そう言う訳で、当初の予定より一週間ほどずれ込みましたが、無事再開です。
あと申し訳ありませんが、モチベがひと段落するまでリメイクの投下は見送らせて頂きたいと思います。どうかご理解のほどをよろしくお願いします。
駒王学園の授業参観は、生徒の両親や兄妹だけでなく、中等部所属の生徒も参加してよいことになっている。そのため、十中八九教員は己の評価を上げる算段をたて、通常とは違う授業形態にすることは確実だろう。それはクラスの皆も同じで、普段より明らかに浮足立っており、両親や後輩に恥ずかしいところは見せられないと、いつもより長めに予習をしている者が散見される。
しかし、両親が仕事で来れないという話もチラホラ上がっており、今回のイベントは緊張している者とあまりしていない者とでかなりの差が出ている。俺は後者の部類に入っている人間で、取り敢えずはいつも通り受けておけば大丈夫だろうという心持だ。ちなみに、こういった話をすれば喜んで頭を突っ込んで来る黒歌には、無論授業参観の『J』すら言ってない。
「いやぁ、良かった良かった!親父は学会で論文の発表、お袋は会社のトラブルで急遽現場指揮!学校ですら良い子の皮被ってないといけないかと思うと憂鬱だったが、これで安心だぜ!」
「チッ!黙ってろ獅子丸。こちとら二人とも満面の笑みで『デジカメ新調したから、千枚撮れるぞ千枚!』とか言って来たんだぞ。全く、一体俺の何を千枚写して楽しむと言うんだ」
ここでも明確な差が出ている。言わずもがな獅子丸と樹林だ。
獅子丸の父親はなんでも著名な物理学者らしく、ちょくちょく国内か海外の学会で論文の発表をしているらしい。母親も大企業の社長補佐的な役職で、普段から忙しいのだという。これには無論驚いたが、それ以上に、コイツが家では学校と百八十度違った態度で生活しているということには本気で驚いた。本人は窮屈で仕方ないらしく、学校ではその反動で、押さえていた破天荒さに磨きが掛かったとか。
一方の樹林の両親は至って普通で、会社から休みを取って二人とも参観にくるらしい。どうやらノリノリである先方に対し当人はうんざりしているようで、今週五冊目となる文庫本を愛用している栞すら挟み忘れるほど苛立たった様子で閉じ、半眼で獅子丸に反抗する。
「むぅ.....ぬぬ」
そんな風に火花を散らす二人の横で、俺は片肘を突きながらノートにシャーペンの芯を突き立て、前後左右に移動させて召喚の陣を描いていく。それは、つい先日にヴァ―リたちと戦った時、土壇場でサーヴァントの召喚を決意し、ランサー...クー・フーリンを現界させた召喚陣だ。
あの興奮は今も鮮明に覚えている。命ある他の何よりも精強な存在感、語らずとも百戦錬磨の戦士と理解できる暴力的な気迫。無理な召喚のおかげで身体が悲鳴を上げていても、彼の後ろ姿を見ただけで全て吹き飛んでしまった。...故にこそ、
「もう一回召喚してぇな.....」
二個目の陣の製作に取り掛かりながらぼんやりと呟く。それに反応した獅子丸と樹林が俺の机に来てノートを覗き込み、ついに中二病を発症したか!召喚するなら二次元から可愛い悪魔っ娘を呼んでくれ!できればキワドイ格好のな!とか言ってくるが、全て無視する。
サーヴァントはそうポンポン呼べるものではない。初めての召喚のときは危うく意識が飛びかけるし、魔力がほとんど流せなくなるしで散々だったのだから、この分だと一日一回が妥当なところだろう。また、無理な召喚が原因で、兄貴のゲイ・ボルク消失のような手痛いハンデが飛び出す可能性もある。これだと、戦闘向きでないサーヴァントが出てきたら詰む。
「でも、選べないしな.....」
兄貴以外の六騎の英霊。聖杯は手に入らず、俺を守るために戦うだけ、というふざけた条件に同意する残る六騎とは、一体どんな輩なのだろうか。
俺の周りをグルグル移動しながら、妙な詠唱をし始めた馬鹿二人の股間に風の速さで机の角をめり込ませてから、陣の書かれたノートを静かに閉じた。
****
授業参観の時間になると、教室の後ろは結構な量の人垣ができていた。やはり一年生ということもあって、子がクラスに馴染めているか気になる親御さんが多いのだろう。この量を見るにクラスに在籍するほとんどの生徒の両親が出席しているはずだ。その光景で若干緊張を露わにしている茶のジャケットと黄色いスカーフを巻いた妙な出で立ちの先生だが、いつもは持って来ていない紙袋をみるに、何かしらのイベントは用意しているのだろう。
「よーし!今日の化学は一味違うぞ皆!.....これを見てくれ!」
化学担当の先生が意気揚々と紙袋から取り出したのは、銀色の細長い物体だ。何故かテープのように蝸牛状にまとめてある。それを見た獅子丸は口笛を吹き、面白そうな顔になった。
「ありゃマグネシウムリボンだな」
「なんだ?そのガ○ダムにでも出てきそうなモノは」
チラチラと忙しなく後ろを見ていた樹林が怪訝な顔をして獅子丸に問い返す。何故背後を警戒していたかというと、樹林の両親は大変アクティブな方々で、授業が始まる直前まで彼を撮影しまくっていたのだ。まさか授業が開始してから乗り込んでこないだろうが、あの勢いを見た後では疑わしくなるのも無理はない。
獅子丸は見てりゃ分かる、と顎で何らかの準備をし始める先生を指す。その過程で新たに紙袋から出て来たのは、手袋とサングラス、ライターだった。それを見て、俺はようやくこれから何をするのかを悟った。...そして、先生のやりたいことも。
「いいかー?これはマグネシウムリボンと言ってだな。燃やすと酸化反応によって強い光を放つんだ。...ふふ、行くぞ?」
先生は手袋を嵌めた手でマグネシウムリボンを持ち、何やら得意げな顔でライターの火を当てる。火がその末端を熱し始めて少し経つと、唐突に白く強い光が先生の手元から放たれ、それを見ていた俺たちは突然の強い光で一様に目を細めてしまう。直後、先生はこのときのために取って置いたらしいセリフを達成感に満ちた表情で口にした。
「バ○スッ!!」
『.........................』
「...........スミマセンデシタ」
『ユーモアに溢れた、親近感の湧く教員』という設定で行ったのだろう。その方向性自体は間違っていない。普段から明るい性格で、前述の設定の内容を遂行するに十分な資質はある。しかし、ギャグセンスとユーモアはイコールではない。相当完成度が高くなければ、ギャグ主体で突っ込むのは余りにも無謀だ。いつも通り時折冗談を混ぜるくらいで良かったのに。
さて、この場でギャグに走り、盛大にクラッシュした代償は大きく、教え子とその両親、中等部の学生にまで『何いってんだこいつ』という冷たい視線で射抜かれた先生は、笑顔のまま凍った表情で謝罪したあと、反応式を黙々と黒板に書き始めた。きっとこの時、もう二度と授業内でギャグはしないと固く誓ったことだろう。
余談だが、獅子丸だけが先生の意図を解し、一人で両目を抑えて悶えていたという。
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お昼休み。昼飯を食べ終わった俺と小猫ちゃんは、教室に戻るために廊下を歩いていた。
「コウタさんのご両親は来ていましたか?」
「ん?...んー」
俺に両親はいない。それを今までは淋しいと思ってこなかったが、こうして思い返すと、どこか空虚な気持ちになる。自分と決定的なつながりを持つ存在が居ない、ということなのだから。
そんな考えを顔には出さないまま、両親は海外暮らしなんだと小猫ちゃんに言っておく。悪魔でもないのに英語が堪能なんだから、説得力はあるだろう。その目論見通りに納得してくれた彼女は、自分も今日は両親が来ていないのだと言った。...そして、二度と来ることはないとも。俺はそれに関して敢えて踏み込まず、窓ガラスに映り込んだ俺と彼女を見比べながら問を投げた。
「.....淋しいか?」
「いえ。コウタさんや、部長さんたちがいますから」
「そうか。なら良かった」
「はい」
彼女はまだ、家族すべてを失った訳ではない。たった一人の、姉がいるのだ。...裏切り者の姉が。
未だに小猫ちゃんは姉...黒歌に対して複雑な感情を持っている。それを見越した黒歌も『今』は合うべきではないと言っているのだ。会ったとしても、互いに傷付くだけだと。それはそうだが、このままだとずっと変わらないままだ。今更誰も傷つかないで収拾をつける方法など、ない。
「甘えって言うのは、流石に厳しすぎるか」
「?」
「ああすまん、こっちの話」
「こっちってどっちですか」
適当に誤魔化そうとすると、小猫ちゃんが意地悪な質問をしてきた。仕方ないので彼女の頭を優しく撫で、誤魔化し方を変える。すると、興味を別の方向に向けられた猫のように、あっという間に態度を軟化させた。が、彼女は決して誤魔化されてはいない。ただ、俺のこの行動から、これ以上聞かれると困る、という意図を汲んで閉口しただけのこと。これでは本当にどちらか年長者か分からなくなる。
そうやって周囲から妬み嫉みの視線に晒されること暫し、廊下の先から興奮した様子で走ってくる一年男子の集団とすれ違う。その時にチラッと聞こえた妙な言葉が、俺の嫌な予感を沸き立たせた。
『魔法少女が撮影会やってるらしいぜ!』
魔法少女。それは物理法則無視の極彩色ビームで敵を焼き尽くす、派手な衣装をまとった女の子...のことだろう。一応、個人の見解だと注釈をつけておく。
およそ学校に出現していい存在ではないため、聞き間違いか何かだと処理したかったのだが、後からやってきた別の男集団からも、すれ違いざまに魔法少女がいるという発言をしていた辺り、どうやら事実だと認めざるを得ないようだ。一体何処の誰がそんな痛い格好をして、さらにそれを学校の生徒に撮らせているのか。そういう趣味の母親とかだったら子どもが自殺しかねないぞ。
「コウタさん、どうします?」
「...........」
小猫ちゃんのどうする、という問いかけは、件の魔法少女を俺たちも見に行くか否か、というものだろう。あれだけの騒ぎを聞かされては、好奇心を刺激されない方がおかしい。かくいう俺も、生前そういうのには興味を持てなかったというのに、いざ現実で目の当たりにできる可能性をチラつかせられると、不思議なもので多少の興味が湧いて来る。...の、だが。
.......なんだろう、やっぱり嫌な予感がする。
「.....いや、あの分だと人だかりは凄そうだ。やめておこう」
「分かりました」
俺の返答にあっさりと首肯して見せた小猫ちゃんは、特に逡巡する素振りもなく教室への道を歩いた。どうやら小猫ちゃんはあまり魔法少女に強い興味を抱けなかったようだ。男なら兎も角、同性では難しいか。
その後、見物に行ってきたという獅子丸と樹林に話を聞いたところ、とてつもない美少女が降臨なされた、といって恍惚な表情を見せたり、生徒会の介入があって僅かの間しかその姿を見ることがきなかった、といい憤怒の形相を露わにしたりで忙しそうだった。コイツらは可愛い女の子を見るといつもこうなるが、誰でも見境ない訳ではない。故に気にはなるのだが.....
というか、なんだよ魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブって。あっち系のゲームに出てきそうな名前だな。
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獅子丸と樹林から、例の魔法少女撮影会にイッセーの姿があったという話を聞き、ならばと放課後にイッセーを教室で捕まえ、その痛い子の正体を問いただしてみた。その答えで、俺の悪い予想が当たっていたことに少し戦慄すると同時、あの人なら魔法少女ミルキーなんちゃらになっていても大丈夫だろうと安心した。
「そうか...やっぱりセラフォルーだったのか」
「そうだったんだよ!これがかなりの美少女で会長の姉...って、なんか既に知ってるクサいな?」
「ま、過去にちょっとな」
俺は冥界放浪時代、そこらに棲息する異形を狩りまくっていた。当時は生きることに必死だった俺は、自分が一騎当千の存在である『
以降はサーゼクスと共に実在した魔払い人を架空の人物と仕立て上げるための工作をし続けたのだが、一部に熱狂的な信者まで出来てしまっていた冥界で、そう簡単に鎮火を促すことは難しかった。故に他方面からも働きかけてくれる協力者を探し、それがセラフォルー・レヴィアタンという魔王の一人だった、というわけだ。
これをそのまま話してしまう訳にはいかないので、どうにかしてでっち上げられないかと思案していたところ、パックのミックスジュースを啜りながら教室の窓に寄りかかり、机に座ってクラスメイトと談笑するアーシアさんを眺めるイッセーから先手の言葉を貰った。
「そのセラフォルーさんってさ。表はふざけてるような感じだったけど、やっぱり強いんだろ?」
「ああ。血ではなく実力で魔王の座におさまった悪魔の一人だからな。桁違いに強い」
「そうか.....魔王ほどとは言わないけど、どうやったらすぐに強くなれるんだろうな」
「すぐに、か」
イッセーの言う『すぐ』とはどれほどの期間を指しているのか分からないが、言うまでも無く一日や二日で強くなることなど不可能だ。そんな都合の良いアイテムはないし、あったとしても支払う対価は碌なものではないだろう。イッセーがそれを理解していないはずはないが、焦りは視野を狭める。やってはいけないこととやっていいことの境界が霞んでしまうのだ。
「この前さ。ドライグから
「...覇龍」
どこかで聞いた気がする言葉だと思ったら、ヴァ―リがアルビオンと話していた時に出て来た単語だ。そして、あのヴァ―リですらアルビオンは使用を固く禁じていた。つまるところ、俺の中で定義した都合の良い、しかし碌でもないものに分類される強化法なんだろう。失うのは己の命か自我か、全く別の誰かの大切なものか。もしどれかだったら真理の扉を覗くときに要求されるものくらいハチャメチャな等価交換の法則だな。
「歴代の赤龍帝も覇龍使って身体をぶっ壊して、死んだらしい」
「ふぅん......で?お前はその覇龍のこと、どう思ったんだ?」
俺のそんな疑問に対し、イッセーはストローをかみつぶしながら笑い、パックに残った全てのジュースを思い切り啜ったあと、座っていた机に叩き付けて言った。
「くっっだらねぇ!!そんな事したらハーレム作れねぇじゃねぇか!部長とも、朱乃さんとも、アーシアとも、小猫ちゃんとも!何も、なんにも出来ねぇじゃねぇかよブッハァ!」
俺の右アッパーを顎に、そして突如飛来してきた可愛らしい筆箱を額に受けたイッセーはアニメのように吹き飛び、きりもみ回転しながら落下した。というか、ナイスなアシストをしてくれたお方は一体誰.....ああ。
「もう!イッセーさんはホントにもう!」
どうやら、全然怖くない怒り方をしているアーシアさんがナイスアシストの張本人だったようだ。しかし、彼女が怒気を纏うのは相当珍しいことなのか、それまで談笑していた女子たちは面喰った表情をしていた。
「私、先に部長さんと一緒に帰りますから!スケベなイッセーさんは一人で帰って下さい!」
「ふ、フゴぉ~!」
顎と額を抑えて情けない声で静止を叫ぶ(?)イッセーを放り、アーシアさんは金髪を波打たせながら教室を出て行ってしまう。なんだか少し同情してしまったので、打ちひしがれているイッセーの手を引いて起こしてやる。そこに、女子の中にいた一人がイッセーの元へ近づいて来ると、後は任せて、と一言俺に伝えてから、彼の背中を思い切り叩いた。
「ほら!愛しのアーシアちゃんをこのまま見送るの?さっさと後を追いかけなさい!ギャルゲー的展開があるかもしれないわよ!」
「ウッホホぉぉぉイ!」
顎が痛くてうまく言葉を出せないのは仕方ないが、流石にその掛け声はないだろう、イッセー。そう言ってやりたかったが、手負いとは思えない素早さで筆箱を拾うと、自分の鞄を肩にかけて一目散に走って行ってしまった。残念ながら野生児みたいな掛け声は治っていない。
そんなイッセーを満足気に見送った謎の少女は、かけていたメガネを指で定位置に戻しながら、俺の肩をポンポンと叩き、何故か一仕事終えた同僚をねぎらうかのような表情で笑いかけて来た。
「お互い、気苦労が絶えないわね」
「全くだ」
気分で流れに乗っておきながら、イッセーが机上に残して行ったミックスジュースのパックを掴み、教室端に置いてあるゴミ箱へ投げ入れる。それを見た少女は口笛を吹いて驚嘆を露わにしたが、偶然だとフォローを入れておく。
「私は
「俺は栗花落功太。気は乗らないが、まぁ同業者のよしみで受けるよ」
俺の答えに満足したらしい桐生さんは、ふっと不敵に笑ったあと、元居た女子の輪の中に戻って行った。
.....ふむ、下級生に対して背伸びしたかっただけ、と。
あぁ...獅子王出したい。ロンゴミ二アドしたい。でもランサーは兄貴ェ...
仕方ないから兄貴にロンゴミニアドを...(うそ)