前世も現世も、人外に囲まれた人生。   作:緑餅 +上新粉

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 タイトルを見て分かるように、今回はあのオモシロおかしい方が文字通りはっちゃけます。


File/10.似非神父

「ふぁ~」

「なんだイッセー、寝不足か?」

「いや、なんだかココのところ身体が変でな....」

 

 

 すでに俺の彼女、天野夕麻ちゃんとデートしてから数日が経った...はずなのだが、不思議なことにその日に何をしてどう帰ってのかがさっぱり思い出せないのだ。記憶喪失にでもなった気分である。

 しかし、妙なのはそれだけに留まらず、何故か最近になって太陽の光を浴びるとチクチク肌の表面が痛み、対して夜は気分が高揚し外に出てはしゃぎたい気分になる。

 

 

「はぁ、風邪かもしれないな...てか、お前が松田じゃなくてグレモリー先輩や姫島先輩だったらなぁー。おでこに手を当てて熱計ってくれたのに」

「無茶言うなよ。俺らじゃ到底手の届かない高嶺の花だぜ」

「ふえぇぇ」

「キモッ!変な声出すな!」

 

 

 泣きたくもなるわこんちくしょう!誰に聞いたって夕麻ちゃんのこと知らないっていうし、まさか俺に彼女がいたこと自体同じように全員の記憶からなくなってんのか!?

 神様、アンタはなんて残酷なんだ!折角上手く行くようにグッチー叩いてお参りまでしたのに...って、何か思い出したら頭までズキズキしてきた。

 

 

「スマン、ちとトイレ行ってくる」

「おう。()してる元浜とバッタリ合うなよ」

「勘弁してくれ」

 

 

 ケラケラ笑う松田へげんなりした顔を向けてから、俺は教室を出て男子トイレへ向かう。今は勿論休み時間なので、廊下は別クラスの友人と談笑する生徒や、次の教科が移動教室である生徒たちで一杯だ。

 

 

「...ん?」

 

 

 だが、そんな中でモーゼの奇跡が如く、人の波を割って歩いている人物がいた。

駒王学園の二大お姉さま、リアス・グレモリー。俺が憧れて止まない紅髪の女性。

 本来なら、こうやって姿を目の当たりに出来ただけでも飛び上がって喜べるところなのだが...今日はそれを押し退けるほどの巨大な疑問が鎌首をもたげていた。

 

 

「あれ...?あの時────────」

 

 

 夕麻ちゃんとデートをした日の不明瞭な記憶を漁ると、何故か真っ先に彼女の紅い髪に似た色が浮かんだ。

 赤い紅い、血にまみれたような.......俺の、手?

 

 

「.............」

「っ!?」

 

 

 思考を止めて頭を上げたところで、丁度俺を見ていた(?)彼女との視線が交錯したような気がした。

 真実かどうか何度も脳内でシュミレートしてみるが、それは無駄骨で終わった。

 

 

「ふふっ」

 

 

 何故なら、今度はハッキリと俺へ向けて笑みをくれたからだ。

 な、なんだ?知らない内になんか仕出かしてたのか俺っ!もしそうなら意地でも思い出してやるッ!!

 

 ....余談だが、俺がトイレに行くという本来の目的を思い出したのは、授業開始の鐘がなってからだった。

 

 

 

          ***

 

 

 

「はっ、ふっ...!」

「.........」

「ふっ、ふっ、はっ.....!」

「コウタさん」

「ん..なんだ?辛いか?」

「いえ、それは寧ろ私から言いたいぐらいですが...これで本当に修行になるんですか?」

「おう!なるぞ」

 

 

 放課後になった今は、お馴染みのオカルト研究部部室内で腕立て伏せをしている最中である。その背中には小猫ちゃんが立っており、俺に掛かっている重量はかなりのものだ。

 しかし、不安定な足場で...かつ上下に移動する背へ微動だにせず直立している小猫ちゃんも凄い。本人はこれが辛いとは思っていないようだが。

 

 

「はぁ、はぁ....くっ、地道な筋トレも、なかなか馬鹿に出来ないね」

「おお、木場先輩もそう思うか」

「うん...でも、既に五百は越えてるはずだよね?何で...息が上がってないんだい?」

「それこそ、鍛え方が違うってもんさ」

「はは.....なるほど、納得だよ」

 

 

 木場は三百回で音を上げた。だが、ノンストップでそれだけできれば十分人外レベルだと言える。その後は、もう百回と奮闘したものの力尽きた次第である。イケメンのくせに随分と熱いガッツを隠し持っているな。

 

 

「基礎が出来てなきゃ応用には行けない。当然だが大切なことだぞ?」

「それだけ喋りながらペースを上げるって凄いね、栗花落君。小猫ちゃんも全くブレてないし」

「修行....(ガクガクガク)」

 

「ふぅ、戻ったわよ...って、コウタと小猫は何をしてるの?」

「あらあら、トレーニングかしら?」

 

 

 腕立て伏せを加速させたところで、扉の方から先輩方二人の声が聞こえた。

 俺は背中の小猫ちゃんに合図してから起き上がり、普通に頭を下げて挨拶しておく。確か二年生の教室へ用があって行ってたんだったけか。

 と、先輩たち二人の背後から聞き覚えのある怒声が響いてきた。

 

 

「なぁ!?何でお前が此処にいるんだ、栗花落後輩っ!」

「ん?その声はイッセーか。...ああ、先輩方はイッセーを迎えに行ってたんですね」

「うふふ、ちょっと彼のクラスは荒れちゃったけどね」

 

 

 ペロリと可愛らしく舌を見せて、お茶目な表情を俺へ向ける姫島先輩。ひょっこり顔を出していたイッセーが隣でデレデレになっとる。

 グレモリー先輩はそんな彼を諌めたあと、イッセーを部屋中央部に備え付けられたソファーへ座るよう促した。

 さて、俺は端にでも移動するかな。これからイッセーへ冥界やら悪魔やらの説明が始まるだろうし。

 

 

「コウタさん、お茶です」

「おお、あんがとさん」

 

 

 小猫ちゃんはお盆に乗ったカップを俺へ手渡すと、そのまま全員へ同じ要領で配った。

 それが終わると、お盆を戻してから俺の隣へ立って沈黙。ちゃっかり上目遣いで確認を取ってきたのが可愛いったらありゃしない。お茶のお礼も込めて小猫ちゃんの頭を撫でてみると、嬉しそうに目を細めて尚更俺へ擦り寄ってきた。

 

 

(イッセーは....一体どんな神器を持ってるんだ?)

 

 

 あの日。自らの血に沈んだイッセーをグレモリー先輩が悪魔へ転生させた時、確かにアイツは兵士(ポーン)のピースを全て取り込んだ。

 悪魔を眷属にする上で、駒の消費量はその者の強さに比例する。すなわち、イッセーは...

 

 

「コウタさん」

「ん、どうした小猫ちゃん」

「イッセー先輩が放心状態です」

「あらら確かに...まぁ、世界観が百八十度変わったと言っても過言じゃないからな」

 

 

 彼女できた!からお腹ブスーでその彼女は堕天使でしたァ!の急転直下から更に、この世界には悪魔がいるんだぜ?実はテメェもその悪魔の仲間入りしたんだぜ?なんて言われたら誰だって気が狂う。イッセー頑張れ、超頑張れ。

 ...にしても、グレモリー先輩がこいつを眷属にしたって事は、オカルト研究部へもう一人新入部員が追加されたってことか。此処も一気に男臭くなったなぁ。

 そんなふうにしみじみ思っていると、何となくある疑問が浮かび上がってきた。

 

 イッセーがあれだけ駒を喰う強キャラなら、眷属じゃない俺っていなくても別に大丈夫じゃね?

 

 

「よっしゃ決めた!上級悪魔になって、俺はハーレム王を目指してやるぜッ!!」

 

 

 ...やっぱ心配だな。てか、立ち直り早い。

 やんちゃ坊主を眺めているかのようなグレモリー先輩の表情を鑑みるに、交渉の余地は残念ながら無さそうである。イッセーのお目付け役は何が何でも辞退させて貰うが。

 

 

          ***

 

 

 

「玉葱トマト白菜~♪....ゴロ悪いな」

 

 

 買い物で選ぶ予定の食材を口ずさみながら、日が傾きかけた休日の住宅街を歩く。

 黒歌からは、例のノートを介して修行が長引いた事を謝る旨の報告が届いている。余り無理はして欲しくないが、強さを求める姿勢は『あの時』より格段に良くなっていることは良い兆候だ。

 

 

「実力は確かに増してる...そこはいい。だが、スキンシップをマシマシにする理由は分からない」

 

 

 昨日は素っ裸で抱きつこうとして来やがった。何とか鋼の理性を総動員してかわし続けたが、黒い欲望に負けて抱擁を許しそうになったのも事実。メロンが!俺を惑わすあのメロンがいけないんだよ!

 

 

「メロン、メロン...そうだ。メロンがいけないんだ」

 

 

 あの凶悪な肌色果実×2を脳内で思い描いてモンモンとしながら歩いていると、上の空だったお蔭で、不意に道の角から現れた礼服の少年とぶつかってしまう。

 

 

「おおっと、スミマセン」

「いーえいえ、私はこれしきの事で怒髪天を衝くようなキレやすい若者ではないのでー」

 

 

 色素が抜けたかのような白髪をした少年神父は鷹揚な言葉使いで頷くと、くるりと半回転し、さっきまでとは反対方向へ歩き始めた。あれ?道逆なんじゃ....

 そう訝しげに思ったところで、唐突に神父は足を止めて聞いてきた。

 

 

「あのぉー、つかぬことを聞きますですが、道の途中で金髪のきゃんわいいーシスターちゃんと会いましたですかね?」

「?いや、会いませんでした」

 

 

 変な言葉遣いだな...見たところ外国人っぽいが、母国語で喋ってもこうなのか?

 俺は耳につけてるピアスへ音声変換の術式を組み込んでいるので、大抵の言語は脳へ伝達される前に適した日本語へ変換されて聞こえているのだ。

 ちなみに、悪魔は元から変換されて聞こえるらしい。今頃イッセーも国際的な男子となっているだろう。

 

 

「んー、そうっすかぁ...まいったなぁ、いやぁまいったまいった」

 

 

 後頭部をボリボリと掻きながら溜め息を吐いた神父は────────

 

 

「じゃ、憂さ晴らしついでで俺ちゃんの前にいる汚っねぇ悪魔と通じてる汚ったねぇ人間を、世界狙える現代アートにでも変えてやるかね」

「....!」

 

 

 コイツ.....ヤベェな。

 今まで生きてきて、色々な輩から発せられる殺気やら闘気...果ては狂気まで浴びるほどの量を経験したが、人間でこれほど負の方向性を持った『気』を放った者は初めてかもしれない。

 久しぶりの強敵から当てられる殺意で、いつもより素早く臨戦態勢へ移行出来た。それにしても、まともにグレモリー先輩たちと接触したことはあまりないというのに...先方は随分と鼻が効くようだ。

 

 

「あるぇ?多少腕に覚えはありますよってか!なにそれ生意気!だからさっさと逝っちゃってよ!」

 

ヒュッ!

 

「うおっと!」

 

 

 飛び掛かりながら繰り出された神父の光の剣を避ける。あの強い聖なる魔力...コイツは悪魔狩りのエクソシストか!

 相手もそれなりに身体強化をしているらしいな。動きが尋常じゃなく早い。

 神父は持ち手と手首をくるくると回転させ、縦横無尽に刃を閃かせる。だが、俺はそれを何とか見切って掻い潜り、後退していく。

 

 

「当たらねぇ当たらねぇ掠りもしねぇ!ならもうイッコ増やしても大丈夫っすよね旦那!」

「!もう一個って─────銃かよ。...チッ。遠近どっちかの戦法とれっつの」

「センポーてなんすかぁ?ショウロンポーのお友達かなにかかね?お、想像したら俺っちベリベリハングリー状態よ」

 

 

 神父がもう片方の手に持ったのは、派手な彫刻があしらわれた銃だった。奴はそれも交えて剣との攻撃を再開する。

 一見、武器が増えたんだから強くなって当たり前だと思うかもしれないが、見様見真似でやるとその難しさが分かるはずだ。

 両手とも剣ならまだしも、双方で攻撃手段の異なる武器を持つとなると、自分の手にあるモノが何なのかを脳味噌に叩き込まねば、動きに大きな乱れが生じる。数瞬の隙で首が飛ぶ戦場においては、これは致命的な弱点となる。

 

 下段からの袈裟斬りには足を半歩後方へずらして軌道上から逃れ、続けて繰り出された光の銃弾はそのまま身体を倒して避ける。

 

 

「やるな、エセ神父くん」

「ほえー、旦那も人間のくせによくやりますわ。ま、アタシもヒューマンなんですけどね。ナカマナカマー」

 

 

 口調ではふざけながらも銃口を向け、攻撃を再開させる少年神父。...これ以上ドンパチやると人払いやっててもキツいな。

 俺は光弾をステップしながら避けると、最後の一発を魔力で強化した手刀で貫く。その後、すぐに全力で駆けた。

 

 否、駆けるというより、()()と言ったほうが合っているか。

 

 

「は?」

 

 

 魔術により足を強化した一歩。並の人間なら、意識を元居た場所へ置き忘れるほどの(はや)さで以て敵へ飛翔、肉薄する。

 あの少年神父の目に映っていた俺は、まさに突然消えて見えただろう。

 

 しかし、欠点はある。

 

 

ガゴォッ!!

 

 

 跳んだはいいものの、自然に停止する便利機能など備わってないため、無理矢理自分でブレーキを掛けなければならないのだ。

 ブレーキの方法は簡単。踵を地面へ叩き付ければいい。これまた並の人間が試みると、急停止時の埒外な慣性で眼球が発射される可能性がある...かも。

 

 

「んじゃおやすみ」

 

 

 俺は少年神父の顔面を無造作に掴むと、そのまま引き倒す。

 奴は後頭部をアスファルトへ叩き付けられ、脳味噌をシェイクしたことで意識を完全にトばす。うし、これでおk。あとはコイツの身柄をどうするかだな...

 一頻り悩んだあと、俺は神父をあの公園へ持っていき、適当な茂みのうら当たりへ放置した。元々人通りは少ないし、この時間なら問題ないだろう。

 

 

「あとは人払いの広域結界を解除して─────と、ん?.........あれは」

 

 

 間違いない。今公園を横切っていったのはイッセーだ。

 だが、隣にいた金髪のシスターは誰だろうか?結構親しそうな雰囲気で歩いていたけど....

 

 

「まぁ、アイツは女襲うような曲がった野郎じゃないし、ほっとくかね」

 

 

 満足気に溜め息を吐いてから、公園を出てさっさと家に帰ろうと決めた。...が。

 

 ああ!そういえば買い物しなきゃいけないんだった!遅れて帰ってくる黒歌より遅くなったら変に勘繰られかねない。急いで終わらせねば!

 やべ、買うものなんだっけ?...買うもの、買うものは....

 

 

「ええーと、確か......メロンかっ!!」

 

 

 違います。

 




 初めて主人公がまともに戦ったのは、よりにもよってアイツです。やったね。

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