も皆と同じだったさ」

「本当にこういうときのコウタは嘘が下手ねー」

 

 

 何が嬉しいのか、黒歌はクスクス笑いながら俺の後ろ髪に顔を埋めてきた。そして、今の会話を聞き、まるで彼女を犯罪者と罵倒したことが間違いであるかのような物言いに我慢できなくなったのだろう、グレモリー先輩が真意を問うかのように黒歌に向かって声を荒げた。

 

 

「ちょっと待ちなさい!どういうことっ?貴女は主を殺害し、追っ手の悪魔もことごとく殺戮したんでしょう?」

「ええ、そうよ。私は飼い主である主を殺し、捕まえようとした悪魔も容赦なく殺した。賭け値なしの大量殺戮犯ね」

「ああ、そこは変わらない罪だ。何があろうと肯定されていい事ではない。ただ、そうするだけの理由があった。そして、それを誰も知らなかった、ということが問題なんだ」

 

 

 サーゼクスは広げた手に数枚の紙片を出現させ、それを裏向きの状態でグレモリー先輩の前に差し出す。それが手に取られる前に、彼は『少し覚悟して見てね』という忠告を付け加えた。それで俺はアレが何なのかを理解し、同時に口の中に苦いものが広がり始めたのを覚える。きっと『アレ』に目を落とす彼女も、俺と同じかそれ以上のものを感じているだろう。

 

 

「........これ、は」

「黒歌の主がやったことだよ。非常に趣味が悪いことだけど、自分の眷属に()()()()()()をしたあとに写真を取り、自分の支援者層にばら撒いていたんだ。リアスに渡したのはその一部。....これでもまだ優しい部類なんだけどね」

「こんなこと、許される訳が....!」

 

 

 俺が身分や態度を偽って奴に近づいた時、大方のものはコピーして貰って来た。当人は自分の趣味に共感してくれる人物が現れたと勘違いして大喜びしていたが、一方の俺は正直その場で嘔吐してもおかしくないほど胸糞が悪かった。

 さんざ冥界の森を彷徨い、数々の魔物を殺してきたが、苦しみ喘いだ果ての死を迎えてしまった者の、負の感情を深く顔に刻みつけた姿を見るのは初めてだった。それは己をこのような姿にした者に対する底のない憎しみに満ちており、全く関係がないはずの俺が見ても息が詰まる思いだった。

 だというのに、奴は恍惚の笑みを浮かべて、誇らしげに謂うのだ。『意味の無かった存在に、こうして意味を持たせられる私は最高の人格者である』と。反吐が出る。

 

 

「これが許されているのが今の冥界だ、リアス。戦争が終わり、その立て直しにばかり注視した結果、このような悪行が罷り通ってしまう世になったのだ。少なくない犠牲は出たが、黒歌君の起こした騒ぎで冥界の膿を幾らか明らかにできた。彼女が抵抗を諦めてしまったら、不審な動きをする連中を発見できなかっただろう」

「....だから、いち早く真相に気付けたグレモリーが黒歌を秘密裏に保護することにした、ということなのね?お父様」

「うむ、そうだ。しかし、司法が席巻した世では、功績で罪は洗い流せない。いかな善人といえど、そしていかな理由があれど、間違ったことに対しての罰は下されなければならない。故に、我々は世に代わって罪科を下し、黒歌君に悪魔社会への参入を認めないことにした。それは字義通り、彼女は冥界にて居場所を失ったことを意味する」

「....それは」

 

 

 厳しすぎる、だろうか。確かに、俺も当主のその意向を面と向かって黒歌と聞いた時はあんまりだと言って反対した。居場所がなくなるのなら黒歌は一体何処で生きていけばいいんだと詰め寄ったことを鮮明に覚えている。だが、もし彼の心が変わっていなければ、続けられる言葉は....

 

 

「ハッハッハ。何、居場所ならこれから作っていけばいいのだ。確かに、冥界では陽の当たる場に出ることはできなくなったが、何も冥界に拘泥する必要はあるまい?守りたいものがあり、目指したい目標があるなら、世界の狭さなど瑣末なことよ。だろう?黒歌君」

「ええ!一人じゃ難しくても、コウタがいるから!きっと何処へだっていけるにゃん!」

 

 

 黒歌は総てを失いかけたが、無力な自分を呪いながら潰されるより、目的を持って抗うことに決めた。たとえそれが、たった一人の妹の信頼を断ち切ってしまう行為だとしても、何もかもを守れずに失意の中で死ぬより、ボロ雑巾のような姿になろうと、妹を守れたのだと胸を張って死んだ方がずっとマシだ。

 かつて聞いたそんな黒歌の覚悟の全部を知った訳ではないが、その突端は確かに掴んだのだろう。グレモリー先輩の表情は柔らかいものとなっていた。

 

 

「貴女の居場所はコウタの隣なのね。....ということは、コウタは黒歌のことを思って家に?」

「ん....いえ、俺がグレモリー家に世話になり出したのは、今からおよそ三年前です。黒歌が来たのは去年の初め当たりだったから、俺の方が早くに訳あっておかせて貰ってます」

「ああ、グレイフィアから聞いた時にそう言っていたわね。....え、じゃあ一体どんな理由で家に来たのよ?」

「それは、えーと...」

 

 

 果たして正直に答えてしまっていいものかと思い、チラリとサーゼクスの方を見ると、彼は俺の視線を受けてから一つ頷き、説明を引き継いだ。

 

 

「リアスは数年前にあった『魔獣狩り』という事件を覚えているかい?」

「え?ええ、勿論覚えているわ。害悪な種からそうでない種まで、およそ数年間の期間で片っ端から魔獣や魔物が大量に殺されていたっていう事件よね?巷では犯人を『魔払い人(ビースト・キラー)』って呼んでたみたいだけれど、情報が少なかったから眉唾だって結論が出て、それがいつの間にか周知の事実になってたのよね....それがコウタのことと何か関係が?」

「うん。それコウタ君なんだ」

「........え?」

「推定....いや、本人から冥界の放浪をしていた期間は九年だって聞いてるから九年か。その九年間の間でおよそ数十万の魔獣・魔物を狩り、北にある未開の山岳にいた、未だ謎の多いはずだった白い巨人、ヨートゥンすら倒した傑物。それが栗花落功太その人なんだよ」

 

 

 まるで自分のことのように饒舌な語りを披露するサーゼクス。何故か隣の当主もどこか得意げだ。一方のグレモリー先輩は衝撃で固まってしまっている。まぁ無理はないか。

 ちなみに、北の未開の山岳にいると言われたヨートゥンというのは、その特徴と強さから仮名として名づけられたものだ。北欧神話に出てくるヨートゥン本人ではない。が、何度も実力者つきの調査隊が派遣されては返り討ちにされ、上級悪魔の登用が検討されるほどの未知数な相手であるため、魔王諸侯は密かに『降りて来た』ときのための対策を真剣に検討していたらしい。

 じつはココだけの話、威力が強くて周囲への被害が甚大となる可能性がある新技の実験のため、普段は踏み入れない冥界の外の外まで出た時、偶然見つけた最適な実験台、それがヨートゥンだったのだ。無論、俺は喜び勇んでそいつに向けて新技をブッパし、巨人の上半身全部と下半身の七分位を消し飛ばした。同時に当初の想定を超えるほどの破壊がもたらされ、巨人の向こう側にあったものの悉くが無くなっていた。具体的に言うと山の二つと分厚い雪雲である。

 グレモリー家に保護されて少し経ち、朝食時に気まぐれで情報誌へ目を通していた時、掲載されていた白い巨人の亡骸を見つけて、『ヨートゥンって、コイツ俺が倒したヤツじゃん』といったときのサーゼクスの顔は今も忘れられない。

 

 

「ま、待って。仮にその『魔払い人』がコウタだとしてもよ?何でグレモリー家に住まわせる必要なんてあるの?まさか眷属にしようとしたんじゃ....」

「ははは!確かにそれは魅力的だ。だけど、実際はほとんどその逆。これ以上冥界で魔獣・魔物狩りをさせないために匿ったんだ」

「....それは、魔獣や魔物がこれ以上殺されてしまうのを防ぐため?」

「ふふ、僕達魔王は自分の周辺に関する正確な情報をいち早く揃え、『魔払い人』が実在する証拠をすぐに揃えることが出来た。また、同時に隠蔽工作をしたことで、自分に追随する高い捜査能力を持つ他の上級悪魔や情報屋の目を欺いた。....ここから想定される厄介事が何かは、もう想像つくよね?」

 

 

 サーゼクスは敢えて答えを簡単に明らかにせず、グレモリー先輩に対しヒントをあたえるにとどめた。大方自己解決力を上げるためだろうが、ここまでヒントを投げ込めば、冥界事情にある程度精通していれば簡単に分かるだろう。実際、先輩は数秒とかからず答えを導き出した。

 

 

「真相を握った魔王同士の衝突ね?数年間で魔獣魔物を大量に狩る実力者だもの、手元において管理しておきたくなるに決まっているわ」

「そういうこと。だから僕は冥界で新たな火種を生まないよう、他の魔王の誰よりも真剣に彼を探した。そして、実際に会って直ぐに一切の誤魔化しや色をつけた発言は通用しない人物だと確信し、当初より更に真剣に僕達の庇護下に居てくれることをお願いしたんだ」

 

 

 大型の魔物と殺り合っていたときだったな。サーゼクスが俺に初めて接触してきたのは。

 突然只者ではない雰囲気を感じて、それまで遊びで戦っていた魔物を一撃で斬り伏せ、初見殺しである鶴翼三連を容赦なく干将莫耶で放ったのだが、それを滅びの魔法で楽々防がれ、驚いたのは懐かしい。以前に危うく死にかけたところ助けて貰ったシエルの爺さん以来の人型だったことも衝撃的だったが、まさか第一声が頭を下げながらの一緒に来てほしいだったのは、正直耳を疑ったものだ。

 

 

「そして、コウタはお兄様の条件を呑む代わりにグレモリー家での不自由ない生活を約束し、コウタは『魔払い人』のほとぼりが冷めるまでの三年間を過ごしたわけ、ね」

「そうだ。形式ではあるけど、一応屋敷の手伝いもお願いして貰っていたよ。こちらとしては客人扱いしてもなんら問題なかったんだけど、そういうのは嫌いそうだったからね」

「........」

 

 

 サーゼクスの言葉に、俺は確かにそうかも、と内心で思う。グレモリー家での暮らしは前世のものと比べると失神するほど破格すぎて、ましてやこれを何のお返しもなく三年間享受し続けるのは、俺の庶民精神が持たないだろう。彼が提案してくれなくても、我慢できなくてこちらから申し出ていたはずだ。

 一連の話を聞いたグレモリー先輩は、顎に手を当てて何かを考える素振りを見せてから、盛大な溜息を吐く。だが、その後の表情は何処かさっぱりした、憑き物が落ちたようなものになっていた。

 

 

「なるほど....事情は分かったわ。それだけの理由があるなら、私ももう反対しない。コウタも黒歌も、グレモリー家の一員として接することにするわ」

 

『!』

 

 

 グレモリー先輩のその言葉で、俺を含む四人すべてが一様に安心したような溜息を零す。途中で正直駄目なんじゃないかと内心冷や冷やしたが、ここにいる全ての人たちの協力があったお蔭で説得に成功した。俺と黒歌が余所者である自覚はあったし、一切のわだかまりなく今後グレモリーと接していく上で、これは大きな一歩だ。

 天上を仰ぎながら軽い感動を覚えていたところだったが、急に両手を柔らかい感触で包まれ、驚いて正面を向く。すると、真っ直ぐ射抜くような強い碧眼を湛えたグレモリー先輩が至近距離に立っていた。それに多少ドギマギしてしまったが、同じく至近距離にいる黒歌の怒声で片耳をブチ抜かれ、多少は平静を取り戻せた。ナイス黒歌。でも脳味噌に優しくないから二度とやらんでくれ。

 そして、真剣そのものの彼女の口から飛び出た言葉は....

 

 

「コウタ!私の眷属になって!」

 

「無理です」

 

「ええッ!なんでよ!これからもグレモリーと付き合っていくんだから、眷属になってくれてもいいじゃない!」

 

 

 頬を膨らませた先輩に握った両手をブンブン上下に振るわれるが、それでも俺は意志を変えるつもりはない。別に悪魔が嫌いなわけでも、グレモリーが嫌いなわけでもない。ただ、前世の人間だった俺が果たせなかった願いは、出来れば人間のままの俺で果たしたいと思うのだ。既に別人同様の有様だとも言えるが、その魂の色だけは変質させたくはない。

 

 

「『人間で在るがまま生きる』。これは、命をかけた()()()との約束事ですから」

 

 

 俺は、これからも人外に囲まれた生活に身を置くつもりだ。

 

 




実は魔払い人にかなり興味を持っていたリアスさん。これから彼への眷属入りの誘いが活発化します。

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