前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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 前話は殆どが小猫ちゃん視点でしたが、この話はイッセー視点で話しが進みます。
 ちなみに、タイトルのMiddleは『中間、中盤』という意味です。


File/22.Rating Game -Middle-

 木場が奮闘してくれたおかげで、ライザー側の兵士(ポーン)が更に三人沈められた。すげぇけど、イケメンスマイル込みで言われたらなんかムカついてきたぜ。

 現在は俺と木場と小猫ちゃんで、運動場の様子を用具倉庫の裏に隠れながら伺っている。なにせ。そこには騎士(ナイト)戦車(ルーク)僧侶(ビショップ)が一人ずついるという厳重っぷりだからだ。向こうにも作戦があるのかもしれないし、簡単に出て行けばやられる可能性は高い。

 だが....

 

 

「私はライザー様に使える騎士カーラマイン!最早腹の探り合いになど飽きた!さぁ出てきて私と戦え!」

 

 

 その声は、運動場のど真ん中に立っていた鎧の女性が発したものだった。俺と小猫ちゃんは思わず呆然としてしまったが、隣にいた木場は何故か笑みを浮かべると、立ち上がって倉庫裏から出て行ってしまう。あ、アイツ馬鹿か?!

 

 

「おい木場、止まれって!ばれちまうぞ!」

「ははは、あれだけ見事な名乗りをされちゃうと、敵役である僕としても無視できないよ。...戦う前から心で負けないように、しっかり名乗ってくる」

 

 

 そう言って背を向け、悠然と運動場へ向かって歩いていく木場は、悔しいけどかっこよかった。チクショウ、俺も負けてらんねぇ!

 後ろに控えていた小猫ちゃんも木場の覚悟に共感したようで、俺の目配せに頷いてくれた。

 

 

「僕はリアス・グレモリーの騎士、木場佑斗」

「俺は兵士の兵藤一誠だ!」

「戦車、塔城小猫」

 

 

 姿を現した俺たちを見たカーラマインは、心底楽しそうな表情で笑みを深めた。こ、この状況下で笑うか。

 

 

「面白い。私の心意気に応えてくれる者がグレモリー眷属に存在したとは...」

「僕としても、回りくどい方法じゃなく真正面から戦うってのは性分に合っててね。君とはいい剣戟が出来そうだ」

「ふはは、よく言ったグレモリーの騎士よ!」

 

 

 何だかあっちはあっちで勝手にヒートアップしてるな。ってか、木場が凄い好戦的な表情してやがる!初めて見るな。コイツのこんな顔。

 二人とも手に剣を握り、同時に駆け出す。だが、それからはすぐに目にも留まらぬ速さで斬り合い、俺の目では捉えきれなくなってしまった。うわ、やっぱりコウタの言ってた『騎士とは絶対戦うな』って忠告は合ってたみたいだ。俺じゃもうとっくに退場してるよ....

 と、見えない二人の戦いを観戦していると、隣にいた小猫ちゃんが俺の服を引っ張ってきた。...ああ、敵がいるのね。

 

 

「ふむ、見ているだけではつまらないだろう?一人で来るか?それとも二人か?」

 

 

 そんな言葉を放ちながら現れたのは、顔半分だけを仮面で覆った女性だった。この人がもう一人の戦車か。

 そして、声は別の方向からもう一つ飛んできた。

 

 

「随分と血気盛んな輩が多いこと。うるさくて耳が痛いですわ」

 

 

 もう一人は豪華なドレスを纏った金髪縦ロールの少女だった。確かこの娘は僧侶だったはず。

 一応、数では五分五分だが、実力のほどは残念ながら分からない。...でも!

 

 

「なら、二人纏めて俺が相手だ!いくぜ、ブーステッドギア!」

 

『Boost!!』

 

「いえ、イッセー先輩。ここは私が...」

「いや、さっき体育館で戦った時と女王(クイーン)との一戦で疲れてるだろ?俺はまだまだいけるから休んでてくれ」

 

 

 俺の指摘は図星だったらしく、小猫ちゃんは少し悩む素振りを見せながらも後ろへ下がってくれた。よし、期待を裏切らないように勝ってやるぜ!

 拳を握って腰を落とし、いつ攻撃が来ても対応できるように準備をしておく。と、そんな臨戦態勢の俺を見た僧侶の少女は、呆れたように嘆息をしてから身を退いた。

 

 

「生憎と私は貴方の相手をする気はありませんの。イザベラ、あの子が一人で戦ってくれるそうよ」

 

 

 どうやら戦意は本当にないらしい。完全に俺たちから離れた場所へ移動し、ライザーの戦車...イザベラへ相手をお願いしていた。

 彼女は元々そのつもりだったらしく、別段驚くことなく俺と対峙している。

 

 

「なぁ、そっちの僧侶は戦う気がないのか?それとも、何か戦えない理由があるのか?」

 

 

 俺の疑問を聞いたイザベラは多少言い淀むような表情を見せたが、やがて口を開いた。

 

 

「まぁ、事情はちょっと特殊でな。あのお方はライザー・フェニックス様の妹君、レイヴェル・フェニックス。正式に眷属悪魔となっているが、実の妹だ」

「な、なんだって!?」

 

 

 じ、実の妹を自分のハーレムに加えるだと?!なんて羨まし...いいや、素晴らし...いいや、最低な奴なんだ!ちくしょうやっぱ羨ましいぞコノヤロー!

 怒りの闘志を燃やし始めた俺を見たイザベラは、顕わになっている顔の半分を笑みにして突っ込んで来る。

 唸りを上げて迫って来た拳は身体を捻って躱す。

 

 

「あぶねッ!」

「...避けたか。ふむ、見くびっていたことを正直に謝ろう。次は遠慮せず行かせて貰う!」

「そ、そうかい!あんまり無理すんなよ!」

 

 

 とはいったものの、此方は致命傷となる一撃を避けるので手いっぱいだ。うおッ!今頬掠ったぞ!

 一応コウタや木場と接近戦の特訓は嫌になるほどやってきた。だが、イザベラから放たれる攻撃は二人とは違って緩慢で柔軟な動作だ。ここまで避けられてるのは、彼女の手数が少ないからこそだと思う。

 コウタが教えてくれた、攻撃の起点を見て、そこから繰り出されるだろうあらゆる攻撃の範囲から抜け出すという戦法。これを使えば、手から飛び道具でも出さない限り俺には当たらない。

 しかし、勿論欠点はある。さっき言った通り、攻撃の予測、防御が完全に出来ない俺では、相手から繰り出される攻撃の最大となる範囲外へ毎回抜け出さなければならない。そのためには大きな動作が必要だから、敵が放つ攻撃は間が長いことが一つ目の条件。そして、もう一つは単純に疲れやすい事。こんだけ激しく動いてりゃそらそうだわな!

 

 

『Boost!!』

 

 

 !...よし、これで五回目の強化だ。少し攻撃を受けてはいるが、まだ目を瞑れるくらいだろう。もうちょっと頑張るか!

 と、更に気合を入れたとき、何故か敵の攻撃が止まる。訝しみながら顔を上げると、その先には驚いた顔をしているイザベラの顔があった。

 

 

「まさかここまで避けられるとはな。その持久力...並大抵ならぬ鍛錬で身に着けてはいまい。傷を負いながらも切らさぬ集中力と合わせ、敵ながら感服する他ないな」

 

 

 放たれたのは、純粋な称賛。厳しい鍛錬を乗り越えて来たからこそ、彼女の言葉には内から込み上げて来るものがある。

 戦いという行為に負の方向性ばかり持っていた俺は、きっと間違いだったんだろう。拳を交えることで通じ合い、分かり合うこともまた可能なんだ。

 コウタ!お前の言っていたことは本当だったんだな!争いだけが戦いじゃねぇってのはさ!

 

 

「ああ、そうだ!だから俺はお前を全力で倒す!俺をここまで鍛えてくれた仲間のために!俺たちを信じてくれる部長のためにな!」

「なるほど、思いの力で神器はその能力を高める...私は倒すべき敵として些か役不足のようだな」

 

 

 イザベラが自嘲気味な表情をしたとき、木場の方でも戦況が動いていた。

 背後から漂ってくるのは、凍えるような冷気。これは...?

 

 

炎凍剣(フレイム・デリート)の前では、如何なる炎も凍り付く」

「なッ!貴様、神器を二つ有しているのか?!」

 

 

 木場の持つ剣は、氷の刀身を持ったものへと変化していた。

 カーラマインの炎を纏っていた剣が凍り付き、やがて崩れ去る。が、彼女は新しく腰から抜いた短剣を掲げ、叫ぶ。

 

 

「まだだ!そのような得物では、我らフェニックスの炎を完全に消す事などできん!」

 

 

 その瞬間、カーラマインを中心に炎の渦が出現し、木場もろとも包み込んだ。あちち!こっちまで熱波が飛んで来やがる!てか、あいつ味方まで巻き込むつもりかよ!

 そんな風に慌てる俺とは対照的に、木場は落ち着き払った表情で溶けてしまった氷の剣を見ながら呟いた。

 

 

「僕はね、複数の神器を持っているわけじゃない。ただ単に────────」

 

 

 突如、渦巻いていた炎が木場の手に集まり始めた。

 その手中にあったのは、またもや新しい剣。不可思議な形状となった中心に渦があるのを見る分、あそこに吸い込まれたのだろう。

 

 

「剣を創る。そういう能力を持った神器があるだけなんだ」

「剣を、創るだと....?」

 

 

 なるほど。『魔剣創造(ソード・バース)』、名前の通り本当に木場はあらゆる魔剣を創れるんだな。コウタとの一戦で見てはいたが、改めて目の当たりにすると強力な神器だ。

 炎の渦が収まったことで、ようやく此方に及ぶ妨害はなくなった。背後の小猫ちゃんにも特に外傷はない。

 

 

『Boost!!』

 

 

 と、ついに待ちに待った百五十秒が来た!

 俺はすぐに籠手が装着されている手を開き、部長の言っていた通り、己がもっともイメージしやすいものに例えてエネルギーを集中させていく。

 それは、俺が好きなアニメ『ドラグ・ソボール』の主人公が持つ必殺技、『ドラゴン波』。

 

 

『Explosion!!』

 

 

 威力を弱めるために少し調節を加えてから、片手に集まった赤い奔流を握り込む。修行中にコウタへ放ったアレをそのままブチかましたら不味いので、セーブをしておく必要があったのだ。

 俺は気合一声、最高のプレゼントを携えた拳を引っ提げてイザベラへ突っ込む。

 

 

「むっ、来るか!」

「俺の持つ最高の拳!受け止めてみろぉ!」

 

 

 今までとは明らかに踏み込みが違うイザベラの拳と、赤い尾を引く俺の拳が激突する。

 痛ってぇ、けどッ!タイミングは文字通り文句なし!出番だぜ、セイクリッドギア!

 

 

「喰らえ、ドラゴンショットッ!」

「な、なに!?」

 

 

 開いた拳から放たれた通称・ドラゴンショットは、威力を大幅に制限してもなお盛大な爆発を巻き起こし、イザベラの立っていた場所へ小規模なクレーターを作り出した。自分でやっておきながら、これはヤバいな...

 直撃を受けたイザベラは光となって消え、ゲームから退場する。

 

 

『ライザー・フェニックス様の戦車一名、戦闘不能』

 

 

 グレイフィアさんの声でアナウンスが入り、それによって自分の力でライザーの眷属を倒した事が理解出来た。

 

 

「いよっしゃあああ!」

 

 

 行ける。行けるぞ!この戦い、勝てますよ部長!

 と、歓喜で震える俺の耳に風切り音が聞こえた。瞬間、金属をぶつけたかのような甲高い音が響き、俺の隣に小猫ちゃんが滑り込んで来る。

 

 

「イッセー先輩、油断はだめ」

「くっ、兵藤一誠は危険だ!今すぐ対処しなければ!」

「いいや、させないよ!」

「ちぃッ!」

 

 

 俺の足元には短剣が転がっていた。どうやら小猫ちゃんはこれを弾いてくれたようだ。危なかった...

 よし!俺も木場の加勢に回って、早くライザーのところまで─────────

 

 

「カーラマイン、グレモリーの下僕さんたちも一度戦闘を止めなさい」

「!レイヴェル様...」

 

 

 今まで後方に下がっていたライザーの妹が、突然カーラマインと俺たちへ戦いを中断するように言って来た。ふむ、流石は王様の妹ってところか、あれだけ熱くなっていた騎士さんを黙らせちまった。

 そして、妙な戦闘中断があってから少しして、前方から複数の影が此方へ近づいてきた。

 

 

「あれ、イザベラ姉さんがいないよ?」

「やられちゃったんじゃないの?」

 

 

 顔を見る分だと、残るライザーの眷属悪魔たちだ。まさか、ここで決戦ってことなのか?

 木場と小猫ちゃんの表情が厳しいものとなってくるが、そんな俺たちに取り合うことなく、レイヴェルは新校舎の屋上に指を向けた。

 そこには──────────────

 

 

「なっ...部長とライザー?!なんであんなところに!」

「お兄様はリアス・グレモリーの善戦っぷりに焚き付けられたみたいですわよ。キング同士の一騎打ちを申し出て、それを貴方達のキングも了承したんですって」

 

 

 それに驚愕する間もなく、通信機からアーシアの慌てた声が聞こえてきた。

 

 

「アーシア!まさか屋上にいるのか?!」

『は、はい!部長さんはライザーさんが突然申し出て来た一騎打ちを受けたんです!私はお許しを貰って同行してるんですけど....』

 

 

 急展開に頭がついて行けない。ちくしょう!どうすりゃいいんだ!

 屋上で始まった二人の戦いを見る事しかできない自分に憤りを感じていると、そんな俺の背中を叩く人物がいた。

 

 

「先輩、行ってください」

「小猫ちゃん...でも」

「ここは私と木場先輩で止めます。大丈夫。彼女たちは不死ではありません。一人例外がいますが、彼女は戦闘向きでない僧侶です」

「っ....そうだな。俺が修行してきたのは、あそこにいる焼き鳥野郎をぶっ飛ばしてやるためだ。なら、俺が行くべきだよな」

 

 

 俺はもう一度屋上を睨んでから、小猫ちゃんと拳を突き合わせる。周りを警戒しながらも話を聞いていた木場と目配せし、タイミングを計る意向を伝えた。

 そんな俺たちを見ていたレイヴェルは、露骨に溜息を吐きながら口を開く。

 

 

「さて、作戦会議は終わりましたの?では、こちらも相応の戦法をとらせて頂きますわよ」

「そうだね。多分そっちと同じくらい────────」

 

 

 木場がそう前置きしてから地面へ手をかざし、前方へ無数の魔剣を生やす。

 

 

「────────こっちも大概な作戦だぜ!?」

 

 

 それを皮切りに、俺は全力で新校舎の昇降口へ向かって駆け出した。

 ここで俺たちの意図を理解したか、レイヴェルが血相を変えて叫んだ。

 

 

「ッ!誰か兵藤一誠を止めなさい!余力を残した彼をお兄様へ近づけるのは不味いですわ!」

『御意!』

 

 

 号令を受け、一気に飛び出してくるライザーの眷属たち!...これはヤバいか?!

 だが、その怒号に一切怯む事無く叫んだのは、我らが『騎士』木場佑斗。

 

 

「かかった!────────必殺、コウタ君直伝・ゲート・オブ・バビロン!」

 

 

 その宣言と同時に、地面から顔を覗かせていた無数の魔剣が、弾丸みたく次々と飛び出した。

 地面から間断なしに放たれる剣で勢いを削がれたライザーの眷属たちは、その身で剣を受けるか、何とか弾くかの方法で後退を余儀なくされていく。

 

 俺はその間に運動場を走り抜け、背中越しに二人へ声援を送る。

 あとは頼んだぜ...木場、小猫ちゃん!

 

 

『ライザー・フェニックス様の兵士二名、僧侶一名、戦闘不能』

 




 原作と違い、運動場での追加戦力を木場君が持つ隠し技で脱落。イッセーは覚醒してない状態のままでライザー戦に望みます。

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