トールバーナ噴水公園、その代名詞ともいえる噴水は、夕日に照らされ、ほんのりと茜づく空に向かって高々と水を吹き上げていた。
今日開かれる攻略会議のために、レンとカズはレべリングをやめて、久方ぶりに広場へと足を運んでいた。レンガ周りを見渡すと、様々な防具や武器をひっつらえたプレイヤー達が、沈黙を貫きながら数多く佇んでいた。
「あ!レンとカズじゃん!!」
レンの背中越しから聞こえてくる高いソプラノ声、振り返ると、綺麗な藍色のツインテールを揺らしながら、駆けてくるレナと、ゆっくりと歩いてくる黒髪の剣士キリトがいた。
「久しぶりだな。死んでなかったのか」
「のっけから御挨拶だな、カズ」
茶化すような数の物言いに、キリトは苦笑しながらもそう返した。
「キリト達も攻略に参加するんだ、心強いな」
「あったり前ジャン!!レンの出番なんてないくらい活躍するから!!!」
「おー、ますます心強いな」
レナの快活さも相変わらずといったところか。
「はーい。それじゃあ始めさせてもらいます!」
パンパンと手をたたく音と共に、青髪の好青年が前に躍り出る。レン達は、積もる雑談を切り上げて、耳を傾けることにした。
「俺は《ディアベル》!!気持ち的に、ナイトやってます!!」
ドンッと胸をたたきながら笑うディアベルに、会場がどっと沸く。
「…へえ、なかなか」
「やるな」
「ああ」
今までどこか陰気とした雰囲気を一変させたティアベルの人柄に、レンとカズは思わずつぶやく。口笛や拍手などを受けながら、ディアベルは堂々とした佇まいで続ける。
「......今日、俺達のパーティーが、ボス部屋の扉を見つけた。一か月。ここまで一カ月もかかったけど…それでも俺たちは伝えなきゃいけないんだ!第一層をクリアして、始まりの街にいるプレイヤー全員にクリアできるんだってことを!!そうだろ?みんな!!!」
その一言で、周りがにわかに活気づく、その立ちぶるまいはまるで勇ましく戦場を駆け抜ける騎士のようだとレンは思った。
***
――パーティーメンバーとして命は預けられんし、預かれへんと、ワイは言うとるんや!!
ディアベルがボスの説明を行っているときに、ソレは起きた。キバオウと名乗ったイガグリ男が、まるで親の仇でも見るかのように厳しい目で、βテスター達のことを糾弾したのだ。主な内容は、
――βテスターはゲーム開始時、右も左もわからないビギナーたちをおいて、みんな消えてしまい、ウマい狩り場やらボロいクエストを一人占めしおった。そのせいで多くのプレイヤーが死んだため、そのことについて土下座し、汚くため込んだ金とアイテムを吐き出してもらわんと、元βテスター達、ひいてはここにいるすべてプレイヤーを信用することはできへん――というものだった。
たったその一、二言の所為で、再び広場が嫌悪と疑惑に満ちた陰気に包まれた。元βテスターとして何か思うことがあるのか、ギリィィッと、レンに聞こえるほどに歯をかみしめているカズの顔は、穏やかではなかった。
「発言、いいか」
そんな中で、不意に日本人離れした黒肌の男が立ち上がった。その体は屈強で、浮き出る筋肉質な体をぴったりとレザーアーマーで武装し、背中にあつらえてある背中の両手斧が、スキンヘッドにした特徴的な男に妙にマッチングしていた。
男は、そのまま前に歩み出ると、周りに一礼してからキバオウを一瞥し、向かい合った。
「俺の名前はエギルだ。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、元βテスターが面倒を見なかったからビギナーがたくさん死んだ。その責任をとって、謝罪・賠償しろ、ということだな?」
「そ……そうや」
百九十センチはあろうかと巨体に、キバオウは気押されたように片足を後退させるが、やがて再び前のめりになり、叫んだ。
「あいつらが見捨てへんやったら、死なずに済んだ二千人や!もし見捨てへんかったら、今頃二層や三層まで突破できたとちゃうんか!!」
まるで呪詛でも吐くかのように喰いかかるキバオウに、エギルは眉ひとつ動かすことなくレザーアーマーの腰にあるポーチから、羊表紙に閉じられただけの簡易な本アイテムを取り出した。
「このガイドブック、あんたも知ってるだろう」
「もちろんや、それが何や!!」
「なら話は早い、これは、元βテスターと思われる人物が、無料配布したものだ」
「な、なんやて?」
「いいか、情報はあったんだ。なのに、多くのプレイヤーが死んだ。それは彼らがベテランのMMOプレイヤーだったからだと俺は考えている。このSAOを、他のタイトルと同じ物差しで測り、引くべきポイントを見誤った。βテスターがすべて悪いわけじゃない。見捨てた、とあんたを行ったが、そのβテスターの中には、危うく殺されそうになっているプレイヤーを助け続けているやつだっているんだぞ。もしそいつがいなければ、今頃死者は二千人どころの話じゃなかったかもしれん」
エギルは、それをキバオウだけでなく、広場にいる全てのプレイヤーに語りかけるように言葉を紡ぐ。
「せ…せやかて」
「せやかてもクソもあるか」
納得がいかないのか、まだ糾弾しようとするキバオウに、今まで沈黙を貫いていたカズが、突如として立ち上がった。その顔は、今までレンが何度しかみたことがないほど険しかった。
「全てのβテスターが悪い奴じゃないんだよ。皆、生き延びようと必死なだけだ。正直、こんなことでいちいちいがみ合っても何の意味もないだろ!」
そうしてカズは再び席に座った。
「なあ、キバオウさん、あんたの言い分もごもっともだが、ここは引いてくれないか?」
「………ふん、ええわ、ここはあんた達に免じて従ごうたる」
キバオウは、カズを少し睨むと、元の場所へと帰って行った。
「よし!それじゃあさっき言ったとうり、レイドの形づくりのためにパーティーを組んでくれ」
まるで仕切り直しと言わんばかりにディアベルが手をたたくと、プレイヤー達はぞろぞろと動き出した。
「なあ、俺達とパーティーをくまないか?」
先ほどまで俯瞰を決め込んでいたキリトがそう提案した。
「ああ、俺は別にかまわないが…」
チラリ、と、カズは同意を求めるようにレンを見た。
「俺も構わないよ、見知らないプレイヤーと組むよりは………」
続けようとしたレンは、ある光景を視野に入れた。会場はパーティー編成のためにある程度のかたまりができている中で、くすんだローブをまとったプレイヤーだけが、どこか物寂しげにポツンッと見つめているその光景。
「あ、どこ行くんだよ」
カズの質問に答えることなく、レンは見覚えのあるローブのプレイヤーへと歩み寄った。距離が近づくにつれて予想は確信へと変わり、レンはフェンサーに声をかけた。
「フェンサーさんはひとりなのか?」
すると、ローブのフェンサーはそのしばみ色の瞳をレンに向けた。
「一人じゃない。みんなが仲よさそうだったから、間に入るのが申し訳なかったの」
「ははは、そうですか」
それを世間一般では“ボッチ”というんです...と、レンは心の中で突っ込むが、決して口には出さない。
「じゃあさ、俺達のパーティーにはいらないか?」
「あなたの?」
「ああ」
そしてレンは、カズ達のほうを指差す。そこには、レナに何かされたのか、とてもあわてているキリトと、それを見て笑っているカズがいた。その光景は、この殺伐としたSAOの中、他のどこのパーティーよりも穏やかで、どこかぬくもりを感じた。
「フフフッ…あなたのパーティーは面白いのね」
「だろ?」
ローブのフェンサーは、しばし考えるそぶりを見せた後、
「分かったわ、よろしくね」
と、コクリとうなずいた。
「そっか、俺はレン、改めてよろしく」
「私はアスナ、こちらこそよろしくね」
二人は握手を交わした後、まだ騒いでいる仲間の元へと歩いて行った。
***
攻略は明日の早朝、ということで会議は終了し、すっかり日も落ちてしまったトールバーナの街の一角にある場所で、アスナはぱっさぱさのゴリゴリとした黒パンを咀嚼していた。一個一コルというパンだが、ゆっくりとかみしめると美味しく感じることに妙なくやしさを感じながらも、手を動かしていると、
「結構うまいよな、それ」
と、背後からレンの声がした。
「あなた、いつから…」
「となり、座ってもいいか?」
「…………どうぞ」
話を遮られたことにアスナはジト目でレンを見つめるが、薄ブロンドの少年は意に介することなくアスナの隣に座った。
「まあ、そのパンにコレかけてみ?絶品だから」
言いながら、レンがウィンドウから取り出したのは二つの小瓶。渡されても使い方が分からず、困惑しているアスナ尻目に、レンは慣れた手つきで手に持っていた黒パンにクリームを掛けて齧り付いていた。
とりあえず、同じようにアスナは黒パンにトロッとした薄肌色のクリームを掛けて齧り付いた。
「…!!」
すると、アスナの口に今まで食べてきた黒パンとは思えないほどの美味しさが包んだ。、二口目からは、無我夢中だった。
「これ…いったいどこで…」
「一個前で受けられる、《逆襲の牝牛》っていうクエストの報酬。気に入ったようだし、詳しく教えようか?」
そんなアスナがおもしろかったのか、まるで期待どうりといわんばかりにレンは笑顔を向けていた。
「…いい。私はそんなことのためにここに来たんじゃない」
「へえ……じゃアスナは何のために?」
一瞬心が動いたアスナだったが、きっぱりと断った。それをレンはどこか少年さがのこる澄んだ声で返していた。
「わたしが…わたしでいるため。最初の街の、宿に閉じこもって、ゆっくり腐っていくのなら、最後の瞬間まで自分のままでいたい。例え怪物に負けても、このゲーム…この世界には負けたくない」
それこそが、アスナ――結城明日奈の“意思”だった。これまで様々な大小の試練という名の壁を乗り越えたアスナだったが、今回の試練は、とても一人では乗り越えることができない……、そんなことを、まるで紐が解けたように脈ろなくレンにつぶやいていた。
「そっか。アスナは強いんだな。俺なんて、最初から怯えていただけなのに………」
アスナの独白を、そっと聞いていながら、レンはそうつぶやいた。今までとは打って変わり、両ひじを膝に乗せ、真剣な眼差しで地面を見つめているレンの姿が、強い意志を漂わせていた昨日とは打って変わり、アスナには、消え入りそうなほど小さく感じた。
キチリッ…
まるで昨日の再現のように再び芽生える言いようも知れない違和感がアスナを襲う。
――いったいこの引っ掛かりは何なんだろう?そして…どれがほんとのレンなの?――
知りたいのか、知りたくないのか、アスナには見当がつかなかった。
夢「あっと書きコーナー言ってみよー!」
レ「キバオウ...オールマストダーイ........」(←某ロシアのように
夢「どうしたん?なんか悪いもんでも食った?」
レ「いや、キバオウ苦手だから」
夢「.........いや......そんな理由かよ」
レ「マジであいつとは仲良くなれねー。絶対前世で何か因縁が有るって、うん」
夢「ふーん、なるほど」
レ「あのツンツンはなんだって感じだよ。どんだけイガグリリスペクトかって話」
夢「そ、相当嫌ってるじゃん」
レ「まあね、さて、お遊びは此れ位にして......今回の話で物語がグッと動き出したな!」
夢「おうよ!こっから楽しくなっていくぞー!!」
レ「でも、相変わらず先が読みにくいのは変わらないんだな」
夢「そこが俺クオリティー!!」(←ウルトラスーパードヤ顔
レ「アホじゃん...」
夢「それじゃあまたね!!」
10月27日ー最後の、真剣な眼差しで〜のくだりのところで"強い意志を漂わせていた昨日とは打って変わり"という一文を加えました。