『ぐっ……つぅ……』
押し出されたようなその吐息が、僅かに口から洩れる。ソレを触れ合うほどの近さより聞き届けてから、レンはゆっくりと胸元へ突き刺した紗獄を引き抜いた。引き抜かれたその場所より血にも似た紅いエフェクトが漏れ出すのを、影はゆっくりと見やり、自身の手で押さえる。この時点ですでに、影の辿る運命は明確なほど決まっていた。既に残り300にも満たなかったHPを《无二打》による痛烈なる一撃が喰らいつくしていた。あえて付け加えるとするなら、最後の一刺しはオーバーキル気味になるわけだが、それは些細なことだ。とにかく、その命の数字をとうに失った影に待ち受けているのは《消滅》つまりこの世界における《死》だけだ。果たして――レンと戦うためだけに作られ、生み出されたこのAIは、その消滅しようとする最期に何を思ったのだろうか。息もすでに途切れ、しかし最後に僅かに口元を歪めて、その体が、幾銭と散る硝子片となって霧散した。
***
最後の最後に一つだけ、不敵な笑みを浮かべてからその存在を消滅させた影の終わりは、今までレンがいくつも目にしてきたソレとは違う、どこか静けさの響くモノだった。
「終わった……か……」
その時を見届け、静かレンが囁くと、途端にその体を酷い気怠さが襲った。戦闘部品の一部でしかなかった手足にヒトとしての機能が戻ってゆき、ソレを支配していた脳が休息を求める。矛を交えてから既に一時間と三十数分が経過しようとしていた。これまでに数えきれないほどの戦闘を繰り返してきたし、これ以上の長さを継続してきたことも幾度となくあるが、そのどれもが軽く思えてしまうほど、今感じる気怠さ――あるいは疲労感は重く、体は錆びついたかのように軋みを上げ、疲弊しきった脳が“休め”と命令してくる。加速していたはずの思考は、影もないくらいに鈍ってしまった。たぶんそう、“限界”なんてものは、とっくの昔に越えてしまっていたのだ。出来るならば、そのままどこかに寝ころびたかったが、そんな誘惑を如何にかこらえて、レンはB-ナイフを肩のホルスターへと収めた。パチパチパチ、とどこか軽く乾いた手を叩く音とともに、コツコツと足音が近づいてくるのを耳にしたのは、丁度そんな時だった。
「……俺たちの演舞は気に入ったか?」
「ああ、大いに楽しませてもらったよ。それこそ、文句の付けようのない程にね」
本当に楽しかったのだろうか、そんなことを漏らしながら立ち止まったローブ――茅場は、そのフードからのぞかせる見るも空洞な顔を佇むレンへと向け、さらに続けた。
「特に最後の技は興味深い。気難しい《八極拳》をここまで使いこなすことにも驚きだが、アレは何かな?私には、スキルをスキルで打ち消したように見受けられるが」
「……ホント、洞察力があるな、アンタ」
――ここで、“スキルキャンセル”の正体をばらしてもいいのか
そんな考えが一瞬かすめるが、すぐにソレが無意味だと悟る。彼の目の前で披露したのは紛れもないレン自身であるし、どうにも、茅場には理解できているフシがあったからだ。
「……“スキルキャンセル”、“あいつ”はそう名付けた。スキル発動後のモーション中のある特定タイミング下に、別のソードスキルを入力――つまり発動させようとすることで、そのスキルごと
「成る程そうか。ふふ、まさか私が血肉を注いで構築したソードスキルシステムに、まさかそんな抜け穴があったとは」
「……どこかうれしそうなんだな、アンタ」
「さて。実のところ、私自身も良くはわからない。ただ、よくソレを見つけ出したな、とは思うがね」
「……別に、考え出したのは俺じゃない」
これを生み出した最高の相棒とは、もう言葉すら交わすことは叶わない。だからなくさないように、失うまいとしてきただけ。首へと下げられた、ドッグタグと同じだ。何故ならこれが、カズがこの世界で“生きた”ということを示す数少ない証でもあるのだから。レンにとって、このシステム外スキルはそれほどまでに重く、特別なものだった。
「俺はあくまで、ソレを引き継いで模倣しただけに過ぎない」
そうやって話すレンをどうとらえたのだろうか。ふむと小さくこぼしてから、茅場は静かに告げる。
「ならばそうだな。この技と、ソレを引き継ぎ、見事勝利してのけた君に、私はささやかな贈り物をしなくては」
「贈り物……ああ、《A-ナイファー》の消去されたスキル云々の事か」
「そう、ソレがこの賭けの報酬であるからね」
言いながら、かざした手で恐らく権限者コンソールであろう見慣れないウィンドウを操作する茅場を見、レンは今の今までその“賭け”そのものを忘却していたことに気づいた。それほどまでに、自分はこの闘いに熱中していたのか、それとも単に思い出せなかっただけなのかは、レン本人にもわからない。程なくして……そんな事を考えていたレンへと、茅場は全ての操作を終わらせ、ソレをレンへと送った。現れたポップアップメニューには、恐らくこの闘いで得たのであろうEXPと獲得コル、そして例の消去されたスキルがあった。
「《クロスボウ》?エクストラmod《スレイトハンド?》」
しかし、そこに記載されてあるそのスキルの名は、レンに困惑を与えるのみだった。ユニークスキル《クロスボウ》それは、《A-ナイファー》同様、レンにとってみればなじみ深い単語ではある。日本語で、《洋弓銃》とも呼ばれるそれは、彼の好きなFPSフランチャイズにも度々登場する武器であり、一番のお気に入りであるナイフを除けば三番目に使用率の高い武器でもある。だから、この《クロスボウ》なるスキルが、果たしてどんな代物であるかは、実物を見るまでもなく理解できる。しかしそれでも、これがどうして《A-ナイファー》と対を成すもう一つの――茅場が消去したというユニークスキルであるであるその理由が分らなかった。茅場のいうところを顧みるのであれば、そもそもこの二つのユニークスキルを内包した元となる“オリジナル”のユニークスキルはそもこの世界の代理統括者である
カーディナルシステムが茅場の制御下を離れて作り出したという。そもそも何故、“カーディナル”は
「そしてこれが、今回のボス討伐としての報酬だ」
「ああ、これか」
言い終えるや否や、レンは目の前に表示されたウィンドウに視線を落とした。
『GM:茅場昌彦よりプレゼントを受領しました。受け取りますか? Yes/No』
迷うことなくレンはYesのボタンを押して実体化を実行すると、新たに表示されたウィンドウよりクロスボウ《Sharp-Shooter》が実体化しレンの手へと収まった。
「これがクロスボウか」
「お気に召したかな?個人的には、よくモデリングされていると思うのだが」
左手に現れたシャープシューターをじっくりと観察しつつ、なるほどこれは茅場が自信ありげなのも納得がいった。形状としては、中世のころではなくいわゆる現代のクロスボウそのものだった。弓となる部分の端にはプーリーのよって弦が複雑に張られており、それでいてコンパクトにまとまっている。レールマウントには弓を装填するライフリングとでも呼ぶべき機構、そしてその横に矢を装填するためのコッキングハンドルが伸びている。一般的なクロスボウではあるが、それでも特徴を上げるならば所謂レッドドットサイトにも似たホログラフィック調の照準器がストックとマウントの間に装備されている事か。隅々まで見れば見るほど、ソレはなじみあるゲーム内武器としてのソレとよく似ている。レールサイドにあるコッキングレバーを引けば、それに引っ張られてプーリーなどで現代改修された弓がしなる。かちりと嚙み合う音がして弓が最大限まで引っ張られるのを確認すると、指先をトリガーにかけてB-ナイフなどのソレよりもかすかに抵抗が増しているトリガーを引く。すると、限界までしなられた弓はカシュンッ!という音を立てながら反動と共に弦が走る。その、一つ一つの動作だけで、今手に持っているクロスボウの部品、組み立て精度がかなり高いことが分かった。実際に手にとったのはこれが初めてだが、その外見、作動の全てが、レンにはどこか懐かしかった。
「確かにな。よくもまぁ、ここまで制度の高いやつを作れるな。《A-ナイファー》といい、もしかしてアンタFPS好きなのか?」
クロスボウは、その存在自体なら中世のころよりその存在は確認されているためにともかくとして、バリスティックナイフやスぺツナズナイフなどの存在は、そういった関係の人間か、ミリタリーフリークな人間か、サバイバルゲーム好きか、あるいはレンと同じくFPS好きかでなければ知らないと断言していいほどに知名度の低い――良く言えばマニアックな代物だ。もしやと思い口にしたそれだが、茅場はまさかと首を僅かに振って否定した。
「大変奥が深く、そして面白いゲームだとは思う。しかし私は、やはり“コッチ”寄りの人間でね。そうでもなければ、こんな世界は作らないさ――それはともかく言ったとは思うが、このスキルもその武器も、作ったのは全てカーディナルの独断だ。私はモデリングは勿論、プログラミングだってしていない」
「じゃあカーディナルシステムの性能そのものがいいんだな。……変な感じだが、あのドッペルゲンガーだってよく動かせていたし」
その脳裏に、先ほどまでの光景がチラつく。同じ《A-ナイファー》の担い手、全くの同一存在であっても、その技量の差は明らかだった。もしレンが、あの時カズの助言を思い出せていなければ、今ここに立っているのは確実にドッペルゲンガーの方だったはずだ。
「それでも、そんな存在に君は打ち勝った。己をはるかに超える存在を、他ならぬ自分自身の手でね。知っているかな?実はあの高度AIを動かすのに、カーディナルに存在するメインCPUのやく五割近くを割いていた」
「そっち方面には詳しくはないが、よくメインCPUの五割近くを割いてこの世界を維持できるな」
「もちろん不可能ではないが、所謂処理落ちが起きる。君たちが剣を交えていたこの時間、他のNPCやmobのAIは殆どがサブモードに切り替わり、単調な動きしかできなかった。他にも、プレイヤーが気にならない程度に、全体のテクスチャディテールを低下させたりして、如何にかゲームプレイに支障が及ばないようにした。もし仮にこの時間にボス攻略が行われていれば、さぞ楽にクリアできただろうね。どうやら、なかったようだが」
その声色は、まるで無邪気な子供のようだった。とても、二千人ものプレイヤーをゲーム世界に閉じ込めるという狂気の沙汰を行った張本人には見えない。いや、この認識は、果たしてあっているのだろうか。そのローブを紺碧の双眸で見据えたまま、レンは自身の内に芽生えた既視感とかすかな違和感に首をかしげていた。普通の人とはかけ離れた天才、同時に狂っているともとれる行動を実行した奇人でもあり、こうして目の前に無邪気に楽しんでいると見受けられる茅場は、果たしてどちらが本物であるのか、と。
「存外に嬉しそうなんだな、アンタ」
「ソレは認めよう。この時間に、私は実に有意義なものを見れたと感じているよ。ありがとう、レン君」
「はぁ…..」
慇懃に礼を述べる茅場を目の当たりにし、なんだか調子が狂うな、とレンは思う。少なくともこの短いやり取りだけで、彼の中にある茅場昌彦という人物像はかなり変わった。
「その礼、とまではいかないが、いまの君が疑問に思っていることに応えよう。疑問は、解消しておくことに越したことはないからね。――最も、私が答えられる範囲で、だが」
「へぇ、それじゃあ遠慮なく聞いてみるかね」
せっかくの機会であると、レンは自分の中にある疑問をさがす。が、それは最初から、きまっていたも同然の物でもあった。
「何故、カーディナルシステムは俺を選んだと思う?どうして、こんなスキルを作った?何のために?」
それは、レンがこの力を手にしたその日より、生まれた疑問。その答えを探しながら、その力を振るい続け、それでもなお見つけきれなかった、その答え――意味を。レンは、正面にたたずむ茅場へとぶつけた。
「ふむ、難しい質問だな。どうして、か。ソレを、憶測だけで口にするのは簡単だが――さて。――実の事を告白するのならば、私にもその疑問に明確な答えを見つけられないでいるんだ」
「……そうか」
答えは、創造主たる自分でも分からない。その茅場の返答に、落胆を感じなかったといえば、ソレは嘘になる。ずっと、その答えを追い求め、探し続けていた。
――どうして自分が?
――なんで選ばれた?
別に、特別な感情に浸りたかったワケではない。自分は選ばれしものだと、思いたいわけでもなかった。ただ探し続ける疑問の答えが、何か自分にとって大切なものではないかと――ただ漠然と感じていただけ。それを解決できれば、自分の中に欠けたナニカを、埋めることができるのではと淡い希望を抱いていただけのことだ。システム側である茅場にでも見つからぬ疑問ならば、あきらめた方が早いなと、レンが考えていたその時、では、と茅場がレンに問を投げかけた。
「レン君。――君はその力を、何のために振るう?それで、いったい何を成す?」
「はい?」
唐突に問いかけられた疑問に、虚を突かれたレンだったが、つぎの瞬間には、その問の答えを口にする準備が整っていた。何のために?そんなのは、迷う余地も、疑問を挟む余地もなく決まっている。
「俺は、誰かを助けるためにこの力を振るう」
「何故?」
「それが、俺に許された唯一の行いであり、できる贖罪だからだ。この命は、あいつに救われた。犯した過ちを正したかった。すべてはそのためだ。次はそうならないように、過ちを繰り返さないために。だから代わりに救われた俺が、あいつの跡を継ぐ、とそう決めた」
「それで人を助ける、と?名前も知らない、自分にとって全くの赤の他人を?」
「そうだ」
「違うな。ただ盲目的に行う救いなどで、誰かを救うことなんてできない」
「なに?」
その伽藍洞が広がるローブの奥をレンに向けたまま、違う、と茅場は切って落とした。償い。嘗て己のせいで友を死なせ、その贖罪のために助けようとするレンは、何かが間違っていると。
「何を根拠に」
「根拠はない。私はこの世界を作り、君たちの成してきたことを見届けてきた。その過程で、私がそう感じた」
それに説得力など、本来はない。ただそれは、茅場昌彦という人間がレンクスというプレイヤーを観察し、見届けて抱いたイメージに過ぎないのだから。だから、そんな言葉、ただの戯言だと――切り捨てることができるハズだ。けれど、何故かレンにはそれができなかった。自分の中の、どこかにある何かに、その言葉が、妙に引っ掛かり、ざわつかせるのだ。
「本当の答えは、君のどこかに必ずあると、私は思うがね」
「俺の……中……」
アイツの跡を継ぐ。そうしようと思ったのは、アイツの死を、ただ無意味なものとしたくなかったからだ。残された俺が、その代償として命を失ったアイツの代わりにその遺志を継ぐ。それが助けられた側の当然の義務だと思った。そして
――多くの死を目にした
――多くの命が、目の前で潰えていった。
――ソレを何度も何度も繰り返し
――振り返れば結局、助けられなかったものの方が大きかった。
「君の、本当の望みは何だ?何のために戦い続ける?」
嘗てから今に至るその時まで、疑問に思い考え続けながらも、結局は答えの出なかったもの。
――もう、誰かが自分の目の前で死んでいくのを目にしたくはない
なくしてしまったものは数えきれることなく、ただこの悲劇を二度と繰り返したくないというその一心で、胸に抱き続けてきた。だから、それこそが自分の行動原理の全てのはずだ。
けれど――
――本当に、そうなのだろうか?
ずっと、贖罪のためだった。アイツの死を無意味なモノにしないため。命と引き換えに助けられたレンができる、それが当然の道だと
――本当に?
多くの死を目にした。どれだけ足搔こうとも、ソレはまるで掴んだ砂のように、掬った指の
間から零れ落ちてしまう。どうしてと?疑問に思い続け、さまよい求めてみても、答えが出たことはない。なら、もとから、そうではなかったのではないか?
キシリ、と、自分のどこかにある知りえないナニカが、かすかに軋みを上げる。
――ゆーびきーりげんまーん
「あっ」
突如その光景が、レンの脳裏に鋭く走った。ソレは、まるで閃光のように強烈で、まぶしいフラッシュバックとなって、ナニカの答えを焼き付けていく。
――その目、私は好きだよ
微かに日が傾き、空が茜色へと染まりゆくその光景。そよ風に吹かれて、みをくゆらせる、草の絨毯。すべての光景が見渡せそうなほどに高いところにあったその公園で、今よりずっと幼く、何も知らなかった無知な己と。触れたら壊れてしまいそうで、しばみ色の綺麗な色をした瞳を濡らしていた、白い、純白のワンピースを身に着けた、一人の少女――
ギチリ、と、自分のどこかにある知りえないナニカが、軋みを上げる
――うん、私を助けてくれた――
どこか懐かしく、そして温かさを伝えてくる、そのキオク。それは、果たして何だったのか
ガキン、と自分のどこかにある知りえないナニカが、軋みを上げ、そして砕けた。
――記憶が、流れ込んでくる
――痛烈に、鮮烈に、力強く、忘れ去られた記憶が、蘇ってくる
ーー例え怪物に負けても、このゲーム......この世界には負けたくない
月夜に濡れるその夜、フードをかぶり、素朴な安物のパンに少しの工夫をしただけのものをおいしそうに口にしながら、力強く口にした彼女を。
――キミは私を助けてくれる?
――うん、いいよ。約束する。ボクが、君を――
あの日に交わした、泣いていた少女へ、誓った言葉を。
――やがてナニカは音を立てながら弾け、欠けていたモノがぽっかりと開いたその空洞を満たしてゆく
ああ、どうして忘れ去ってしまったんだろう。あの日の夜、自分は彼女を護りたいと、思ったではないか。嘗ての守られることなく、破れられたあの日の約束を。本当の理由なんて、最初から自分の中にあった。
ずっと盲目的に、ソレが正しいと信じてきた。それこそが自分のとるべき選択だと思い、ここまで突き進んできた。けれど、そんなのは所詮唯々破綻しただけの偽りで、偽善に過ぎなかった。償いのため。そんなので、人を救えるハズなどない。無意識のうちに、意図すらすることなく、カズの跡を継ぐことこそが自分の本当の願いだと思い込んで、知らず知らずのうちに影武者であろうとしたレンが、一体何を救えるというのか。そんな偽りでは、掬うよりも失う方が多いだけ。そんなのは当然だ。
――キリト、レナ、アルゴ、シェリー、クライン、エギル。そして、かつての記憶と全く同じしばみ色の瞳を持つ、アスナの笑顔が浮かぶ。
――後は、任せたぜ
今でも、鮮明に焼き付いたその最期。失われていく存在の中で、彼が口にした――遺した最後の言葉は、レンに前を向けと、伝えようとしていた。
カチャリと、首元に手を伸ばす。そこには、レンへと託し、残されたドッグタグがぶら下がっている。《Kajay》と刻印され、爛々と金色に輝くプレートと、輝きはなく、くすんだ色合いの《Renxs》と打刻された二つのソレは、いつもその場所にある。今ですら失われない残ったカズと、レンとのつながり。
「ああ、そうだったのか」
今なら、ドッグタグに込められ、秘められた本当の意味が、今のレンには手に取るように解る。ソレは暖かくて、狂おしい程に懐かして、それでいて安らぎを与えてくれるものだった。
「俺が戦い続けるのは……嘗ての、果たされなかった約束を果たすためだ」
はっきりと、他ならぬ己の口で、忘れ去り、埋没させてしまっていた、漸く見つけることのできた答えを、レンは口にする。
「この命は、アイツによって救われ、生きながらえることのできたモノだ。今まで散々道に迷い、間違いだらけだけを選んできたが……それも終わりだ。もう、誰かが死ぬのを目にするのは沢山だ。例えこの選択で進んだその先に、自分自身が死ぬことになろうと、俺はこの力を仲間だと言ってくれたあいつ等と、果たされなかった約束の交わし手を守るために使う」
向けられた、かつてとある少女が好きだよと褒めた、まるで深い海を思わせるかのような紺碧の双眸は、今までのどんな時よりも澄んでいて。そして、過去ではなくきちんと今を見据えていた。
「そうか、成程。君の強さは、そういうモノなのか。――ああ、今なら何故カーディナルが君を選んだかがわかる気がするよ。実に惜しい。もし仮に君が、――に選ばれていたとしたら……――それは、さぞ楽しかっただろうね」
何を、茅場は言葉にしたのか、レンには聞き取れなかった。ただ、そう口にする彼の姿が、どことなく楽しげで、そして悲しげに佇んでいるように見えた。
「――どうやら、答えを得ることができたようだね」
「ああ。これでもう、俺は迷わない」
「そうか。では、そろそろお開きにしようか。この舞台は、本来存在せぬ、仮初のモノ—―ハリボテに過ぎないのだから」
「最後に一つだけ、いいか?」
「もちろん」
「なら聞こう。――茅場昌彦、お前は何処でどうやって俺たちを見届けている?」
だが、それに応えることはなく、茅場は首を横に振った
「――すまない。それは、私が答えることのできない質問だ」
もとより、答えが得れるだろうとは、ハナから期待はしていなかった。ただ、聞くだけ聞いておこうと、きまぐれに零しただけ。もうこれ以上、この場所にとどまっておく理由はない。
「まぁ、そうだよな」
それだけ言って、レンはクルリと踵を返す。答えは手にした。迷うべき理由は、もう無くなった。あとはただ、ソレを貫き通すだけだ。
コツコツと、無機質なその空間を歩き続け、最後まで後ろを振り返ることなく、レンはその場所を後にした。
***
その後ろ姿を、やがて彼がこの虚ろな空間から完全に存在を消したその時まで、紅いローブを身に纏った、その世界の創造主にしてあらゆる始まりである男――茅場昌彦は、静かに見つめ続けていた。
ついぞ、彼がレンに話すことはなかった。《A-ナイファー》と《クロスボウ》の二つ、十二という光より生まれた影の、隠された真実と、その元である原型のユニークスキルから改変させた理由を。口にするかどうか、彼にしては珍しく迷い、そして最後には、口にしない方を選択した。
――レン君。君は、実に興味深い人間だよ
結局、最後に勝ったのは、研究者として――そして、小さき頃から描き続けてきた夢を相変わらず追い求め続けてきた茅場昌彦としての根本――好奇心だった。ソレは、けっして許される行為ではない。それがじぶんの選んだことだとしても、許されざるものであると、彼は十分に理解している。
「このままいけば、彼は――」
その先の言葉が、紡がれることはなかった。ガゴンと空間が大きな悲鳴を上げ、やがてまるで自崩れのように激しく揺れ始めた。この場所は、もうじき崩壊する。ゆらり、と身に纏ったローブが揺れて、茅場昌彦は、この世界における茅場昌彦へと再び姿を変えた。
「最期は、どっちに転ぶのだろうか」
予測は、火を見るより明らかに、いとも簡単につく。しかし、茅場昌彦=ヒースクリフ個人としては――
カ「駄作者、お前の罪を数えろ」
何が?
カ「シラを切る、と。面白いな」
シラなんか切って――
カ「TF2テックα」
ギクッ
カ「BF1β」
ギクギクッ
カ「MWR」
うう...
カ「IWβ」
ぐ...
カ「BF1製品版」
ガッ
カ「TF2製品版」
ごはぁ!!
カ「数え役満。情状酌量なし。ギルティ」
ハイ、モウシワケアリマセン
――正確にいうと、FF15延期発表による絶望からの上記の流れですが(笑)
遅れて、本当に申し訳ないです。
けど、MWRのキャンペーン、BF1とTF2がほんと面白いんです......
金がぁ...消えていく...