冥界、グレモリー領某所にて。
俺は一人(匹?)の黒猫と向き合っていた。
今日は黒歌との実践を兼ねた、何回目かの鍛錬だ。しかし、これまで直接拳を交えたのは両手で数えられるくらいだったので、前回までの試合で得た知識は正直当てにならない。
今度は一体どんな芸を身につけたのか...楽しみだな。
「手加減なし、制約もなし。好きに戦っていい....それでいいな?黒歌」
「ええ!...ふふ、久しぶりの実戦にゃん!腕がなるわ!」
黒歌は初めから本気で来るらしい。仙術により増幅された黄金色の闘気が四肢から溢れだしていた。
─────なら、俺も
「...『
右手に魔力を凝縮し、限界近くまで集まったそれを己の望んだカタチへ具現させる。
其の名は、
紅き槍から放たれる圧倒的なまでの存在感と魔力を感じただろう黒歌は、口角を吊り上げながら増々闘気を立ち昇らせた。
「っ!コウタ、今日は...」
「ああ、ちと本気でいく」
言いながら槍を手のひらで一回転させ、俺は地面を蹴る。
それに対し、黒歌は暴風のような気の嵐を飛ばして応戦したが、俺の横薙ぎに振るった赤槍で跡形もなく霧散した。
「なっ!?」
「手加減してる暇はないぞー?」
「してないにゃー!」
碌な足止めにもならなかった事は想定外らしく、即興の結界による防御に出た黒歌。それでも、目前に張られたそれは空間を歪める程だ。恐らくコイツ単体で突いても破れない。
そういうこと全部を分かった上で、俺は赤槍を閃かせる。
「ラァッ!」
「無駄よ!その槍がいくら強力だとはいえ、これは幾重にも連なる空間をそのまま盾にしたもの...貫けるはずがない!」
黒歌の声を聞かず、俺は槍の切っ先を突き入れた。───────地面へ。
ズドム!という鈍い音とともに、刃先が完全に地中へ埋まる。
外した?いやいや、それは違うよキミ。
「上がダメなら下から攻めるッ!」
瀑布の如き魔力を両手から槍に流し込み、土に埋まったその先端部で運動エネルギーへと変換する。
小細工など必要ない!芸術は爆発だ!
実際は芸術もクソもない
「やっぱし、
爆発で巻き上げた岩を足場に飛び上がり、宙に漂う黒猫へ肉薄する。そして、射程距離へ入った瞬間に一閃。
ガギィッ!!
「っお....?!」
しかし、振るった槍は謎の一撃を受けて上へ弾かれた。と、そう理解した時には既に、がら空きとなった俺の腹へ気弾が炸裂していた。
降っている岩を粉砕しながら地面へと墜落し、容赦なく固い岩盤に四肢を叩きつけられる。
俺はたまらず血を吐いた。二重の防護魔術を展開しててもこのザマか...!
「ハハハ、っぐ.....久し振りに楽しいな」
俺は持っていた槍を空へ突き上げ、続けて追ってきた気弾を全て迎撃する。
足が少しふらついたが、すぐに槍を杖がわりにして立ち上がり、目前にまで迫って拳を突きだしてきた黒歌を、ゲイ・ボルクと入れ替わるように
「なるほどな、強力な仙術で気を編みあげて腕を強化してたのか...ゲイ・ボルクが通らない訳だ」
「冷静に、分析してる暇は、ないわよ!?」
上下左右から振るわれる必殺の手刀を上手くいなし続けるが、片手剣は凄まじい勢いで刀身を削られていく。...こりゃあと五手で折れるな。
秒単位で応酬される剣戟を、俺は目で追って数える。
左、上、左、右──────下!
五手目。下方から突き上げるように打ち出された黒歌の手を、上段からの一閃で弾いた瞬間...ついに名もなき短剣は柄を残し砕け散った。
武器を失くした俺を見た黒歌は、勝利を確信しながら詰めの一手を放つ。
「私の.....勝ちよ!」
瞬間、俺は両手へ大量の魔力を集約させ、同時に暖めていた脳内のイメージを解き放つ。
「『体は、剣で出来ている』」
『武具創造』とは、精製と違い、己の知識に補完されている剣や槍などを、魔力で
そう聞くだけではただの模倣、複製ではあるが、この能力で生み出された武具は何の力も持たないレプリカなどでは決してない。
それが、俺の
こんな説明では、『なんだ、結局レプリカじゃないか』と呆れ気味に反論する人が大半だろう。しかし、残念ながら世で一般に言われるレプリカと、俺の能力で創られる『モノ』とには決定的な差がある。
ガッギィィン!!
「っな!...あのタイミングで、弾かれた!?」
「『血潮は鉄で、心は硝子』」
「ぐっ、早....!」
「『幾度の戦場を駆けて不敗』」
魔力。
純度の高い魔力が、かつての英霊が所持していた武具の記憶を、技を、時代を、奇跡を埋める。
皆はご存知だろうか?
かつてキリストを磔にした刑具である原初の十字架は、凄絶なまでの聖なる力を得ていることを。そして、それを象った十字には全て、重さ、大きさ、色、材質が違えど、それと同質の力を少量とはいえ天から賜ることを。
しかし、武具の記録、記憶すら埋めたそれは、最早虚飾とは程遠く...最も真に近い偽物と言える、至高の贋作。
────────
「『ただの一度の敗走もなく、ただの一度も理解されない』」
「ッ───────まだよ!」
両手で閃くのは黒と白の夫婦剣、干将・莫耶。とある英霊が愛用している、一見飾り気のない二対の剣だ。
だが、あらゆる剣を創造して手に握っても馴染まなかった俺の感覚が確かに応えたのは、干将莫耶ただひとつだった。
「『彼の者は常に一人、剣の丘で勝利に酔う』」
「(手数が、多すぎる!)」
本来この武器を手にしていた赤き英霊と俺とを比べると、遥かにその技術は劣る。当然ながら、伝説の剣を凡人が持ったところで、その者が強者となれる道理はないのだ。
それでも尚あの背中へ追い付こうと、我ながら呆れるほど魔物やら魔獣との戦いで干将莫耶を振るった。
...当時の俺は何度もこう思った。「何をしたら腕を音速で振れるようになるんだよアホエミヤ!」と。
「『故に、生涯に意味はなく』」
「なら、その剣ごと―――――」
剣が腕の一部になったんじゃないかと錯覚するぐらいの極地に至ったとき、俺はようやく『何か』を掴んだ。
その経験を忘れぬうちに弛緩する筋肉を無理矢理収縮させ、今しがた屍へと変えた魔物に再度刃を振るった。
終わったあと。そこには....細切れになった肉塊があった。
両手で一振りずつしかしていないはずなのに、無意識に一瞬の内で手数を増やしていたらしい。流石に第二魔法の一端を力業で為すあのNOUMINと比べては劣るだろうが、それでも常人には到底たどり着けぬ技だった。
何かの間違いだと勘繰って、襲ってきたもう一体の魔物へ、今度は全力で干将莫耶を振るう。
その後の結果は、皆様のご想像にお任せしよう──────。
ただ、一つだけ口にするならば...加減の大事さを心に刻めた、といったところだろうか。
「『その体は、きっと────────』」
突き出された岩さえ砕く黒歌の両手に、漆黒と白亜の両剣で応えた。
俺はこの詠唱によって固有結界を展開させることはできないので、あくまでステータスを高める名目の使用に留まる。しかし、それでも十分だ。
何故なら────
バキィィイン!
「っ!ウ、ソでしょッ?!」
左手に持った干将のみが砕け散り、漆黒の破片が陽光を受けて輝く。それに対し、黒歌は両手ごと上方へ弾かれ、大きく仰け反っていた。
「『───────剣で出来ていた』」
俺は右手に残った莫耶を黒歌に突き付け、そこで勝敗は決した。
***
「えっ、あれでも全力じゃない?!」
「う、うん」
「にゃにゃ~...幾らなんでも強くなりすぎにゃあ」
黒歌曰く、俺の振るった干将莫耶をあそこまで防げたのは“勘”らしい。つまり、全て偶然。
確かに、猫又なら動物以上の鋭い危機察知能力と動体視力を備えていても不思議ではない。だが、大抵の魔物は一手でサイコロステーキ化する速さの剣戟を、数百回も全て偶然で捌いたと言うのは、その特性を差し引いてもあまりある事実だ。
「黒歌、大丈夫だ」
「むぅ~何が大丈夫なの?」
「お前は恐らく、俺の早さについていける『目』を持ってる」
「?...な、なんで分かるのにゃん?」
「アレは偶然やら勘だけじゃ避けられねぇからだ」
偶然ではない。ならば必然。
つまり、彼女は
体が動いたのなら目で追うことなど造作もないはず。どうやら、黒歌は初歩を抜かして応用へ飛んでいってしまったらしい。
「やっぱり才能ってやつか....羨ましいなぁ」
「?私なんかより、コータの方がずっと才能の塊だと思うけどにゃあ」
「天才はスマートなんだ。俺みたいに血と泥にまみれて強くなった奴は天才とは言えない...まぁ、固定観念だろうが」
傷を粗方治し終わったので、地面にどっかりと座り込む。
ふと周りを見渡すと、陥没し、めくれあがった大地が視界に入る。ヤバイな、これは早めに直しておかないと。
慌てて立ち上がろうとしたところで、黒歌の思い出したかのような声が俺の行動を制した。
「そういえばコータ。私って闘う前から仙術を使って弱体化を狙ってたんだけど...どうやってあれを『弾いた』の?」
「あぁ、そういうのはよっぽど強力じゃなきゃ、俺の体質に阻まれるからな」
「体質?」
「そ」
俺の体内に流れる魔力は、まるでそれ自体が意思を持っているかのような性質を有するらしい。(サーゼクス談)
身体の主である俺が気付けなかった呪術や魔術を勝手に跳ね返したり、打ち消してしまったりなど、まるで免疫機能みたいな振る舞いをする。
黒歌の気も、俺自信気付いてはいたが敢えて対処しなかった。「これぐらいなら、免疫でOKだな」と言った感じに。
「その気になれば、周囲の生命の息吹すら御せる業を『これぐらい』...」
「まぁ、干渉系の魔術は腐るほど受けてきたからな。耐性もガンガン付くってもんだ」
「な、納得できてる自分がいるにゃん。流石コータだわ」
瞳をキラキラさせる黒歌へサムズアップしてから、その状態のままで片腕を動かし、前方に広がる荒涼とした大地を指差す。
「うむ!じゃあ片付けするか!」
「あまりにも脈絡がなさすぎる『じゃあ』の使い方にゃあ...。でもグレイフィアに見付かったら殺されるからやるわ」
文句を垂れながらも、めくれあがった岩盤を砕き、砂礫にしてから地面へ敷き詰めていく黒歌。
さてさて、俺もやるか....っと?
「なんだ?」
ふと微細な魔力の流れを感じ取り、俺は首を傾げながら発信源である例のノートを取り出す。その直後、勢いよく開かれた白い紙面へ文字が刻まれ始めた。
内容は────────
「っ、黒歌!急いで終わらすぞ!」
***
ノートへグレモリー先輩から送られてきた文面は、町内にある廃教会で堕天使が何らかの儀式の準備をしているというものだった。そして、それにエクソシストたち教会の連中が強力していたことで、これまでの疑問が全て氷解したのだ。
『堕天使』と『教会』は、繋がっていた。
現在はオカルト研究部部室内にて、その事実に対する作戦会議を開いている。
「あの白髪エクソシストと戦ったのか、イッセー」
「一応な。手も足も出なかったけど...」
足を押さえたイッセーは、苦々しい顔で自分の非力さを悔やむ。交戦中にあの光弾で打ち抜かれたんだと。
一連の出来事を知る全員の話しを聞く分だと、どうやらアーシア・アルジェントは良からぬ事へ巻き込まれているらしい。例のエクソシストが戦闘中に、堕天使が彼女を使って何らかの儀式をするという発言をしたのだと、イッセーは言った。
まぁ、熱いコイツの事だ。例え何が待ち構えていようと教会へ乗り込むつもりだろう。
「あの神父にはボロクソやられたけど、アイツは嫌がるアーシアを本気で殴りやがった...!このまま引き下がるのは、俺が俺を許さねぇ!」
「駄目よ。イッセー」
「ッ、部長!でも」
「教会には貴方を殺した堕天使レイナーレと、殺しかけられたはぐれのエクソシストの他にも味方がわんさかいるのよ?そこへ単身で突貫するなんて...死にに行くようなものじゃない」
「!──────────────クソッ!!」
イッセーも端から分かっていたのか、グレモリー先輩の言に言い返せず机を殴りつける。その瞳は口惜しさに溢れていたが、決して折れる事の無い燃え盛る決意も垣間見えた。
コイツ......絶対諦めてねぇな。
これからのイッセーの行動が楽しみだ。
オリ主との模擬戦やら、冥界での単身修行により黒歌は原作より強い設定です。でもオリ主にはあっという間に負けます。
追伸:この話で展開された好き勝手な論弁に、何か致命的なミスがあれば遠慮なく仰ってください。一応、設定の大筋はFateです。