SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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秘密基地は浪漫ですよね〜


Ep55: Hidden truth II

それから彼ら四人は、手分けしつつこの隠し部屋の中を隅々まで探しまくった。何か些細な事一つでもいい。ほんのちょっとしたことで構わない。兎に角、何かレンにつながる手がかりを見つけることができたのなら……そんな淡い希望を抱くまま、わき目も降らず探しまくる彼らだが、そんな彼らをあざ笑うかのように、得ることのできた手掛かりは無にも等しかった。勿論、何も見つからなかったわけではない。二人一組となって一緒に探していたレナとキリトは、机の下にあるスペースからそれぞれ毒で満たされた水槽のようなものを発見した。その水槽には、つっかえ棒のようなもので吊るされた投げナイフが無数に浸されており、十中八九、毒ナイフを制作するための道具であるのは明らかであり、それから類推して、やはりレンは何か、今までとは違うなにかを目論んでいるのではという位しか分からなかった。だがそれも、今レンがどこで何をしているのかという明確な手掛かりにはつながらない。得ることのできた情報らしい情報は、ただそれだけだった。

 

「ここが最後ね」

 

机の前に立ち、アスナが静かに言う。元々、お世辞にも広いとは言い難いこの隠し部屋だ。四人で探すとなれば、その効率は格段に高い。

 

「何かめぼしいものは?」

「何もなかった」

「こっちもダ」

「そう……」

 

つまりもう、最後に残ったのはここだけということになる。アスナは、再び目の前にある机へと目を向けた。唯一、未だ彼らが手を付けていないその場所とは、様々な器具が所狭しと置かれている机の上ではなく、その机に唯一設けられた引き出しだった。長さでこそ、この机の前兆大凡三分の一程度ではあるが、その分深さがかなりある。これなら見た目以上に大きなものも入るであろう。

 

「問題は、鍵がかかっている事よね」

 

そんな、いかにも怪しさ満点の引き出しを彼らが後回しにしたのは、一重にカギがかかっていたからだった。部屋を探し回れば、どこかにカギがあるかもしれないと考え、とりあえずは後回しにすると決めたはいいものの、結局見つけることができないままで今に至るというわけだ。が、だからと言ってこのまま素直にあきらめようとは、だれも考えていなかった。この隠し部屋に至るまでがやたら厳重であるくせして、その内部は驚くほどにフリーだった。想像はつきにくいが、もしタークス隊が先にこの場所を見つけていたのなら、もう言い逃れのしようもなくレンは犯罪者として告発されるだろう。そんな中でただ一つ、律儀にカギのかかっている場所があるとなれば、“何か”あるのではないかと期待してしまっても無理はない。特に、キリト達は今までにめぼしい手掛かりを得ていない分、その期待値は高まるばかりだ。

 

「どうする?」

「方法としては二つだな。ピッキングするか、壊すか」

「ピッキングスキルなんて持ってないわ」

「俺も。アルゴは?」

「おあいにク」

「じゃあ決まりだな、レナ」

「オッケー」

 

ほいきたといわんばかりに応えながら、レナは腰に下げていた鞘から蒼白く煌めく刀身を持つダガー、《ブルーアース》を手に取り、机の前――鍵がある部分へと歩み寄った。ちらりとキリトの方を見やり、彼が頷いたのを見て、彼女は机へとその刃を向け、

 

「ほっ」

 

机本体と鍵穴が存在するその隙間へダガーを滑り込ませた。ガキンッ、と鈍い音を立てながら、金属の壊れる音が響く。ささやかな夫婦への手向けとしてレンが用意した希少な素材を、最高峰のマスタースミスでもあるシェリーが加工して鍛え上げられたそのダガーはいともたやすく、鍵として機能していた機構を壊したのだ。

 

「これで開いたかな」

 

しゅたっとダガーを鞘へと戻し、

 

「んしょ」

 

取っ手へと手をかけると、そのまま一気に引き出す。立て付けが悪いのか、かすかな抵抗を以て引き出しが開く。と同時、なんとも言い難い独特の匂いが、この部屋にいる全員の鼻腔を刺激した。

 

「このにおいは何?」

 

ドック部屋でも、そしてこの部屋の中ですら感じられなかった、むせ返るように濃密なその匂い。

 

「けど、どこかで?」

「六十八層の時のフロアボスと一緒じゃない?」

「あっ、確かに」

 

その匂いを不思議に思いつつ、しかしどこかで既視感を感じていたアスナは、ふとその正体に気が付いた。どこかツンと鼻につき、それでいて何とも言い難い懐かしさを感じさせてくれるこのにおいは、レナの言う通り確かに六十八層の時に嗅いだ匂いと同じものだ。ただ、

 

「けど濃度が違う。あの時より、濃ゆくないか?」

「そうね」

 

その濃度は、六十八層の時に嗅いだそれとは比べ物にならないほどキツイ。鼻を右手で押さえつつ、キリトはレナへと問いかけた。

 

「で?中にはないかあったか?」

「あったよ。ビンっぽいものと……これは……本かな」

「ビン?」

「本?」

「そ」

 

レナが頷きながら取り出したビンと本を机の上へ並べる。

 

「この本……“アルゴの攻略本”だ」

「本当か?」

「うん」

 

彼女は机の上に置いた本を手に取り古ぼけてくたびれてしまったその表紙を皆へと向ける。

 

「本当ダ。オレっちの攻略本じゃないカ」

 

それに最も早く反応したのは、やはりその制作者たるアルゴ本人であった。彼女は、レナより受け取った攻略本のくたびれた表紙を、どこか懐かしむような手つきでそっとなで、掠れ見えにくくなった文字に目を通した。かなり見にくいが、その表紙には“大丈夫、おヒゲマークだよ!”という謳い文句と共に“第二十三層《マララッカ》”とある。

 

「マララッカ?また随分と昔の層だな」

「確かにね。もう一年以上前の頃に前線だった街よ」

 

アルゴの横から、キリトとレナが重ねる。どちらも、マララッカの存在は記憶しているが、その街が果たしてどんな場所だったのか、それがいつ頃の話だったのかなどは記憶していなかった。

 

「どうして、二十三層の本なんてしまってたんだろ?」

「わからないなァ」

 

首をかしげつつ、アルゴは流すようにパラパラとページをめくっていく。だが、中身は何の変哲もない、いたって普通の攻略本である。

 

――二十三層、二十三層……ウーン、何かアッタカナ?

 

何分、二十三層での出来事は彼女にとって何かと強烈に印象に残るものばかりだったので、これだ!と思う記憶が中々思いつかない。

 

「とりあえず、結論は後にしてもう少し調べてみましょ?ここに置いてあるってことは、何かがある筈よ」

「アーちゃんの言うとおりだね」

 

皆の眼が通しやすいように、本を見開きに開いたまま机の上へと置き、アルゴはページを一枚ずつめくってゆく。相変わらず、紙そのものはボロボロだが、中に記述されている文章の全ては未だくっきりと鮮明さを保っている。

 

「うわー、懐かしいね」

「こんなクエストもあったっけ」

 

その内容はどれもキリト達にとって懐かしさを感じさせるものばかりだった。

 

「でも、めぼしい情報はないわね……」

 

だが、アスナの言うとおり、いま彼女たちが求めている手がかりはどこにもない。結局、ここも外れだったのか……そんな、皆の胸の内に暗い感情が見え隠れし始めたころ、パラパラと半ば機械的にページを捲っていたアルゴの手が、ふいにピタリと止まった。

 

「これハ……」

 

思わず、アルゴは息を呑む。攻略本の半分も半ばあたりを過ぎたくらいのページ。そこには、本来記載されていないハズの記述――間違いなく、レンからアルゴへと宛てられたメッセージが、黒いインクと共に刻まれていた。

 

「見つけタ……やっと見つけた!!」

 

気が付けば自分の両手は震えていて、心臓はバクバクと早い脈を打ち続けるばかりだった。

 

「これがアイツの?」

 

アルゴに負けない位の興奮をその身に覚えながら、キリトはその記述を己の指でそっとなぞった。その隣から、アスナがゆっくりと、しかし微かに震える声でページに記載されていた分の内容を読み上げた。

 

『殉教者達の鐘が鳴り響きし時、嘗て勇者と賢者とが交じりし場所にて、穢れた羊は知恵を乞う』

 

「何かの暗号かな?」

「いや、これは暗号っていうよりむしろ……」

「謎かけじゃないかしら?レンは、私たちに何か伝えようとしているんだわ」

 

とはいえ、この記述が何かしらの謎かけであると分かったところで、アスナにはこの謎かけの答えが何であるかは見当もつかないでいた。殉教者たちの鐘、勇者と賢者の交じりし場所、穢れた羊。この謎かけを解くためのキーとなるであろう単語こそ拾えるものの、そのどれもが一体何を指すのか分からない。

 

「キリトやレナは解ける?」

「悪い、アスナ。俺にもさっぱりだ」

「ごめんね、私も」

「そう…………」

 

分かってはいたことだったが、SAOのほぼすべてに精通しているのではないかと錯覚させるキリトをして分からない謎かけとなれば、難解を極めるということに他ならない。

 

――賢者……知恵?いったい何が?

 

このSAOにおける、“知恵”とはいったい何のことだろうか。現実であれば、知恵とは様々なものを指す。例えば学力、例えば、記憶。教養の高さといったところだろうか。ならば、このSAOではどうだろうか?学力も、記憶力も、教養の高さでさえ、現実と同様“知恵”足りえる。そこに、最早疑いの余地はない。だが、このSAO――彼女たちいとってもう一つの“現実(リアル)”には、それら以上に大切な“知恵”がある。時には己の命運を分け、生と死とを分ける。そう、現実にもあり、そしてこのSAOにもありながらその優位度合の違う“知恵”……それは、“情報”に他ならないだろう。その時、脳裏へと伝わる電気信号の一つ一つが、火花を散らすかのようにスパークするかのような感覚が、アスナを襲った。

 

「ねぇ、アルゴ。あなたは何か知らない?」

「うエ!?」

 

突如、アスナは先から何か思いつめたかのような顔もちのまま壁に上半身を預けるようにして寄りかかっているアルゴへと質問の先を向けた。それはさも、一寸先すら見渡せぬ闇の中で、一筋の光明が差し込んだかの如く――だが、まだ足りない。自分がこの謎を解くために手にしかけたものは、パズルの中、無数に欠けたピースの一枚を見つけただけに過ぎない。だが、残りの欠けたピースを埋め合わせることができるのはアルゴしかいないだろうという確信があった。勇者と賢者――おそらくは、この謎かけを解くためのカギであるだろうキーワードの一つ、具体的に勇者が何を指すのかは分からないが、賢者とはつまり、アルゴの事を指しているのではないだろうか、と。そう考えれば、全てにつじつまが合う。巧妙に隠された秘密部屋。普通ならたどり着けぬであろうこの場所に来ることができたのは、間違いなくアルゴのおかげだ。オートマタにしろ攻略本にしろ、レンの手掛かりとなりうるファクターの全てが、何かしらのカタチでアルゴとつながっている。

 

突如話を振られたアルゴは、他の眼に見えて普段の彼女らしかぬ程に動揺の色が見えた。それでも、他人に悟られぬように隠すその技量は情報屋として名高い“鼠”なのだろうが、それでもアスナを始めとするキリトやレナなど普段から交流のある人間であれば、彼女が動揺しているのがはっきりと分かった。そして、それを見逃すアスナではない。彼女は、机の上に置かれた本を手に取ると、ズカズカとアルゴへと詰め寄り、彼女の前へズイッと本を差し出した。

 

「ちょっ、アーちゃん、近いヨ」

「知らない?」

「…………」

 

誤魔化すように笑うアルゴへと尚アスナが疑問を重ねれば、彼女は口をつぐみ、何かを言うか言うまいかと決めあぐねるかのように視線を落とし、やがて小さく首を振った。

 

「ごめん、アスナ。私もまだ混乱してて、はっきりとしたことは言えない」

「そう…………」

「“鼠”という情報屋として、“アルゴ”という私として、不確定な情報は口にしたくない。だから、私に少しだけ調べる時間をくれない?」

 

それは、情報屋である“鼠”のアルゴとしてではなく、仲間であるレンを心配する、少女(アルゴ)としての意見だった。口調もそうだが、何よりもアルゴの瞳に、強い光が宿っているのを見た。

 

――仕方ないか、ここが落とし処かな

 

不思議と、思いのほか自分が冷静なことに、アスナは驚いていた。やっと見つけた、レンへとつながるであろうただ一つの手がかり。冷静さを失い、アルゴを問い詰めていたとしても不思議ではない。だが、アスナは目にした、アルゴの瞳に宿る強い決意を。その時、澄み渡っていた思考で思い至ったのだ。アルゴも私も、思いは同じなんだと。あの時、嫌疑と仲間を殺された怒りが暴走してているのを止めることができなかった自分と、そんな彼の足取りも掴めず、間接的にこの事態を大きくさせた彼女も、胸の内にあるのは深い後悔とそんな己に対する歯がゆさだ。そして何よりも、レンを助けたかった。いつも一人で何でもこなそうとして、いつも一人ですべてを背負い込んで、かたくなに他人へ、自分の弱さを見せようとはしない。もろく、今にも壊れそうな強さで一人歩く、どうしようもなく不器用な生き方しかできない彼の支えとなれば。思いの丈に差異はあれど、その方向性に違いはないのだ。ならば、同じ志を持つ仲間として、信頼するのは当たり前なんだから、と。故に、アスナそれ以上言葉を重ねることなく、ただ静かに、本をアルゴへと託した。

 

「お願い」

「…………わかっタ」

 

すると、アルゴはそんなアスナの信頼を感じ取ったのか、ゆっくりと大切そうにその本を受け取ると、いつものようにニカッっとコケティッシュに笑って頷いた。

 

「じゃぁ、ソレはアルゴに任せるとして、こっちも調べないとな」

「こっち?」

「そう」

 

キリトが頷いて、テーブルの上に置かれていた容器を手に取る。彼はそのまま躊躇なく閉じられていた蓋を回すと、そのまま鼻に近づけて、反対の手で仰ぐようにしながらその匂いを漂わせた。

 

「……間違いないな。火薬の匂いだ」

「六十八層で漂っていた匂いと同じね」

「火薬…………」

「正確には、ブラックパウダー……つまり、“黒色火薬”じゃないかしら。日本の花火とかによく使われている種類の火薬よ」

「まったクアーちゃんの博識さには脱帽するヨ」

 

呆れたようにアルゴがつぶやく。確かに、彼女の博識さはキリトから見ても目を見張るものがある。クラスの優等生、まさしくそんなイメージがぴったりだな、と、彼は初めて彼女と会ったときに抱いたイメージを思い返す。そんなキリトを尻目に、隣でその瓶を眺めていたレナが、難しそうな顔で疑問を口にした。

 

「でもなんで?毒とか何やらは百歩譲って分かるけど、火薬なんてこの世界で使うの?」

「…………そうなんだよな。“剣が織りなす仮想世界”って言うのがこのSAOの謳い文句だったんだけどさ、βテストの時から本当に剣やらの近接攻撃以外実装されていないんだよ。こういったRPGにはお約束と言ってもいい程に定番の魔法すら、排除する徹底ぶりだからな」

「そんな世界観で、当然“銃”とか“爆弾”とか出てくるのは、可笑しいわよね」

「RPGって界隈は色々と複雑だかラ、こういった作品特徴みたいなものがないとすぐ飲み込まれてしまうんだヨ。ゲームあまりしたことなさそうなアーちゃんは知らないかもしれないけド、一昔前に“死にゲー”ってジャンルが大流行した時期があってネ。その頃は“~~ライク”ってそりゃもう同じような内容のゲームがあふれたモノサ」

「“ゲームをあまりしたことがない”って、それはちょっと偏見じゃないかしら?」

「オヤ、違ったカナ?イヤァ、初めてアーちゃんと会った時のことを思い出すヨ。あの頃はとっても初々しかったなァ」

「む…………」

「やめときなよ、アスナ。アルアルには逆立ちしたって勝てっこないよ」

 

くすくすと、からかうように笑うアルゴを横目に見ながら、キリトは手にもつビンへと向き直り思考を埋没させる。どうにも、ある予感が、彼の脳内を張り付いて離れなかったのだ。

 

「キリトってば難しい顔して、何か分かった?」

「……….だーめだな。さっぱりだ」

 

イヤー困った困ったと笑いながら、キリトは瓶のふたを閉めると、そのまま引き出しの中へと直した。

 

――いや、まさかな

 

そんな白々しい態度をとるキリトへと一斉に冷めた目線が集まるが、どうやら問い詰めようとは考えていないようだった。それに、内心キリトはよかったと息をつく。

 

「それじゃ!深く考えててもわからないし、とりあえず外に出よっか!」

「待てよ、バカ」

 

小躍りしそうなくらいにルンルンな彼女の襟を、キリトが手早くつかむ。同時、首が閉まったかくえっと可愛らしい悲鳴を上げながら抗議めいた視線を向ける彼女を無視して、キリトはそっと出口方面にあたる壁の方を指さした。

 

「なによっ!!」

「馬鹿正面から出る奴があるか。忘れたのか?レンの家はタークス隊が封鎖してるんだぞ?」

「あっ!!」

「はぁ、相変わらずお転婆というかなんというか……見ているこっちがハラハラする」

「むー、じゃあ他にどうするのよ」

「……それは今から探す」

「あっ!!自分もいい案がないんじゃない!!」

「素直じゃなくてひねくれてるアイツの事だ!!どうせどっかに別の出口があるにきまってる!!」

「何それ?根拠なんてないじゃん!!」

「カンだ!!」

 

二人とも至って真面目に議論を交わしているのだろうが、傍からソレを俯瞰しているアスナとアルゴの二人には、まさに熟年夫婦のやり取りのソレにしか見えない。気のせいだろうか、今日は何だか、ほほえましい二人のやり取りを見る機会が多いような、無性にブラックコーヒーが飲みたい気分なような、とアスナは思う。そこで、彼女はそんなやり取りを交わす二人の表情が幾分柔らかくなっていることに気が付いた。

 

――そっか

 

その理由は、考えるまでもない程には明快だ。皆、自身が思っている以上に切羽詰まっていたのだ。仲間へと掛けられたいわれのない“嫌疑”、それらを裏付けするかのような不安要素の数々。袋小路のように先の見えない進展のなさ。そんな様々な不安要素が、本人たちの知らぬ間に少しずつ精神を蝕んでいっていたのだ。

 

――らしくなかったな、私

 

ふっと、アスナの表情に笑みが浮かぶ。進展は少しだろうが、確実に“前進”したという安心を感じたからだ。

 

「ハイハイ、二人ともそこまで」

 

パンパンと、アスナが手を叩く。

 

「仲がいいことは結構だけど、今は他の出口を探しましょ」

「まったク、お似合いだ、お二人サン」

「「どこが!!」」

「オット、失言だったカナ?」

 

口では否定しているのに、顔を真っ赤にしながら全く同じことを言うキリトとレナの表情が、やけに印象的だった。

 

***

 

「足を滑らせないように気をつけろよ」

「わかってるサ」

「暗いしね」

「そう、特にレナ」

「はいはーい」

 

少しふてくされたような、そんな返事が返ってきて、キリトは再び壁から生えた足掛けへと足をかける。あれから、彼らは他に出口がないかと部屋中をうろつき、そしてドックがあった場所で今上っている場所を見つけた。言い出しっぺであるキリトではあるが、まさか本当に他の出口が見つかるとは……と内心呆気に取られていたのは秘密だ。

 

「ホント、何なんだここは」

「キリト君の気持ちはすっごい分るよ、うん」

 

往々にして、秘密基地というのは男子のロマンではあるが、それにしたってこれは流石にいかがなものか。そんな芋愛が、二人の会話には含まれていた。

 

「それにしてモ、随分と深かったんだナ、ココハ」

「どれくらいかな?」

「どーだろネ」

 

場所が暗いが故に、ゆっくり少しずつ上がっていっているというのを加味しても、彼らはもうずいぶんと梯子を上っている。中にいたときには気が付かなかったが、あの地下ダンジョンはかなり深い位置にあったのだという証拠だ。

 

「たぶんそろそろ…...あた」

 

何かに頭をぶつけ、先頭を行くキリトの足が止まる。

 

「何だ?」

 

毒づきながら手を伸ばせば、何ら硬い感触が戻ってきた。

 

――出口か

 

キリトは左手に力を込め、その感触を思いっきり押し上げる。すると、ガコッという音と共にまぶしい光が差し込んできた。

 

「着いたみたいだぞ」

 

登り切った彼らを、痛いくらいにまぶしい太陽の光が出迎える。

 

「あーやっと着いたぁ」

「長かったわね」

 

周りを見やれば、すぐ水路を挟んだ向こう岸に、レンの家がある中島が見えた。

 

「どうやラ、あの地下ダンジョンが街全体に通っているってのは本当みたいだナ」

「らしいな」

 

同意しながら、どかしたマンホールを元に戻す。

 

「さテ、船のところに戻らないとナ」

「じゃあこっちだね!!」

 

元気のいい声で歩き出すレナにつられ、アルゴとアスナも続く。――が、キリトはそれについて行くことなく、そっとアルゴの肩をたたき、人差し指を口に当てたままこちらへと手招きした。

 

『どうしたんダ?』

『一つ仕事を依頼したい』

 

それを聞いたアルゴの雰囲気が、仕事の時のソレへと切り替わる。

 

『何をダイ?』

『アイツ――レンの過去を、調べられるだけ調べてほしい。特に、クリスマス騒動の前後を、徹底的に頼む』

『へぇ……何デ?』

 

アルゴの鋭い目線が、キリトを射抜く。が、彼はそれに怖気づくことなくあくまで声を殺したまま、ずっと脳裏を離れない仮定を口にした。

 

『あくまで、俺のカンなんだが、レンの過去――俺たちの知らない、何かがあるように感じるんだ』

『…………』

 

アルゴの脳裏に、レンの覗かせる瞳の色がよぎった。透き通るくらいの、海を思わせるような紺碧色の双眸。だがその奥に漂う、全てを拒むかのような“暗い色”を、アルゴは知っている。だから、

 

『イイヨ、キー坊のカンを信じよウ。“鼠”の名に懸けテ、おれっちが完璧に調べ上げよウ』

 

キリトの“カン”を、何ら疑うことなく受け入れた。全ては、その“暗い色”を知っているが故に。

 

「?何してるの?おいでよ」

「ああ、今行く」

 

不思議そうにこちらを見つめるレナへと答えながら、キリトとアルゴは二人の待つ方へと駆け出した。

 




最近ps4 で遊んでるとこの気温のせいかファンが煩いんですよね。初期型なんで特に。もし暑さでぶっ壊れたら、proに買い換えるのもいいかも知れませんね。

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