前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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今回でついに教会へ乗り込みます。
よっしゃ!誰かホラ貝持って来い!


File/13.神父再来

 ここは何処とも知れぬ、歪な世界。誰に知られることも無く消え去るだけの、何の意味も成さぬ大地になる筈だったモノ。

 そこには、一つの影が立っていた。

 

 

 「次元の狭間を通った魂....面白い」

 

 

 そう呟いた黒き者は、表情を一切変えることなく、しかし内心では微笑みを湛えながら空になれなかった空を見上げる。空間は今の所絶えず崩壊と誕生を繰り返し均衡を保ってはいるが、そのうち存在そのものに亀裂が入るだろう。

 この世界は元より、正常な段階を踏まずにココへ出現していたのだ。放って置けば、矛盾した構成により自己崩壊が始まり、完成と同時に基盤が壊れてしまう...はずだった。

 

 生まれて間もない赤子同然であるこの世界は、自らの懐に降り立った黒き者に心から恐怖していた。

 

 既にその時は過ぎている。しかし壊せない。

 『このお方』が己の身体に存在するまでは、絶対に自壊などさせられない。

 

 

 「今、迎えにいく」

 

 

 ついに『あのお方』が漆黒の翼を拡げた。もうすぐだ。耐えろ、耐えろ!

 その意志に逆らうようにして、『空になる予定だったモノ』が半分砕けた。...しかし、未だ地は健在。鴻荒(こうこう)としてはいるが、両の脚を着けるだけの能力(そんざい)はある。

 そして、黒き者は翼を上下に一度振り、その地からの離脱を果たした。

 

 一歩遅れて地面へ致命的な亀裂が走り、空間へ幾条もの罅が生まれる。

 

 死に往く世界は、飛び立っていく黒き者を見て安堵した。

 『あのお方』の止まり木になるという自分の役目は果たせたのだ。誇っていい。...でも、欲を言うのなら────────

 

 自分に、聲を掛けて欲しかった。

 

 そんな願いを、罅割れていく思考の片隅で浮かばせていると。

 

 

「ありがとう」

 

 

 黒き者は確かに、世界(こちら)を見て告げた。

 あぁ...嗚呼、救われた。ただ生まれては泡沫のように消える己のような存在でも、『あのお方』からの賛辞を受ける資格は確かにあったのだ。

 

 幸福な想いを抱いたまま、元から壊れていた世界は完全に崩壊し、次元の狭間からも消滅した。

 

 

          ***

 

 

 旧校舎から少し外れた場所。

 俺の隣にいるのは、小猫ちゃんと木場だ。二人とも意図すること全てを悟った表情で、目前に立つ少年...イッセーへ厳しい視線を向けていた。

 

 昨日部室で教会へ近づくことを一切禁止されたイッセーだが、アーシアを助けるという信念は変わってないだろう。そこはいいが、ノープランで単身突入するという策だけは捨てて貰わねば困る。

 かくいう俺も、もし此処で自分が教会に乗り込むことをグレモリー先輩へ説得してくれと頼まれたら、迷いなくブン殴るつもりでいる。

 

 

「頼むっ!俺だけじゃ無理だから、三人とも協力してくれ!どうしてもアーシアを助けたいんだ!!」

 

 

 しかし、俺の右拳の出番は無かったようで、少なくとも今日は一人では不可能という事実を認識して来ていたようだ。

 俺はそれだけで満足だったし、あの時コイツを助けられなかった負い目もある。グレモリー先輩も何かを掴んだ様子だったから、こちらも独断で動いても構わないだろう。

 理由は十分に出揃ったので、俺は口角を吊り上げながら拳を片手に打ち付けた。

 

 

「いいぜ、イッセー先輩。俺もおまえを騙した堕天使ブッ飛ばすのに協力してやる」

「なっ...いいのかい功太君?部長たちの許可なしで」

「向こうが規則うんぬん無しに動き回ってこっちに被害出してんだ。騎士道精神も罷り通るのはここまでだろうよ、木場先輩」

「復讐、する」

 

 

 小猫ちゃんがさりげなく物騒な呟きを漏らしていたが、今から俺達がやることは概ねその通りだ。まぁ、それをするのはあくまでイッセーの役割であって、俺と木場先輩、小猫ちゃんはその手伝いなんだがな。

 俺はふとイッセーの持つ龍の手(トゥワイス・クリティカル)を思い出す。コイツは持ち主の力を倍にする能力を有する神器だったな。

 倍と言えば聞こえは良いのだが、ただの人間であるイッセーの基礎体力、筋力、魔力を×2した所で、初期ステータスの時点で桁レベルの違いがある堕天使となど渡り合える筈もない。

 

 

「ううむ......イッセー、何か作戦はあるのか?」

「..ふふ、よく聞いてくれたなコウタ後輩よ」

 

 

 明らかな含みのあるイッセーの返答に、俺自身を含む全員へ緊張が走る。これは予想外だ。何かいい案を持ってきたのか?

 期待と疑問の視線を複数向けられたイッセーは、最早何の隠し立てもせず、いっそ気持ちいいくらいの笑顔で答える。

 

 

「作戦は────────────無いッ!!」

 

 

 俺は右拳の封印を解いた。

 

 

          ***

 

 

 時は日も沈み切った宵。

 俺たちは揃って廃教会を目指していた。

 

 あとを着いて来ている三人は一様に緊張を身に纏い、いつ敵の奇襲が来てもいいように常に構えている。

 それを横目で確認し、拡げていた教会内の地図を畳んでから、本日二回目の溜息を吐く。

 

 

「ここまで来りゃ寧ろ奇襲仕掛ける敵はいないって。そうやって緊張すればするほど身体はカチコチになるぞ。...本番に支障出すなよ?」

「そんなこと言われてもね...やっぱり無意識にこうなっちゃうんだよ」

「むが、そんな100%クリアーな苦笑いは頼んでねぇぞ」

 

 

 木場は少し引き攣った表情なのに美形を保っていた。はは、きっとアイツは俺と違う人種なんだ。じゃなきゃこの敗北感は拭えない。

 

 そんなことをやってるうちに教会の扉の前に着いた。

 俺は勿論、何のリアクションも前振りもなしに勢いよく扉を足で開け放つ。背後で三人が愕然としているような気がしたが、きっと気のせいだ。

 

 

「ヒュウ────────────!!」

「んお?」

 

スカッ

 

「ウエェッ?!今の完璧に不意打ちっぽかったしょ旦那!この前のお礼兼ねてんだから、ちっとは当たってみて下せぇよ!」

「嫌だね」

 

 

 俺は否定の言葉と共に能力を発動させ、上から降って来た挙句好き放題喚くエクソシストを囲むように剣を精製(フォーム)した。

 その隙に背後の二人へ目を向けて言う。

 

 

「ここでは儀式してないみたいだし、きっと地下だな。...ってことで、俺除いた全員で行ってきてくれねぇか?」

「お、おいまてよ!コウタ、お前はどうすんだ!?」

「俺はここであのアホを止める」

 

 

 狼狽したイッセーの声に対し、俺はあくまで冷静な返答をする。 小猫ちゃんと木場は俺の強さを事前に知っているので、あまり強くは言ってこないのが救いだ。

 と、そんな話をしている最中に、突如連続して金属が砕ける甲高い音が聖堂内へ響いた。

 チッ、予想より脱出早いな...

 

 

「だぁーれがアホですって?私にはフリード・セルゼンという素敵で無敵なキラキラネームがあるんスよ。ほら皆もエヴィバディセイ!フリィード☆セルゼン!」

「アイツがワケわからん事言ってる今がチャンスだ!木場、二人を補助しながら奥の地下階段まで走れ!」

「わ、分かった!」

 

 

 右手に剣を携えた木場は、小猫ちゃんとイッセーを背後にするような配置で駆け出す。

 それを馬鹿やりながらも見逃さなかったフリードは、腰から抜いた拳銃を素早く木場たちへ向ける。

 

「ヒャハー!逃がさないよン!」

「某RPGのピエロさんみたいな声出すな!」

 

 

 俺は自分の足元に短剣(ダーク)を精製し、直ぐに投げた。

 

 

「それは予測済みぃ!」

 

 

 しかし、どうやらこうする事が分かっていたらしく、奴は袖から滑るように飛び出した光の剣を掴んで振るい、難なく弾いた。

 そして、光を触媒として打ち出される銃弾は、木場へ当た───────

 

 

「無駄だよ...ハァッ!」

「なに?俺っちの光の弾丸が...打ち消された?」

 

 

 ─────らない。

 彼の持っていた剣は、いつの間にか普通の西洋剣から漆黒のオーラを立ち上らせる黒い剣となっていた。

 なるほど、あれが魔剣創造の本領。あらゆる属性を付与した劔をその手にもたらす神器。

 

 

「あとは頼んだよ!功太君!」

「負けないで...!」

「勝てよ、コウタ後輩!俺はあの堕天使をブッ飛ばしてくるからな!」

 

 

 地下へ続く階段へ飛び込んで行った三人の応援へ手を振って応えてから、飛んできた光の弾丸を、予め集中させておいた魔力で創造した莫耶を使い、弾く。

 その後も続けて肉薄する光弾を、莫耶のみで受けきる。

 

 

「チィ!なら────────これでどうよ旦那ぁ!」

 

 

 フリードは光剣をもう一つ手に持ち、長机を蹴って飛び掛かって来る。

 俺は空中で回転しながらの二手、地に降り立ってからの七手の全てを悉く打ち返す。流すのではなく、真正面から受けとめて、かつ弾く。...その行為は、歴然たる力量の差の証明。

 

 

「...おいおい冗談じゃねぇよ、あンのクソビ〇チ堕天使が!こんなん楽勝なんかじゃねぇーだろがよ!!てか、コイツが敵側にいるって知ってんのか!?」

「煩い」

「なっ!....グゥッ!?」

 

 

 ただでさえ追い詰められてるこの状況で喚き立てるなど、尚更無駄に体力を消耗するだけだ。ったく、実力は確かなのに勿体無いなぁ。

 左手に持っていた光剣を難なく莫耶の柄で叩いて落とし、そのまま手首を返して剣の峰でフリードの左肩を砕く。

 呻き声を上げつつも踏みとどまり、憎しみを貼り付けた瞳で俺を睨む。

 

 

「そんなんじゃあ、いつまでたっても強くはなれねぇよ。フリード☆セルゼン」

 

 

 俺は奴の手に残った光剣を素手で掴み、額へ額をぶつけながら吠える。

 

 

「だからな、少しは鍛えろよ。腕を、足を、技を、術を...心を。話はそこからだ」

 

 

 目を見開いて固まった白髪神父の頭を鷲掴み、聖堂の壁へ向かって放り投げた。

 厚い壁面をぶち抜いた奴は、瓦礫と共に外の裏庭へ放り出されて気絶する。

 

 

「さてと、地下へ....っと?」

 

 

 手をパンパンと叩いてから、散らばる長椅子をどかしながら地下へ続く階段へ降りようする。しかし、下から血相変えたイッセーが駆けてきたので、咄嗟に身を引いて彼を通す。

 取り合えずは一番心配だった奴が無事でよかった。そう素直に喜びたいところなのだが...

 

 

「コウタ...アーシア、が.....」

「なっ、まさか!」

 

 

 イッセーの腕に抱えられていたのは、白を通り越して青くなった顔をしているアーシアだった。

 俺は彼女へ近寄り、手首を掴んで脈と魔力の流れを確認する。...しかし、そのどちらもアーシアからは感じられなかった。

 っ!悲観している場合じゃない。俺はすぐに自分の魔力をアーシアへ注ぎ込んだ。すると、予想以上にその原因が早く判明した。

 

「命と何か深く繋がりのあるモノが、無理矢理剥がされてるな」

「っ、やっぱり...!そうなのかよっ!」

「?何がやっぱりなんだイッセー?」

「夕麻ちゃん...レイナーレが言ったんだ。神器を奪われた者は死ぬって」

 

 

 俺は弾かれたように手を動かし、もう一度アーシアへ魔力を流し込む。

 確かに、彼女からはあるべき神器...聖母の微笑みの存在が感じられなかった。ということは、つまり────────

 

 

「あぁら、逃げずにいたのね?イッセー君♪」

 

 

 あるべきアーシアの神器が、何者かに奪われているということだ。




冒頭に出て来た人物はオリキャラではありません。...といったら、誰かはもう分かっちゃいますかね?

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