最初は会話オンリーですが、場面転換の後にちゃんと地の文はつきますので。
『じゃあ、改めて...僕の名前はサーゼクス・ルシファー。冥界に4人いる現魔王の一人なんだ』
『.....そうですか』
『ああ、そうさ。それでね、僕は君をこの屋敷に置きたいと思ってるんだ』
『...何故ですか?世間の面子がある貴方みたいな人が、血と泥に塗れた俺を近場におくメリットが考えられません』
『簡単さ。そのメリットがデメリットを上回っているからだよ。...君は有名になり過ぎた。無論悪い意味でね。僕を含め、魔王幾人かの所有する領地内に踏み入り、不正に魔物を狩った。その数推定数十万。恐ろしい数だ。しかしまぁ、その犯人が人間だなんて誰も想像つかないだろうけど』
『...俺は、罪人ということですか?なら、尚更』
『うん。端的にいうとそうだ。でも言ったろう?有名になり過ぎたって。魔王諸侯の間では、情報が不明瞭なのをいいことに君の能力や姿を予想するレースが広まってるんだ。おかげでよく知りもしないくせに「欲しい」と言う方々が増えて来ていてね。セラフォルー辺りが一番欲しがっていたな』
『珍しいおもちゃか何かだと間違われているんじゃ』
『間違ってはいないね。そういう思惑を含んで手を伸ばしてくる者もいるだろう。...さて、巷では「
『そういう、ことですか』
『分かってくれたようで何より。だから、僕のところでかくまわれてくれないかな?』
『.....まだ、首を縦には振れません。他の魔王の思惑を知っても、貴方自身がどういった考えを持って俺を手中に収めようとしているのか、教えて貰っていない』
『君は...本当に山暮らしとは思えない論理的思考の持ち主だね。さて、その疑問は至極真っ当だ。僕が君を手元に置こうと思ったのはね、冥界にこれ以上波紋を拡げないためだ』
『波紋、ですか?』
『ああ。実は過去に大きな戦争があってね。先代の魔王たちは皆亡くなってしまったんだ。冥界は未だにそのショックから立ち直れていない。だから、余計な火種を生むことは極力避けたい。つまり』
『つまり、俺はここで「
『察しが速くて助かるよ。そういうことだから、君はここで暮らして欲しい。でも、見たところ一般常識、十分な道徳的観念も持ち合わせているんだから、人間界に帰してしまうのも一考の余地アリかな、と思うんだけど』
『いえ、あそこにはもう戻れません。俺はもう、あっちのセカイの住人じゃなくなってしまいましたから』
『ふむ、込み入った事情はこの際聞かないようにしよう。じゃあ...そうだね、タダで住まわせるのは良くないから、この屋敷の清掃とか、雑用全般を頼もうかな。どう?』
『それならお安い御用です。ありがとうございます、サーゼクスさん』
『あー。ええと、もう一個条件だしてもいいかな?』
『?何でしょう』
『その丁寧な言葉遣い、禁止ね。魔王だからと言って気兼ねせず、砕けた態度で接してくれると助かる』
『でも...いいんですか?』
『うん。魔王職やってると、丁寧な言葉で会話する場面が多くてね。正直に言うと肩が凝って仕方ない。せめて、同じ屋根の下に住む者同士とでは壁を築かずに話し合いたいんだ。友人みたいな関係を心掛けてくれれば、なお良しかな』
『ん、分かったよ。サーゼクス』
『ふふ、これからよろしく。コウタ君』
***
「.....また、懐かしい夢を」
目が覚めて早々溜息を吐き、水分を失って乾いた喉に不快感を覚える。僅かに残った微睡みを振り切る意図も含ませ、上体を勢いよく起こす。徐々に覚醒していく意識が受け取った情報は、グレモリー邸内に数ある部屋の一つを借りた、自室のいつも通りの白を基調とした内装であった。
「初めの頃は、グレイフィアさんに叱られっぱなしの毎日だったなぁ」
朝日が差し込む窓をぼんやりと眺めながら一人ごちる。そんな思い出の一かけらを掘り起こしていくうちに、記憶の棚から次々と懐かしい光景が零れ落ちてきた。冥界のこと、悪魔のこと、天使のこと、堕天使のこと...
それまでひたすらに生きる事を目的として動かしていた身体や頭が、急な方向転換のせいで大分混乱しかけたものの、今ではすっかりと順応出来ていた。背後に気配を感じるたび剣を振り回していたあの頃が懐かしい。
「ま、今でもたまにやっちゃうんだけどな」
やはりこれだけはどうしても直らない。前世の俺が聞いたら、『俺の後ろに立つなとか、厨二病にもほどがあるだろ』とか言って一笑に伏すだろうが、今となっては茶化しなどではなく純然たる警告の言となっていた。毎日己を捕食せんがために全霊をかけて爪牙を振るう相手と渡り合えば、自然と彼らの出す『そう言う空気』に対し敏感となってしまったのだ。
俺は部屋の中心に立ち、何とはなしに両腕を上げ、手を広げると意識を集中させる。今ではすっかり慣れたもので、全身に魔力が奔り、それが手中で閃いた瞬間、ずしりと重く固い感触が手のひらを包む。
「やっぱり、お前見てると安心するよ」
陽光を弱く反射する二つの剣...干将・莫耶。今俺がこの場に立って心臓を動かしていられるのは、間違いなくこいつらのお蔭だ。この陰陽剣で命を刈り取った魔物の数は計り知れない。
剣と言うのは振るえば切れる。つまり、命あるものを殺し奪うことにこそ存在意義を見出すものだ。ただ見せるだけに作られた剣など、そんなものは剣ではない。───そう、戦士たちは言うのだろうが、俺は違った。
俺は決して能動的に殺していた訳ではない。殺す以外に選択肢がなかったから、その行為を多くの葛藤の後に受け容れ、生きて来ただけだ。それでも、仮に自分の身を守るためとはいえ、そして己とは種が違う異形の者とはいえ、一瞬前までは息をしていた相手を引き裂き、臓腑ともども泥の溜まった汚い地面へぶちまけるのは、何度やっても自責の念が膨らんだ。...故に、俺は剣が嫌いだった。命を奪うために握られ続けて来た剣を振るうのは嫌だった。
「でも、コイツらだけは違ったな」
俺がはじめてこの剣を持ったとき、あまりの暖かさに目を剥いた。無論、物理的に暖かかった訳ではなく、剣としての無機質さ、非情さ、冷徹さが他と比べて明らかに少なかったからだ。前述の三つの要素はある種剣として当然の性質であったにも関わらず、この一対の劔にはそういった負の概念がまとわりついていなかった。
干将莫耶の特異な性質の出所は、この剣が夫婦剣であるということに由来すると俺は考えた。正史上ではどのようなものであったのか分からないが、Fateで語られる干将莫耶の性質は、夫と妻の名を冠し、また互いに引き合い、決して離れることのないというものであり、より人の温かみが感じられるのだ。あの赤き弓兵が好んで使っていた理由は、俺と同じであって欲しいと思う。
────と、そこまで考えたところで、俺は干将莫耶へ落としていた顔をぐん、と正面まで上げ、それとほぼ並行して足をスライドさせると、背後へ振り向きざまに莫耶を一閃させる。
「ッ!」
俺を襲った何かと衝突する鈍い音は響いたものの、背後には交錯時に散った火花の残滓が残るのみで、肝心の犯人の姿はない。───が、直後に俺は干将を頭上に振るった。すると、その刃へ向かい後方から衝撃がくると共に、さっきと全く同質の音が響き、少なからず生じた衝撃波で窓辺のカーテンが大きく波打つ。
「っく、悪ふざけもいい加減に────」
俺は双方の拮抗を挟ませることなく、莫耶で相手の武器を頭上から弾き、風のような速さで身を捻ると、そのまま後方にいるだろう相手へ回し蹴りを放つ。
「───────してください!」
ガヅン!という人を打ったとは思えない音が響くと同時、向けた視線の先にいた人物を確認して深いため息を吐く。俺は魔術で強化されたモップの持ち手に阻まれた足を引っ込め、両手に持った干将莫耶を消すと、腕を腹に当てて恭しく礼をした。
「おはようございます。グレイフィアさん」
「おはようございます。見たところ寝起きのようですが、よくあそこまで動けますね」
「まぁ、起きて一秒後に戦闘、というケースもよくありましたから。酷いときは迎撃した覚えがなく、起きたら死骸が散乱していた、という事もありましたね」
一番最初にそれをやった時は驚いたものだ。熟睡ないし気を失いながらも近づいてきた魔物を切った張ったするなど、アニメで出てくる武術の達人みたいだ、と。一応俺の目の前で魔物同士の乱痴気騒ぎがあったという可能性も否定はできなかったが、死体のほとんどは碌に外傷がない状態で両断されていることと、起きた時に両手へ握られていた真っ赤な干将莫耶が全てを物語っていた。
そんな感じに昔日の光景へ思いを馳せていたところ、グレイフィアさんはモップの持ち手の先で地面を叩くと、綺麗な笑顔を湛えながら言った。
「なるほど、分かりました。...では、寝坊した言い訳はしない、ということで宜しいのですね」
「...........?!」
時計を見ると...おかしい、俺が本来起きる時間から針が一時間ほど先に進んでいる。昨日グレイフィアさんから大事な客人が来ますから遅刻しないようにと釘をさされたはずなのに。いや、そうか。謎は解けたぞ。これは...
「グレイフィアさんの性質が悪いイタズラですね!?」
「違います」
結論:モップは痛かった。
***
俺はまだ痛い頭を擦りながら、軽い身支度を整えた後に長い廊下を歩く。容赦なくいかれたもんだから、少しの間視界に星が舞ってた。コブになってたりしなければいいのだが...。そう思いながら、窓の外の景色を見る。
俺がこのグレモリー邸へ来てからはや三年。立場上使用人という体で暮らしてはいるが、山々を駆けまわって剣を振るっていたあの頃の俺は、まさか自分がこんな所にくるなんて想像もできなかっただろう。今の俺だって、この屋敷に三年間いるなんて信じられない。しかも家主は冥界の権威である魔王の父親。最初は疎まれるかと思ったが、母親共々『孫が増えたようでうれしい』と言ってくれたので、今日まで安心して暮らしていれた。グレイフィアさんは怖いけど。
自分の顔が見えるほど綺麗に磨かれた廊下を歩き、やがて一つの客間の前で立ち止まる。呼び出された部屋がここなのだが、この部屋は現魔王であるサーゼクス・ルシファーの自室と距離的に近い、どちらかと言うとサロンのようなイメージがある。そんな場所に客を呼ぶなど、あとでサーゼクス本人に何かしら言われるのではないだろうか?ただまぁ、グレイフィアさんのことだ、理由があるんだろう。と決めると、俺は扉をノックして入室の許可を求める。
「遅れて申し訳ありません。コウタです」
『お、来たね。入っていいよ』
...あれ?この声って確か.....。俺はその疑問を解決できぬまま扉をあけ、その部屋へ足を踏み入れる。その瞬間、真っ先に視界へ飛び込んで来たのは、一度見た者の心に強く焼き付く鮮烈なまでの赤髪。それでもう理解した。
「さ、サーゼクス!なんで今こんなところに...いやまてよ、そういうことか」
俺の反応を見てにこにこするサーゼクスから視線を移動させ、彼のすぐ傍に控える銀髪メイドのグレイフィアさんを見る。それに対し、彼女は俺の方へ軽い頷きを返す。やはり、彼女の言っていた『客人』とはサーゼクスのことで間違いない。だが、一体何の理由があって魔王職があるにも関わらず本家へ出向いてきたのだろう。まさか家族団欒の時に飢えていた、という訳にもいかないだろうし。
まぁ、何にせよ取りあえず落ち着こう。このまま考え込んでいてはいつまで経っても話にもっていけない。聞き手に回るべき俺は、話し手にとって会話しやすい空気を作るのが義務というものだ。という訳でサーゼクスと対面のソファに座ろうとした俺だったが、腰を下ろそうとした時に覚えのある悪寒に襲われ、素早く目前の卓に手をついて逆立ちすると、右横へ飛んだ。それから間もなく後ろの方からボスン、という音と「むぎゅ」という声が続けて聞こえて来た。振り返ってみると、顔をソファの底面に埋め、黒いパンツを丸出しにしている黒歌の姿があった。
「コウタ酷いにゃあ。ここは分かってても抱き付かれるのが男の器量ってもんギニャン!」
「黒歌さん。我が主の前でそのようなはしたない姿を晒し続けるのは赦しません」
「うぅ、なんか痴女みたいな扱いにゃん。私が自分の意志でパンツ見せるのはコウタだけよ?そこ、勘違いしないでよね。(...勝負パンツじゃなくてよかったにゃ)」
「分かった。分かったからもう大人しくしててくれ。話が進まない」
このままじゃ俺までグレイフィアさんからオシオキされかねない。一応黒歌の保護者は俺ということになっているので、当然彼女の態度が悪ければ俺が怒られる羽目になる。さっきは黒歌だけがモップの持ち手で生尻を叩かれていたが、今度は俺までもが叩かれかねない。生尻を。
と、ここで何故かサーゼクスが大声で笑い出し、腹を抱えて握り拳を卓にぶつける。辞書通りの抱腹絶倒だ。しかし、こんなに笑っている彼を見るのは久しぶりかもしれない。そうやって一頻り笑い終えたあと、目元を拭いながら話を切り出した。
「いや、こんなに笑ったのは久しぶりだ。やっぱり皆といると楽しいな」
「はぁ...楽しまれるのは結構ですが、これ以上は」
「うん。分かったよ」
ここで、サーゼクスの雰囲気が変わる。俺は真顔になると、さきほど座ろうとしていたソファへ腰を下ろす。それまでふざけていた黒歌も口を噤み、俺の隣のソファへ大人しく腰掛けた。それを見たサーゼクスは一つ頷き、『先ずは』という前置きを挟んだ。
「コウタ君。十五歳の誕生日おめでとう。少し遅くなっちゃったけどね」
「いや、ここまで無事に生きてこられたのはここに居るみんなのお蔭だ」
「ふふ、どういたしまして。それでね、僕としてはバースデープレゼントの名目で、一つの提案を持ってきたんだ」
「提案?」
俺は首を捻る。プレゼントと言うと何か形に残るものが優先的に思い浮かぶが、どうやらサーゼクスが贈ろうとしているのはそういったものではないようだ。試しに背後に控えるグレイフィアさんへ視線を投げてみるが、彼女にも伝え聞かされていないらしく、目を閉じて首を横に振る仕草を見せた。そして答えを知れぬまま、サーゼクスは再び笑顔になると、ソファに背中を預けながら種明かしをした。
「ハイスクールに、通う気はないか?」
「ハイ、スクール...?って、高校だよな」
そこに通う。つまり学校生活を謳歌しろと言う話なのか。まぁ、それなりの学はあるつもりだが、冥界の学校で習う内容と人間界で習う内容は恐らく決定的に違う。特に文系科目。歴史や地理は確実に元ある知識が役に立たない。さて、どうするか...
「ああそうそう。勘違いしてるかもしれないから一応言っておくけど、通うのは冥界の学校じゃなく人間界の学校だからね」
「えっ」
「ふふ、勘違いしてた顔してるにゃん。コウタ」
「か、勘違いしてた...」
人間界?でも人間界の学校に行くって不味いんじゃ……いやいや、何も不味くはない。俺は今のところ人生の大半を冥界で消化してはいるが、根っこは純正のヒューマン、人間だ。実は何かの混血...というオチではないと信じたいが。となれば、決して不可能という訳ではない。そも、本来なら俺はそちらに行くことこそが正常の生活なのだ。
しかし、前世の俺が渇望し、現在こうやって手に入れることができた『異常』な普通の毎日。それを手放すには、最早こちら側を知り過ぎてしまった今、既に手遅れと言える。それでも、もし冥界と縁を切って暮らせというのなら──────
「ごめんごめん、そんなに思いつめなくていいよ。君のことだ、人間界の学校へ通えという事は、僕たち...ひいては冥界との接点をこれ以上持つな、ということと同義だと考えたんだろう?」
「あ、ああ」
「違うんだ。君にはしっかりとした場で相応の知識を身に着けて貰いたいと思っていて、それには人間界の学校が適しているんだ。だから、そこには僕の妹も通っている」
「サーゼクスの妹...リアス・グレモリーか」
「そう。それにね、君に勧めた学校、駒王学園はリアスの他にもシトリー家次期当主のソーナ・シトリーまでいる。...ここまで言えば、もう分かるだろう?」
なるほど、駒王学園は悪魔と深い関わりがある、ということか。だから、俺の危惧しているようなことは一切ないと。しかしまぁ、サーゼクスのことだ。リアス・グレモリーの傘下に加わり、あわよくば転生悪魔になることを少し期待してはいるのだろう。その期待には応えられそうもないが。
それら全ての思惑やしがらみ全部ひっくるめて考えても、ハイスクールに通うという魅力は輝きを失わなかった。
「分かった。そのプレゼント、ありがたく頂戴することにするよ」
「ふふ、君ならそう言ってくれると思っていたよ。早速手配するから、準備はしておいてくれ」
愉快そうに笑うサーゼクスだが、彼の背後から飛んできた温度の低い声にぴしりと表情筋が凍り付く。冷気を放っているのは言うまでもなくグレイフィアさんであり、彼女がこうなってしまう理由も良く分かる。いくらサプライズプレゼントとはいえ、流石に側近ともいえる彼女には事前に話しておくべきだったろう。口も固そうだし。
「全く、本当に貴方は勝手ですね。...ですが、ツユリ様をハイスクールへ通わせることに異論はありません」
「そ、そうかい。いや、やはりサプライズというと鮮度が大事だろう?確かに時間的にも結構急にはなるけど、無理な話ではないと思うんだ」
「分かっています。ですが、発案者である以上、協力はして貰いますよ」
「ああ」
どうやら、話はまとまったらしい。さて、そうとなったら人間界に移り住む準備を始めねば。流石にグレモリー邸から毎日通うというのは無理なので、貸家を検討しなければならない。予算はどれぐらいが限度だろう。と、そんなことを考えていたとき、それまでだんまりを決め込んでいた黒歌が机を叩きながら立ち上がった。
「あの!ハイスクール、私もコウタと一緒に通わせてください!」
『────────』
黒歌の眼は真剣だった。いつものふざけた態度は完全に鳴りを潜め、着物の裾が溢れた気で揺らめくほどの圧を迸らせる。隣にいる俺でも脳内アラート鳴りっぱなしなことから、常人がこれに正面から当てられれば気を失うか、泣きながら要求を受け入れるだろう。だからこそ、サーゼクスとグレイフィアさんは厳しい顔を作りながら口を開く。
「言い方は悪いですが、貴女は罪人なのです。世間では傷ついていた所を私たちが捕縛し、そのまま殺害してしまった、ということにしてあります。そんな貴女がグレモリー、シトリー両家の次期当主が在籍する学校へ通うのはあまりにも危険です」
「で、でも...名前とか姿を変えれば!」
その反論に対して答えたのはサーゼクスだ。さりげなくグレイフィアさんを庇いながら前に立っている辺り、彼の男らしさが伺える。
「そういう問題じゃない。君個人が学校に通うという願望は、僕達にとって悪い結果を生む可能性を高める行為にしかなりえないんだよ。いいや、君にとっても酷く部の悪い賭けになるな。...もし、もしも世間に君が『あの黒歌』だということが露見してしまえば、グレモリーの面目は潰れ、君は再び追われる身となる。前科がある以上、僕らは一切手出しできない。寧ろ追う側を支援することになるだろう。───無論コウタ君とも一生離れ離れだ」
「ッ」
サーゼクスの現実を突きつける容赦の無い言は、熱くなった黒歌の思考回路を冷ますには十分な威力だった。もし目先の利益だけを求めてしまっていたら、きっと『あの時』より酷い未来が待ち受けていたに違いない。それを回避できたのだ。俺は正面から向き合ってくれたグレイフィアさんとサーゼクスへ感謝の気持ちを露わにする。それを受け、二人は一転して相好を崩し、黒歌に優しい目を向けた。
「最初はどうなるかと思っていましたが、この一か月間、彼女の素行に全く問題はありませんでした。今では抵抗なく信頼できると答えられます。服装以外は」
「まぁ、僕はグレイフィアの報告でしか彼女の存在は把握できなかったけど、君がこの部屋へ来る前に話してみたら凄く良い子で安心したよ。君さえ傍に居続けてくれれば問題はないだろうね。服装以外は」
「??コウタ、私の服装ってそんなにおかしい?」
おかしいかおかしくないかで言えば、おかしい。それも面と向かって断言できるほど。だって着物着てるくせして肩が見えるほど襟を緩め、チャイナドレスかよとツッコミたくなるくらい生足を露出しているのだ。着物は白いから妖艶さがある程度緩和されているものの、毎度毎度引っ付かれる俺にとっては誘われていると思っても仕方ない。しかし当人がこれでは邪気など抜けるし気分も萎えるというものだ。
(学校には通わせられないけど、駒王学園の制服を黒歌の分も頼もうかな)
疑問符を浮かべながら襟やら袖やらを不用意にピラピラし何かをぽよぽよさせ、余計肌色成分を増やしてくる黒猫に内心本気で危機感を覚えた俺は、そんなことを割と真剣に考え始めた。
黒歌の服装に関して、原作の彼女は意図的にあんな風な感じで着崩していますが、今作では無意識です。かっちり切るのが嫌な人なんです。相手の性的興奮を促している訳ではないんです(ココ重要)!
別に作者が痴女を嫌いなわけではありませんが、原作でああだと、黒歌にはあえて純粋なままでいて貰おうかなと...