前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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ライザーとのRG回は全五部(前話を含めて)による構成で完結させたいと考えてますので、タイトルは分かりやすく今回のような形式で行きます。
ちなみに、RG中はオリ主空気になりますので。


File/21.Rating Game -Beginning-

 部長の指示通りに罠の設置を終えたので、次の作戦に移行することになった。

 今私の隣にいるのはイッセー先輩。これから重要拠点である体育館に潜入する際のパートナーである。

 私はさきほど部長から言われたことを改めて反芻してみる。

 

 

「体育館には必ずライザーの下僕がいるわ。戦闘は避けられないでしょうけど、指示通りにお願いね」

 

 

 佑斗先輩と朱乃さんとも途中で別れ、それぞれ個別の作戦へ専念している。

 しかし、この作戦はいずれ合流する二人と部長たちの戦況を有利にするため、絶対成功させなければならない。...実際、それに足る効果が望めるのだから。

 潜入地点である体育館裏の入り口に出たところで、私は前方で注意深く回りを見渡すイッセー先輩へ向かって口を開く。

 

 

「イッセー先輩、『敵を探す時は自分も意識する』。コウタさんの教え通り、不意打ちを喰らわないよう自分の身も案じて下さいね」

「了解.....だけど、建物がこれだけ大きかったら、何処から見てるかなんて分からないな」

「それなら...っ!敵、いる」

 

 

 私は体育館内に複数ある気配を察知し、先導する先輩へ注意を促す。が、それとほぼ同じタイミングで女性と思われる声が響き渡った。

 

 

「そこにいるのは分かってるわ!出てらっしゃい、グレモリーの下僕さんたち!」

 

 

 その挑発には取り合わず、まずは壇上の赤いカーテンから慎重に顔を覗かせ、敵の数を確認してみる。...兵士(ポーン)が三、戦車(ルーク)が一。数では此方が圧倒的に不利。

 私は暫し悩んだあと、イッセー先輩へこういう場合に取る作戦を素早く吟味してから話す。

 

 

「『複数、または見るからに強敵である可能性が高い敵には、正攻法で突っ込むのは上策ではない』。...ですよね。イッセー先輩」

「コウタの戦術マニュアルが役に立つな。よし、俺は一応兵士を相手するつもりだけど、こういう風にしたら─────」

「────────はい、分かりました。頑張ってみます」

 

 

 私の了承を受けたイッセー先輩は壇上から降り、神器を発動させながら体育館の地下へと移動。

 私は一度深呼吸して、逸る気持ちを落ち着けた。...敵が多いときは、なるべく相手全員へ動揺を走らせてから個別に攻めなければ、囲まれたり、挟み撃ちに合って容易に倒される。

 正直、これから取る戦法はあまり褒められたモノではないが、状況を有利に進めるためだ。私情は極力除外して思考するべきである。

 

 さて、あまり間を空けると此方の思惑が悟られかねない。

 私は決意の下に全力で地面を蹴って飛び出し、最も近場にいた小柄な兵士の一人へ肉薄、すれ違い様に回し蹴りを放つ。

 

 

「っな!」

 

バキィ!!

 

 

 防御するために咄嗟の判断で武器を盾にしたのだろう。だが、持っていた棍がそれで破壊されてしまった。

 私はそれを視認するまでもなく足の感触で理解し、地につけていた片足を軸に半回転、念のため用意していたもう一発の蹴りを背後から炸裂させる。

 

 

「ぐはぁッ!」

 

 

 上手く急所へヒットしたか、一際大きい苦悶の声を上げながら、弾丸のように吹き飛んで体育館の壁へ突き刺さる敵の兵士。

 私はそれで気を抜くことなく、すぐさま地面を蹴ってその場を離脱、残る三人から十分な距離を取ってから一息つく。

 

 

【ライザー・フェニックス様の兵士一名、戦闘不能(リタイア)

 

「ッ....不意打ちなんて、舐めた事をしてくれるわね!」

 

 

 今の交錯で一人敗退。開幕の合図としては申し分ない。

 姑息な手段によって仲間が一人脱落したことで、中華服(チャイナドレス)を纏った戦車の一人が怒りに任せて突進してくる。

 私はこの時、攻撃ではなく敵を観察することに念頭を置く。

 

 

『いいか?自分が後手に回った場合の攻撃手段はあんまり考えてするもんじゃない。だから反撃するまでの余裕は敵を観察することにあてるんだ。ここだ!って場面(タイミング)が見つかったら迷いなく勘に任せて動け。そうすりゃ最適なパンチが自然と出るはずだぜ』

 

(コウタさんと比べれば断然遅い。決め手のタイミングは───────多分、ここ!)

 

 

 腕を振りかぶる瞬間を見極め、適した構えを取る。そして、放たれた拳は半身を引く行動のみでギリギリ避け切る。ところが、威力の読みが甘かったらしく、胸元に鋭い痛みが走った。

 私は歯を食い縛ってその痛撃に耐え、標的への反撃を遂行するために拳を握ると、限りなく零距離でアッパーカットを繰り出した。

 

 

「飛べ」

「バカなっ!避け...ガハッ!?」

 

 

 腹へ叩き込んだ強烈な一撃で宙を舞う中華服の女の人。...く、痛みで少し威力が下がった、反省しなきゃ。

 しかし、後悔はあとにしなくては。まだ動ける敵が二人───────

 

 

 

ドルルルルルルッ!

 

「この!」

「よくも二人を!」

(ッ!)

 

 

 駄目だ。この距離ではまず避けられない!だからといって二人分の攻撃...あのチェーンソーを受けたらただでは済まないだろう。

 ───────なら!

 

 私は何とか足を動かし、地面を思い切り踏み鳴らした。そして、その瞬間。

 

 

「おっしゃ!待ちに待った兵藤一誠参上ォー!」

 

『Explosion!!』

 

「えっ!地面から!?」

「出鱈目すぎでしょ!」

 

 

 体育館の地面を勢いよく突き破ってきたのは、地下で倍加の時間を安全に確保していたイッセー先輩。見たところ、丁度いい頃合いだったみたい。

 先輩は驚愕で固まった双子の兵士二人をまとめてブン投げた。

 

 

『キャアアアア!』

 

 

 私は追撃をかけようと足に力を込めるが、それを見たイッセー先輩は何故か待ったをかけた。絶好の機会なのに...何か他にいい作戦でもあるのでしょうか?

 

 

「くははは!今こそ俺の修行の成果を見せる時ッ!いくぜ、洋服破壊(ドレス・ブレイク)!!」

 

 

 イッセー先輩がそう叫びながら指を鳴らした瞬間、さっき投げ飛ばされた二人の服が無残にも破れ散った。って、え?

 体育館内に木霊する兵士二名の絶叫。この光景には敵方の戦車も痛みを忘れ呆然としてしまっている。無論私もその中の一人。

 そんな渦中でただ一人、得意げな顔をしながら鼻血を流して決めポーズをするのはイッセー先輩。

 

 

「コイツは洋服破壊!俺の脳内に溜め込んだ妄想、理想を魔力によって具現化させた究極の俺得必殺技なんだよフハハハハ!...やべ、鼻血が」

「最低!ケダモノ、変態!」

「女の敵!」

 

 

 身体を両手で隠しながら涙目でイッセー先輩を罵る兵士の姉妹。いくら敵だとはいえ、これには同情を禁じ得ません...。というか、イッセー先輩最悪です。

 

 

「こ、小猫ちゃん!そんな目で俺を見ないで!大丈夫だから、使うの敵にだけだから!」

「それでも最悪です」

「一応分かってはいたけど、この結果は辛い!」

 

 

私はイッセー先輩...もとい変態先輩から距離を取り、タイミングよく部長から入って来た通信へ耳を傾ける。

 

 

『イッセー、小猫、そっちの戦況はどう?そろそろ例の作戦へ移れそうかしら』

「はい、大丈夫です。私たちも体勢は整いました」

「次も任せて下さい!」

『いいわ。朱乃の準備も出来たことだし、行動を開始して頂戴!』

 

 

 気持ちを入れ替え、真剣な表情となったイッセー先輩と頷き合い、体育館を離脱するために出入口へ向かって走る。

 その後方から、フェニックスの戦車の驚愕した声が聞こえて来た。

 

 

「なっ!まさか...逃げるの貴方達?重要拠点を放棄するつもり!?」

 

 

 そう、確かにここは重要な拠点。チェスでいうところのセンターであり、ここを占領すれば状況を有利に進められる。

 しかし、私たちの目的は体育館の奪取ではない。本当の目的は、状況を有利に進められると集まった、フェニックスの下僕...つまり彼女たちにある。

 

 体育館を走り抜けたと同時、背後から白い光が迸った。

 そして、直後に轟音。振り向いた先には、体育館が根こそぎ消失した光景が広がる。

 

 

撃破(テイク)

 

 

 その声の発信源へ目を向けると、空中に浮かぶ朱乃さんがいた。どうやら広範囲に及ぶ雷撃で何もかも吹き飛ばしてしまったらしい。

 ともあれ、囮作戦は無事成功。

 

 

『ライザー・フェニックス様の兵士二名、戦車一名戦闘不能』

 

 

 流石は朱乃さん。今の一撃で体育館の中にいた全員を倒してしまったらしい。イッセー先輩もその事実に呆然としていた。先輩も山を吹き飛ばせるぐらいの力を持ってるんですけどね。

 

 

『よしっ、三人のお蔭で最初の作戦は成功よ。...さて、朱乃は次の作戦まで魔力を溜めて置いて。イッセー、小猫は佑斗と合流次第、指示通りにお願い。私とアーシアも機を見計らって前に出るわ!』

 

 

 そろそろ戦況も中盤。だとすると、コウタさんの言う通り事前準備が効果を発揮するのは此処辺りまでということなのだろうか。あとは不測の事態に備え、常に気を抜かないこと....

 それを思い返した私は、念のためコウタさんから事前に教わった簡易的な魔力探知の術式を組み上げておいた。これを理解するまで八日ぐらいかかったのは、私のおつむが弱いせいなのかなぁ。

 

 

「よし、じゃあ木場と合流しようぜ!今の勢いなら俺たち、勝てるぞ!」

「あの変態技は駄目ですよ」

「だ、大丈夫、大丈夫だから!もう俺をそんな目で見ないでぇ!」

 

 

 イッセー先輩へ釘を刺しながら走っていると、今さっき張ったばかりの魔力探知の術式にもう反応があった。私はその瞬間に全力で身を捻り、その場から一刻も早く離れる。

 

 

ドオォォォンッ!!

 

「くぅッ!」

「うおあ!くそッ、何だ!?」

 

 

 何とか避けきったが、二撃目が来るかもしれない。私は地面を転がりながらも素早く次弾を意識して距離を取る。

 此方は只でさえ数が少ないので、一人でもやられれば大打撃だ。恐らくそれを敵も解っているはず。

 

 

「あら?避けられたかしら。意外とすばしっこいわね」

 

ドォン!ドォォォン!

 

「攻撃の数が、多い...!」

「小猫ちゃん!」

「ッ!イッセー先輩、来ちゃ駄目!」

「!」

 

 

 これは寧ろ良い状況だ。敵は先輩を軽視しているようで手を降す気がない。ならば、まざまざ此方の切り札を危険に晒すことは愚行だ。

 しかし、私個人にとってこれは不味い。敵の女王(クイーン)と思われる女性は空中に浮かび続けながら攻撃をしてくるため、私の拳や足はまず届かない。だからといって飛び上がれば只の的になってしまう。

 

 

「ふふふ、良く避けるわね。じゃあ...ここら辺一帯を爆発させたら、どう?」

「!」

 

 

 魔力の渦を纏った手がこちらへ向けられる。

 もう詰めだと諦めかけた瞬間、私と敵の間に一つの影が割り込んで来た。

 

 

「それ以上好きにはさせませんわ。ライザー・フェニックスの女王、ユーベルーナさん」

「あら、貴女は雷の巫女、姫島朱乃...ふふ、いいわ。一度貴女と戦って見たかったのよ」

 

 

 敵の攻撃対象が移った。今なら離脱できる。...でも。

 私は宙に浮かぶ朱乃さんへ視線を投げかけた。すると、彼女も此方を見て、私とは対照的に笑顔で声を掛けてくる。

 

 

「私なら大丈夫。貴方達を甘く見たこと、あの人に後悔させて来ますわ。だから、行って下さいな」

「...はい、頑張ってください。朱乃さん」

「くッ、すみません朱乃さん!お願いします!」

 

 

 彼女の意志を無駄には出来ない。ならば、これ以上の会話はいらないはず。

 私とイッセー先輩は次の戦いのため、その戦場に背を向けて走り出した。

 

 

          ***

 

 

 

「やっぱり、このままじゃジリ貧だな」

 

 

 俺はモニターを見ながらそう呟き、腕を組んで唸る。

 一応、イッセーのとんでもない隠し技には驚かされたが、あの程度では今後の戦況に大きな変化はもたらせないだろう。女性相手には効果的だが、能力の性質上触れなければ発動できないし、ライザー相手にかました所で誰得な光景が目前の画面へ映し出されるだけだ。

 

 さて、ライザーの戦法は既に割れた。アイツは自分の、フェニックスとしての特性を過信しているが故に犠牲(サクリファイス)を好んでいる。

 ライザーが作成した今回のゲーム展開は完璧に手を抜いた構成としているだろう。しかし、恐らく保険は掛けてある。体育館に敢えて実力が低めの兵士や戦車をおいたのは、グレモリー先輩が立てた最初の策を見越した上で立案された、重要となる先遣隊の実力を計る為の策だろうと推測できるからだ。

 彼女たちで先行したグレモリー眷属を脱落させられればそれまで。もし出来なかったら、撃破までの速さ、実力差を考慮した上で上位の戦法へ切り替える。実際、修行前では明らかに実力差のあった二人へ、突然女王を当ててきたのだから明白だ。

 ユーベルーナがイッセーたちを見逃したのは、姫島先輩の乱入が原因だろう。流石に、策を優先するあまりあれほどの実力者へ背を向けるほどの愚者ではないようだ。

 画面越しで次の作戦へ移動するため疾走する小猫ちゃんとイッセーを眺めていると、隣のソファに腰かけるサーゼクスが笑い出した。

 

 

「はは、考えてるね。...本当、君がリアスの陣営へ入ってくれれば負けなしなんだけどなぁ」

「残念。俺は悪魔になる気はないんでね」

「それはもっと残念だ。でも、一応気付いたことを聞かせてくれるかな?」

「ん、いいぞ」

 

 

 俺はさっき頭の中で考えたことを掻い摘んで伝えてみる。すると、サーゼクスは更に笑みを深めて頷いた。

 背後に控えていたグレイフィアさんも多少目を見開いている。

 

 

「フェニックスの不死性...これは確かに厄介だが、精神へ支障を来す術や呪いの類をぶつければ戦意喪失するはず。これがグレモリー側にあれば光明が見えるんだが」

「難しいね。リアスも姫島さんもその面には疎いだろうし、剣使いの木場くんや赤龍帝を宿したイッセー君、近接戦での格闘を重視した塔城さん...これはもう、殴り合って心を折るしかないよ」

「言い方は悪いが...その通りだな」

 

 

 言うだけなら簡単だ。しかし、それをやるのは基本的な実力でも多少なりとは言え差が出てしまうグレモリー眷属たち。ライザーは傷を負ってもいいという捨て身の戦法を取れる分、数で押すという考えも有効とは考え難い。

 

 

「ま、すでに()()の布石は盤上へ打ってある。あとはお前次第だぞ───────イッセー」

 

 




よく見なくても、あんまり空気化してないオリ主。彼のグレモリー眷属への影響力が伺えます。

色んな戦術指南が出てきましたが、恥ずかしながら全部独自論です。
明らかおかしいだろ!と思ったら遠慮なく御申立てください...

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