前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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みんな大好きフリード君が聖剣でインフェルノディバイダーする回です。


File/29.作戦敢行

 紫藤、ゼノヴィアとの協力を取り付けられたのはいいが、結局俺たちグレモリー側がやる事といったら、地味な見回りをして情報収集、並びにコカビエル一派と接触を試みるくらいだろう。

 しかし、奴らは身を隠すために駒王町へ来たのだ。簡単に見つかるようなところへ潜伏しているはずもないし、軽率な行動も控えているだろう。約一名を除いて。

 

 

「はぁ、今回もダメか...」

「い、いや!まだ頑張るぞ、諦めんな匙!」

「でもイッセー君、もう夕方だよ?これ以上は不味い」

「佑斗先輩の言う通りです。部長さんにバレる」

 

 

 俺たちは神父服を着て街を歩き、ここら一帯で教会の神父を無差別に殺して廻っているフリードを誘き出す作戦を敢行していた。しかし、結果はご覧の有様で、毎回時間だけが無為に過ぎていくばかりだ。

 発案時のインパクトから効果は結構期待されていたのだが、よく考えると十字架は偽物だし、目的地もなくただ歩き回るだけではダメなのかもしれない。

 

 そう、さっきまで俺は思っていた。

 

 

「?コウタ、さっきから黙ってどうかしたのか」

「.....ああ、ちょっと人払いの結界を張るのと一緒に、この作戦が成功したことに少し驚いてたんだ」

「は?成功って、どこが────────」

 

 

 匙がこめかみを抑えながら呆れたように言いかけるが、直後に彼を含めた全員が身を震わせ、一斉に頭上を見上げる。...瞬間、長剣を振り上げたフリードが家屋の屋根を蹴り、俺たち目掛けて落下してきた。

 

 

「ほあちゃあああ!お前さん方全員、そこに首置いてけぇい!」

 

 

 悪魔の聖剣に対する防衛本能が上手く働いたらしく、全員が素早く安全地帯への回避を果たした。そのためフリードの斬撃は空を切り、誰一人として葬れなかったことに苛立ちを覚えたか、奴はここまで聞こえる舌打ちをかました。

 俺は事前に立てていた作戦通りに動くよう指示を飛ばそうとしたが、神父服を脱ぎ捨てながら激情に任せて飛び出して行った馬鹿がいた。アイツ、また碌に考えもしないで突っ込みやがって!

 

 

「フリードォッ!」

「おろろ!?貴方様は以前会ったばかりの魔剣使いのイケメンくんじゃあーりませんか!ってーことはそこにいるのって....あらやっぱり!いけすかねぇ悪魔の野郎どもと、やっちゃいけない一人鬼ごっこかました人間さん一名勢揃い!おおっと、やっちゃいけないのは一人かくれんぼの方でした!素で間違えた俺っちマジ天然さん☆」

「君は、剣を向けられている自覚がないのかッ!?」

「あー耳元できゃんきゃん五月蠅いなぁ!テメェじゃぼくちんの相手になんないの!」

 

 

 その台詞とともに、フリードの持つ長剣...エクスカリバーが光り輝きだした瞬間、それまで鍔ぜりあっていた木場の魔剣をいともたやすく砕いた。突然己の武器が消失したことに驚いた木場は、目を見開いたまま固まってしまう。

 不味い─────!そう思った俺は足に魔力でブーストをかけ、エクスカリバーを振り上げたフリードの目前から木場を突き飛ばし、精製(フォーム)した二本の剣で受ける。だが、折れたうちの一本とは言え、聖剣の前に急場しのぎの剣など紙束に等しい。

 

 

「ぐぁ!」

「だはは!んな鈍らじゃあ、俺っちの聖剣は止められねぇよ!旦那ぁ!」

 

 

 辛うじて剣閃の軌道を曲げられたが、肩をバッサリと斬られて鮮血が噴き出す。そして、止めと言わんばかりに剣を構えるフリード。しかし、その手に俺の背後から伸びて来た黒い触手のようなものが巻き付いた。

 

 

「ちぃ、うぜぇ!.....ってあら、斬れない?なんでさ!?」

「そいつは生半可な攻撃じゃ簡単に切れてくれないぜ?今だ、イッセー!栗花落と交代しろ!」

 

 

 片手の甲にある黒い蜥蜴の顔のような神器(?)から、舌のようなものを伸ばしてフリードを拘束している最中に、退く俺と入れ替わるような形でイッセーが飛び出して行く。そして、俺が自分を庇って血を流した事で頭が冷えたらしい木場は、作戦通りイッセーの下へ走りだした。

 

 

『レーティングゲームの時は使わなかったけど、籠手が進化した時に倍加の力の新しい使い方が頭に浮かんだんだ。恐らく、エクスカリバーとの戦いで役に立つと思うぜ』

 

 

 イッセーから聞いた、赤龍帝の持つ新しい力。もし聞いた通りの能力なら、聖剣と打ち合うくらい出来るのでは...俺はそう踏んでいる。

 地面に血痕の尾を引きながらも、俺はフリードから十分な間合いを取る。一応防護の魔術はかけておいたが、聖剣の持つアンチスペルが働いた分威力が全く殺せていなかった。

 地面に膝をつき、痛みを堪えながら魔力で傷の治癒をしているところへ、小猫ちゃんが血相を変えて俺の顔を覗き込んで来た。

 

 

「コウタさん!大丈夫ですかッ?」

「ああ、これくらいどうってことない。一応止血はしておいたから、な」

「フラフラじゃないですか。全然大丈夫じゃないです」

「お、思ったより深かったみたいだ」

 

 

 頭を振りながら、ふらついた足元をしっかり地に着ける。久しく体感していなかった死の足音に身体が驚いているらしい。.....日和ってんな、俺。

 自分のことは置いておいて、仲間たちの戦闘へ目を向ける。そこでは、ついに新技を披露するイッセーの姿があった。

 

 

「受け取れ木場ァ!赤龍帝からの贈り物(ブーステッドギア・ギフト)ッ!」

 

『Transfer!!』

 

 

 

 籠手から迸ったドラゴンの力が木場を包み、彼の魔力量が目に見えて跳ね上がる。なるほど、これは面白い使い方だ。

 

 

「!....これなら、行けるッ!!」

「ぬおぉ?!なんじゃそりゃあ!」

 

 

 木場が両手を構え、地面から剣を二本生やした瞬間、水面を打った波紋の如く魔剣が続々と湧き出て来る。だが、フリードは己目掛けて四方八方から刃を突き立てて来た剣に驚愕しながらも、しぶとく飛んで逃げ回る。

 こうなったら、後は木場の独壇場だ。彼は騎士の速度を遺憾なく発揮し、剣を足場にしてフリードを追う。時折掴んだ剣を飛ばしながら奴の移動速度を落とし、ついに完璧に虚を突いた形で背後を取った。

 

 

「貰った!」

 

 

 打たれた詰めの一手。しかし、それは俺の目でしてもぶれる程のスピードで振るったフリードの剣で、文字通り打ち砕かれた。

 木場は驚愕の最中にも衝撃を殺せず吹き飛び、家屋の外壁へ背中から激突する。苦悶の喘ぎを漏らしながら、彼は多量の酸素と共に血を吐き出した。

 

 

「ええ、中々よろしいスペクタクルでしたよ?でも、残念ながら千歩ほど及びませんでしたなぁ」

「な、何なんだ今のは?明らかに速度で木場を越えてたぞ?!」

「ふっふっふ。ワタクシの持つエクスカリバーは『天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)』!持ち主の素早さをドカンと上げてくれるありがたーい相棒なのよぉ!」

 

 

 イッセーの驚愕の声に答えた白髪神父は、剣の消えた地面へ降り立つ。

 ...譲渡したにも関わらず、木場の剣はフリードへ届かなかった。なら、この場に置いて速度で奴へ届きうる俺と木場が倒れた今、全力で逃げに回るしかない。─────傷が開くかもしれないが、俺が活路を開くか。

 壁に背を預ける木場へ向けて、再度剣を振り下ろそうとするフリード。ここで今一度突貫をしようとした俺だったが、それより一歩先に匙が動いた。

 

 

「そうは、いかねぇよ!」

「ん?ぐぉ...な、なんだこりゃ?!」

 

 

 フリードの腕に絡みついていた黒い舌が光を放った瞬間、奴のバランスが突然崩れた。そして、そのわずかな隙を見逃さなかった木場は離さなかった魔剣の一つを閃かせる。しかし、流石は天閃の聖剣。並の人間には瞬間移動にも等しき速度で身を翻し、剣の回避を成功させる。

 

 ────それを予測していた小猫ちゃんの拳が迫っていることには、果たしていつ気付いたのだろうか。

 

 

 

「ぐふッ!?」

 

 

 腹にめり込んだ拳の威力は相当なものだったのだろう。吹き飛んだ先でぶち当たった電柱には大きく罅が入っていた。

 フリードは軽く喀血したあとに、憎憎しげな表情で匙の手から伸びた触手を見ると、吐き捨てるような口調で言う。

 

 

「ぐ...そいつは、この黒い舌みてぇなのが触れた相手の力を吸う神器だな?」

「ああ。これは『黒い龍脈(アブソーブション・ライン)』。能力は大方お前が言った通りだぜ」

「げぇードラゴン系神器かよ!めんどくせぇ!」

 

 

 匙もドラゴンの神器持ち?赤龍帝と白龍皇以外の神器(やつ)もあるのか。本体が封印されてるのかどうかは知りたくもあるが、今やることではない。

 正直、匙の神器のお蔭で勝機が見えつつある。しかし、依然あの素早さは厄介だ。もう一度木場にドラゴンの力を譲渡できればいいのだが...。そう考えていたところへ、腹を抑えながら近づいて来る騎士(ナイト)の姿が視界の隅に映る。

 

 

「ゲホッ...コウタくん、今は攻めるべきだよ。フリードの速さは本物だけど、全く見えてない訳じゃない」

「だが、先輩の剣じゃエクスカリバーを折れない。赤龍帝の力を使っても、だ」

「.....それは」

 

 

 忌々しそうに顔を伏せる木場。事実だが、受け入れるのを拒否したいのだろう。

 俺は両手に干将莫耶を出現させ、彼の横に並ぶ。まだ肩が少し痛むが、全力で振るわなければ大丈夫だ。あともう少しで傷は塞がるし、それまで辛抱すればいい。

 

 

「今は一人で戦わないでくれ。力を合わせるぞ」

「...うん、分かったよ」

 

 

 暫しの間の後に答えると、立ち上がった俺の背に自身の背を合わせるような構図で並ぶ木場。なんだ、悩んだ割にはノリノリじゃねぇか。

 

 

「はっはは!共同戦線ってやつですか?いやー全くもってウザい!テメェらとっとと俺の前からいなくなれよ!!」

 

 

 天から走った雷のように、左右左右と蛇行しながら地を蹴って肉薄、聖剣の刃を閃かせるフリード。その剣を俺が莫耶で受け止め、木場が迎え撃つ。受け止められるとは思っていなかったか、舌打ちと同時に聖剣の切っ先を地面へ向け、己の身に迫る木場の剣を防御する。

 その直後に視線を後ろへやったことから、態勢を整えようと後退する奴の意を悟り、俺は残った干将も聖剣に打ち付けて弾く。そして、すぐにがら空きとなった懐へ蹴りを叩き込んだ。っ痛ぅ...ちょっと傷開いたか?

 

 

「ごほッ!せ、聖剣を弾いた、だと...?さっきは壊されてたはず、だろが」

「この剣は特別製でな。他の(ヤツ)とは出来が違う」

 

 

 それを聞いたフリードは分が悪い事を悟ったか、一度更に大きく後退する。俺はその距離を詰めようかと思ったが、聞き覚えの無い男の声が響いてきたため、一度足を止めて周囲を見回す。

 それは、白髪神父の背後に立っていた初老の男性から放たれた声だった。

 

 

「全く、あまり聖剣に乱暴な扱いをするんじゃない。フリード」

「げ...バルパーの爺さん。いつのまに」

 

 

 バルパー?どっかで聞いたような名前だな。そんな風に頭を捻っていた俺の隣で激昂したのは、木場だ。

 それで思い出した。以前紫藤とゼノヴィアから聞いていた、聖剣計画の元責任者。皆殺しの大司教とも呼ばれた─────

 

 

「バルパー・ガリレイッ!」

「ああそうだとも、私こそがバルパー・ガリレイ。聖剣使いをこの世に生み出したパイオニアだ。貴様の持つ神器、魔剣創造の力は見せて貰ったぞ。そして、その程度のものならば我が聖剣の足元にも及ばん」

「あのー、俺っちの敵さんにご高説頂いてるトコ悪いんだけど、このマジうざってぇ黒いトカゲちゃんの舌の斬り方ありますかね?」

「...因子の扱い方にまだ慣れていないか。だが、お前はそれを抜きにしても聖剣の扱いが雑すぎる。もっと自分に流れる適正因子の力を認識し、聖剣の能力を向上させろ」

 

 

 フリードは言われるがままに剣を構えて、光を凝縮させていく。その光には聖なる力が濃縮されているらしく、イッセーたちは目に見えて浮き足立っていた。

 奴は眩く輝いた聖剣を振るうと、いとも簡単に匙の伸ばした黒い回路(パス)を断ち斬ってしまう。まさか本当にバッサリやられるとは思ってなかったのか、匙は呆然と戻って来た舌の斬り口を見やる。

 

 

「うっほ、ホントに斬れた!よっしゃ逃げますぜバルパーの爺さん!」

「うむ。コカビエルもこやつらの事を知れば、実験に一層の期待を持つだろう」

 

 

 フリードはバックステップで距離を取り、バルパーのいる後方まで退却する。しかし、そんな彼目掛けて突っ込んで来た影が一つ。

 それは鋭い斬撃とともにフリードの聖剣を叩き、激しく火花を散らす。

 

 

「いいや、やっと尻尾を掴んだんだ!逃がしはしない!」

「っち、教会の手先が偉そうに!物騒なモン振り回してる暇があったら、本業のお祈りでもしててくだせぇ!Forever(永遠に)!」

 

 

 戦闘に乱入してきたのは、破壊の聖剣を持つゼノヴィア。俺の背後ではイッセーと話す紫藤の声も聞こえる。...なんとか間に合ったか。

 敵が想定外の戦力を持っていた場合か、俺たちが想定外の事態に陥った場合に取る、もう一つの手。それが、イッセーに聖剣コンビへ連絡して助太刀を願うという作戦だ。

 

 一際大きな音を響かせて、双方が足を滑らせながら大きく後方へ退く。ゼノヴィアはフリードの持っていた聖剣が天閃の聖剣だという事は知っていたのだろうが、やはり相性が悪かったらしい。

 フリードは彼女の剣を受けているようで、その威力はほとんどが流されている。移動速度が上がっていることにより、剣の軌道が読まれてしまっているのだ。

 

 

「んじゃ、そろそろ本気でおいとま」

 

 

 そう言いながら取り出したのは、光の球らしき物。

 俺はあれがどういうモノなのか分からなかったが、木場は知っていたようだ。

 

 

「あれは衝撃を受けると強い閃光を放つ道具だ!このままじゃ逃げられる!」

「ちょっと待った」

「!何で止めるんだコウタ君?!ここまで来てふざけないでくれッ!」

 

 

 俺は魔剣を片手に掴んだ木場の肩に手を置く。すると、予想していた通り怒声にも近い言葉を放つ。だが、それに構わず悪い笑みを浮かべながら、一枚の布を創造した。

 傷は治ったし、このタイミングなら事を有利に進められる可能性が高い。仕掛けるなら今だ。

 

 

「今ここでアイツらを倒したら、元凶にたどり着けなくなるだろ?」

「.....じゃあ、一体どうするんだい?」

「見つけさせてくれねぇんなら、()()()()()貰う。それだけだ」

 

 

 布を()()()()()瞬間、閃光が辺りを包んだ。

 

 

          ****

 

 

 強烈な光に目がやられ、否応なしに視界が白一色に染まる。そして勿論、目を開けた先にはフリードとバルパーの姿は消え失せていた。くっそ!折角捕まえたと思ったのに、あっさりと逃げられちまった...

 

 

「ここまで来て逃がす訳にはいかない。追うぞ、イリナ!」

「合点だよ!」

「え、おい!」

 

 

 俺の制止など聞く耳持たず、二人は一目散に走り去って行ってしまった。ったく、協力しないと不味いんじゃなかったのかよ。勝手だなぁ。

 そうは思ったものの、フリードの持つ聖剣の力に当てられ過ぎて眩暈が凄まじかった。皆もそうだったようで、小猫ちゃんは汗を拭っていたり、匙は思い切り倒れ込んだりしてた。こりゃ、とても戦える状態じゃないな。

 

 

「なぁコウタ。これって作戦成功ってことで.....あれ?」

「?どうかしたんですか、イッセー先輩」

「いや、コウタがいない...ってうお、木場もいねぇ!?」

 

 

 周りを幾ら見渡しても二人の姿が見えない。先に帰った?それともかくれんぼ?んなわきゃあるか!

 自分で自分にツッコミ入れてると、起き上がって尻を叩く匙が険しい表情をしながら言った。

 

 

「まさか、フリードとバルパーの奴を追ったんじゃ...?」

 

 

 恐らく...いや、確実にそうだ。木場はバルパーに恨みがあるし、コウタだって一回フリードを逃がした負い目がある。

 でも、皆で戦って勝てなかったフリードと、確実に只者じゃない堕天使の幹部がいる敵の陣地へ四人で...

 

 俺たちは、ゼノヴィアとイリナが消えて行った道を呆然と眺めるしかなかった。

 


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