SAO:Assaulted Field   作:夢見草

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すいません。暫くの間輪の都と妖魔ひしめき跋扈する東北地方に旅に出かけていました。いやぁお陰で人間性が限界ですよ。


Ep50: Codex, Betrayer

Codex: 2,12,1,3,11,15,16,19

 

《Interlude Sleeper (XXXXXX): Collapse

 

――歴史を見ろ

――絶対なる力など、この世にありはしない

――強力なる支配者は、いつだって虐げられてきた者たちにより崩壊する

――“自由”と呼ばれる幻想の下

――人々は反旗を翻し、ソレが新しい時代の幕開けとなる

――人は、歴史は、それを――革命――とよぶのだ

 

未だ辺りは漆黒の闇が支配し、うす寒い北風がむなしく吹き抜けるだけの、夜明け前。人っ気など当然ありはしない。どことも知れぬ数多あるフィールドの、鬱蒼とした森だけがあるその場所に、彼はいた。そびえたつ木々の、その中でもひときわ太く、立派で存在感を醸し出す一本の巨木、高さは優に十メートルを超え、幹の太さは八十センチはあろうかという齢百年越えの老木。その根元へと、彼は無言のまま歩き続け、そのままそのごつごつと年季を感じさせる樹皮へと背中を預けた。同時に、完全なる静寂の実が支配していたこの空間に、突如音が訪れた。

 

「チェック」

 

それは、例えるならマスクで口を覆ったときのような、くぐもった音。

 

「パパ、ロメオ、オスカー、シエラ、パパ、エコー、ロメオ、オスカー」

「クリア」

「チェック」

「アルファ、ロメオ、インディア、エコー、リマ」

「クリア。チェック、クリアランス」

「シエラ、ヤンキー、チャーリー、オスカー、ロメオ、アルファ、エックスレイ」

「クリア」

「それで、機密情報体は?」

「これだ。コードは、F-213,474」

 

それは、人の声だった。片やどこか仕事口調じみた固い声。そしてもう一方は、ひどく落ち着きのある、やけの透明な声だった。

 

「――全タークス隊の警備配置、確かに。この後すぐに暗殺部隊を送ります」

「ああ、くれぐれも尻尾は出すなよ」

「心得ています。これはボスからの通達です。『計画はフェーズ2に入る。事前通り、捕獲地点は“四十二層”だ』

「分かった。当日には動けるようにする」

 

二人の声は囁くような小ささで、ともすれば風に流されてしまいそうなほどに弱い。しかし、彼らはそんなことをまるで苦としなかった。そういう風に、“訓練”されているのだから。

 

「いよいよ時が近づいてきましたそちらはいろいろと大変でしょうが、頑張ってください」

「ありがたいな。ボスによろしく言っておいてくれ」

「はい。それではこれで」

 

そうして、彼の背中越し――正確には、この巨大な幹越しに感じていた気配が、まるで雪解けのように滑らかに消えてゆき、この空間に残ったのは未だに木に背を預ける、彼のみだった。

 

「あと少し……あと少しだ」

 

曇りなきまでに輝く月に光を仰ぎ見て、闇に紛れていた彼の顔が浮かび上がってくる。彼は、笑っていた。とても楽しそうに、それはワクワクと喜々としていて。だからこそ、不気味なまでに邪悪な笑みだった。

 

「帰るか……」

 

彼にはまだ、なさなければならないことがたくさんある。失敗は決して許されない。払った犠牲、費やした犠牲は数えきれることなく。彼が失敗すれば、敬愛するボス共々、一緒に釜の飯を食って、屈辱の日々を耐え忍んできた仲間たちも危険にさらされる。しばらくそうしていただろうか、彼はしばらくのその邪悪な笑みを浮かべた後、その口元をきつく結び、いつもの表情へと戻っていった。ラフコフより送られた、攻略組の“スパイ”としての自分に。

 

――そのおよそ三時間後、ある層の警戒任務にあたっていたタークス隊隊員の一名が殺された。犯行現場と思われる場所に残っていたのは、やはり不気味な髑髏マークと棺桶がカリカチュアライズされた、第一種危険犯罪ギルド“Laughing Coffin”のギルドマークが記録された記憶結晶だった。

 

***

 

「けど……とりあえずは死んでほしくなかった」

 

ああ、また同じ夢を見ている。“何故?”という考えはとうの昔に捨てている。恐らく、この“記憶”が、自分にとって何らかの意味があるのだろう。だからこうして視るのだ。

 

「そっか。アスナは強いんだな。俺なんて、最初から怯えていただけだったのに……」

 

私は、彼の事を“識って”いて、どこか遠い、昔のどこかで、“逢った”ことがあるのだろうか。だとしたらいつ?“私は”“彼”の何を知っているのだろう。――思い出せない。

 

/それは、自分のすぐ近くにあるのに、それに手が届かないようなもどかしさで

 

きっかけがあれば、すぐにでも伸ばせば触れられるはずなのに。ソレがとても、とても私にはもどかしかった。あの時に感じたものも、どこかいつもふざけ半分なままでいる“彼”に感じる懐かしさも。思い出せばそれは暖かくて、優しい感情で包み込んでくれる。それを思い出すことが、ソレはとても大切で。重要なことに……アスナ()は感じた。だから、

 

「頼んだぜ?《閃光様》」

 

あなたは一体……誰なの?ねぇ……レン君

 

***

 

家主の意向が随所に感じられる、その部屋。設けられた小窓から洩れる僅かな光が、明るめの三原色をベースにチョイスされたインテリアを照らし、暖かな雰囲気を醸し出す。辺りに生息する小鳥による新たな朝の目覚めに軽やかな囀りの謳歌は、それを聞く生ける者たちすべての心を癒してくれるだろう。そんな部屋に、ひどく不似合いなまでに人工的なメロディーが、断続的に響く。いや、ゆったりとした曲調の音楽はそれを選択した物のセンスの良さを如実に表すのだろうが、悲しいかな、完璧なまでに自然と調和したこの空間では、それすらも野暮ったい。とにかく、そのメロディーを起因として、少女は目を覚ました。

 

「ん――ふぅ。くく……」

 

その姿は、あたかも童話に出てくるかの眠り姫のように、それは見るもの全ての息をのませるかの如く、優美。すらりと通った長い柳眉を少々ひそめ、少女はゆっくりと瞳を開ける。

 

「ん――――朝……かぁ」

 

覗かせるのはヘーゼルに彩られたガラス細工のように透明な瞳。それは彼女の、つややかにさらりとした長い絹のような髪と同じ色。

 

「……そろそろ起きないと」

 

少々気だるげながら、少女はゆっくりと体を起こす。掛けられていた上布団がはだけ、彼女の白磁器のように透明な肌があらわになる。上衣は、僅かに白色のキャミソールのみ。この時期にそれだけでは少しばかり肌寒かろうが、そもそも空調すら完備なこの部屋ではこれでも少しばかり暑いくらいある。未だ目覚め切れていない瞳をこすり、少女はウィンドウを立ち上げると、表示されたメニューを手早く操作。彼女の全身が淡い光に包まれ、いつもの騎士服へと早変わりする。今までの優美さに加え、凛とした雰囲気を漂わせるこの少女こそ、このアインクラッドの中でも屈指の戦力を誇るトップギルド“血盟騎士団”副団長にして“閃光”の名を冠する閃速のフェンサー“アスナ”である。誰もが希望と羨望を向ける彼女は、しかしその表情に曇りを見せていた。

 

「ユメ……か……」

 

その内容はおぼろげで、あまりにも幽やかだが、それでも、その胸の内に余韻を残す温かさと懐かしさは確かなモノ。初めのほうはソレが心地よかったが、今では疑問の方が多い。最近になって回数の増えてきた、ぼんやりとしたユメ。何故私はこの夢を見る?この夢は何を意味する?今朝もその答えを求めてみても、見つからない。そしてもう一つ、今のアスナに陰りを落とす原因となるものがある。

 

「はぁ……どうしたらいいんだろう」

 

言わずもがな、いま全プレイヤーの確実なる脅威となるレッドプレイヤーによる連続殺人事件。その対策本部が立ち上がったのが今から五日前。その時に、アスナは団長であるヒースクリフの命によりその全指揮権を委任された。以後、アスナはその信頼に応えるべく尽力しているが、そんな彼女に待っていたのは無慈悲なまでに残酷な犠牲者たちの積み重ねだった。いつしか、その報告が己の無力さを表しているように感じてしまうほどには。しばし、虚空を静かに見つめていたアスナだが、メールの着信音が彼女の手を動かした。差出人は《ベノナ》。若くしてタークス隊を纏め上げ、今回の事件解決の要となるプレイヤー。気の進まない手を動かし、アスナの目に映ったのは、ただ簡潔に“準備はできています”とだけ。

 

「どうしたらいいの……」

 

ぽつりと。それは、自分の無力さが引き起こした悲劇、その代償を“彼”に着せるための始まりの合図だった。

 

***

 

「「お疲れ様です。アスナさん/様」」

「ええ、あなたたちもお疲れ様」

 

自分に向って敬礼してくる衛兵二人に挨拶、そのまま彼女は門をくぐった。見ればすでに、彼らは集まっており、アスナが最後の一人だった。そして、そんな皆の顔には、ある共通の“色”がある。その色とは、“戸惑い”と“罪悪感”の複雑に絡み合った色。それも当たり前ね、と彼女は思う。一体世界の何処に、己にとって気の知れた大切な仲間、いや、欠けようのない戦友を悪と見なす行為を好むものがいるだろうか。彼らにとっても、ソレは例外ではないのだ。

 

「おはようございます。アスナさん」

「ええ、おはよう」

 

円卓に着けば、ベノナから相変わらず子供じみた笑顔と共に挨拶してくる。そんな彼の気遣いに感謝しつつ、同時に申し訳なさがこみ上げてきた。彼にもまた、私には想像もつかぬほどの重荷を背負わせているのだと。事実、彼率いる諜報のエキスパート部隊である“タークス隊”は、いま今この未曾有の凄惨極まる事件の収束、解決から無駄な混乱を生じさせないための情報操作。これらを一手に引き受け、文字通り不眠不休の勢いで活動している。子供さながらに純粋な笑みに、疲労の色が見え隠れするのも気のせいではあるまい。ベノナはそのまま、あたりを一瞥した後、ゆっくりと始めた。

 

「皆さんそろいましたねでは始めさせてもらいます。今回も朝早くから――」

「御託は良い。早く本題に入ってくれ」

「ちょっとキリト」

 

そんな彼に催促を述べたのは、全身黒づくめの剣士、“黒の剣士”こと“キリト”と、そんな彼を諫める彼女、キリトの妻にして屈指の短刀使い“舞姫”《レナ》だった。キリトの口調は強く、そこに含まれているのは明らかな苛立ち。しかし、何も特別キリトが悪いわけではなく、彼の発したのは少なからずこの場に集まった皆の代弁でもあった。それを知っていたためか、ベノナも嫌な顔一つ浮かべることなく分かりましたと頷く。

 

「集まってもらったのは、他でもないレンクスに関しての新しい情報を掴んだからです」

 

微か、しかし確かに、この場に緊張が走った。自然と、この場にいるすべてのプレイヤーの背筋が伸びる。

 

「皆さんのお気持ちは察しますが、まずは一から整理させてもらいます。よろしいですね?」

「「「……」」」

 

沈黙。それを肯定と受け取り、ベノナは手にした記憶結晶による書類に目を通す。

 

「今から二週間ほど前、通称“K-PK01”が発生。結果元攻略組であるプレイヤー《ケンジ》が死亡。犯人は未だ見つかっておらず、なおも目下調査中です。その第一発見者が《レンクス》でした。アリスト」

「はっ」

 

ベノナの名指しで、後ろに控えるアリストと呼ばれたプレイヤーが立ち上がる。

 

「彼もまた攻略組であり、ヒースクリフさんに次ぐ二人目の“ユニークホルダー”でもあります。スキルの名は《A-ナイファー》本人によれば、ある特定条件下においてならばモンスターやプレイヤー、その分別に関わらず致死させることが可能な非常に強力なスキルですが、どうやら武器単体としての火力は低く、ソードスキルが使用できないという様々な制約のためその性能は総じて低く、相性と彼の戦闘スタイルの関係から特に対モンスターに対してはソレが顕著なようです。が、それでも彼が攻略組の中でも辛うじて上位に食い込めるくらいの力があるのは、一重に彼の高い身体能力と卓越した情報判断能力のたまものであり、こと対プレイヤーに関しては最強の一角に間違いなく数えられると予想します」

「ありがとう」

 

アリストは静かに一礼した後に着席する。

 

「そんな彼ですが、件の事件からわずか二時間後、その姿を突如として消します。これはフレンドリストからすらも自分の名を削除するほどに徹底しており、その足取りも全くつかめませんでした。その後、まるでソレが引き金だったかのように、次々と殺人事件は発生。丁度五件目となるその時に我々攻略組は対策本部を設立。そして……」

 

ベノナが言葉を区切る。その彼の姿は、ナニカを必死に押しとどめているようにも思えた。

 

「……その日に、今まで足取りのつかめなかったレンクスの影が突如判明。切っ掛けは、その日当時はまだ最前線だった“第六十八層”の警戒に当たっていたブレイスからの報告です」

 

黙ったまま聞き届けていたアスナの脳裏に、その情報が再生される。

 

「報告はこうです。“第六十八層が、レンクスによって攻略された……我々は、その報告を受けた後に第一層《黒鉄球》にあるもう一つの機能、《英雄ノ碑石》の確認に向かいましたが、報告通りクリア名の名は《Renxs》とありました」

「何も問題はないだろう?」

「では聞きますが、キリトさんは本気でレンさんに単騎でフロアボスを攻略できる力……実力があるとお考えですか?」

「それは……」

 

言葉に詰まる。キリトとレンは、長らく行動を共にし、ともに命を預け合った親友だった。故に、お互いがお互いの実力をよく熟知している。当然、レン単身ではフロアボスは倒せないだろうということも。いや、より正確に言うならば、彼一人のみならば何十時間と時間がかかってしまうだろうと。しかし、それを認めてしまえば……

 

「単身で攻略が不可能である以上、彼は何らかの形で協力を経てボスを攻略したのではないか……そう考えるのは自然です」

 

レンの事を、“黒”だと認めてしまうことになる。

 

「ここでキーとなるのが、先ほど述べた《英雄ノ碑石》です。この碑石の役割はフロア攻略時に活躍したプレイヤー、あるいはパーティ計十名が表記されます。が、例外としてオレンジプレイヤーの名は表示されません。つまり……」

「……レンが、オレンジと手を組んだって言いたいんだね」

「レナさんの言い方には語弊があります。私が言っているのは、あくまでも仮定の話です」

「でも……」

「……すいませんが、続けさせてもらいます。その可能性を考慮した我々は、アスナさんの許可を得た後に彼の身柄を保護、拘束することにしました」

「っ……」

 

瞬間、今まで押し黙っていたままのアスナの肩が、小さく震えた。何故なら、レンはそんな人間じゃないとわかっているほかでもない自分自身が、その許可を与え、こうして彼を疑うかのような真似をしているのだから。

 

「しかしそれでも、彼の足取りは一向に掴めませんでした。私たちの“目”をうまくすり抜けて」

 

事実、ベノナは決して少なくない人員を費やしてその捜索にあたらせたが、いずれもレンクスを見つけることはできなかった。指揮を執る彼をして、レンを捉えるのは不可能なのでは、と思わしめるほどに。だが、そうではなかった。

 

「今も、アンタらはレンを?」

 

キリトが確かめるように問う。

 

「いいえ。今から数十時間前、私たちタークス隊はレンの接触(コンタクト)に成功しました」

「ホントに!?」

「ええ、私の右腕とも呼べる存在である“シンド”が彼を補足したんです。ですが……」

 

ギリッ……乾いたこの空間に、唐突にそんな音がした。それは、ベノナの隣に静かに座り、事の顛末を見ていたシンドのモノによるものだった。悔しさと後悔、自身への不甲斐なさ。それらの感情が込められたそれは、この整然とした空気の中で一層重く、乾いていた。あるいは自分が彼を取り逃がすことなくば、仲間を失わずに済んだかもしれないのに。

 

「レンは尾行中のシンドの存在を感知、報告によると、その追跡を振り切ったのちに彼を束縛し、直接尋問を行ったようです」

「っ……そんな」

「レナさんの驚きも無理はないでしょう。そしてどうやら、彼はシンドを気絶させたのちに無抵抗の彼から我々タークス隊の機密情報を抜き取ったようです」

「ふ……ざけるな!!言いがかりも大概にしてくれ!あいつがそんなことするわけないだろう!!」

「……事実したんですよ」

「第一、気絶させたプレイヤーからどうやって情報を抜き取る!?」

 

珍しく憤りを露にするキリトの問いかけに、しかしベノナは落ち着いたまま、よりトーンを下げた口調で淡々と告げた。

 

「気を失ったプレイヤーの腕を操作する。他ならぬ、“レッド”プレイヤーの常套手段です」

「ベノナ!お前まであいつを犯罪者呼ばわりするつもりか!!」

 

「ええ!彼は紛れもなく犯罪者だ!!レンクスはシンドから奪ったデータをラフコフへとリークし、私の部下を殺させた!!」

 

それは、リーダーであるベノナの、怨嗟にも似た宣言だった。普段の彼とは違い、ベノナは湧き上がる怒りを隠すことなく、荒々しくテーブルをたたく。そこには、記憶結晶とは似て非なる、ホログラフィックレコーダーの結晶があった。ベノナらしからぬ剣幕さにキリトが飲まれている中、ベノナはイラつく自分を務めて冷静に、その結晶のスイッチを押す。光が投影され、記憶されている画像を映し出す。それは、

 

「な……に……?」

「うそ…………」

「っ…………」

 

キリトとレナの感情を驚愕へと変貌させ、アスナを、

 

「そんな……そんなのって……」

 

更なる絶望へと、陥れた。そんな彼らの反応を意に止めず、ベノナはその怒りに染まった声で静かに告げた。

 

「彼女の名は“カレン”私の命で第五十三層を警戒していたところ、ラフコフと思われる襲撃にあい、残酷にも殺害されました」

 

怒り、という陳腐な言葉では、今のベノナの感情は表現できない。信頼している部下を尋問し、大切な仲間を死に追いやった。到底、容認することなどできようがない。

 

「それでも……」

 

先ほどとは違い、弱弱しくかすかに震えるレンの声を、ベノナはさえぎった。

 

「この期に及んで、まだその言葉を口にしますか。状況からして、彼以外にはあり得ません。私たちの警戒シフトは機密事項で、この日この場所に彼女が警備しているという事実は、我々か、そんなシンドから情報を盗み出した“彼”しかありえません」

 

煮えたぎるような憎悪、そして怒りをちらつかせたまま、彼は自身の手をかざし、皆の方へ声を張り上げた。

 

「本日我々タークス隊が私含め僅か三名しかいないのは、我々の怒りが、仲間を卑劣にも奪ったという憎悪が!ふくらみ爆発したからです。多くのプレイヤーが!カレンの弔いを、レンクスという罪人への粛清を求めている。そんな空気を、徒にこの場に持ち込んで混乱させないようにするためなんです!既に隊員の中には、彼の抹殺に動き出そうという意見もあります」

 

その言葉が、この言い争いに終止符を打った。今はもう誰として、ベノナの言葉に意を向ける者はいない。いやむしろ、この場にいる多くのプレイヤーが、その腹積もりを決めた様だった。ただ三人、彼をよく知る、キリトとレナ、そしてアスナを除いて。

 

「今回私が皆さんを招集したのは、この報告のためです」

 

彼は続ける。

 

「本日この限りを以て、我々タークス隊は“独立権限”を発動。元攻略組ソロプレイヤー“レンクス”をレッドプレイヤーと見なし、見つけ次第抹殺します」

 

下された、あまりにも無慈悲な判断。“独立権限”それはいかなる組織からも独立した、“監視者”たるタークス隊だけが用いる、最高権限。攻略組、ひいてはこのアインクラッド全体の平穏を脅かす要因を速やかに排除する、アルティメットオーソリティーたる強権。攻略三大ギルドの、肥大しすぎた権力が引き起こした《血盟団事件》という、起きてはならない事件などが、二度と起きないように。一度この権限が隊長たるベノナの手によって下された場合、たとえ何人たりともその発動を拒むことはできない。たとえそれが、どれだけ大切な“友”であろうとも。キリトもレナも、ソレは理解している。だからその決定を、ただ黙って見守るしかできなかった。たといそれが間違った決定だとしても、その証拠はあまりにも決定的で。しかし、この場でただ一人、アスナだけは違った。彼女だけは、絶望の淵に立っていても、なお考え続け、繰り返していた。

 

例えば、あの時の自分に、反対すら振り払って意見を通すだけの意思があれば。もしかすれば、この場に満ちる、彼への欺瞞そして憎悪も、この結果も違ったものになっていたかもしれない。レンが、無実であるなんていう証拠はどこにもなく、あるのはひたすらにそれと反対の物ばかりだ。だとしても、アスナにはそれは違うだろうという、確信があった。あの日に、

 

『えーっと、大丈夫か?』

 

ああやって助けてくれた彼のその姿は、嘘偽りのない本物のはずなのだから。そう、たとえ証拠がなくても、彼は大切なn“仲間”なのだ。ならば、今こうして罪人と祭り上げられているレンを助けることができるのは、他でもないアスナたち“仲間”だ。例え証拠がなくても、今まで築き上げてきたてきた信頼は消えない。その時、彼女は今自分が何をなすべきか、その明確な答えを得た気がした。血盟騎士団の副団長だとかこの対策本部の指揮官だとかに関係なく、一人のプレイヤー、一人の人間、いや、彼の“親友”として、彼を信じる。正しさだけでは、世界は回らない。嘗ての何時かのように、今度は私の番だと。ならばもう迷わない。大丈夫だ。見えていなかったはずのその道しるべは、今ちゃんと目にしている。

 

「ああそれと」

 

そこで思い立ったかのように、ベノナがアスナの方を見やった。

 

「彼の()()()へは近づかないでくださいね。我々が、有力証拠として調べたいので」

「えっ?」

「ではこれで、私たちは失礼します」

 

思いもよらぬ、脈絡のないその唐突な発言に、困惑の色を強めるアスナに対し、ベノナはぺこりと丁寧な仕草で一礼すると、彼の部下を引き連れてその場を後にした。

 




輪の都の旅は長かった。情報封鎖して初見攻略してたらもー時間がかかる時間がかかる。やばかったです。自分技能特化ビルドなんですが、純技ではなく生命力にあまり降らず魔力に振った技魔ビルドなんで敵の攻撃が痛い痛い。輪の騎士はマジで死ねた。

仁王はマジで伊達政宗カッコ良すぎて震えた。後マリアさんいつ姿写し出来るようになりますかね?時計塔にマリア戦を思い出して一人興奮したのはナイショ

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