前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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リアルの多忙さ故に以前の更新から一か月以上経ってしまいました。すみますん。
しかし、最近は満足に執筆できる時間がとれなかったため、更新は以降も遅めとなります。ご了承ください。



File/38.交流会

 最近になって、禁固(任意)の解けたらしいオーフィスが再び家を出入りしているお蔭で、我が栗花落家はコカビエルとの騒動以前までの賑やかさを取り戻していた。そのことに嬉しさを感じつつ、今日も無事に学園へ着き、いつも通り教室に入って小猫ちゃんとお話しようと思ったのだが…

 

 

「あらコウタ。丁度良かったわ、話があるの」

 

 

 その前に教室内にいたグレモリー先輩に捕まってしまった。とはいっても、朝一番に怒られなきゃならないくらい悪いことをした覚えはないのだが...いや、彼女の隣からこちらへトテトテと移動してきた小猫ちゃんの表情を見るに、そこまで悪い話や暗い話じゃなさそうだ。

 俺は先輩に向かって頷いたあと、鞄を自分の机に置いてから教室の外を親指で差し、場所を変えて話をしましょう、という旨を伝える。このまま人垣を作りっぱなしはクラスメイトに悪いし、歩けばモーゼの奇跡を毎回再現するほどの人気振りとはいえ、こんな中で話を切り出すのは先輩もいい気分ではないだろう。

ともかく、了承したグレモリー先輩を引き連れて屋上に続く階段の下にまで移動する。この場なら人気も少ないし、さりげなく先輩が『部活のお話』という雰囲気を出してくれたので、追い掛けてくる生徒もいなかった。しかし、先輩との密会みたいな感じで変に勘繰られそうなのと、顔を会わせて早々、まるで『ここが私の定位置』とでもいいたげに俺のワイシャツの裾を掴みながらぴったりと寄り添ってきた小猫ちゃんとのダブルパンチで、俺への印象がかなり悪くなりそうであったが。過激派の獅子丸と樹林がいなくてよかった。

 

 

「今日のお昼、ソーナとその兵士、匙くんから私たちへお詫びがあるわ。コカビエルの件で迷惑かけたことについて謝罪をしたいんですって。...相変わらず固いわね」

「なるほど。そういうところはかっちりしてそうですよね、あの人は」

 

 

 生徒会...否、シトリー側に籍をおく匙が不用意に関わったことで、彼が堕天使との対立へ発破をかけたと思われても仕方ない。本当はその逆だったのだが、木場の過去を語る辛さに共感してしまったのが運の尽きだった。匙もイッセーとグレモリー先輩の関係みたく、支取会長に嘘を吐くことは出来なかったろうし、半ば強制だったとはいえ協力したと明言すると予想できる。

 しかしまぁ、複雑な事情はあるとはいえ楽しみだ。会長本人の実力ははっきりと分かってないものの、なんせ魔王レヴィアタンの妹だ。本人がその肩書きをどう思っているかは知らないが、周囲から向けられる期待の眼差しに応える努力をしてきていることは間違いない。そして、その姿勢は身近な眷属たちにも波及していることだろう。グレモリー先輩と比べてどれほどのものか気になる。

 あれ...待てよ?生徒会と言えば、この前あったイッセーと匙の紹介で、匙の方はグレモリー眷属全員と面識を持ったが、イッセーは生徒会メンバーを全員知らない。その事を鑑みるに、今回俺たちへ召集をかけた思惑はもうひとつあるのでは?そう言ってみたところ、グレモリー先輩はウィンクを挟んでから両手をぱちんと合わせた。

 

 

「その通り!あの時は双方の眷属全員を紹介してる暇はなかったし、あともコカビエル戦で立て込んじゃったから、機会を完璧に逃してたのよね。コウタの推測通り、それも兼ねてるわ」

「...だから、今日の放課後ですか?」

「ええ。だから小猫、コウタを生徒会室まで先導してあげてね」

「了解です」

 

 

 小猫ちゃんの返事を聞いたあと、先輩は優しく微笑んでから彼女の頭を軽く撫で、上品に手を降りながら廊下の角へ消えていった。ふむ、放課後は生徒会兼シトリー眷属の面々と座談会か...なんかややこしい事態にならなきゃいいけど。

 生徒会にお茶を淹れる設備はあるのかなと顎に手を当てながら唸っていたところ、片手の袖が引っ張られる気配を感じ、一端思考を中断すると、引っ張られた方向...小猫ちゃんに身体ごと向き直る。少し頬を赤くしながら目を細め、口元を真一文字に引き結んでいる彼女の姿をみるに、何やら心中穏やかではない様子だ。

 

 

「ん、どうした?」

「最近、コウタさんは付き合いが悪いです」

 

 

 小猫ちゃんは視線を逸らし、唇を尖らせながらそう言うと、おもむろに掴んでいた俺の袖をぐいと引き寄せ、勢いそのまま胸元へ抱き締めてしまった。己の身体とは全く違う柔らかさと温かさが片腕を包み、黒歌とはまた毛色の異なる未知の感触で逆上せたような感覚に陥る。が、それでは駄目だとすぐさま思い直し、片腕は抱かせたまま、もう片方の腕を小猫ちゃんの背中へ回し、反撃とばかりに抱き締めてやった。

 

 

「ごめんな。ここのところ少し立て込んでてさ。今週末なら大丈夫だぞ?」

「それなら...いいです」

 

 

 フリードを冥界に行かせたついでに仇敵との再会をしたり、グレイフィアさんの抜き打ち生活態度チェックがあって、注意されたところを徹底的に黒歌ともども矯正させられたりしたので、実は週末をあまり休めていない。こういった過去の事例を見ると、小猫ちゃんと休日にお出掛けするのは良い息抜きになるだろう。

 

 

「あ、コウタさん」

「ん?どうした小猫ちゃん」

 

 

 袖を引くとともに俺の名を呼んだ小猫ちゃんは、多少強張らせた表情をしていた。それに内心首を傾げ、彼女の言葉が聞き取りやすい高さにまで腰を落とす。

 

 

「この前みたいにならないよう、気を付けてくださいね」

「この前?...ああ、なるほど分かった。...ってか、耳打ちする小猫ちゃんの声ってちょっとエロいな」

 

 

 意地の悪い笑みを浮かべながらそういった直後、俺は脛の辺りを蹴られて悶絶した。

 

 

          ***

 

 

 以前会長と会う前にアロンダイトを提げていたのは、魔力の出力がコントロールできず、自らの意志に関係なく周囲へ破壊を及ぼす危険から、事前に魔力を消費するという理由で創り出したのだ。正直、あの時は間が悪かったとしか言い訳ができないのだが、今回はそのことで心配する必要はなくなった。何故なら、もう定期的に神造兵装を創らなくてもよくなったからだ。

 

 コカビエルが放った、三種エクスカリバーの力と天使の持つ聖なる光が混じり合う光線。この二つの極光を浴びた際、その力の属性と近しい聖杯の魔力が共鳴を起こし、俺はこの身に宿る聖杯の存在をはっきりと知覚した。同時に、俺の持つ疑似魔術回路と聖杯との間に挟まれた『蓋』にも気付けた。

 その『蓋』は上手く機能していなかった。不規則に開いたり閉じたりと、まるで吹く風に翻弄される扉のようになってしまっていたのだ。これは恐らく、以前オーフィスとの戦いの最中、神造兵装の連続創造を行った弊害で、必要な魔力を通した後に本来しっかりと閉められる蓋の役割が壊れてしまったのだと予想出来る。俺はこれを『約束された勝利の剣』創造の時に通る魔力の一端を用い、修理をしておいた。お蔭で流入経路の管理は万全となっている。

 

 

「.......」

 

 

 そういうことだから会長、さりげなく意味あり気な視線を送ってくるの止めて貰えませんかね。小猫ちゃんがそれに気づいてさっきから俺の手首を抓ってきてかなり痛いんです。

 そんな切なる願いは暫くして通じたらしく、会長はイッセーと俺に生徒会メンバーの紹介をし始めてくれた。ちなみに終始女生徒だっため、案の定イッセーの奴は最初から最後まで無駄にキリッとした表情をしており、明らか付け焼刃で作っている雰囲気と態度に大半の御方は苦笑い。だというのにコイツときたら「っへ、今の会心の笑顔だったろ?」とかさりげなくドヤ顔してくるのだ。本当に根は良いヤツなんだけどな...

 

 

「イッセー、その残念さを一刻も早く何とかしないと、永遠にハーレムなんてできないぞ」

「お、俺のどこが残念だって言うんだよ」

「ここは先輩の名誉のために黙秘しておく。じゃ、俺は人数分の紅茶入れて来るから」

「こんな時に限って都合よく後輩ヅラしてんじゃねぇ!ちょっと怖いけど余計気になるだろ!?」

 

 

 そんなイッセーの叫びをさらりと無視し、オカルト研究部の部室から持ってきたティーセットにかけていた布を取ると、人数分の紅茶を淹れはじめる。出来次第一つづつカップをオーバル型のトレイに乗せていき、先ほどから心なしかキラキラした瞳で俺の動きを見つめる小猫ちゃんに声をかけると、先ずは四人分の紅茶配膳を頼んだ。それに快く頷いてくれた彼女の頭を撫でてから、俺は続けて残りの製作に取り掛かる。

 さて、皆さん席についてコカビエル戦の情報共有を始めたようだし、さっさと最大の情報元たる俺も参加しようかね。...と思いながら、決して粗雑になり過ぎず、手際よく紅茶を淹れていくという、手を抜かない自分の職人気質に内心で苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

          ***

 

 

 

「まさか、コカビエルの目的が駒王町の破壊だったなんて...。すみません、分かっていればこちらも何らかの支援ができましたね」

「いいのよ、ソーナ。もう終わったことだし、後悔で時を費やすより善後策を講じる方がよほど生産的だわ」

 

 

 申し訳なさそうに目を伏せる会長にフォローを入れるグレモリー先輩。その気持ちはなるほど理解できる。この学校に通う生徒たちの統括を担うことと合わせ、上級悪魔として駒王町をテリトリーとしている以上、自身だけでなく学校校舎や町の危機に気付けなかったのは悔しいのだろう。先輩もその気持ちを分かった上で諭している。

 一方のグレモリー眷属と生徒会メンバーはコカビエルとの戦いで得た情報の大半を共有し終え、今は各々で談笑を交わしている時間だ。謝罪という湿っぽい雰囲気はウチの兵士が持ち前の明るさでぶっ飛ばし(会長除く)、現在は半ば交流会のような様相となっている。その兵士くんはシトリーの兵士くんと一緒になって、オカ研と生徒会メンバーへフリード撃退の話を大げさに誇張しながら語っていた。オイおまえら、フリードは音速で移動しないし目からビームも出さねぇぞ。いくら何でも尾ひれつけすぎだ。

 

 

「...何故でしょう」

「?何がですか」

「貴方は少し、現グレモリー眷属のメンバーとは違う感じがします。.....上手く言葉では表現できませんが、枠に収まっていないというイメージでしょうか」

 

 

 テーブルを挟んで俺の前の席に腰かけるのは、シトリー眷属の女王兼副会長、新羅椿姫先輩だ。眼鏡をかけ、長い黒髪をストレートで下ろす理知的な外見に沿う思考の持ち主らしく、どうやら俺の物腰を見て何かに気付いたようだ。...とはいっても、内心で称賛するのみに止めるが。

 俺は努めて平静を繕い、手元に置いてあるティーカップを回すと、持ち手を自分の方へ向けながら言葉を選ぶ。

 

 

「多少、育ちが特殊でして」

「あぁ、そういうことですか。周囲を一定時間毎にさりげなく観察しているのは」

「.....、気付いたんですか」

「偶々でしたが、なくなりかけているお茶に本人が気づくより先に何度かおかわりを薦めていたので、もしやと思ったんです」

 

 

 これは驚いた。まさかそんな落とし穴があったとは。自然な気配りと警戒も含め、オカ研活動中にも度々行っていたことなのだが、改めて常人目線に還るとやはり普通じゃない。いやしかし、これぐらい出来ないと三百六十五日のサバイバル生活は不可能なのだ。せめて、精神をすり減らすことなく常時周囲を警戒できるようにならねば、あっという間に殺されて化物の食糧とそこらに群生する植物の肥やしになってしまう。

 平和なグレモリー家での生活によって少しは鳴りを潜めたサバイバル能力だったのだが、やはりこと『警戒』に関しては習慣が抜けきらない。初めは後ろに立たれただけで身の危険を察知し、何度かグレイフィアさんや使用人の人たちへ剣を向けてしまった前例がある。現在はそれほどではないが、直接手を出さないもの以外は未だに自制が効きにくい。

 

 

(レーティングゲームじゃ、結構手強い相手になりそうだな...)

 

 

 先ほど向けたティーカップの持ち手を掴み、口元へ持っていきながらシトリー眷属の性質を吟味する。だが、こんなときにあまり物騒な考えを浮かばせるのもアレなので、すぐに思案を断ち切ってからカップを受け皿におく。

 視線を挙げると、ちょうど新羅先輩もティーカップへ手をかけたところだった。そして、滑らかな手つきで口元へ運び、縁に唇をつける...前に思い出したかのような口調で言う。

 

 

「そういえば、もうそろそろ授業参観ですね」

「授業参観?もしかして親御さんを授業に招くアレですか」

「ええ。それとどうやら、その日をサーゼクス様はかなり楽しみにしているようですよ」

「はは、あの人はお祭り騒ぎが好きな質ですからね。ましてや、その渦中に大好きな妹がいるとなっちゃ魔王職なんてやってられないでしょう」

 

 

 サーゼクスのことだ。大手を振って学校に侵に...もとい来校し、存分に持ち前のシスコンを発揮してグレモリー先輩の勇姿を記録するだろう。それに顔を真っ赤にしながら憤慨する先輩の姿までを簡単に想像できた。

 

 

「何?お兄様の話かしら」

 

 

 ここで話の端々を聞いていたらしいグレモリー先輩が会話に入ってきた。軽く目を動かしてみると、会長は話にある程度折り合いがついたらしく、イッセーたちと生徒会メンバーが談笑している中にいた。あちらは暗い雰囲気ではなさそうなので大丈夫だろう。

 一通り安心してから、俺は先輩に向かってその通りだと返答しようと口を動かしかけた。だが、突如懐かしい魔力の色を僅かに感じとり、思わず席を立って生徒会室の扉へ視線を移動させる。それから数秒と経たないうちに勢いよく扉がスライドし、外にいる人物が足を踏み入れてきた。

 

 

「やぁ、皆。随分と探しちゃったよ」

 

 

 その人は、冥界で知らぬ悪魔などいない────赤髪の魔王。

 

 

 

          ***

 

 

 

「どうぞ」

「ああ、すまないね」

 

 

 会長が気を利かせて置いたお茶に笑顔で返すサーゼクス。その純粋な笑みには同姓の俺ですらグッと来てしまうのだから、至近距離で直撃を受けた会長には凄まじい威力だったろう。にも関わらず、彼女は顔色を変えることなく謙虚な姿勢を崩さない。流石は72のうちの一つを継ぐ次期当主。社交辞令とそうでないものの区別はつけられるようだ。

サーゼクスはそのカップを手に取り、一度口をつけて喉を潤した後に言葉を続けた。

 

 

「今日ここに来たのは授業参観の件もあるんだけど、一番は他なんだ」

「何かあったのですか?」

 

 

 グレモリー先輩の言葉にサーゼクスは首を振り、おもむろに人差し指を立てたかと思いきや、くるりと上下を反対にさせて机の表面をトントンと叩いた。

 

 

「これからある、もう一つの一大イベント。...そしてそれは、この駒王学園で行われる」

 

 

 全員が顔を見合わせるも、参観日以外に近日中学園で行われる行事に心当たりはなかった。返答が来ないことに気を悪くした風もなく、サーゼクスはもう一度紅茶の入ったカップを極自然な挙動で手に取る。

 

 

「三陣営...悪魔、天使、堕天使のトップが会談する席を、この駒王学園に設けるんだ。そして、その席にコカビエルの件で大きく関わったコウタくん、木場くんを招こうと思ってね。この二つを伝えるためにここへ来たんだよ」

 

 

 あ、この紅茶淹れたのコウタくんだろう?久し振りに飲んだら一層美味しいね。などと呑気に笑うサーゼクスの言葉など無視し、俺は同じく驚愕で固まる木場と顔を見合わせた。


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