SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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お久しぶりです

何やかんや色々あって遅れました。本当にすいません。

具体的に何をしてたかと言われればゲームに関してはモンハン、GTスポーツ、今はもうしてませんがWWIIなどなどです(笑)

WWIIで言えばWarですがハンドガンデュアルで6on screen splitのマルチキル、あとはドミネでV2を累計五発くらい落としたのが戦果ですかね


Ep59: Into a Badlands

極限まで気を張り詰めたまま、敵に察知されないように進軍をつつけること一時間。無駄な消耗を避けるためにエンカウントmobを避けたり迂回したりを繰り返しながら慎重に行動を重ねた彼らが辿り着いたのは、25層にあるフィールドの最南端。メインテーマとなる乾燥しきった不毛の地、未開の砂漠地帯を突き進み、不自然なほどにうっそうと生い茂るオアシスの木々が織りなす樹海を抜けた先にひっそりとある洞窟だった。

 

「これは……」

 

そんな驚きの声は、いったい誰のものだろうか。部隊を指揮し、その先頭にて待機命令を出していたアスナも、眼前に広がるその光景に言葉を失っていた。一面に広がる、ごつごつとした灰色の岩壁。そんな大岩を穿つ、ポッカリと開いた黒点――洞窟の入り口。それが、まさかこんな森を抜けた先に存在しようとは、いったい誰が予想できようか。

 

「ここがそうなの?」

「ええ、情報に誤りがなければ、ですが」

 

押し殺した声でアスナが尋ねれば、その左隣にて片膝をつくタークス隊隊員、シンドが頷いた。今彼らが待機しているのは洞窟の入り口から大凡十五メートルほど離れた森の中。並みの索敵スキルでは範囲外となり、上位互換のスカウティングスキルでさえエア以外なくばギリギリ感知できぬ範囲。互いの会話が自然と押し殺した囁き声になるのは、心理的な理由ももちろんあるがこういったシステム面での要因も大きい。

 

「今確認しますね」

 

彼はそれだけ言うと、森に生えたとある木に向かってハンドサインを送った。程なく、カサカサとその木の枝が揺れると共にその空間が歪み、誰もいなかったその場所に一つの人影が表れた。

 

「っ!!」

「お疲れ様です、アスナさん」

 

僅かに息を呑むアスナを尻目に、軽やかな動作で音なく地面へと着地したその人影――ベノナは、朗らかな笑顔と共に口元を覆っていたスカーフをずらした。

 

「どうしたんです?」

「いえ」

 

よっぽど顔に出ていたのだろうか、不思議そうに尋ねてくるベノナの声で、アスナはふと我に返った。

 

「まさかハイドしていたなんて」

「ああ、そのことですか」

 

彼女が呆気にとられていたのは、ベノナのそのハイディング技能の高さだった。これ程の至近距離にいたにもかかわらず、彼女を始め攻略組のメンバー全員が彼の存在を全く感知できていなかった。言うは易いが、それがいかに特異であるかは、彼女自身がよく知っている。特に攻略組は、自身が不意のランダムエンカウントに巻き込まれぬよう索敵スキルを上げているプレイヤーが多い。だが、そんな彼らの索敵すら潜り抜けて見せた彼のハイディングスキルはもはや化け物と言っても過言ではない。もし仮に、彼が敵であったとしたら、自分たちは不意打ちを喰らっている……そう思うと、アスナはぞっとしなかった。

 

ステルシー(Stealthy)の異名は伊達じゃないようだな」

「いえいえ、そんな」

 

感心したようなキリトの声に、謙遜するように手を振りながら柔和に笑うベノナが続ける。

 

「私たちは、立場上敵拠点やボスエリアへの単独潜入などが基本ですから。なにより、リーダーですしね。これぐらいはできないと」

 

人懐っこく、柔らかい笑顔を湛えたまま彼はさてとアスナへ振りかえる。

 

「私はここで一日、相手の斥候をしていたんですが、本日の十時位からでしょうか。あの洞窟の中に、相当数のレッドプレイヤーが出入りするのを確認しました」

「つまり……」

「ビンゴです。奴らはここで、大きな集会を開くつもりでしょう」

「数は?」

「正確には。しかし少なくとも三十はくだらないでしょう」

「三十…..か」

「こっちよりは少ないけど、絶対有利とはいえないね」

「そうね……」

 

レナの少し不安げな言葉に、アスナも頷く。

 

「どうしますか?」

「……切り込みましょう」

 

僅かな間をおいて、短くアスナは言いきる。それは、迷いない決断であるかのように、隣で聞いていたレナには思えた。――その決断を下したアスナには、少なくとも二つの算段がその胸中にあったからだ。まず一つ目に、彼らとのレベル差が十分に開いていること。そして二つに、たとえ相手に地の利があろうとも、こちらには奇襲というタクティカルアドバンテージがある以上他所の振りは覆せるだろうと考えたからだった。

 

「んじゃいきますか」

「オッケー」

 

シャランと音を立てて、キリトとレナがそれぞれの得手を抜く。それに触発されたのか、後ろで待機していたメンバーたちも一斉に武器を抜き始めた。

 

「先陣は俺が切ろう。レナとアスナは残りのメンバーと共についてきてくれ」

「うん」

「わかったわ」

「よし」

 

二人の反応を見、キリトは静かに洞窟の黒点を見つめる。ギチリと、柄を握る右手に力が籠った。あの洞窟にはおそらく、彼にとって最悪の……そして因縁の相手がいる。ザザとジョニー、そしてリーダーたるpoh。

 

――『次は、俺が、お前を、追い回して、やる』

『Ha!! Its show time dude !!』

 

今でも、思い出すだけで体が震えるのを、止めることができない。それ程までに彼らは恐ろしく、残忍で、そして強い。

 

――けど……

 

ふと、アスナの横で出撃を待つレナを見やる。

 

――守りたい、守らなきゃいけない人がいる

絶望の淵に立っていた自分を掬いだし、温かい手を差し伸べてくれたヒトがいる

 

――“君は死なない”

 

嘗ての自分は、その誓いを守れなかった。けれど、今度こそは護り切って見せる。

 

それだけで、体を縛る震えは止まった。

 

――行ける

 

確固たる確信

 

「……行くぞ」

 

静かに、されど力強く、地面を足でけりつけながら、キリトは洞窟の黒点へと飛び込んだ――

 

***

 

踏み込んだその内部は、大凡“洞窟”という言葉が持つイメージとは似つかわないほどに広大な灰色の空洞が奥まで続いていた。――それは、現実世界では早々目にすることができないであろう程に立派な鍾乳洞だった。意外なのは、洞窟であるにもかかわらず中は明るいことだった。美しいと呼べるその光景も、しかし今のキリトにはどうでもよかった。

 

「誰もいない……だと……?」

 

中は、寂しいまでにモノ抜けの空だった。プレイヤーどころか、生き物の居る気配すらしない。手にもつエリシュデータを正眼に構えたまま、キリトは己が意識をすべて発動させている索敵スキルへと向ける。響くのは、己と、それに続くプレイヤーの足音と、僅かにせせらぐ、地下水のはねる音だけ。

 

――気づかれた?

 

そんな仮定が、キリトの脳裏をかすめる。が、その仮定はあまりにも不可解すぎた。自分たちが突入を開始してから、僅か十五秒もたっていない。そんな刹那の時では、隠れることなど到底不可能。ハイディング自体を発動することはできるが、そんな中途半端なものでは必ず索敵スキルにひっかっかる。

 

「キリト、何か反応ある?」

「いや、そっちは?」

「何も」

 

――どうなってる?

 

状況は、更なる混乱を招くだけだった。

 

「ねぇ、本当に……」

 

レッドプレイヤー達は、この洞窟に出入りしていたのか。そう口にしようと振り返ったところで、アスナははたと気づく。自分の後ろを追従してきているはずの人物が、そこにいないことに。

 

「?どこに――」

 

彼女の意識が、ほんの少しだけ、ズレた。

 

そこで、キリトはぞわりと己が首筋が凍えるのを感じた。

 

――殺気!!!

 

気づけば、体は勝手にアスナの方へと

 

「アスナァ!!!!!」

「えっ……」

 

伸ばした手がアスナの肩を掴み、そのまま外へと押しのける。そして、彼女へと伸びてきたエストックの鋭い刺突を、振りかぶったエリシュデータの刃で防いだ。

 

ギャリィィン!!

 

ひと際甲高い金属音と、閃光花火のような火花がパッと彩る。

 

「っぐ…………」

 

体重の乗った重い一撃が、ギリリと己の剣を押し込む。が、キリトは地につけていた足をさらに踏み込んで、持てる筋力ステータスの全てを以てしてそのエストックを打ち反らした。しゅうしゅうという擦過音をまき散らし、その人物はキリトの頭上を越えて、軽やかに地へと着地する。襤褸切れのような布の垂れ下がった衣服。そして怪しく光る眼をのぞかせる不気味な髑髏マスク。

 

「久し、ぶり、だな、キリト」

「ザザ」

 

衝撃に未だ手がしびれるのもかまわず、キリトはザザへと剣先を向けた。

 

「そんな………」

 

その光景を、キリトの突き飛ばされてよろけていたアスナはしかと目にした。

 

――それは、ラフィンコフィンによる討伐隊への完全なるカウンターアタックだった。その剣閃が合図であったかのように、恐るべき精密さを以て、短剣がまるで雨のように降り注ぐ。その全ては、全く気付かれることもなく、討伐隊のプレイヤーが纏う防具、その隙間を掻い潜り、刃に塗られた猛毒がその真価を発揮した。

 

「ぐわっ!!」

「ぐぅ!!」

「おわ!!」

 

たったそれだけで、全体の三割のプレイヤーが行動を封じられて地面へと崩れ落ちた。更に、まるでそれ自体が一種のトリガーであったかのように、何の反応もなかったはずの空間から、次々とレッドプレイヤー達が沸き出でて、カウンターアタックに混乱する討伐隊を取り囲んだ。

 

「作戦の情報が漏れていたのか!!」

「よそ見、とは、随分と、余裕、だな」

「ち……」

 

ザザが繰り出してきた素早い刺突を、キリトは剣で横に打ち反らす。しかし、攻撃を反らされたザザは、そのまま素早く軸足を入れ替えると、左足でキリトの腹部を蹴り抜く。

 

「ぐぅ……」

「どうした、キリト」

 

しゅうしゅうと、ひときわ高い擦過音が、その口より漏れる。

 

「ザザ……」

 

握る手を震わせながら、剣を支えにキリトは立ち上がる。その瞳には、先ほどまでとは違う剣士としての気が宿っていた。ただその目に射抜かれただけなのに、まるで殺気にも似た気を当てられたザザは、思わずぶるりとその身を震わせた。

 

「そう、その、眼だ」

「…………」

 

剣先を再びザザへと向け、キリトは大きく息を吐き出す。先の追撃、彼の腹部へと叩き込まれたその蹴りは、キリトにとって決して反応できないモノではなかった。なのに、反応できなかったのには、奇襲によってレナが倒れていないかという懸念が彼の胸の内を巣食っていたからだ。が、どうやらそれはただの杞憂だったようだ。ザザによって蹴り飛ばされたその瞬間、キリトの眼は確かに、あの奇襲を潜り抜けて持ち前の俊敏さとダガーを以て敵陣へと切り結んでいく彼女の姿を、目に焼き付けていたからだ。彼にとって唯一といってもいい懸念が消えた今、その専心は、全てザザに向けられる。

 

「そうで、なくてはな」

「言ってろ。そのうちに俺がそのひょろいエストックをへし折ってやるぜ」

「ククク……なら、やって、みろ!!」

「ああっ!!」

 

交わす言葉はそれだけ。目にもとまらぬ速さで迫りくるエストックと、ゴウッと空気を割きながら振るわれる直剣とが、再び激しく切り結んだ。

 

***

 

 

状居は、思いつく限りで最悪だった。カウンターアタックという名の不意打ちを受け、少なくない仲間が凶刃の下に斃れた。更に突如として現れた敵に囲まれ、指揮系統は完全に機能を失った。それでも、討伐隊は今までの経験を生かして立て直したが、一度乱された心理状態でまともに戦えるわけがない。更に、相手は命ないモンスターではなく、同じ人間であるというその点も彼らの動揺を煽っていた。討伐隊が圧倒的劣勢なのは、火の目を見るよりも明らか。

 

――でも、

 

だがそんな時でも、アスナは握るレイピアの手を緩めはしない。ここで自分たちが負ければ、より多くのプレイヤーが彼らの恐怖におびえることとなる。自分は、団長よりその命を任された身だ。ならば、敗走などあってはならない。そんな強い意志のみが、ひたすら彼女の手を、足を突き動かしていた。

 

「うらぁ!!!」

「甘いわ!!」

 

袈裟掛けに振るわれる曲刀を僅かな動作のみで躱すと、相手の柄を握るその手へとレイピアを走らせ、その手から弾き飛ばす。

 

「ぐ……!!!」

「せや!!」

 

だがそれでも、男の手は止まらない。曲刀を握っていたはずの右手を深く握り込み、伸ばした腕を戻そうとするアスナへ、渾身のストレートを放つ。しかし、対人の経験こそ少ないものの、攻略組として常に最前線に立ち、膨大とも呼べる戦闘経験を有している彼女に、そんな大ぶりの、ただ力に任せただけの一打など、あまりにも遅い。突き出した右手はそのままに、足さばきのみで瞬時に体を反転させたアスナは、左手を自身へと寄せ、迫りくる右ストレートにそれを合わせると、そのままコマのように体を回転させ、全ての威力を完全に受け流した。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

そのままの流れでその背後へと入れ替わったアスナは力を完全に流されたことによって崩れる相手のうなじへと、右の肘を打ち込んだ。

 

「が!!あ………」

 

その一連の流れは、動きのキレと速度、そして威力こそ違えど、レンが得意とする“転2による防御とその力を利用して技の威力を高める攻撃法そのものだった。それもそのはず、彼女は何度も目にしてきた彼の動きを、即興ながらに取り入れてみたからだ。

 

「すごいわね、コレ」

 

意識を刈り取られ、崩れ落ちる相手を尻目にアスナは攻撃を放った小野が右手をまじまじと握り込んでその威力に舌を巻いた。そも、レンが図らずとも確立させてきた戦闘スタイルは、殆どが対人を想定して鍛えられた技を無理やり対mobに流用させてきたものだ。ならば、それが真価を発揮するのも、対人であるは自明の理。担い手ではない彼女のソレは、本物のそれに比べればお粗末と言ってもいい程のものでしかないが、これ位の手合いであるならば十二分以上に通用する。

 

「よし」

 

周りに自分へと襲い掛かるほかのプレイヤーがいなことを確認したアスナは、周りで苦戦を強いられつつもなんとか反撃に出る仲間たちを無視して駆けだした。本当ならば、今にでもそんな彼らの間に入って助太刀したい。だが、彼女はそんな気持ちを押し殺して、ただ一つの目的に為に洞窟の最奥を目指す。最早こうなっては、血みどろの戦いとなってしまうのは避けられない。けれどその犠牲を、最小限にとどめることは可能だ。それがいつの時代、いかなる戦であれ、相手の戦意をそぐにはまず指揮官を落とすが常套。だから彼女は、この闘いがその火ぶたを切ったその時からpohの存在のみを探し続けていた。そして、単身で最奥目指して駆けるアスナを、当然敵であるレッドプレイヤーが見逃すはずがない。彼らからしてみれば、単騎で突っ込んでくるアスナは、“どうぞ殺してください”とでも言っているようなものだ。なのに

 

「せい!!」

「ぐわ!!」

「えい!!」

「ぐへぇ!!」

 

そうやって襲い掛かってくる者たちを、アスナは持ち前の速さを生かしてそのこと如くを躱し、必要に応じてレンから取り入れた動きで的確な反撃を加えていた。

 

閃光(Blitz)

 

――その二つ名で謳われるアスナの太刀筋は、精密機械のような精度、それでいて駆け流るる流星のごとく迅い。常人の眼では彼女の刺突は捉えきれまい。アスナと対等に渡り合うには、ここにいるレッドプレイヤーでは役不足すぎた。

 

――なんだけど……

 

都合六人のプレイヤーをやり過ごしたアスナは、自分の体にまるで鉛でも流し込まれたかのような重い疲労感を覚えていた。生身ではなくあくまでも電脳体でしかないプレイヤーが感じる疲労感というのは、肉体的な面というよりも精神面での比率の方が大きい。この、普通のボス攻略などでは感じなかった疲労感は、元をたどれば同じ生身の人間であるレッドプレイヤーとのほぼ殺し合いにも近い命のやり取りという事実が生み出すプレッシャーと恐怖のせいだろうとアスナは考えていた。そして、彼女自身が自覚できているわけではなかったが、レンの戦闘スタイルの模倣という行為自体も、彼女の精神に負担をかける要因となっていた。そも、他人の体使いや動きを模倣するというのは、かなりの集中力を必要とする。他に類を見ないレンの独特な体使いは、彼の本来持つ身体ポテンシャルが高いというのももちろんあるが、機動補正というスキルが生み出す驚異的なシステムブーストの恩恵をいかんなく発揮するからこそできる芸当でもある。それを、何の補正もなしに模倣するアスナでは、どうしても無理が生じてしまう。

 

――或いは、レン本人が操るこの戦闘スタイル自体が、担い手に過剰なほどの負担を強いるという可能性もあるが。

 

だとしても、例えアスナがそれを理解していたとしても、彼女はそれを使うことを止めはしないだろう。対人戦等において、これ以上ない程に効率のいい戦い方を、アスナは知らない。

 

――そして何よりも、どこか、懐かしい感じがした。

 

それが何故なのか、彼女自身でも分からない。よもやこの極限状態で、可笑しくなったのか。それでも、このこみ上げてくるぬくもりを手放したくないと強く思う自分がどこかにいるというのが、彼女には不思議だった。ただ、今はそれでもいい。今私がなすべきことは、敵がカウンターによって作り上げたこの不利な状況を脱し、レッドプレイヤー達を速やかに鎮圧すること。

 

――大丈夫、私は一人じゃない。私を信じ、ついてきてくれた仲間たちがいる。

 

そう思うだけで、この体を縛り付ける疲労感が多少なりとも抜けていくような気がした。止めていた足を、力強く踏み出す。そのしばみ色の瞳は、かつてない程爛々と、強く光り輝いていた――

 

***

 

「ここが……最深部……」

 

レイピアを正面に構えたまま、アスナは辺りを見渡す。変わらず、ごつごつとした鍾乳石と、灰色で彩られたその光景は変わらない。だがその代わり、最深部と思われるこの場所はごつごつと鍾乳石がせり出しておらず、天井が驚くほどに低かった。目測で測っても、六メートルに届くかどうか。例えるなら、元々の洞窟から、さらに掘り下げて人工的に新たなスペースを作り出したかのよう。先ほどまでの場所と比べればひどく窮屈に感じてしまうが、むしろ一般的な“洞窟”のイメージとしては、こちらの方がぴったりだった。奇襲などの不意を突かれぬよう周囲へと気を張り巡らせたまま一歩一歩踏みしめるように進んでいたアスナはやがて、その最奥、真にこの洞窟の終着点たるその場所にポツリと人影があるのをみた。

 

「だれ?」

 

レイピアを向け、凛とした声を張り上げる。すると、ゆらりその声に人影が揺れ、コイィィンと何かを地面に突き立てたような澄んだ金属音がその空間に木霊した。

 

「ほぉ、これは意外な人物がきたもんだ。KoBの二番槍、閃光か」

 

響くその声は、口調のわりに抑揚のない、平坦で乾いたものだった。今まで一度も、アスナが耳にしたことのない声。

 

「あいつは如何した?」

「あいつ?」

「まぁ、いいか」

 

カツンカツンと響く足音は、その発せられるたびにアスナの方へと近づいてくる。それにつれて、その全貌を覆う影が少しづつベールを脱いでゆく。初めて目にするプレイヤーだった。無造作に整えられた浅紅の髪が、浅黒く健康的に焼けた地肌に似合っている。落ち着きのある流しの瞼から、覗かせる銅色の瞳には、強い意志を感じさせる光が宿り、客観的に見ても鋭い彼の雰囲気を、より一層獣のようなどう猛さを感じさせる。だが、何よりもアスナが注目したのは、そんな彼の武装だった。真っ先に目を引くは、この薄い暗闇でもなおはっきりと輝く血にぬれたような深紅の槍。どこか禍々しいオーラすら感じさせるそれは、明らかに“魔槍”と称される代物。彼が自分と同じ“突き”を主体におきそれでもレイピアなどよりは隔絶したリーチでもって攻撃する“槍兵”であるは明らか。だが、そんな彼の防具は攻略組として多くの槍兵を目にしてきたアスナでさえ特異に映るモノだった。大部分を布と皮のみ編まれた、ジャケットタイプの戦闘服には、防護のための装甲機構のほとんどが廃されており、両肩部分と、腹部、そして両腰といったバイタルパートのみにごく薄い金属プレイーとがあてがわれているのみ。そんなプレート、付けないよりはましなだけであり、アスナが狙えばレイピアの刺突で貫くことすらできるだろう。アインクラッドの槍兵の主流は、ハーフプレートアーマーのような防具に身を包み、槍特有の長いリーチを生かして中距離から攻撃を行うタンクとアタッカーの中間ほどの立ち回りがほとんどだ。今対峙する彼のような明らかに防御力よりも素早さに重きを置いた兵装は初めてといってもいい。

 

「もう一度聞きます。あなたは何者ですか?」

 

彼女の目的であるpohでないのは確か。主流とは遠く離れた兵装、そして研ぎ澄まされたように鋭い雰囲気が、彼女の警戒心を引き上げる。だが、かれはフンと肩をすくめると、地面に突き刺していた朱い槍をクルリと両肩に乗せた。とたん、彼の発せられる雰囲気が、その濃度を変え、銅色に光る瞳に殺気が宿る。

 

「これから死ぬ奴に、名を告げる必要が?」

「っ!!」

「予定とは違うが、まぁいいさ。肩慣らしには十分だろう。お前を殺して、レンクスを誘い出す(、、、、、、、、、)

「レンクス……ですって?」

 

トクン、と心臓のはねる音がする。何故、目の前の名も知らぬ男から、その名が告げられるのか。ほぼ無意識にも切り替わっていた戦闘思考が散漫になり、ひたすらにその疑問だけが

脳裏を埋め尽くす。しかし、更に重ねようとする疑問を意識の外へと追いやり、努めて冷静に、レイピアの切っ先を相手へと向ける。

 

「つまり、あなたの目的はレンってわけね」

「ああ」

「そう……」

 

ならばもう、言葉を交わす必要はない。その真意はおろか、招待すら不明のままだが、

 

――このプレイヤーに、レンを会わせることだけは、絶対にダメだ

 

そう、理屈ではなくアスナの本能そのものが告げる。ならば成すことは一つだけ。

 

「なら、私がここであなたを止める」

「はは、そう来なくっちゃな」

 

アスナの強い意志の表れに、彼の口元が吊り上がる。肩に乗せていた長槍を右腕でくるんと跳ね上げ、宙を舞ったそれを再び右手でつかみバトン回しのようにクルリと旋回させながら左手へと持ち替えると、そのまま背後へと回し開いた右手をゆらりとアスナへと向けた。

 

「せいぜい、足掻いて俺を楽しませてみろ」

 




正直な話をすればSAOって設定が二次創作向きだと思うんですよ。いい意味でキッチリしてないから、いろんな人の創作が加えれるというか。特にこの討伐戦に関して言えば数ある二次創作でもめちゃくちゃホットな案件だとおもいます。そんな文豪だらけの中でこんな稚作をさらすのは失礼な気がしますが一応これが自分なりの討伐戦創作になるかとw

楽しんでいただけたら幸いです。

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