前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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レーティングゲーム回、ついに後半突入です。
そして前回同様、引き続き地の分の視点はイッセーとなってます。
今回のタイトル Resolution は『決意、誓い』という意味です。


File/23.Rating Game -Resolution-

 校舎内を駆ける途中で足を止め、窓に目を向けながら歯を噛み締める。

 視界に入った運動場では、依然木場と小猫ちゃんが敵の眷属たちから猛攻を喰らっている。やはり、自分があの場に残った方が良かったのではないだろうか...?

 そんな後悔が脳裏を埋め尽くす中、コウタからレーティングゲームの講義中にこっぴどく言われた、とある言葉がよぎった。

 

 

『キングを最優先で守れ。例え他の誰が危機的状況でも、王様がやられちゃ問答無用で負けるからな。分かったか?イッセー』

 

 

 ...ああ、ちくしょう!分かってるさ、それがどうしようもないくらい正しいって事は!

 

 そう。コウタは何も間違った事を言ってない。理に適っている。...でも、やはりどこか気に入らない。

 自分が上級悪魔に...キングになったら、絶対誰も傷つけはしないし、見捨てもしないのに。

 

 

「そこまでやってこそ、真のハーレム王だ....!」

 

 

 俺は右手から一定の間隔で聞こえてくる強化の音声に耳を傾けながら、屋上へ続く階下の階段に足をかけた。

 その時、驚愕のアナウンスが校内に響き渡る。

 

 

『リアス・グレモリー様の女王、戦闘不能』

 

「な...に?朱乃さんが、だって?」

 

 

 有り得ない。あの人は俺たちの...グレモリー眷属の中でもトップの火力と戦闘知識を兼ね備えてるんだぞ?!

 まさか、敵の女王が朱乃さんより────────

 

 

「クソッ!!んなわけ...!」

 

 

 止まっていた足を動かし、屋上の扉を睨みつけて踏み出す。

 急がないと不味い。もし朱乃さんが本当に倒されてしまったのだとしたら、ユーベルーナの攻撃対象は間違いなく木場と小猫ちゃんへ移る。

 もしレイヴェルたちと合流してしまえば、戦況はさらに悪化するはず。そうなったらもう...

 

 

「させねぇ!俺を信じてここまで連れてってくれた二人の目の前で、ライザーの野郎をぶっ飛ばすんだ!!」

 

 

 決意で奮い立ちながらも、周りを見れる程には理性が残る。実にベストなコンディションとなった。

 勢いそのままに足で扉を蹴破ると、そこには身体のあちこちを裂傷や火傷で傷つけている満身創痍の部長と、その部長を後方で必死に治癒し続けるアーシアがいた。

 我慢ならずに飛び出し、ブーステッドギアの強化を維持させてからライザーへ拳を振りかざす。が、戦場に乾いた音を響かせて、俺の腕は奴の手のひらに阻まれた。

 

 

『イッセー(さん)!』

「はははは!来たか弱小赤龍帝。だが、もう手遅れだ!」

「うるせぇ!どんな状況だろうと部長がいる今なら、テメェを退場させりゃ俺たちの勝ちだろうが!」

「ほう、ならばやってみろ」

 

 

 拳は暫くライザーの手と拮抗していたが、一際強く力を込めると、その勢いでお互いに後退した。

 

 

「イッセー!駄目よ、貴方じゃライザーには勝てない!」

「イッセーさん!」

 

 

 俺の背中越しから部長とアーシアの悲痛な叫びが聞こえてくるが、ここは譲れない。このままでは部長が...俺たちのキングが倒れてしまうからだ。そうなれば、ゲームはライザーの勝利で終わる。

 俺は自分の頬をひっぱたき、気合を入れてから二人へ向かって言う。

 

 

「俺がここにいるのは、皆との約束を守るためです!俺が戦うのは、ライザーに勝つためです!...コウタにもう伝えてあるから!笑顔の部長を連れて帰るって!!」

「イッセー、貴方....分かったわ。存分に戦いなさい!アーシア、彼の回復(バックアップ)をお願い」

「は、はい!」

 

 

 部長は頷いてから下がり、アーシアが代わりに前へ...俺の近くまで歩いて来る。

 俺はアーシアへ無理しないよう釘を刺してから、笑みを浮かべているライザーに身体を向けた。

 

 

「覚悟はいいか?ライザー・フェニックス」

「フン、多少強くなったぐらいで粋がるなよ。兵藤一誠」

 

 

 その瞬間、いかにも挑発に乗ったようなタイミングで踏み込み、すかさず拳を打ち込む。

 弾くか、避けるか...どちらにせよ、ライザー戦の対策はしてあるのだ。

 アイツが油断している今こそ、畳み掛ける絶好のチャンス!

 

 

ガヅッ!!

 

「な....!?」

 

 

 俺は目を剥く。何故なら、フェントで放ったはずの拳を、ライザーは弾くことも避けることもせず、顔面で受け止めたからだ。

 動作を抑えるために手加減してるとは言っても、強化済みだからコンクリート塀に罅入るくらいの威力だぞ?!正気かコイツ──────ッ!

 

 

「ごはッ!」

「無駄なんだよ。お前のする行動、考えてる作戦の全てがなぁ!」

 

 

 驚愕している隙に頭を掴まれ、地面へ引き倒された。その勢いでアスファルトへ思い切り頭突きし、激痛が暴れまわる。

 ぐあぁぁぁ!!痛い痛い!凸が割れちまう!

 そのまま何度も額を地へ打ち付けられた俺は、脳味噌を激しく揺すられたお陰で意識が飛びかけた。

 ────────だが、

 

 

(ッ!!)

 

 

 耳が馬鹿になりかけていたが、確かに聞こえた。アーシアと、部長の声が!

 そうだ、この戦いには負けられない。もう、何かを奪われるのは沢山だ。...なら、ライザーに勝って終わらせる!!

 

 

「ぬぁぁぁぁッ!っ痛ぇんだよ焼き鳥野郎ォ!」

「ぐがっ!...チッ、石頭が。あれだけやってまだ元気だとはな」

 

 

 倒れた状態のまま無理矢理足を持ち上げ、ライザーの頭に蹴りを叩き込んだ。よし、まだ立てる。戦えるぞ!

 俺は握った手にドラゴンショットのエネルギーを溜め、顔を抑えながら後退した奴へ肉薄する。

 

 

「そらぁッ!」

 

ドゴォン!!

 

「ガフッ!...無駄だと言ったろう、お前の力では俺を倒せん」

 

 

 顔面を完璧に捉えたはずの右腕は、ヒットしたにも関わらず応えた様子のないライザーに掴まれていた。くっそ、キザな見た目してるくせしてタフだな!

 ライザーの手に炎が揺らめき始める。そして、奴はその手をがら空きとなった俺の腹へ向かって突き出した。

 

 

「我がフェニックスの業火に耐えられるか?赤龍帝!!.....?」

 

 

 口角を歪めながらそう言い放ったライザーだが、すぐに訝しげな表情に変わる。

 その原因は、俺の左腕も奴の腹に当てられていることだろう。はは、掴まえたのはコッチだぜ。焼き鳥野郎!

 

 

「テメェこそ、赤龍帝ナメんなッ!!」

 

 

 炎が集束する前に、今さっき用意しておいたドラゴンショットをぶっ放す。

 今度は手加減する余裕が無かったので、かなり威力は高めだ。だからこそ、不死身であるライザー相手にはピッタリの出力!

 

 

「はぁ、はぁ...へへ。これで、どうだ」

 

 

 ゼロ距離で直撃したんだ。少しくらいは弱ってくれるはず────────

 

 

「イッセー!ライザーはまだ...!」

「え?...ゴブッ!」

 

 

 部長の声に振り向こうとした瞬間、謎の衝撃とともに全身が灼熱に包まれた。

 

 

「が、あああぁぁぁぁ!」

「はっはっは!いや正直舐めていたよ、すまんな兵藤一誠!まさかここまで実力を上げていたとは。...なら、俺も全力でお前を潰しにかかろう」

「ぐふっ!?」

 

 

 全身を焼いた炎には何とか耐えたが、腹を蹴られた衝撃で意識が完璧に飛んだ。が、屋上の地面へ叩き付けられたショックで辛うじて我を取り戻した。やべぇ、あと少しでも遅かったら完全に脱落だったな俺。危なかった!

 でも、もうヤバい。頭ン中がぐちゃぐちゃだ。足も震えまくってやがる。情けねぇ....

 

 

「イッセーさんッ!大丈夫ですか?!」

「が...ぁ..う、アーシア...すまねぇ」

「くっ、ライザー!貴方!」

「おうおう、可愛い下僕がボロボロになるのは嫌か?嫌だろうなぁ....なら、投降(リザイン)するんだ」

「誰が、してやるもんですかッ!!」

「ぐあっ!...顔に当てるなんて、ヒデェことするじゃねぇのリアス」

 

 

 駄目だ。部長の滅びの魔法でも、傷口に炎が走った途端にきれいさっぱり無くなりやがる。チクショウ、こんなん反則だろ...!

 

 

『リアス・グレモリー様の騎士、戦闘不能』

 

「は......?」

 

 

 ただでさえ絶望的な状況の中に無情なアナウンスが入り、俺たちは愕然とする。う、そだろ?木場が...間違いだって言ってくれ、グレイフィアさん!

 しかし、恐る恐る運動場に向けた視界では、その事実を証明するような爆発音が幾つも響き渡っていた。まさか!

 

 一際大きな爆発が起こった後、それは告げられる。

 

 

『リアス・グレモリー様の戦車、戦闘不能』

 

 

 木場に続き、小猫ちゃんまで脱落。残ったのは、俺とアーシア、部長の三人だけ。

 ライザーにはまだ眷属が沢山残っている。誰がどう見ても、この戦いの先に待つのは部長が負ける事実だと認めざるを得ない。

 

 

「はっ....冗談、だろ」

 

 

 否。それでも俺はまだ諦めない。

 まだ、後ろに部長がいるんだ!木場も小猫ちゃんも、絶対ゲームを諦めてないはずだろ!

 

 

「アーシア、下がっててくれ。今度こそアイツをぶっ飛ばしてくる」

「っ、でもイッセーさん!私、これ以上イッセーさんが傷つくところ、見たくないです...!」

「ははは!馬鹿か赤龍帝?グレモリー側の負けは決まったんだよ。残っている君の眷属は、ここに映る僧侶と兵士の二人だけだ。...さぁ、もう十分だろう?投降してくれ、リアス」

「っ!わ、私は」

 

 

 部長が何かを言う前に、俺は無理矢理身体を立たせて突っ込んだ。

 このタイミングで来るのは想定外だったらしく、ライザーが思わず迎撃のために放った半端な拳を紙一重で避け、その手を掴むと、もう片方の伸ばした腕を奴の首もとへ思い切りぶつける。そして同時に足を払い、引っ張った勢いそのままに地面へ倒す。

 

 

『不死だが、痛みは消せない。なら、外傷とか内部の損傷を抜きにして、痛みに特化した攻撃法...武術をお前に授けよう。────こういう台詞って、一生に一度は言ってみたかったんだよな!』

 

 

 後頭部へ自分の全体重を叩き付けられたライザーは、文字通りのたうち回る。

 俺はそんなライザーへ馬乗りになり、拳を握りながら見下ろした。

 

 

「テッメ、ぇ...!」

「不死だってんなら、お前が白旗揚げるまでムチャクチャ痛いモンを喰らわせる!...水月ってたしかここだっけか」

ドゴッ!

 

「ガッフッ!?...ぐぅ、舐めるなァ!!」

 

 

 再び炎を纏ったライザー。その熱は俺の身体を焼き、凄まじい痛みがやがて全身へ回る。

 それに、耐える。ただ、耐えるだけ。

 フェニックスの業火に焼かれながらも自分の上から転げ落ちず、闘志さえ衰える兆しのない俺を見て驚愕の表情をするライザー。あっちぃ!あっちぃけど、まだ行ける!

 

 

「馬鹿な!何故...ガハッ!?ごあっ!俺の焔に耐えていられる?!」

 

 

 以前コウタから教えられた、『殴られると凄く痛い所』を集中的に狙い、燃え盛る自分を無視して拳を振り続ける。

 ぐ、まだ...終われない!コイツを道連れにしてでも、俺は!

 

 

ドガアァァン!!

 

「あ.....?」

 

 しかし、気付くと俺は仰向けに倒れていた。脳内に叩き付けられる感覚は全て痛みと化しており、満足に声が出せれば十中八九悲鳴を上げていたろう。

 アーシアの治癒が効いてきたのか、痛みが和らいでくる。そして、回復しつつある視界にはライザーの女王が映った。恐らく、アイツが俺を吹き飛ばしたんだろう。

 

 

「ふぅ....さて、リアス。いいかげん投降する気になったか?」

「く...」

「もうそろそろ終わりにしようぜ。じゃねぇと、ユーベルーナがそこで寝てる赤龍帝を、今度は僧侶もろとも爆発させちまうかもしれねぇぞ?ハハハハハ!!」

「黙りなさい!」

「そこまでですリアス・グレモリー。それ以上動けば、さしもの私も黙っていませんよ?」

 

 

 ユーベルーナの牽制が入るが、どちらにせよ先輩の放つ滅びの魔法じゃライザーに傷はつけられない。やっぱり、ここは俺が出ないと...!

 そう思い、試しに足へ力を入れてみたが...想像以上に消耗が激しく、とても立ち上がれる状態ではなかった。

 そして、戦場へ向かう俺の意思を否定するものはもうひとつ。

 

 

「これ以上は駄目です。イッセーさん」

「何、でだ」

「私の神器では疲労まで治すことが出来ないからです。今のイッセーさんは精神的にも、肉体的にも限界なはず...だから」

「だから、諦めるのか?嫌がる部長をライザーに渡すのかよ」

「それ、でも...」

「間違ってる!そんなのは...絶対に、許さねぇ」

 

 

 俺は再度立ち上がり、強化が解けてしまったブーステッド・ギアを今一度起動させる。

 今度こそは、アイツの鼻っ柱をへし折って...っぐぅ?!

 

 

「ゴホッ!....あ?」

 

 

 体内で何かが悲鳴を上げ、俺はそれに耐えきれず膝を追って咳き込んだ。...思わず口元を押さえた手のひらは、真っ赤に染まっている。

 なるほど、な。籠手の効果が切れたのは、もう俺の身体が限界だったからか。

 

 

「イッセー!?」

「イッセーさんっ!」

 

 

 部長とアーシアが血相を変えて近寄ってくる。ああちくしょう。こんなときまで心配かけるたぁ、部長の下僕失格だ。

 こんなんじゃ...もう、強くはなれない....

 

 

『おいおい相棒。あともうちっとなんだから気張れ』

 

 

 な、んだ?今、籠手から声が....

 ボコられ過ぎて気でもやっちまったのか?にしてはかなりハッキリしてたような...

 

 

『何言ってやがる。正真正銘お前は正気で、俺の声は籠手から届いている。ま、取り敢えず詳しい説明は後だ』

 

 

 お、おい待てよ!一番大事な部分が抜けてるっつの!お前は何処の誰なんだよ?!何で俺に協力する!

 

 

『フン、その問い掛けに対して俺からお前に答えられることはこれだけだ。──────絶対に負けるな。地を這い蹲る惨めさなら既に十二分味わったろう?そろそろ手から落ちた武器を取れ』

 

 

 それを最後に言葉は途切れる。....わ、訳が分からん。

 だが、アイツに言われた通り負けたくはない。絶対にだ。膝は笑ってるし、視界は霞んでいるしで散々だが、まだ拳は握れる。

 

 

「うおぉぉぉぉっ!まだ、まだだぁッ!」

 

 

 俺の叫びに答えるかのように籠手の宝玉が光り輝く。

 アーシアが止める前に、俺は執念という名の力で足へ芯を入れ、前へ歩み出る。

 

 

「  !?    !」

 

 

 ライザーがボロボロの俺を見て、笑いながら何かを言っている。

 ────────勝てない。絶対に勝てない。こんな、歩くのがやっとな状態では。

 

 

(だから、どうした!!)

 

 

 なら、何度倒されようと立ち上がるまでだ。そのためなら、身体が裂けるような苦痛だって耐えきってみせる。

 朱乃さんや木場、小猫ちゃんが部長を守れなかった分、俺がその意思を全部背負ってやるんだッ!!

 

 

『よく言った!その覚悟で十分だぜ相棒!!』

 

 

 再びあの声が聞こえたと同時、左手に異変が起きた。

 籠手が変形し、宝玉がもうひとつ腕に出現したのだ。

 

 

「なっ、これは...?」

 

 

 呆然としたのも束の間、白濁していた五感に、霞がかっていた意思に...再び強い焔が灯る。

 行ける。そう確信した俺の足は、さきほどまでとは違い力強く地面を踏みしめた。

 

 

『────────さぁ、反撃と行こうか。現・赤龍帝、兵藤一誠よ』

 

 




Q. 赤龍帝からの贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)は使えるのか?
A. 勿論使えます。原作と違って今回は使用されませんが...

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