前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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三巻の内容へ本格的に突入。


Excalibur.
File/26.復讐、その理由


「ふあぁ.....チクショウ、ちと水分摂りすぎたかな」

 

 

 深夜。睡眠中の俺を叩き起こすように尿意が下腹部で暴れまわったので、仕方なく欠伸を噛み殺して温いベッド這い出てきた。面倒だけど、こればかりはほっとけないからな...

 目的地への移動中は半分以上寝ているような状態だったが、事を為し終えたあとは幾分か睡魔が飛んだため、リビングへ続く扉から光が漏れていることに気付けた。勿論気になったので、少し開けて覗いて見ることにする。

 

 

「あれ...部長?」

 

 

 部屋にいたのは我らがオカルト研究部の部長、リアス・グレモリーだ。部長は何やらテレビの前にしゃがみ込んでゴソゴソやっている。

 俺が漏らした疑問の声は、寝ぼけていたこともあり思い切り口に出てしまっていたらしく、部長はこっちを向くと少し驚いた顔をした。

 

 

「イッセー?どうしたのこんな時間に」

「ぶ、部長こそどうしたんですか?...って、なんかテレビに変な魔方陣が」

「ああ、少しグレイフィアとお話をしようと思って」

「グレイフィア?....ああ、部長の家にいるメイドさんですか」

 

 

 でも、また何でこのタイミングで?眠気覚ましの為に水を一杯飲みながら、俺はそう思った。...あれ。そういや水飲んだらさっき出した意味なくね?まぁいいか。

 リビングに戻ったついでに聞いてみたところ、部長はちょっと苦い顔をしながら答えた。

 

 

「コウタが何かウチの事で隠してるみたいなのよ。本当はお兄様に直接聞きたかったんだけれど、連絡したらやっぱり魔王職で大変だってグレイフィアに言われちゃって。でも、代わりにその話は自分が聞くってテレビ電話の許可を貰ったの。午後は忙しくてだめだけど、深夜ならいいって言ってたから、こうやってその準備をしてるのよ」

 

 

 なるほど、そういう経緯が...って、コウタが何か隠し事?しかも部長のお家の問題だって...?

 なにか複雑な事情なのかな?だとすると、正直俺がここに居ていいのか怖くなって来るんだけど...部長本人から特に言われないし、追い出されない限りは見ておくか。

 そう決めた瞬間、魔方陣が輝きだしてかと思ったらテレビの電源が勝手につき、暫く間が空いた後に見覚えのある綺麗な銀髪メイドさんが映った。

 

 

「夜分遅くにごめんなさい、グレイフィア。どうしても聞きたいことがあるの」

『それは分かっています。話の内容によっては、サーゼクス様へ伝えるようにしましょう。.....あら?貴方は兵藤一誠様ですね。レーティングゲームでの健闘は見事でした。サーゼクス様も大層称賛していましたよ』

「きょ、恐縮です!」

 

 

 ま、魔王様直々に称賛のお言葉を頂いていたとは...!それほどライザーとの戦いに勝ったのは凄いってことなのか。いやでも、あれは色んな偶然が重なった結果だからなぁ。何か少しでも違ってたら恐らく負けてたはずだ。

 と、そんなことを話していたら、隣の部長から大きな咳払いが放たれた。

 

 

「んんっ!内容を戻していいですか?」

『すみません。その前に一応確認させて欲しいのですが、お話をするにあたって兵藤一誠様を同席させてもよろしいのですか?』

「構わないわ」

 

 

 部長からお許しが出た!よかった追い出されなくて...もしかしたらって結構緊張してたんだよな。

 ひとまず安心して、伸ばしきっていた背筋を戻した後に深呼吸をする。それとほぼ同時に、部長の口から本題が語られ始めた。

 

 

栗花落(つゆり)功太...この()()の名前に心当たりはある?」

 

 

 グレイフィアさんにコウタの名前を聞いた?でも、ライザーとの顔合わせの時も、レーティングゲーム直前の時もコウタはいなかったから知らないんじゃ?そもそも部長の下僕じゃないんだし...と、高を括っていたところ、グレイフィアさんは薄く笑みを浮かばせて答えた。

 

 

『よく存じてますよ』

 

「?!」

 

 

 部長にとってこの返答は予想外だったらしく、息を呑む雰囲気が俺の方まで伝わって来た。かくいう俺も驚いている。た、確かに一度も会ってない筈なのに、どうしてだ?しかも、よく存じてるって言ってるし!

 乱れた心中を整えた部長は、両目を閉じながら顎に手を当てて再度口を開く。

 

 

「まさか、グレモリー家と関係ある?」

『ええ。何せ、三年以上暮らしていましたから。ちょうどお嬢様が人間界のハイスクールへ通う事を決め、眷属探しも兼ねて家を出た直後からでしたね』

「な...コウタがグレモリー家に三年?!お母様やお父様は許してくださったの!?」

『そうでなければ、三年もいられないでしょう』

 

 

 グレイフィアさんの言葉で部長は呆然とし、二の句が継げなくなってしまった。それは、自分の家へ知らないうちに誰かが住んでいたなんて衝撃的なニュース過ぎるはず。

 俺は意を決して、グレイフィアさんに非難へ近い発言をする。

 

 

「あ、あの、何で部長にコウタの事を言わなかったんですか?」

『それは、彼自身がお嬢様へお話しして下さるだろうと思っていたからです。...ですが、改めて思うと、これはとても彼一人で説明し、納得を得られる内容ではないですね』

 

 

 グレイフィアさんは申し訳なさそうな表情になると、画面越しに部長へ深く頭を下げた。部長は多少言い淀んだが、「ええ、大丈夫よ」と短く返事をするにとどめた。

 当の俺は、コウタが一体どんな経緯で部長のお家に住むことになったのか気になり始めていた。アイツは人間だし、どうやって冥界へ渡ったのかとかも含めて凄く知りたい。

 

 

『栗花落功太様のことは、次に此方へ来られた時、私とサーゼクス様で詳しく説明するとお約束します。なので、どうか彼を責めないで下さいますよう。お嬢様の通うハイスクールへの入学も、サーゼクス様が御好意で薦めた件なのです』

「......分かったわ。私が『知った』ということを、その時まで話さないようにするわ。それでいい?」

『はい。...兵藤一誠様も、お願いしてよろしいでしょうか?』

 

 

 急に話を振られて背筋が伸びつつも、俺はグレイフィアさんの言うところの意味を理解し、強く頷いた。

 

 

「今日の事をコウタに言わなければいいんですね。任せて下さい!」

『お願いします。....では』

 

 

 それを最後にテレビの電源は切れ、光っていた魔方陣も消えた。どうやら無事にお話が終わったらしい。

 それにしても驚きっぱなしだった。まさかコウタにそんな過去があったなんて...。一方の部長は俺以上に驚いたんだろうが、そんなことを感じさせないほどスッキリとした表情で伸びをしながら立ち上がる。

 

 

「はぁ、何だか疲れたわ。...全く、こういう重要なことは事前に伝えておくべきよね」

「ははは、でも家のことはちょっと言い辛いですよ」

「ふふ、それもそうね」

 

 気にかけていたことが無くなったからだろうか。部長は今日の夜より元気になっていた。良かった。うん、やっぱり部長に似合うのは笑顔だぜ!

 部長のスマイルでテンションがうなぎ上りになっていたが、部屋にある壁掛け時計に目を移すと午前に三時を過ぎていた。これはやばい!明日球技大会なんだから万全の状態にしておかないと!

 何とか自分を御し、冷静になろうと試みていたところを...突如、極上に柔らかい感触が自分の右腕を包み込む。一体どういう事なのかと視線を向けてみれば、俺の腕を抱きながらさっき以上の笑顔を浮かべる部長が...!

 

 

「イッセー、今日は一緒に寝てもいい?」

「全然大丈夫です!はい!」

 

 

 一切の迷いなく答えたものの、これは寝不足が確定であると宣言せざるを得なくなった。否、それでも部長の抱き枕役を出来る事と比べたら...寝不足など吹き飛ばせる!

 

 しかし、部屋に戻ってすぐ部長が服を脱ぎ始めたことで、ほぼ全裸に近い姿じゃないと寝られないという彼女特有の癖を思い出し、目どころか別の部分もギンギンにしながらベッドで唸ることとなった。

 

 

          ****

 

 

 ─────球技大会当日。

 俺とイッセーは精神的に疲れ切っていた。

 

 

「はぁ、何で種目がドッジボールなんだ....」

「ホントだよなぁ...」

 

 

 イッセーのげんなりした呟きに同調し、俺はスポーツドリンクを飲みながら試合の様子を思い起こす。が、浮かび上がったのは、さんざん聞かされたために耳に憑いて離れない、とある怒号だった。

 

 

『あの二人を狙えェー!!』

 

「....」

 

 

 背筋がぞくっとする。つい先ほどまで閉じ込められていた、爛々と目を輝かせる幾つもの猛禽がいた鳥籠の中を鮮明に思い出してしまったからだ。隣のイッセーも顔を青くさせている。

 なぜ俺とイッセーのみが集中的に狙われる構図が出来たのか?それは至って単純だ。グレモリー先輩と姫島先輩は学園の二大お姉さま、アーシアは既に話題となりつつある儚げな金髪少女、小猫ちゃんは学園のマスコット的存在、木場は女子生徒に熱狂的なファンが大勢ついている。...この中の誰に当てても、そいつの学園生活はお先真っ暗になるだろう。ということで、集中的に狙われたのは、無論何のバックがない俺たちである。さらに生徒全員の憧れの的である彼女らの近くにいるという嫉妬心も合わさり、最早スポーツマンシップなど死体蹴り状態であった。

 俺は仮に五方向から同時にボールが飛んできても余裕で捌けるが、いかんせん迫力が段違いだった。

 毎度毎度飛来してくる黄色い球体には濃厚な負の感情が込められており、それが回を重ねるごとに増大していくのだ。避けるときに足へ何か絡みついているような錯覚がしたのは一度や二度じゃ効かない。

 

 

「なぁ、イッセー」

「んー?」

「ああいう学校行事じゃ、俺たち毎回こんな扱いされんのかな」

「......ははは、そうだろうなぁ」

 

 

 知りたくなかった、そんな事実。

 来年の球技大会では、ちゃんと覚悟してから望む事にしよう。でないと精神が持たない。

 俺とイッセーは、そう深く心に刻みつけたのだった。

 

 

          ****

 

 

 球技大会は無事終わった。だが、終始鎌首を擡げたままだった木場の態度は別だ。

 彼は大会中もずっと上の空で、二度声を掛けなければ返答が来ないのは当たり前、歩いている途中に誰かとぶつかったりする場面も多々あった。最早、誰の目から見ても、異常は明らかだ。

 

 

「聖剣計画...ですか」

「木場が、それに?」

 

 

 気になった俺は、グレモリー先輩に彼の経歴を話してくれないかと聞いてみた。彼女は少し渋ったが、イッセーやアーシアも交えて話すということで、現在はイッセー宅で机を囲んで聞いている。

 

 木場は、過去エクスカリバーへの適正を人為的に発生させる試験に選ばれていた。そして、彼の他にも被験者がおり、一様に施設での生活を余儀なくされていたという。

 しかし、誰にも適性を確認できなかったため計画は頓挫し、用済みとなった被験者たちは不良品のレッテルを貼られた上、殺されたのだ。

 彼はその中にいた、ただ一人の生存者らしい。

 

 

「そんな....ひどい」

 

 

 アーシアはグレモリー先輩の話しを聞いてショックを隠せないようだ。全員が神からの救済を信じ続けたのにも関わらずこうなったのだから、悲しむのは無理ないか。

 

 ─────木場の人生を完膚なきまでに崩壊させた聖剣...エクスカリバー。

 

 イッセーが木場自身から聞いた話によると、どうやら彼の見せた写真の中に、偶然聖剣が映っていたらしい。流石にエクスカリバー程では無いにせよ、それは木場が今まで隠伏していた巨大な憎しみを掘り起こしてしまうには十分だった。

 俺は胸の前で腕を組みながら、眉を顰める。...恐らく、今じゃ俺たちの手に負えない。

 

 

「何とかしてやりたい気もするが、こればかりは先輩個人の問題だな」

「なっ...アイツをあのまま放っとくつもりかよ?」

「そうとは言ってない。ただ、俺たちの中でエクスカリバーの詳しい所在を知ってる人物はいないし、そもそも情報が少なすぎる。いや、それ以前に協力はあいつ自身望んでいないはずだ。憎悪って感情は、自分の手で解消しないと復讐にならないからな」

「....現状で、私たちが介入する余地はないわね」

「復讐なんて、そんな...」

 

 

 グレモリー先輩は視線を逸らしながら膝上に置いた両手を握り締め、アーシアは口元を覆って悲哀に目を伏せる。

 ...イッセーが非難した通り、木場を放っておくことは出来ない。このまま精神の天秤が揺らぎ続ければ、やがて根幹となっている心の均衡を保てなくなって自我が崩壊するだろう。もしそうなってしまえば最後、木場は木場じゃなくなる。

 だからといって、俺たちが聖剣を見つけ出して壊すのでは意味が無い。木場がいままで生きて来たのは、きっと聖剣計画に関わった者を全員殺害し、エクスカリバーを己の手で破壊する為だろうから。

 

 

(どこの世界も、利用する奴と、利用される奴の分別が必要なのか。...仮にも神が存在してるってのに、残酷なことしやがる)

 

 

 俺が知るエクスカリバーとは、神秘の結晶。人々の願いが形を得た幻想。星が精製した、常勝の王が携えるべき剣。...つまり、只の人間が扱おうと考えるなど、提灯に釣り鐘と知るべき、あまりにも愚かな行為だ。

 この世界のエクスカリバーがどのようなものなのかは知らないが、使い手の身体を弄る必要があるのなら、確実に人にとって分不相応な代物だろう。それにも関わらず、なぜ非人道的な手段を用いてまで、他人の希望を踏み躙り、力に固執するのか。

 

 俺は知らずに奥歯を噛み締めていた。

 




神秘って、身近にあるとある意味怖いですよね。

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