前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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みんなフリード君のこと結構好きみたいですね...
好きなのは私ぐらいだとばかり思ってたのに、彼が生存している作品が多々あって驚きます。

閑話休題。エクスカリバー編本編最終話です。


File/34.The Answer To Question

 天使からエクスカリバーを奪い、さらに魔王の妹が通う高校を破壊して、三すくみの戦争再開の後押しをする。そんなことを仕出かそうとしたコカビエルは言うまでもなく重罪扱いとなり、コキュートスで永久凍結という恐ろしい刑が下された。

 今回はコカビエル一人の暴走とはいえ、広い目で見るのなら彼の所属する堕天使側の起こした事件とも受け取れる。そのため、近々行われる天使、悪魔の代表が集う会談の席で、堕天使総督であるアザゼルが、この件について謝罪をする可能性があるらしい。

 過去にあったレイナーレの件も考えると、堕天使はあまり統制がとれていないのか?監督不行き届きもいいところだ。

 

 肝心のエクスカリバーは、壊されるよりはマシだったらしいが、統合された聖剣から三本全てをそれぞれ抜き出し、元の状態へ再構成させる必要があるらしい。

 別にそのままでもいいのでは?と思ったのだが、天使間では剣によって保管する場所がそれぞれ定められているらしく、しっかりと分別しておかなければ最悪内部抗争に発展する可能性は否めないという。

 

 ゼノヴィアと紫藤は既に教会へ戻り、自分の持っていた聖剣を含め、奪われたエクスカリバー全ての返還を終えている。ちなみに、かなりの功績を遺したと後日渡しておいたノートを介して報告を受けた。

 まぁ、悪魔...もといドラゴンの手を借りたとはいえ、誰一人欠けることなくエクスカリバーを全て回収して戻って来たのだ。しかも、神との戦争を生き残ったコカビエルに喧嘩を売って、だ。その気概は評価されて然るべきだろう。

 

 一連の事件が全て終わり、分かれる間際に木場の力を認めて握手を求めたゼノヴィアは、激しい戦場を生き残り一皮むけた戦士の顔をしていた。恐らくコカビエルとの戦いの最中でデュランダルを振るい、扱う上での課題を幾つも明確にされたことで、自分の力不足を痛感したのだろう。

 ちなみに、冗談半分にまた会った時は手合せしてくれと頼んだら、ほとんど間を持たせず望むところだと即答してきたあたり、彼女も筋金入りの戦い好きのようだ。

 

 一方の紫藤は、またイッセーくんの家に遊びに行くからねーと、笑顔で言いながら繋いだ手をブンブン振っていた。

 その光景を見ていると、以前ファミレスでイッセーの母親を叔母さんと言っていたことを思い出し、どこか訝しく思った俺は、イッセー本人に紫藤との関係を問い詰めてみた。すると、『ああ、アイツとは幼馴染なんだよ。昔は男勝りな性格してたから、女の子だって全く気づかなかったけど。...色々立派になってたなぁ』なんて言いやがった。

 やっぱし世の中の男子は可愛い幼馴染標準装備なのか?クッソ、ふざけるなよリアル!いっそ弾け飛んじまえ!

 そんな呪詛を吐きながら、壁をひたすら殴る俺を心配して慰めようとしたイッセーに八つ当たりしたのは、今でもかなり後悔している。

 

 そんなイッセーにも悩みがあるようで、現在はそれを聞いているのだが...

 

 

「頼む、コウタ!俺に禁手を教えてくれ!」

「えぇー、俺が神器持ちじゃないこと分かってんだろ?無理だって」

「むぐぐ、そこを何とか...」

 

 

 神器の能力を更に引き出すという禁手。ライバルであるヴァ―リがそれを完全に掌握していたことにより、恐らく彼の中で焦燥感が膨らんできているのだろう。

 ああ、それで思い出した。そういえば聞きたいことがあったんだった。

 

 

「あのよイッセー、何であのとき白龍皇の前に飛び出して喧嘩売ったんだ?」

「それは.....」

 

 

 少し言い淀む素振りをみせ、一度は下に向けた視線を時折何度か俺に移す。男の上目遣いって本当に気持ち悪いな。

 それから少しして、後頭部を掻きながら居心地悪そうにしたイッセーから、ようやく言葉が吐き出された。

 

 

「俺、今回は何にもできなかっただろ?後輩(コウタ)に任せっぱなしで格好悪かったし、少しは活躍しておきたかったんだよ」

「その気持ちはわからんでもないが、今後はあんな無茶止めろ。自分でもアイツとの実力の差は分かってたんだろ?」

「ッ....でもさ、俺は強くなりたいんだ。ドライグが言うように禁手へ至りたい」

 

 

 自室のフローリングを叩き、机の上に乗った麦茶の水面を波立たせる。どうやら、イッセーの心中もその波が荒立つように穏やかではないようだ。

 先日聞いたドライグの話では、コカビエルの戦闘中に聖と魔を混在させた聖魔剣を生み出した木場は、既に禁手へと至っていたらしい。なにやらイレギュラーな特性を持つというらしいけど。

 兎も角、イッセーは禁手の先駆者である彼からアドバイスを貰おうと画策したようなのだが...

 

 

『そうだね...例えば、何かもの凄く大切な物ができて、それを絶対に守りたい!って思った時に、その感情を神器に乗せたまま解放する。これがイッセーくんにとって一番イメージしやすいかな?』

 

 

 と、こんな風に返され、得心したイッセーは一番大切なもの...グレモリー先輩を強く思いながら、何度も神器に力を込めた。

 『大切な』と言えば聞こえはいいのだが、何故かその内容は大半エロい妄想と化しており、ドライグから本当に呆れたような返答を頂いたらしい。

 それでも、イッセーは『エロい妄想で禁手出来ないと決まった訳ではない!』とむしろ意気込んで繰り返し続けていたのだが、結果が出る前にギブアップを申し出て来た奴がいた。

 

 俺は正座するイッセーの左手に装着されている籠手へ目を移し、手の甲に嵌め込まれた宝玉へ意識を集中させる。

 

 

『コウタか。この場で話すのは久しぶりだな...』

「お、おう。随分と声に力がないな」

『相棒の話を聞いたろう?アレは絶対無理だ。...いや、俺だって色んな輩の願望や欲望を見て来たが、意識していない分不鮮明だったからな。こちらから干渉しなければやり過ごせたのだ』

「なるほど...イッセーは意識してドライグに送り込んできてるんだもんな。エロい妄想を」

 

 

 総じて力に呑まれ、贅と快楽を欲しいままにしたかつての赤龍帝の籠手の担い手たち。ならば、そういう想像を脳内で膨らましてしまったことも一度や二度では効かないだろう。

 そして、それらは精神の深層と深く結びついている神器にも流れ込む。ただし、間違ってはいけないのが、使い手自身が意図して神器に送ったものではないということだ。それだけで、ドライグが言ったように鮮明さが大きく変わってくる。

 見せたい訳ではないにせよ、『神器に感情を乗せる』という行為は『神器に感情を送る』と大差ない。つまり、今現在イッセーが行っている禁手の修行では、神器(ドライグ)へグレモリー先輩を守るという意志を動力源とし、憧れの美少女と触れるか触れないかの中途半端な生活で肥大化した妄想を無理矢理流し込んでいる...と考えられる。

 

 

『耳元で囁く甘言から、上着から下着の脱がし方までなんでもござれだ。幾らなんでも女に飢えすぎだろう、相棒。こんなものを通算24934回見せられた俺の身にもなってみてくれ』

「ちょっ、俺たちの間でならいいけど、コウタの前でそれ言うの止めろ!恥ずかしすぎて死ぬだろ!」

「ああ、それなら今ドライグにお前の妄想全部見させて貰ってるから。こういうこと出来るとは思わなかったけど、新しい発見だ。便利だな」

「へぇ、よかったな...って、そんな発見すんじゃねぇ!俺の頭のナカ勝手に見ないでぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 羞恥心で半狂乱になるイッセーを見ながら、『こんなんでホントに至れるのか?』とドライグに聞いてみる。すると、赤き龍は炎の溜息を吐きながら翠色の目を細めた。

 

 

『この方法で至ったら泣くぞ。本気で』

 

 

 そう、二天龍のうちの一匹とは思えないほど威厳を損なった泣き言をのたまった。

 

 

          ***

 

 

 学園から家に帰宅し、鞄を自室に掛けてから部屋を出て、すぐ隣の空き部屋だった扉の前に立ち、張り付いている気を払ってから扉を開け、中に踏み込む。

 簡素な四畳間には、ドラグ・ソボールのマンガ本を広げながら、寝そべって醤油煎餅をバリバリ齧るフリードがいた。

 

 

「ふむぉ?ふぉんふぃふぃー.....ッヴほぅ!」

「ぬぁ?!汚ねぇ!」

 

 

 リスみたいに頬を膨らませながらこちらを見て手を挙げたかと思いきや、その直後にいきなり噎せて大量の煎餅の欠片を噴出するフリード。

 飛来物が通過する軌道線上にいた俺は、何とか身を捻って被弾を避けたが、同時にフローリングまで死守することなど不可能。無情にも褐色の欠片が容赦なくぶちまけられ、『先日掃除したばかり』という事実も相まって俺を絶望のどん底へと叩き落とす。

 

 

「ゲェッホゲェホ!あぁー死ぬかと思ったぜよ」

「...いっそそのまま死んでくれりゃ良かったのに」

「うっは、辛辣なコメント頂きましたぁ!」

 

 

 これでは話をする気など起きないので、ヘラヘラ笑うフリードの尻を蹴飛ばしながら掃除をさせることにした。ついでに部屋全部も綺麗にさせたので大分満足。

 あとは黒歌を連れて来て、これからする俺の提案...もとい命令に従わず、暴れ出すことも考慮し、あらかじめ気で拘束するようお願いした。

 

 

「さて、話に入らせて貰うが」

「ち、ちょい待ちちょい待ち。これ地味に痛いんスけど。このままじゃ肩と肩が背中でくっついちゃう」

「そうなっても関節外れるだけだから治せるにゃん♪」

「あのー、旦那?姐さんが怖すぎること言ってるんですけど」

「話に入らせて貰うが」

「AREー?もしかして、俺っちここでは人権剥奪されてる感じ?」

 

 

 流石の黒歌もそこまではやらないだろう。会話中に関節外されたら、それどころじゃなくなることくらい分かってるだろうからな。

 にしても、嫌いだったり興味のない相手には容赦ないな。これも猫又特有の性格なんだろうか。

 

 

「さて、いい加減本題に入るぞ。...まず、お前はこれから行くところがあるか?」

「ん?そうっすね...はぐれエクソシストなんて基本どこの派閥もいらない子扱いっすから、行く場所なんてありゃしませんよ」

「そうか。なら、俺の知り合いがいる冥界の店で働いてくれないか?ちなみに差別とかは一切ないから安心しろ」

「働くぅ?それマジで言ってんの旦那。───店にくる悪魔全員ぶっ殺しちゃうよ?」

 

 

 口角を歪ませ、白い歯を剥き出しにするフリードの目には、冗談など一部たりとも含まれていなかった。

 それでも、俺は客を殺すのか殺さないのかではなく、店で働くのか働かないのかの意志だけを問う。どんな考えを持っていようと、働く意志さえあれば『合格』なのだから。

 洒落ではない脅しにも退く気を全く見せない俺を見て、フリードは多少の驚きと訝しみを態度の端に滲ませながらも、不敵な笑みを崩さないまま首を傾げた。

 

 

「.....ほー。いいぜ、旦那の考えに乗ってやる。あとになって後悔すんなよ───イダダダダダ!?ちょ、何でさ?!」

「フン、コウタに舐めた口利いたバツにゃん」

「ヤメテぇ!これ以上やったら俺っちのショルダーがブロークンしちゃう!アァッ───!」

 

 

 背中で腕を組んだ状態のまま、無理矢理首近くまで持ってこされるフリード。それを余所に俺は立ち上がり、ノートを開いて懐かしい名前を書き込む。

バキリ、という何か大切なものが逝った音と、白髪神父の盛大な絶叫をBGMに、俺はその内容をゆっくりと書き綴った。

 

 

          ***

 

 

 扉を潜り、言われた通りの場所へ赴く。その途中で監視の目が離れたのは何故だろうか。

 多少の疑問を感じながら足を踏み込んだそこは、装飾品などが多く飾られた部屋。きっと万人は綺麗だと評価するのだろうが、自分にはそんなものの価値など分からない。興味もない。

 仮に、この部屋で分かるものがあるとすれば...窓際の席に座る女ぐらいか。

 

 

「急にお呼び立てして申し訳ありません。ウロボロス・オーフィス」

「別に、いい。今の我、暇」

 

 

 ───そう、暇なのだ。今は自由に出歩くことを止め、この屋敷にいることを乞われているのだから当然。

 聞き入れずに外へ出ることなど簡単ではあるが、騒ぎを起こさないようコウタから言われているので、提案は呑んだ。

 

 

「暇、ですか。.....こちらとしても、貴方を戒めるのは本意ではありません。ですが、貴方は私たちの組織にとってなくてはならない象徴とも呼べる存在なのです。双方、万事目的を達するまでの道程に、無用な狂いを生む訳にもいかないでしょう」

 

(狂い....)

 

 

 その言葉で、『蛇』を介してコウタから聞いた言葉が、不意に蘇って来た。

 

 

『─────一度崩壊しかけた世の中だ。なら、異種族間で足並み揃えて立て直した方が、いざこざ続けるよりよっぽど生産的だと思うけどなぁ』

『それは無理。皆、考え方違う。自分側の利を追及すると、他の存在が邪魔になる。それだけ』

『うーん。普通はそういう野心やら欲望を剥き出しにしないで、政治っていうモノはやるはずなんだけどな。...過去持っていた地位にしがみついて、時代の流れに狂いを生じさせる連中がいるから、いい方向へ先導しようとする人たちの努力が波に呑まれちまう。この世界でそんなことをいつまでもやってたら、いつか絶対冥界も天界も滅びるな』

『じゃあ、どうする?』

『なに、どうしようもねぇさ。頭に血が昇った奴に話し合いは通じない。黙らせたきゃ、先方の要求を受け入れるか、殴ってぶっ飛ばすかの二択だけだからな。...ただ、前者をなんども繰り返してちゃ勿論破滅する。だから、頃合い見て殴る決意を持たないといけないんだ。狂った流れを戻すには狂った奴を排除する。それしか結局のところ方法はない』

 

 

 .....この女が、世界の『狂い』?

 否、だとしても我には関係のない事。仮に世界が滅び、悪魔や天使がいなくなろうと、我の住処が増えるだけ。

 もしそうなったら、コウタと一緒にグレートレッドを倒しに行ける。沢山行ける。

 

 

「ウロボロス・オーフィス。私からのお願いがあります。もし、これを聞き届けてくれたなら、貴方を組織の束縛から解放しましょう。」

「.......願望、聞く」

「簡単です。崇高なる真魔王の血を継ぎし、我がカテレア・レヴィアタンとその者たちへ、相応しい強大な力をもたらして欲しいのです」

 

 

 強大な力。というと、自分の持つ『蛇』のことだろう。ならば、好きなだけ使えばいい。もとより、それを与えることこそ、真なる赤龍神帝を退ける条件と交わした契約の対価なのだから。

 我は頷いたあとに手を広げて、その手中へ黒い蛇を一つ生み出す。が、女は眉を顰めて首を振った。

 

 

「いいえ、それは『いつも通り』のものでしょう?更に強力なものは創り出せないのですか?」

「...更に?」

「ええ。さきほども言ったでしょう?相応しき強大な力、と。それとも、できないのですか?」

「出来るが、きっとお前たちの身体が持たない。...死ぬ」

 

 

 それを聞いた女は、持っていたカップを木製テーブルに叩き付けて立ち上がり、我を睥睨してきた。

 視線からは抑えようのない怒り、劣等感、憎悪、懺悔...自分が感じたことのないあらゆる感情がない交ぜになった意志を受け取る事ができた。

 

 

「私は真に魔王の血を引く者!あのような贋作どもならまだしも、私たちに受け入れられない力は皆無です!」

 

 

 ───コウタの言っていた、話が通じない。とはこのことか。

 なら、我には二つの選択肢ができる。...受け容れるか、殴るかの二つ。しかし、殴ってはコウタとの約束を破ってしまう。なので畢竟、選択肢は前者に絞られる。

 

 

「分かった。蛇、渡す。」

「...それでいいのです。貴方は私たちを勝利へ導いてくれる(しるべ)。その御力、使い方を誤らねば貴方自身の願望を達するためへの布石となりましょう」

 

 

 手から人数分の蛇を生み出し、女へ手渡す。直後、中に存在する力の波動が伝播したのか、目を爛々と輝かせながら笑みを浮かべた。

 それを使って、彼らがどうなろうと知ったことではないが、最後に確認しておきたいことがあった。

 我は開け放ったままの扉を潜る前に振り向き、女へ最()の質問をする。

 

 

「これで、我は自由?」

「ええ。ですが、くれぐれも過度な行動はお控え下さいますよう」

 

 

 返事をすることなく退出し、そのまま次元の狭間の入口へ足を踏み入れた。これで、久しぶりにコウタと生身で触れ合える。

 その事実を再確認した途端、今まで味わったことの無いある『感情』が、溢れだした。

 誰かから当てられる感情に分別はつけられるが、己の中で生じたのは初めてに近いため、理解できない以上『コレ』に名前など付けられない。

 

 

(なら、コウタに教えて貰う)

 

 

 そう決めると、また胸のあたりがじんわりと熱くなった。

 ...我、もしかして病気?

 




この話を読んでいる最中にお気づきの方がおられるやもしれませんが、ゼノヴィアはグレモリーへ眷属入りしません。
理由は、オリ主による原作を超過したメンバー強化への調整や、彼女へのフラグ建設を避ける名目等があります。

彼女の活躍を期待していた方には大変申し訳ないですが、作中から完全にいなくなる訳ではありませんので、ご理解のほどをよろしくお願いいたします。

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